第十七回ご隠居横丁句会こと「杉林」復活記念句会
二〇〇七年二月八日(木)午後六時半より「くはら」。(当日は参加者多数。想像以上の盛況のため、杉林に入りきれず、急遽場所が変更になりました)第十七回句会を右の日時、場所で開きました。兼題は「風光る」「雁風呂」「白酒」。席題は「立春」「菜の花」「ぶらんこ」。参加者は内藤呈念先生、高橋なには橋さん、荒谷黄昏さん、井上青軸さん、吉田鉄井さん、今井大雪さん、陰山花州さん、花野雄太さん、竹石すず虫の九人。五句提出。このほか、大庭擬宝珠さん、花州さんの友人ゆず子さんが投句で参加されました。兼題は七句選、秀句三句に講評、席題は四句選、二句講評としました。
兼題の部
呈念選
@トーストに今朝はハチミツ風光る (擬宝珠)
〈評〉日常の光景で易しい言葉ですっと入ってくる。はちみつという語から、ハチが羽ばたき始めた感じが風光るから連想される。
A白酒や筆やわらかく初の紅 (花州)
〈評〉ひなまつりの乙女の紅をつけた艶っぽさ、ドキッとするなまめかしさを感じた。
B風光るペンキの剥げて滑り台 (なには橋)
〈評〉冬を越しペンキがはげたところを、子どもたちの春と詠んでいる感じを受けた。
・臘梅や悔いたり謝したり母は亡く (黄昏)
・雁風呂や岩の苔にも湯をかける (鉄井)
・マラソンのたなびく髪に風光る (すず虫)
・風邪篤し一日富士をみてをりぬ (青軸)
なには橋選
@ガス栓をひねり雁風呂たててみる (青軸)
〈評〉ガス栓をひねったって雁風呂がたつはずがない。作者の不可能への抵抗。時代に対する作者の抵抗の精神に滑稽味が感じられる。
Aひざそろへ娘の酌うける桃の酒 (呈念)
〈評〉花州選と同じ印象。膝をそろえているお父さんがかわいい。
B白酒や筆やわらかく初の紅 (花州)
〈評〉初節句のやっと座れるかの女の子に紅をさした。そのために筆も買って上等の紅をつけた。光景が浮かぶ。
・トーストに今朝はハチミツ風光る (擬宝珠)
・ひな飾り壊した弟かばわれて (花州)
・橋下のトランペットや風光る (呈念)
・豆まく子手つき勢ひそれぞれに (擬宝珠)
黄昏選
@雁風呂や炎に還る命かな (すず虫) 〈炎=ほむら〉
〈評〉火は人間存在の根源を考えさせる。畏怖するような、構えの大きな秀句。
A吾もまた過客のひとり雁供養 (呈念)
〈評〉芭蕉の句につながる味わい深い秀句。
B白酒の香を残したる枕干す (雄太)
〈評〉そこはかとなく色香のむなしさが漂う佳句。
・風光るペンキの剥げて滑り台 (なには橋)
・中古の乙女ら憩ふ白酒屋 (擬宝珠) 〈中古=ちゅうぶる〉
・風光る河岸の黒猫伸びしをり (鉄井)
・白酒や客もあるじも京ことば (なには橋)
青軸選
@吾もまた過客のひとり雁供養 (呈念)
〈評〉かっこいい。過客が気に入った。雁がとってつけた取り合わせだが、道の途中で倒れた人になぞらえたのではないか。自分の人生になぞらえて聞いた。
A風光る冬カーテンは逆らわず (花州)
〈評〉春の兆しのなかで、窓を開けた。冬物のカーテンがかかっている。抵抗せず、主役の座は春の象徴である「風光る」に明け渡し、素直な句。響きも良い。
B白酒や老後よろしく願います (黄昏)
〈評〉白酒との取り合わせ。あたたかさ3段活用。1、家族・夫婦 2、白酒・酒 3、春のあたたかさ。
・雁風呂やつむじの奥まで湯につかる (花州)
・中古の乙女ら憩ふ白酒屋 (擬宝珠)
・雁風呂や試験の子待つ煮物ある (鉄井)
・ダム・水路砂場に竣工風光る (擬宝珠)
鉄井選
(前置きですが・・・)インパクトで選んだ。心にぐっとくる句。
@風光る猫がくねれば俺悶ゆ (黄昏)
〈評〉エロスとユーモア。このアホさ加減。風光るのさわやかさと俗っぽさ。何度も読んでいると「人間はすばらしい」と思える。一年で一番の驚き。
A背にしみる梅見疲れの子の涙 (雄太)
〈評〉涙がじわじわ染みてくるのに時間がかかる。大人は花が嬉しいが子には苦痛。大人と子の時間差をすごく感じさせる句。
B吾もまた過客のひとり雁供養 (呈念)
〈評〉炎と同じで決まった、と思った。外そうと思ったが外せなかった。当たり前でもなかなかできない気づき。気持ちのよい決まり方。
・雁風呂やつむじの奥まで湯につかる (花州)
・風光るペンキの剥げて滑り台 (なには橋)
・雁風呂や波の引きゆく木も拾ふ (なには橋)
・白酒や筆やわらかく初の紅 (花州)
大雪選
@はしゃぐ吾子大人になりきり白酒で (ゆず子)
〈評〉子供時代を振り返って、お酒がいただける大人びた気分になったのを思い出す。
A雁風呂やお伽ばなしのぬくさかな (青軸)
〈評〉雁風呂のぬくさと架空の話のぬくさがうまく溶け合っている。
B白酒を祖母と飲み干す幸せよ (ゆず子)
〈評〉ひなまつりは女の節句。世代を超えて語りつつ飲むふんわかした雰囲気を思い起こさせる。
・風光る河岸の黒猫伸びしをり (鉄井)
・喉すべる白魚三筋踊りぐい (花州)
・風邪篤し一日富士をみてをりぬ (青軸)
・風光るほころぶ柔和な景色かな (ゆず子)
花州選
@トーストに今朝はハチミツ風光る (擬宝珠)
〈評〉春は黄色のイメージ。トーストの黄色、ハチミツの黄色、光の黄色が表現されていて、春にぴったり。
A風光るひこうき雲の鮮やかに (鉄井)
〈評〉ひこうき雲が大好きで、この情景はまさに春という感じがした。
Bひざそろへ娘の酌うける桃の酒 (呈念)
〈評〉娘にあわせて、ちゃんと正座をしている優しいお父さんの姿が目に浮かんだ。
・尻に脱げさうなジーンズ草萌る (なには橋)
・雁風呂や炎に還る命かな (すず虫)
・白酒は十年待てよ破竹の子 (鉄井)
・風光る河岸の黒猫伸びしをり (鉄井)
雄太選
@風光る河岸の黒猫伸びしをり (鉄井)
〈評〉黒猫がいい。あまり爽やかなイメージのない黒猫に自分を投影し、黒猫にも春が来たんだな...と感じさせる。
A白酒や客もあるじも京ことば (なには橋)
〈評〉京ことばのはんなりした感じが出ている。
B雁風呂や欲も涙も湯にとかし (すず虫)
〈評〉「湯に溶かし」といっているが、溶けていない。溶かしたいという気持ちを読んだいい男らしい句。
・橋下のトランペットや風光る (呈念)
・風光る冬カーテンは逆らわず (花州)
・臘梅や悔いたり謝したり母は亡く (黄昏)
・吾もまた過客のひとり雁供養 (呈念)
すず虫選
@風光るひこうき雲の鮮やかに (鉄井)
〈評〉春の陽光の明るさと青空、白い雲。春らしさをよく表している。
A雁風呂や波の引きゆく木も拾ふ (なには橋)
〈評〉寂しい句ではあるが、帰れないから波にすくいとられてしまうと存在すら認めてもらえない。墓標もあたたかく受け止めいていて、優しさを感じた。
B鳶の笛ふと見上ぐれば風光る (呈念)
〈評〉春は明るい青空を思い浮かべる。ポヨーンとした中の厳しさと潔さが好き。
・風光る河岸の黒猫伸びしをり (鉄井)
・ひざそろへ娘の酌うける桃の酒 (呈念)
・吾もまた過客のひとり雁供養 (呈念)
・たんぽぽの綿毛に託す恋心 (大雪)
提出句一覧
呈念
・ひざそろへ娘の酌うける桃の酒
・橋下のトランペットや風光る
・吾もまた過客のひとり雁供養
・鳶の笛ふと見上ぐれば風光る
・光る風まとひて君の小走りに
なには橋
・雁風呂や波の引きゆく木も拾ふ
・白酒や客もあるじも京ことば
・尻に脱げさうなジーンズ草萌る
・風光るペンキの剥げて滑り台
・駅に来て手袋忘れゐたりけり
黄昏
・臘梅や悔いたり謝したり母は亡く
・風光る猫がくねれば俺悶ゆ
・白酒や老後よろしく願います
・雁風呂や砂の器父子偲ぶ
・雁風呂や駆出しの友早や逝きて
青軸
・雁風呂やお伽ばなしのぬくさかな
・品川の勝亦電機風光る
・ガス栓をひねり雁風呂たててみる
・風邪篤し一日富士を見てをりぬ
・白酒に酔ったふりして君をぶつ
擬宝珠
・豆まく子手つき勢ひそれぞれに
・ダム・水路砂場に竣工風光る
・トーストに今朝はハチミツ風光る
・中古の乙女ら憩ふ白酒屋
鉄井
・雁風呂や岩の苔にも湯をかける
・雁風呂や試験の子待つ煮物あり
・風光る河岸の黒猫伸びしをり
・風光るひこうき雲の鮮やかに
・白酒は十年待てよ破竹の子
大雪
・たんぽぽの綿毛に託す恋心
・風光り子の目光りて虫を追う
・幸多き旅路願いて雁供養
・独り身に甘さこたえるお白酒
・節分の豆食い足りぬ歳の数
花州
・風光る冬カーテンは逆らわず
・喉すべる白魚三筋踊り食い
・ひな飾り壊した弟かばわれて
・白酒や筆やわらかく初の紅
・雁風呂やつむじの奥まで湯につかる
雄太
・風光る児のランドセルの軽さかな
・背にしみる梅見疲れの子の涙
・白酒の香を残したる枕干す
・橇のうら母子の重し花菜漬
・雁供養手向けの柄杓子に注ぐ
ゆず子
・はしゃぐ吾子大人になりきり白酒で
・風光るほころぶ柔和な景色かな
・白酒は髪をかきあげ艶やかに
・心地よくキーンと清むよ風光る
・白酒を祖母と飲み干す幸せよ
すず虫
・雁風呂や炎に還る命かな
・マラソンのたなびく髪に風光る
・雁風呂や欲も涙も湯にとかし
・風光る運動場にあふる笑み
・白酒にほほを染めたる花一輪
・風光る窓の外にもランドセル
席題の部
呈念選
@ブランコを揺らした人は影もなく (花州)
〈評〉春の夜の幻の句。
Aブランコにやはらかき手を重ねけり (すず虫)
〈評〉親子かもしれないし、恋人かもしれない。物語を感じる。
・春立ちて年寄り湯屋に並びたり (雄太)
・菜の花のひたしのつぼみかみつぶす (花州)
なには橋選
@止まるまでおしゃべりしようブゥランコ (花州)
〈評〉「ぶぅらんこ」という言い方がとってもイヤ。
A鉄錆のにほひぶらんこ軋みけり (呈念)
〈評〉「にほひ」がしたのは良いが、「軋みけり」が余計。
・菜の花に近寄りて茎の太さかな (鉄井)
・立春のリップクリーム塗る漢 (呈念) 〈漢=おとこ〉
黄昏選
@止まるまでおしゃべりしようブゥランコ (花州)
〈評〉「止まるまで」と「おしゃべり」の運動性。ブランコの動きを強めている。
Aリーボック弾む地面や春立ちぬ (呈念)
〈評〉ストレートに若さと躍動感をうたう秀句。
・ぶらんこを蹴る足いつか世に立てり (鉄井)
・立春のリップクリーム塗る漢 (呈念)
青軸選
@リーボック弾む地面や春立ちぬ (呈念)
〈評〉リーボックという言葉が発見。季語とアメリカの出会いが新鮮。
A止まるまでおしゃべりしようブゥランコ (花州)
〈評〉「ぶぅらんこ」はごまかしで嫌いだが、幼児言葉と思えばありか。春のどかな母子の心の出会いを感じさせ、麗しい。
・欲出してつみ損ねたり水菜咲く (大雪)
・鉄錆のにほひぶらんこ軋みけり (呈念)
鉄井選
(前置きは・・・)席題は新しい感性で選んだ。
@立春のリップクリーム塗る漢 (呈念)
〈評〉よく見る光景。男の方が人前で塗る世相をうつす。今の世を見るような句。
Aリーボック弾む地面や春立ちぬ (呈念)
〈評〉高校時代履いた大きなブランド。言葉がいい。語感ががいい。爽やかで好き。
・菜の花のひたしのつぼみかみつぶす (花州)
・菜の花の芽吹くをまたず家建ちぬ (雄太)
大雪選
@あらかたは水菜の鍋や母子食ふ (なには橋)
〈評〉過酷な生存競争をする親子の風景が浮かんだ。
A立春や霜立つ土に幼き芽 (すず虫)
〈評〉寒い朝、自然の芽吹きの力強さをうたったよい句。
・ブランコは過去の想ひ出行きて来て (青軸)
・立春や雪踏む音を聞けぬまま (鉄井)
花州選
立春のリップクリーム塗る漢 (呈念)
〈評〉男がリップクリーム。ミスマッチがおもしろい。
A菜の花に近寄りて茎の太さかな (鉄井)
〈評〉菜の花の茎は小さいが、近寄ってみると、茎は意外と太い。実感できる。
・ブランコや体投げだし空めざす (大雪)
・鉄錆のにほひぶらんこ軋みけり (呈念)
雄太選
@ぶらんこを蹴る足いつか世に立てり (鉄井)
〈評〉子どもをもつ親としては、他人の子でも小さな足がいつか、この世で仕事をするんだろうな、と感じる。佳句。
A春たちぬ甥は遺影になりにけり (青軸)
〈評〉何も言うことはない。つい先日の寒い日に亡くなったのか、新しい遺影を眺める様子が漂ってくる。
・菜の花は十字架なるか野を埋づめ (青軸)
・あらかたは水菜の鍋や母子食ふ (なには橋)
すず虫選
@止まるまでおしゃべりしようブゥランコ (花州)
〈評〉春の日差しの中で、子と親?孫と祖父母?がゆっくりとした時間を過ごしているさまがいい。
A鉄錆のにほひぶらんこ軋みけり (呈念)
〈評〉古いブランコで手に鉄錆のにおいがついた思い出がよみがえった。
・立春や雪踏む音を聞けぬまま (鉄井)
・春立ちて年寄り湯屋に並びたり (雄太)
提出句一覧
呈念
・リーボック弾む地面や春立ちぬ
・鉄錆のにほひぶらんこ軋みけり
・立春のリップクリーム塗る漢
なには橋
・あらかたは水菜の鍋や母子食ふ
・ふらここやマリー・アントワネットの靴
・春立つやそれもうすべにしだれうめ
黄昏
・菜の花や萌ゆる命の遼太郎
・ブランコや恋せよ乙女志村歌う
・ブランコや夜の帳に揺れてをり
青軸
・ブランコは過去の想ひ出行きて来て
・春立ちぬ甥は遺影になりにけり
・菜の花は十字架なるか野を埋づめ
鉄井
・ぶらんこを蹴る足いつか世に立てり
・立春や雪踏む音を聞けぬまま
・菜の花に近寄りて茎の太さかな
大雪
・ブランコや体投げ出し空めざす
・欲出してつみ損ねたり水菜咲く
・菜の花に苦き思い出辛子あえ
花州
・ブランコを揺らした人は影もなく
・止まるまでおしゃべりしようブゥランコ
・菜の花のひたしのつぼみかみつぶす
雄太
・春立ちて年寄り湯屋に並びたり
・菜の花の芽吹くをまたず家建ちぬ
・ぶらんこや西に東に揺られをり
すず虫
・立春や霜立つ土に幼き芽
・ブランコにやはらかき手を重ねけり
・北の空菜の花水仙に追ひつけり
・ブランコをともにゆらして笑みあへり
午後十一時前散会。