第十四回ご隠居横丁句会
 二〇〇六年九月十四日(木)午後七時開会 銀座「くはら」
 第十四回句会を右記日時、場所で開催しました。
 兼題は「颱風」「秋桜」「灯火親し」=青軸出題
 参加者は内藤呈念先生、荒谷黄昏さん、大庭擬宝珠さん、吉田鉄井さん、新加入の陰山まゆ鼠さん、井上青軸の六人。そのほか竹石すず虫さんが投句で初参加。
 提出句が多かったので七句選、秀句二句に講評としました。


兼題の部


呈念選
@秋桜律儀に風に揺れてをり       (擬宝珠)
〈評〉コスモスは腰高で揺れやすく、風とからむ句は五万とある。風から離れるのも手だが、作者は風を逆手にとった。「ほんと、お約束通り揺れてます。律儀にね」。「律儀に」で俳諧となった。
Aコスモスをけとばしながら帰り道    (まゆ鼠)
〈評〉蹴飛ばしたのは本人だろうか。子どもには自然を大切にといっても意識なんかして無くて、何気なく蹴ったりちぎったりする。そんな情景が目に浮かんだ。
  ・秋茄子の艶も五個ずつ売られをり   (擬宝珠)
 ・秋霖の海空ともに利休鼠       (青軸)

 ・片膝を抱え少年灯火親し       (すず虫)
 ・
帰り来てスリッパ温し秋の雨     (擬宝珠)
 ・
灯火親し布団引き寄せあと一ページ  (まゆ鼠)

黄昏選
@香りより風情で勝負だ秋桜       (すず虫)  〈秋桜=あきざくら〉
〈評〉いい香りで知られるバラやユリと違い、香りのない花であるコスモス。風情勝負と居直ったのが私の性に合った。
A台風と同行二人の帰省かな       (青軸)
〈評〉同行二人は、八十八カ所巡りは一人旅であってもお大師さまに守られている謂。台風はいわば敵なのにそれに守られて帰省するという。新宮悠仁(ひさひと)の名にも通じる意を感じる。
 ・
秋茄子の艶も五個ずつ売られをり   (擬宝珠)
 ・
台風が運びし小瓶に外国語      (すず虫)
 ・夢醒めて恋ふ人そこに風の盆     (鉄井)

 ・
台風の目の中にいて昼寝する     (まゆ鼠)
 ・
灯火親し布団引き寄せあと一ページ  (まゆ鼠)

擬宝珠選
@廃校のコスモス花壇はみ出せり     (呈念)
〈評〉コスモスは野の花。一見可憐だが、実はたくましい。廃校を持ってきたことで、学校のイメージの強いコスモスに、より強い印象とたくましさを与えた。
A天気図に台風三つ押し合へり      (呈念)
〈評〉台風が来て、しかも同時に三つである。困った。しかしその中で非日常的な成り行きを眺めている。季節感を感じさせる。
 ・秋灯のともらぬ部屋に帰りゆく    (呈念)

 ・台風と同行二人の帰省かな      (青軸)

 ・
台風の目の中にいて昼寝する     (まゆ鼠)
 ・家族皆、思い思いの書灯かな     (すず虫)
 ・コスモスをけとばしながら帰り道   (まゆ鼠)


鉄井選
@秋茄子の艶も五個ずつ売られをり    (擬宝珠)
〈評〉秋のおいしいナスは、一個でもツヤがあるのに、まとめられて一緒に五個も出ている。おいしさを醸す香りが浮かぶ。店先のたたずまいも目に浮かんでくる。
Aコスモスや夢二の女性十等身      (呈念)
〈評〉もう一句スリッパと選ぶのに迷った。揺れるコスモスにはなよなよした腰の感じがある。十等身にインパクトがあり、エロティックな印象が強く残った。
 ・ちみ蟋蟀まうりやう轡虫こゑのあき  (青軸)

 ・
秋の灯に自分で読めてもママ読んで  (すず虫)
 ・廃校のコスモス花壇はみ出せり    (呈念)

 ・台風と同行二人の帰省かな      (青軸)

 ・
帰り来てスリッパ温し秋の雨     (擬宝珠)

まゆ鼠選
@鉛筆で徒然なぞる秋灯や        (黄昏)

〈評〉最近、徒然草など古典をなぞる人が多い。静けさを求める現代人の心に響くものがあるのだろうか。思えば徒然草には秋のイメージがある。鉛筆なのも何となく良かった。
A台風のせいよ聞こえぬ「さようなら」  (鉄井)
〈評〉夏に生まれた恋が、秋に終わる。ほんとは聞こえているのでしょう。なのに台風のせいにしているのがいいな。
 ・秋霖の海空ともに利休鼠       (青軸)

 ・帰り来てスリッパ温し秋の雨     (擬宝珠)

 ・
コスモスの色に合わせてセーター選ぶ (すず虫)
 ・
秋茄子の艶も五個ずつ売られをり   (擬宝珠)
 ・天気図に台風三つ押し合へり     (呈念)


青軸選
@灯火親し布団引き寄せあと一ページ   (まゆ鼠)
〈評〉本は私には睡眠薬代わりであるが、本当に面白いと、ついつい、あと一ページあと一ページと夜更かししてしまう。その感じをうまく言っている。
A帰り来てスリッパ温し秋の雨      (擬宝珠)
〈評〉雨の中を帰ってきて、スリッパをはいたら温かかった。季節というものは、そうやって感じることで移り移ろっていくのでありましょうか。
 ・コスモスや花婿の父もらひ泣き    (呈念)

 ・台風が運びし小瓶に外国語      (すず虫)

 ・秋灯のともらぬ部屋に帰りゆく    (呈念)

 ・コスモスの色に合わせてセーター選ぶ (すず虫)

 ・台風のせいよ聞こえぬ「さようなら」 (鉄井)


提出句一覧

呈念
 ・天気図に台風三つ押し合へり

 ・廃校のコスモス花壇はみ出せり
 ・コスモスや花婿の父もらひ泣き
 ・コスモスや夢二の女性十等身
 ・秋灯のともらぬ部屋に帰りゆく

黄昏
 ・颱風や迷走居据わり好き勝手

 ・颱風やテレビでばっちり盛衰史

 ・日溜まりで母がする秋
 ・桜
鉛筆で徒然なぞる秋灯や
 ・秋の日や点滴忘れて
烏鷺

擬宝珠
 ・秋桜律儀に風に揺れてをり

 ・片膝を抱え少年灯火親し
 ・帰り来てスリッパ温し秋の雨
 ・秋茄子の艶も五個ずつ売られをり
 ・溝深く手のひら固め種を採る

鉄井
 ・台風のせいよ聞こえぬ「さようなら」
 ・台風が去り風ぬくもりとり戻し
 ・台風の夜そらに泳ぎけり
 ・コスモスの居眠りしをり岩場にて
 ・夢醒めて恋ふ人そこに風の盆
 ・茄子かじり子規の横顔想ひけり

すず虫
 ・台風に骨まで露わな祭り舞台
 ・台風が運びし小瓶に外国語
 ・コスモスの色に合わせてセーター選ぶ
 ・香りより風情で勝負だ秋桜           〈秋桜=あきざくら〉
 ・秋桜の繁みに寝ころび青春に還る    〈秋桜=コスモス〉
 ・秋の灯に自分で読めてもママ読んで
 ・秋灯のフォントと厚さが反比例
 ・家族皆、思い思いの書灯かな
 ・セミの羽化眞白き翼に透く緑
 ・サイボーグ木の葉の陰でセミになり

まゆ鼠
 ・台風の目の中にいて昼寝する
 ・コスモスをけとばしながら帰り道
 ・チョコモスという名の花を飾る夜
 ・灯火親し布団引き寄せあと一ページ
 ・灯火親し中間テスト思い出す

青軸
 ・台風と同行二人の帰省かな
 ・コスモスを見つけてパステル購へり
 ・秋の灯や活字は溶けてゆくような
 ・秋霖の海空ともに利休鼠
 ・ちみ蟋蟀まうりやう轡虫こゑのあき



引き続き席題に移りました。擬宝珠さんは退席し、参加は五人でした。
題は「運動会」「芋虫」「秋霖」。三句提出。五句選、一句に講評。

席題の部

呈念選
@爪に入る土かき出せり運動会      (鉄井)
〈評〉運動場で爪に土が入るとは、身近で経験した者でなければいえない。とっさに思い出し、句の形になるのは素晴らしい。
 ・秋霖の
押し込めた布団干す     (鉄井)  〈香=こう〉
 ・
運動会足の遅さは母ゆずり      (まゆ鼠)
 ・秋雨にふれてこぼるる萩の花     (青軸)
 ・はちまきの土に汚れて運動会     (鉄井)


黄昏選
@秋霖の押し込めた布団干す      (鉄井)
〈評〉長雨でこもる中年の匂いを香で押し込めた。その香を受けた布団を晴れ間に干している。何となく優雅な感じがしてよろしい。
 ・入場門杉の葉の香や運動会      (呈念)
 ・秋霖や持ち重りする新聞紙      (呈念)
 ・秋雨にふれてこぼるる萩の花     (青軸)
 ・芋虫を蟻千匹で
りけり       (青軸)   〈葬=ほふ〉

鉄井選
@秋霖や持ち重りする新聞紙       (呈念)
〈評〉しとしとと何となく重さのある秋霖の感じを直接述べるのではなく、新聞に仮託した。季節感がうまく出ている。
 ・入場門杉の葉の香や運動会      (呈念)
 ・秋霖やなさぬ仲ゆえ包みこむ     (黄昏)
 ・運動会男女でたじろぐ棒倒し     (黄昏)
 ・芋虫を蟻千匹で
りけり       (青軸)

まゆ鼠選
@芋虫を蟻千匹でりけり        (青軸)
〈評〉季語が夏と秋になるが、力のある方をとればいいのでしょうか。秋っぽい感じが出ていると思った。
 ・運動会男女でたじろぐ棒倒し     (黄昏)
 ・秋霖や持ち重りする新聞紙      (呈念)
 ・入場門杉の葉の香や運動会      (呈念)
 ・秋霖やなさぬ仲ゆえ包みこむ     (黄昏)


青軸選
@秋霖にハイビスカスは店じまい     (まゆ鼠)
〈評〉ハイビスカスは夏の季語。お題の秋霖と季節の違うふたつの季題が入ったが、夏から秋への季節の転換を季題を並べることで鮮やかにとらえた。
 ・入場門杉の葉の香や運動会      (呈念)
 ・
運動会足の遅さは母ゆずり      (まゆ鼠)
 ・秋霖や持ち重りする新聞紙      (呈念)
 ・秋霖の押し込めた布団干す     (鉄井)


提出句一覧

呈念
 ・入場門杉の葉の香や運動会
 ・盆栽に芋虫ひそむ黒き糞
 ・秋霖や持ち重りする新聞紙

黄昏
 ・運動会男女でたじろぐ棒倒し

 ・運動会パパは撮影ママ声援

 ・秋霖やなさぬ仲ゆえ包みこむ


鉄井
 ・爪に入る土かき出せり運動会

 ・はちまきの土に汚れて運動会
 ・芋虫を毛が無いだけで何故嫌ふ
 ・芋虫のちいさき砂を身にまとい
 ・秋霖やくちづけ濡らす秋葉原
 ・秋霖の押し込めた布団干す

まゆ鼠
 ・運動会足の遅さは母ゆずり
 ・芋虫のぶくぶく育つ土の中
 ・秋霖にハイビスカスは店じまい


青軸
 ・チャイム鳴り運動会のばらけたり
 ・芋虫を蟻千匹でりけり
 ・秋雨にふれてこぼるる萩の花

 次回句会を十月に開くことにし、鉄井さんから「夜食」「秋簾」「きりたんぽ」が出されました。日取り、会場は今後調整します。午後十時五十分頃散会。