第4回ご隠居横丁忘年句会
2004年12月18日(土)午後2時開会

初めて昼席とし、吉田鉄井先生が施主となり、江東区の鉄井邸で敢行。
「白昼堂々忘年句会」でした。
兼題は「人参」「股引」「狐or狸」。当季雑詠を加え計5句提出はいつもと同じ。
参加者は内藤呈念先生、荒谷たそがれ先生、吉田鉄井先生、井上青軸。
初参加の米原幌櫃先生は午後4時ごろから1時間余参加。
同じく初めての上坂酔童先生は、午後6時ごろから鍋と同時の参加。
高橋なには橋先生は、所用によりメールで欠席投句でした。
兼題に応じたのは従って、呈念、たそがれ、鉄井、青軸、なには橋(投句)の5人、計25句。
なには橋先生の句は、予断を排するため青軸の家人が代理筆記したものを持参しました

呈念選
@風邪ひいて人参おろす母は亡く  (たそがれ)
<評>母ものに弱くて、作者が分かっていても選んでしまう。経験として思い浮かぶ情景。
病気にはすりリンゴが定番だが、人参の方が身体にはいいらしい。ほのぼのとしてよろしい。
 ※書記注=作者は「分かっている人」とは別人でした。
A皮むきて肌なほ赤き人参や     (鉄井)
<評>人参はむいても赤いのは当然である。だが自分で実際にむいた実感がある。新しい発見です。
難を言えば末尾に「や」の切れ字がくるのが落ち着かないところではある。
・とめどなき山茶花の紅婚約す    (なには橋)
・ばばまでもパッチはきゐたる田舎かな(青軸)
・人参をよけぬ齢となりにけり    (青軸)

たそがれ選
@まろき目の何を語るや古狸      (鉄井)
<評>古狸は悪いイメージだが、それは一方で、酸いも甘いもかみ分けた狸の達人だといえるかも知れない。
また、まろき目の言葉が狸の表情をよく言い当てている。味わい深い。
A股引の腰の引けたる俄車夫      (呈念) <俄=にはか>
<評>車夫と言えば無法松。しかしこの句は、観光地などでアルバイトが引く車夫のことをいっているのである。
古いものを想起しつつ今を詠む。いい着眼である。
・置きものの狸の腹のつやつやと    (鉄井)
・皮むきて肌なほ赤き人参や      (鉄井)
・人参の関東ロームに肩並ぶ      (呈念)

鉄井選
@股引の腰の引けたる俄車夫      (呈念)
<評>講評する2句に共通する点、それは、情景が浮かんでくるもの、そして情景を越えた深みがあるものだ。
「俄車夫」の句から若者の初々しい姿が浮かぶ。光景に広がりもあり重みもある。
Aふたつずつ闇に狸のまなこかな    (なには橋)
<評>こちらも広がりを感じさせる句。素直にそのまま情景を詠み、鑑賞する側が想像力を働かせる余地がある。
それがつまり深みである。
・白兎にんじん恋ひて目の赤し     (青軸)
・奪はれし野に餌を乞ふキタキツネ   (青軸)
・平成には五千円也一葉忌       (青軸)

青軸選
@まろき目の何を語るや古狸      (鉄井)
<評>古狸の妖しさとまろき目のかわいらしさの対比、意外性がよい。「まろき」といった言葉の柔らかさもいい。
Aふたつずつ闇に狸のまなこかな    (なには橋)
<評>闇に浮かぶ目が夜行性の狸の本質を表している。神秘的なところも感じられる。また、句にリズムがある。
言葉運びも巧みで音読すると気持ちよい。
・置きものの狸の腹のつやつやと    (鉄井)
・関西は狸が狐うどん食ふ       (呈念)
・とめどなき山茶花の紅婚約す     (なには橋)

提出句一覧

呈念
・人参を見るのも嫌な栄養士
・人参の関東ロームに肩並ぶ
・股引の腰の引けたる俄車夫
・関西は狸が狐うどん食ふ
・討入の義士の名すべて広辞苑
鉄井
・足首のきゅっとしまりて人参や
・皮むきて肌なほ赤き人参や
・ももひきの温さまとって風呂に入り
・まろき目の何を語るや古狸
・置きものの狸の腹のつやつやと

なには橋(欠席投句)
・足跡の人参抜きて帰りけり
・母のはかす股引憎みをりしかな
・或る時の妻は九尾の狐かな
・ふたつずつ闇に狸のまなこかな
・とめどなき山茶花の紅婚約す
青軸
・人参をよけぬ齢となりにけり
・白兎にんじん恋ひて目の赤し
・ばばまでもパッチはきゐたる田舎かな
・奪はれし野に餌を乞ふキタキツネ
・平成には五千円也一葉忌

たそがれ
・風邪ひいて人参おろす母は亡く
・ステテコと股引の違い分かるかな
・「他を抜く」と小さんが好いた狸かな
・バイアグラ昔は狸で足りたのに
・月が出た狸の踊り見てみたい







午後4時ごろ、米原幌櫃(ホロビッツ)先生が参加されたのを期に席題の部に入りました。

席題1
 「白鳥」「マスク」「ボーナス」
参加者 呈念、たそがれ、幌櫃、鉄井、青軸。3句提出。5句選、上位選2句に講評。

呈念選
@白鳥の群れ一面の死装束      (幌櫃)
<評>(後に出てくる)鉄井さんの評のように、明るいイメージの背後にある意外なイメージを発見した。
よい作品である。
Aため息も本音も溶かすマスクかな  (鉄井)
<評>マスクをすると、ばい菌もいやなこともすべて吸い込まれていく。それを「溶かす」と表現したのである。
・くちばしのするどさ哀しコハクチョウ(鉄井)
・マスクして独り言いふ交差点    (鉄井)
・白鳥の汚れし羽もありにけり    (青軸)

たそがれ選
@ため息も本音も溶かすマスクかな   (鉄井)
<評>ため息と本音。心の働きを「溶かす」と言う言葉でくくった。軽い驚きがある。
Aマスクして独り言いふ交差点     (鉄井)
<評>マスクをしてひとり言をいっている姿。深刻なような、滑稽なような、味わいを感じる。
・白鳥の水かき速く静かなり      (幌櫃)
・マスク越し声くぐもりて降誕祭    (青軸)
・封筒の重みなつかしボーナス日    (鉄井)

幌櫃選
@くちばしのするどさ哀しコハクチョウ (鉄井)
<評>くちばしが鋭いことが哀しいという。詠みたくて詠めなかったイメージ。
優雅でありつつ湖面を泳ぐ凛としたコハクチョウの悲しさ。わびしさを剔抉(てっけつ=欠点を暴き出す)した佳作です。
Aマスクして情けを誘う黒い腹     (たそがれ)
<評>交差点の句と迷ったが、自分の黒い腹を気づかされたことでこちらを採った。
・白鳥の汚れし羽もありにけり     (青軸)
・マスクして独り言いふ交差点     (鉄井)
・こおこおと啼き交しつつ白鳥来    (呈念)

鉄井選
@白鳥の群れ一面の死装束      (幌櫃)
<評>題の白鳥のイメージが明るい中で、死に装束を見た視線の鋭さを感じた。綺麗な鳥、で判断停止となるところ、
その先を見ているのである。
A白鳥の汚れし羽もありにけり    (青軸)
<評>遠目にはきれいだが、近づくと汚い部分も見える。綺麗はそうあって欲しい人間の願いであって、
人の傲慢さの現れであろう。文明批判にも通じる視点である。
・こおこおと啼き交しつつ白鳥来   (呈念)
・査定なしボーナスもなし自由なる  (呈念)
・マスクして情けを誘う黒い腹    (たそがれ)

青軸選
@白鳥の群れ一面の死装束      (幌櫃)
<評>白鳥と死のイメージは「白鳥の歌」でつながっていて凡庸な発想とみえる。
しかし、死装束と言い切ったこの句を見ると意外な強さに驚く。平凡なイメージの一歩先に発見があった。
Aマスクして独り言いふ交差点    (鉄井)
<評>マスクをしていることが怪しいイメージを醸し出す。ありそうでなさそうな感じ。
しかし、言われてみると納得する。
・白鳥の水かき速く静かなり     (幌櫃)
・すきやきかそれとも蟹かボーナス日 (鉄井)
・査定なしボーナスもなし自由なる  (呈念)
 
提出句一覧

呈念
・こおこおと啼き交しつつ白鳥来
・マスクして視線ますますきつくなり
・査定なしボーナスもなし自由なる
鉄井
・くちばしのするどさ哀しコハクチョウ
・白鳥の羽音ききたし不忍で
         <不忍=しのばず>
・白鳥の飛翔夢みしチャイコフスキー
・マスクして独り言いふ交差点
・マスク下こっそり歌うはパパゲーノ
・ため息も本音も溶かすマスクかな
・すきやきかそれとも蟹かボーナス日
・封筒の重みなつかしボーナス日

たそがれ
・脚隠し白鳥すべる湖面かな
・マスクして情を誘う黒い腹
・ボーナスは紙一枚で賞与立つ
幌櫃
・白鳥の群れ一面の死装束
・人の気も白鳥白く舞い上がる
・白鳥の水かき速く静かなり
    <白鳥=しらとり>
青軸
・白鳥の汚れし羽もありにけり
・マスク越し声くぐもりて降誕祭
・ボーナスは留まることのなき習ひ

席題2
 「雑炊(orおじや)」「葱」「クリスマス(降誕祭)」
参加者 呈念、たそがれ、酔童、鉄井、青軸。鍋が始まる前に幌櫃先生退出。間もなく上坂酔童先生が加わる。
提出5句。5句選、上位選2句講評

呈念選
@幸は葱刻む音味噌の味    (青軸)
<評>信州味噌の広告のようにも思ったが、調子がいかにもいい。聴覚と嗅覚の両方がでているのもいい。
広告みたいにならないためには「幸」を言い換えられればいいのだが。
A葱折りて寒さ目にしむ台所  (鉄井)
<評>葱を折って、葱の香りが目にしみるのかと思いきや、寒さが目にしみるいう。
その感覚は、葱と寒さが季重なりになった点を割り引いてもよろしい。
・葱届くこねる生蕎麦も香りたち (青軸)
・湯豆腐を崩せる箸の音もなし  (鉄井)
・新潟のひと思ひつつおじや喰ふ (鉄井)

たそがれ選
@雑炊の青菜の茎のかみごたへ   (呈念)
<評>佐佐木信綱の「ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲」のように畳み込んでいって、
景を大から小へとズームインした巧みさ。
最後の噛みごたへの意外感にぎょっとする。雑炊は噛まないためのものだから。
A高き畝抜けいださんと根深葱   (呈念)
<評>高い畝を抜け出るとの表現が巧み。高いと言って地下へ移る技巧。句に動きがある。
・クリスマス嘘を待つ夜の長さかな (青軸)
・葱きざむリズム揃わぬ十七歳   (鉄井)
・湯豆腐を崩せる箸の音もなし   (鉄井)

酔童選
@幸は葱刻む音味噌の味      (青軸)
<評>音と味とを対比させた。呈念評の二感に、視覚を加えて三感が入っている。
A父親が白ひげ隠すクリスマス   (青軸)
<評>感じは分かるが、父親が固くるしく、ここを父さんとすれば、もっとほのぼのとした作品になるのだが。
・オフィスラブそんなに盛んかカヤの外(たそがれ)
・猫がいて主朗らかによいこっちゃ  (たそがれ)  <主=ぬし>
・葱届くこねる生蕎麦も香りたち   (青軸)

鉄井選
@クリスマス嘘を待つ夜の長さかな (青軸)
<評>クリスマスは、女にとってだまされても良いから一緒にいたい日。嘘と分かりつつ魔法が起きることを期待させるイベントです。
騙しきってくれとすら思う。この思いには経験がある。女心をよく詠んだ。ぐっと来て泣ける。
A葱届くこねる生蕎麦も香りたち   (青軸)
<評>そばの準備。葱が届いて、こねるそばも香り立って、そばへの期待感が高まる。句の中に時間が流れている。時間軸を感じさせる。
・なでしこと言われし君の太き腰   (酔童)
・雑炊の青菜の茎のかみごたへ    (呈念)
・撤兵を待ちくたびれてクリスマス  (たそがれ)

青軸選
@雑炊の青菜の茎のかみごたへ   (呈念)
<評>たそがれ評のように雑炊の噛みごたへ、の意外感。俳句は発見であるというが、茎に雑炊の噛みごたへを発見したのである。
A撤兵を待ちくたびれてクリスマス (たそがれ)
<評>人質たたきもあって泣いた人もいるイラク問題。兵士とその家族の心情は切ない。「脱北」の作者がまた巧みに時事を詠んだ。
・初霜や犬にせかれて散歩かな    (酔童)
・葱きざむリズム揃わぬ十七歳    (鉄井)
・勧誘のビラ風に舞ふクリスマス   (鉄井)

提出句一覧

呈念
・雑炊の青菜の茎のかみごたへ
・雑炊を食べて止まらぬ女かな
・猫舌のはふはふ雑炊食べてをり
・高き畝抜けいださんと根深葱
・お隣に電飾負けじとクリスマス
 
鉄井
・新潟のひと思ひつつおじや喰ふ
・葱きざむリズム揃わぬ十七歳
・葱折りて寒さ目にしむ台所
・勧誘のビラ風に舞ふクリスマス
・湯豆腐を崩せる箸の音もなし
たそがれ
・雑炊や分かちておくる「災」の年
・ネギ役がピリリと締めるオフィスかな
・撤兵を待ちくたびれてクリスマス
・オフィスラブそんなに盛んかカヤの外
・猫がゐて主朗らかによいこっちゃ
青軸
・おじやありて寒さもゆるむ気持ちかな
・葱届くこねる生蕎麦も香りたち
・幸は葱刻む音味噌の味
・父親が白ひげ隠すクリスマス
・クリスマス嘘を待つ夜の長さかな
酔童
・雑炊をつつく箸々何つなぐ
・地響きを聖歌代わりに降誕祭
<降誕祭=クリスマス>
・初霜や犬にせかれて散歩かな
・椿姫塚を飾れる枯尾花
・なでしこと言われし君の太き腰

 次回は、新年句会にすることとし、施主をたそがれ先生にお願いして午後11時ごろ散会。

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