第十五回ご隠居横丁句会

二〇〇六年一〇月十五日(日)午後零時半から浜離宮吟行〜午後五時から会社和室で選句会
 第十五回句会を右記日時、場所で開催しました。
 兼題は「夜食」「秋簾」「きりたんぽ」「月」=鉄井さん出題
 参加者は内藤呈念先生、荒谷黄昏さん、吉田鉄井さん、陰山まゆ鼠あらため陰山花州さん、井上青軸の五人。鉄井さんは、仕事のため、選句会からの参加でした。兼題の他、属目を加え七句提出。このほか、竹石すず虫さんと高橋なには橋さん、さらに、大阪から細見抹茶人さんが投句参加されました。提出句が多かったので十句選、秀句三句に講評としました。


兼題の部


呈念選
@買いたてのパンのぬくもり暮の秋    (花州)
〈評〉ストアでパンが焼き上がる。帰ろうとするともう暗くなっている。秋の日はつるべ落とし。暮れの秋とは晩秋のこと。やるせなさと温もり。涙ぐむような句である。
A秋すだれ熱気一筋残りおり       (花州)
〈評〉秋のすだれは夏のすだれとどうちがうのか。秋簾は仕舞い残してしまったものをいうが、いまうちは目隠し用に掛けっぱなし。くたびれ果てて夏の熱気を残している。
Bきりたんぽ穴の向こうに母の顔     (抹茶人)
〈評〉独り鍋セットが売られていて、きりたんぽを食べてみた。芯が抜いてあって、その向こうに母の顔が見えてきた。
 ・秋簾夜の気配を吸い寄せり      (鉄井)

 ・じっとして胸のブローチ赤とんぼ   (花州)
 ・秋簾二十五下に恋をして       (なには橋)
 ・窓の月めるこころや良寛句     (黄昏)
 ・陽が落ちて有刺鉄線赤とんぼ     (鉄井)

 ・雲いづる月より大いなる翼      (なには橋)

 ・ふるさとは刈田の香り深呼吸     (花州)


黄昏選
@木犀の香をしるべにと案内あり     (青軸)
〈評〉今日は、音で選んだ珠玉の三句。源氏物語に通じるし、いろいろ通じて趣がある。女人にこういって欲しいという夢を抱き、幸せな気持ちになった。
Aふるさとは刈田の香り深呼吸      (花州)
〈評〉素直な句。NHKの標語の「まっすぐ真剣」に通じる潔さに感じ入った。
B門付けの三味の音遠くきりたんぽ    (すず虫)
〈評〉映画「砂の器」の日本海を歩く親子を連想した。平凡だけど。悲しさをにじませた佳作である。
 ・夜食来て湯気の向こうの英単語    (鉄井)
 ・きりたんぽまだ見ぬ土地を頬ばって  (花州)
 ・古ノート夜食のしみをなめてみる   (青軸)
 ・なまはげもきりたんぽには緩む頬   (抹茶人)
 ・榧の実に
爛柯の夢を聞いてみる    (青軸)   〈爛柯=らんか
 ・いつからか引き算人生秋簾      (青軸)

 ・秋簾夜の気配を吸い寄せり      (鉄井)


鉄井選
@秋簾二十五下に恋をして        (なには橋)
〈評〉もって行き場のない思いを詠む句が多い中、てれんと投げたような余韻があり、二十五下の二十五も、二十でもなく気っぷがいい。
Aきりたんぽまだ見ぬ土地を頬ばって   (花州)

〈評〉中国でもフレンチも何でも通販で食べられる世の中。でも実施に行ったわけではない。それに気付いてはっとした。文明批判ではないが今を切り取っている。
B向けられし核の恐怖が月を射る     (すず虫)
〈評〉どこにいても見られる月。核も被害はどこでも同じ。それに気付いた透徹したまなざし。今の世界を言い表した時事句だ。
 ・大風
や母をらす秋簾        (黄昏)   〈大風=おおかぜ〉
 ・小町をば半殺しとはきりたんぽ    (呈念)
 ・中二男子太めにつくるきりたんぽ   (青軸)
 ・いつからか引き算人生秋簾      (青軸)

 ・窓の月
めるこころや良寛句     (黄昏)
 ・
秋すだれしまいそびれた思いあり   (花州)
 ・祖母がむく栗は渋皮残りがち     (花州)


花州選
@ビルの上無限メートル秋の雲      (鉄井)
〈評〉無限メートルの意味は分からないが、きょう吟行で実際に歩いてきたので、高さを素直に感じることが出来た。
A秋簾夜の気配を吸い寄せり       (鉄井)
〈評〉なんとなく秋はしっとりした印象があって、夏に乾いたすだれの葦が夜の湿気を吸って秋の感じになるのがいい。
Bきりたんぽ穴の向こうに母の顔     (抹茶人)
〈評〉どこというわけでなく、きりたんぽの穴から見えた母の顔があったかくてよいと思った。
 ・青鷺の像にならんとたたづめり    (呈念)

 ・煮くづれのひゞ入り熱しきりたんぽ  (なには橋)
 ・きりたんぽ米のいのちがはぜてをり  (鉄井)

 ・羽を振る数が寿命や赤とんぼ     (鉄井)

 ・大風
や母をらす秋簾        (黄昏)
 ・古ノート夜食のしみをなめてみる   (青軸)

 ・中二男子太めにつくるきりたんぽ   (青軸)


青軸選
@陽の光月から来れば冷たくて      (すず虫)
〈評〉月をそのまま詠むのではなく、月影が実は太陽の反射であることに着目した。そのことは、月の実像をよく表してもいる。着想の良さに尽きる。
A名月や遠吠もせず老いし犬       (呈念)
〈評〉名月と犬。犬に託して自分の来し方をいう。月に吠える萩原朔太郎を思う。
Bビルの上無限メートル秋の雲      (鉄井)
〈評〉天高くといってしまっては当たり前の秋になる。無限メートルという、思いもしないすごい言葉。その発見に尽きる。
 ・
じっとして胸のブローチ赤とんぼ   (花州)
 ・赤とんぼ我に代わりて本を読む    (黄昏)
 ・煮くづれのひゞ入り熱しきりたんぽ  (なには橋)
 ・野良尻尾立てて分け入る
かな    (呈念)   〈葎=むぐら〉
 ・祖母がむく栗は渋皮残りがち     (花州)
 ・青鷺の像にならんとたたづめり    (呈念)
 ・羽を振る数が寿命や赤とんぼ     (鉄井)


提出句一覧

呈念
 ・かの女いつも大盛り社の夜食
 ・秋簾ごしの鈴の音向島
 ・小町をば半殺しとはきりたんぽ
 ・名月や遠吠もせず老いし犬
 ・ひよいひよいと空を縫ふつもり    〈鵯=ひよどり〉
 ・青鷺の像にならんとたたづめり
 ・野良尻尾立てて分け入るかな

なには橋
 ・どんぶりの大小言うな夜食そば
 ・秋簾二十五下に恋をして
 ・煮くづれのひゞ入り熱しきりたんぽ
 ・雲いづる月より大いなる翼

黄昏
  大風や母をらす秋簾
  ・月に見返り美人切手の子
 ・松ヶに隠れる月や和上像
 ・映るとも月は思はず伊豆の海
 ・窓の月めるこころや良寛句
 ・月の友湖面に砂漠氷壁も
 ・赤とんぼ我に代わりて本を読む

鉄井
 ・夜食来て湯気の向こうの英単語
 ・秋簾夜の気配を吸い寄せり
 ・きりたんぽ米のいのちがはぜてをり
 ・街灯が月代わりなり秋葉原
 ・羽を振る数が寿命や赤とんぼ
 ・陽が落ちて有刺鉄線赤とんぼ
 ・ビルの上無限メートル秋の雲

すず虫
 ・夜食持ち近づく足音勉強開始!
 ・秋すだれ御簾に見えたり虫の声
 ・門付けの三味の音遠くきりたんぽ
 ・きりたんぽつつく温もり外は雪
 ・向けられし核の恐怖が月を射る
 ・空みあげ兎いないね今日は三日月
 ・陽の光月から来れば冷たくて

まゆ鼠
 ・軒下につられた夜食手を伸ばす
 ・秋すだれ熱気一筋残りおり
 ・秋すだれしまいそびれた思いあり
 ・きりたんぽまだ見ぬ土地を頬ばって
 ・クレーター月のえくぼに見える日よ
 ・祖母がむく栗は渋皮残りがち
 ・買いたてのパンのぬくもり暮の秋
 ・ふるさとは刈田の香り深呼吸
 ・じっとして胸のブローチ赤とんぼ

抹茶人
 ・きりたんぽ穴の向こうに母の顔
 ・きりたんぽこまちではなくささにしき
 ・なまはげもきりたんぽには緩む頬
 ・きりたんぽ具材も同じだまこもち
 ・迷うなあ具材も同じだまこもち
 ・なまはげも頬を緩める温かさ

青軸
 ・古ノート夜食のしみをなめてみる

 ・いつからか引き算人生秋簾
 ・中二男子太めにつくるきりたんぽ
 ・名月や子ら
二十四歳のその夜に
 ・木犀の香をしるべにと案内あり
 ・鶏頭を数える癖きょう獺祭忌
 ・榧の実に爛柯の夢を聞いてみる