第十六回ご隠居横丁句会
二〇〇六年十二月二十一日(木)午後六時半〜会社和室

 第十六回句会を上記日時、場所で開催しました。
 兼題は「クリスマス」「鯛焼き」「マフラー(襟巻き)」

 幹事代理の花州が公募したところ、「一任する」との返事が多数だったため、花州が心のおもむくままに選びました。
 参加者は、荒谷黄昏さん、竹石すず虫さん、井上青軸さん、陰山花州の四人。兼題の他に当季雑詠二句を加え五句提出。このほか、高橋なには橋さん、今井由紀子さん(仮俳号・大雪)が投句参加されました。五句選、秀句二句に講評はいつも通りです。


兼題の部

黄昏選
@襟巻やをんな匿せるものあまた     (なには橋)
〈評〉襟巻きの巻き方にも色々あるように、隠せるものもいろいろある。含みと余韻のある熟女の佳句。
Aクリスマスむかしむかしと瞳に云ひぬ  (なには橋
〈評〉訳が分からないところがいいという甘い批評もあったが、幼児にキリスト教のいわれを伝えようとする、若い母の姿を切り取った母性愛の秀句。震えるような感動を覚えた。
 ・好きですとマフラーの中言ってみる  (花州)

 ・湯たんぽのぬくもり君の代わりにし  (大雪
 ・たいやきも異国の街では細面     (花州)

すず虫選
@好きですとマフラーの中言ってみる   (花州)
〈評〉ふんわかしたマフラーの感触と恥じらいが目に浮かんだ。そこがいいと思った。
A散りいそぎ元朝知らぬ山茶花      (青軸)
〈評〉朝、急ぎ足で歩いていても、花弁がバラッと道に落ちているのが目につく。一生懸命咲いて散った無常感となまめかしさが表現されている。
 ・クリスマスむかしむかしと瞳に云いぬ (なには橋)
 ・鯛焼きに立つ湯気払う笑顔かな    (大雪)
 ・たいやきも異国の街では細面     (花州)

花州選
@襟巻きのすき間くすぐる白い息     (大雪)
〈評〉マフラーを巻いていると、呼吸の存在を強く感じる。その実感が伝わってきた。
A鯛やきに汗をかかせて持ち帰り     (すず虫)
〈評〉父が買って帰る鯛焼きは紙がぺらぺらしていたことを思い出し、懐かしい感じがした。
 ・落ちそうで落ちぬなで肩紺マフラー  (青軸)
 ・マフラーもほつれたままのぬれ落ち葉 (すず虫)
 ・襟巻きをほどけば白きのどぼとけ   (黄昏)

青軸選
@クリスマスむかしむかしと瞳に云ひぬ  (なには橋)
〈評〉「むかしむかし」とクリスマス。西洋と東洋観。「瞳に云ひぬ」がなんかいい。懐しい感じがある。何となく好感がもてる。
Aマフラーもほつれたままのぬれ落ち葉  (すず虫)
〈評〉老人感。ほつれたマフラーと飛びそうで飛ばない濡れ落ち葉、外れそうで外れないその感覚に共感。
 ・「半分こ」冷めた鯛やき温もれり   (すず虫)
 ・鯛焼きやサラリーマンの糧とせる   (なには橋)
 ・みんな寝て星のみ光る聖しこの夜   (すず虫)


提出句一覧

なには橋
 ・クリスマスむかしむかしと瞳に云ひぬ

 ・鯛焼やサラリーマンの糧とせる
 ・襟巻やをんな匿せるものあまた

黄昏
 ・襟巻きは真知子巻きなり岸恵子

 ・襟巻きをほどけば白きのどぼとけ

 ・マフラーをたんすに追いやる温暖化
 ・鯛焼きや成長ニッポン象徴す
 ・電飾の光で愉しむクリスマス


大雪
 ・クリスマスサンタ信じる子の笑顔
 ・鯛焼きに立つ湯気払う笑顔かな
 ・襟巻きのすき間くすぐる白い息

 ・大掃除子の手伝いに惑わされ

 ・湯たんぽのぬくもり君の代わりにし


すず虫
 ・みんな寝て星のみ光る聖しこの夜
 ・「半分こ」冷めた鯛やき温もれり
 ・鯛やきの温もり小脇に残りおり
 ・鯛やきに汗をかかせて持ち帰り
 ・マフラーもほつれたままのぬれ落ち葉

青軸
 ・降誕祭いそがぬ旅をしてゐたる
 ・たい焼きの甘さ凶暴なる熱さ
 ・落ちそうで落ちぬなで肩紺マフラー
 ・散りいそぎ元朝知らぬ山茶花
 ・五十歳急にと年賀欠礼状

花州
 ・寝たふりで父サンタ待つクリスマス
 ・たいやきのお腹は熱くかぶりつく
 ・たいやきも異国の街では細面
 ・マフラーを結び直してふるさとへ
 ・好きですとマフラーの中言ってみる


席題の部

 四人の出席者がひとつずつ題を出し合い、四句提出、四句選、二句に講評としました。席題は「風呂吹き大根」(すず虫出題)「漱石忌」(黄昏)「風邪」(花州)「山眠る」(青軸)

黄昏選
@三郎と四郎眠らせ山眠る        (青軸)
〈評〉遊びの句。「太郎眠らせ、次郎眠らせ・・・」という有名な詩があるが、それの安直なパロディ。
A風呂吹の透く肌ほんのり黄金色     (すず虫)
〈評〉「透く肌」が心。かすかなエロティシズム、不倫のにおいを感じた。前句の「安直」と「不倫」で、席題にふさわしい。
 ・山眠る雪の上にも月の影       (すず虫)
 ・風邪ひいてほおに紅さす白き顔    (すず虫)

すず虫選
@山眠る猪一匹撃たれたり        (花州)
〈評〉冬山に行くと、シンとした中にカーンという音を聞く。冬の空気のすがすがしさと静謐さを表現している。新年の猪を引っかけたのか?
A漱石忌牛になろうと襟正す       (黄昏)
〈評〉牛になろうと襟を正す。来年の自分もかくありたい。たとえ牛歩でも一歩一歩前に進もうと思った。
 ・五分ほど主役ふろふき大根かな    (青軸)
 ・風邪ごもり布団はぬくしもう一寝   (花州)

花州選
@五分ほど主役ふろふき大根かな     (青軸)
〈評〉風呂吹き大根は、最初とても熱いがあっというまに冷めてしまう。その短さを表現することで、周りの空気の冷たさをも表現している。
A漱石忌道草するは三四郎        (青軸)
〈評〉「道草」「三四郎」と、漱石にちなんだ言葉をちりばめてある。なんとなく、のんびりした感じがする。
 ・漱石忌牛になろうと襟正す      (黄昏)
 ・風呂吹にのせたる柚の香り立つ    (すず虫)

青軸選

@風邪ごもり布団はぬくしもう一寝    (花州)
〈評〉「風邪ごもり」がいいと思った。ズル寝か休んでいるのか、ほっとした眠りだろう。俳句は造語。抜群。
A風邪に伏し仰臥漫録再読す       (黄昏)
〈評〉ありがちだが、仰臥漫録に風邪に抵抗する気持ちがでている。学を出そうとしている。
 ・山眠る春日の杜も鎮まれり      (黄昏)
 ・漱石忌牛になろうと襟正す      (黄昏)

提出句一覧

黄昏
 ・風呂吹や老妻と聴く深夜便
 ・漱石忌牛になろうと襟正す
 ・風邪に伏し再読す
 ・山眠る春日のも鎮まれり

花州
 ・風呂吹の青さが満ちる台所
 ・漱石忌こころ習った日は遠く
 ・風邪ごもり布団はぬくしもう一寝
 ・山眠る猪一匹撃たれたり

すず虫
 ・風呂吹の透く肌ほんのり黄金色
 ・風呂吹にのせたる柚子の香り立つ

 ・漱石忌明治の男を思ひけり

 ・風邪ひきのおじや温もる母の味
 ・風邪ひいてほおに紅さす白き顔
 ・山眠る雪の上にも月の影

青軸
 ・五分ほど主役ふろふき大根かな
 ・漱石忌道草するは三四郎
 ・風邪ひけばやさしき母と知りにけり

 ・三郎と四郎眠らせ山眠る


 午後十時過ぎ散会。