第6回ご隠居横丁2月定例句会
2005年2月17日(木)夕刻、於銀座「杉林」

2月の定例句会を上記で開催。兼題は下記の三つで、当季雑詠をあわせて計五句提出は、いつもの通りでした。
参加者は、内藤呈念先生、荒谷たそがれ先生、吉田鉄井先生、井上青軸。
高橋なには橋先生が欠席投句、米原幌櫃先生は二句投句、飛び入りでK藤サッフォーさんから一句投句がありました。

兼題の部
「節分」「犬ふぐり」「水ぬるむ」

呈念選
@汝二十歳風のミモザとなりにけり   (なには橋) <汝=なれ>
<評>「風のミモザ」は不思議な表現である。ミモザはアカシアの仲間で、小さな花房が木いっぱいに咲く。吹く風がそれを揺らす。二十歳の頃の回想であろうか。下句の「なりにけり」は、もったいない使い方と思うかもしれないが、句意は上二句で尽くしていると作者は言っているのだ。「なりにけり」に余情を感じる。情感の勝利である。
A「鬼は外」と言うこともなしいつも外 (幌櫃)
<評>家に寄りつかない作者自身なのだろうか。引き籠もりの逆のような、寂しいような。詩情を感じる。実感の勝利である。
・瑠璃色のことばのかけら犬ふぐり   (青軸)
・水ぬるむ黒き大地のほほゆるむ   (青軸)
・水ぬるむその一滴の重きこと     (鉄井)

たそがれ選
@瑠璃色のことばのかけら犬ふぐり   (青軸)
<評>犬ふぐりは知らない花だった。この席で写真を見て作句したのだが、色鮮やかな花だ。この句は、瑠璃という古い言葉を使い、小さな花々を「かけら」と表したさりげない組み合わせ。技巧の勝利である。
A木洩れ日の花と化したる犬ふぐり   (呈念)
<評>この句も「かけら」とつながる感覚で、「木洩れ日」は極めて映像的である。私にはない感覚で、こちらは映像の勝利である。
・春寒や托鉢僧の禿び草履       (呈念)
・碧空の落ちて撒かれし犬ふぐり    (青軸)
・虫たちの瑠璃光浄土犬ふぐり     (呈念)

鉄井選
@年の数噛み節分の豆苦し       (なには橋)
<評>年の数だけ豆を食べるのは子どものころの経験そのもの。心にストンと落ちる。50回も60回も噛むと苦くなるその味は、人生の苦みであろう。ビビッときてペーソスを感じる。私もいつかそういう大人になりたい。
A水ぬるむ黒き大地のほほゆるむ    (青軸)
<評>「ぬるむ」と「ゆるむ」。読んだ瞬間、音感を感じた。「黒き大地」つまり地球のほほとはスケールが大きく、間の抜けた感じもあって新鮮。第一句、第二句とも五感の勝利といえよう。わたしもいつかこういう境地に至りたい。
・白鷺や古墳の濠の水ぬるむ      (たそがれ)
・春寒や托鉢僧の禿び草履       (呈念)   <禿び=ちび>
・碧空の落ちて撒かれし犬ふぐり    (青軸)

青軸選
@子の投げた豆拾いをり朝ぼらけ    (鉄井)
<評>節分の翌日、つまり立春の朝。子らがはしゃいだ昨晩のにぎわいがよみがえる。拾うにリアリティーがある。拾った豆は食べてしまうわけだが、それがまた美味いのだ。家族の情愛の勝利。
A節分やカーペットでは音もなく    (たそがれ)
<評>投げた豆は、畳や板敷きの廊下でこそ、ばらばらと元気な音を立てるが、カーペットでは音も小さく、少し張り合いがない。それも今の風景である。今を切り取った言語感覚、時代感覚の勝利である。
・「青」飛んだカワセミ一閃水ぬるむ   (たそがれ) <一閃=いっせん>
・キユーピーのまなこしてをり犬ふぐり (呈念)
・筑紫次郎四国三郎水ぬるむ      (呈念)


提出句一覧

呈念
 ・キユーピーのまなこしてをり犬ふぐり
 ・木洩れ日の花と化したる犬ふぐり
 ・虫たちの瑠璃光浄土犬ふぐり
 ・筑紫次郎四国三郎水ぬるむ
 ・春寒や托鉢僧の禿び草履  <禿び=ちび>
  
なには橋
 ・年の数噛み節分の豆苦し
 ・名を知つて子らよろこぶや犬ふぐり
 ・水ぬるむそこにすわりて鴨およぐ
 ・寒明や湖北の酒をなみなみと
 ・汝二十歳風のミモザとなりにけり
                  <汝=なれ>
  
たそがれ
 ・節分や畳も縁も今は消え   <縁=えん>
 ・節分や耳奥に残る「福は内」
 ・節分やカーペットでは音もなく
 ・白鷺や古墳の濠の水ぬるむ
 ・「青」飛んだカワセミ一閃水ぬるむ
                    <一閃=いっせん>
  
鉄井
 ・子の投げた豆拾いをり朝ぼらけ
 ・ぷっくりと頬膨らしてイヌフグリ
 ・この花をフグリと呼ぶ我日本人
 ・霧雨に青ざめて居りイヌフグリ
 ・水ぬるむその一滴の重きこと

  
青軸
 ・豆投げる庭には鬼のあらざりき
 ・碧空の落ちて撒かれし犬ふぐり
 ・瑠璃色のことばのかけら犬ふぐり
 ・水ぬるむ黒き大地のほほゆるむ
 ・内地には骨刺す凍てのありけむや
幌櫃
 ・「鬼は外」と言うこともなしいつも外
 ・やわらかなマメもたべたくなりけらし
サッフォー
 ・犬ふぐりさわってみたら気持ちいい

席題の部

「さより」「試験」「卒業」

呈念選
@消しごむの滓集めをり模擬試験   (鉄井)
<評>試験の時の何気ない動作をよく覚えていたし、それをよく見いだした。誤字があった点を差し引いてもあまりある作品です。
A卒業式丸めた証書でのぞく未来   (鉄井)   <未来=あす>
<評>証書を丸めて望遠鏡代わりにするのも、第一句の消しゴム同様みんな経験がある。大正天皇の故事など、連想も働くがそれを転がして「未来」を持ってきた。卒業と「未来」はややくさい発想だが、実感ではあろう。
・アルバムの十五の春なほ輝けり   (青軸)
・瀬戸の香を築地で味わうさよりかな (たそがれ)
・くろつかす地を割りて燃え死ににけり(青軸)
・南風ふいて浜にさよりを干してをり (青軸)    <南風=まじ>

たそがれ選
@水ぬるむふたりが始まる台所    (鉄井)
<評>俵万智の「サラダ記念日」を思い起こさせる情景。思い出かも知れないし、現在進行形かもしれない。「ぬるい」水が暗示する恋は初々しい恋ではなく大人の恋であろう。ふたりの生活のことを「ふたりが始まる」と言った表現も巧みで、本日一番の収穫である。
A舷の鋭き光さより跳ね       (呈念)  <舷=ふなばた>
<評>「鋭い」と「跳ね」が符合して、ムーブメントを感じる。舷は、さよりを引き出し、引き立たせるの脇役だが、この言葉を持ってきたところに技と個性を感じる。
・南風ふいて浜にさよりを干してをり (青軸)
・iに泣きπを恨みし大試験     (青軸)
・消しごむの滓集めをり模擬試験   (鉄井)

鉄井選
@文の道すっきりくっきりさよりかな (たそがれ)
<評>文は「ぶん」と読みたい。さよりは透き通った魚で、「くっきりすっきり」はいかにも感があるが、文との取り合わせ、とらえ方には非凡な感覚がある。
A地獄とてくぐれば悟る試験かな   (たそがれ)
<評>受験地獄というように試験は悪者のイメージが強く、なければいいと皆思う。一夜漬けの句はその実感であろう。しかし悩み苦しみながら試験を乗り越えることが結局自分の成長につながのであると、この句はいうのである。試験=いやなもので終わらず、その先を見据えたのがよい。
・iに泣きπを恨みし大試験     (青軸)
・くろつかす地を割りて燃え死ににけり(青軸)
・瀬戸の香を築地で味わうさよりかな (たそがれ)

青軸選
@大試験懲りても懲りても一夜漬け  (呈念)
<評>一夜漬けは実感。まさに一夜漬け人生の私には他人事とは思えない。さて、そのあと「懲りもせず」とくるのが一般的発想だが、「懲りても懲りても」と外した。ここが俳句になるかどうかの分岐点のような気がする。
A水ぬるむふたりが始まる台所    (鉄井)
<評>たそがれさんの講評につきると言っていい。「ふたりが始まる」の発見は手柄です。一夜漬けと同じく、これも俳句と俳句もどきの間にある壁かも知れない。
・応援歌やっと覚えて卒業す     (呈念)
・秒針は親の敵か試験中       (鉄井)
・春の陽に骨をさらして行けさより  (鉄井)


提出句一覧

呈念
 ・またも見る試験の夢や寝汗拭く
 ・大試験懲りても懲りても一夜漬け
 ・さよりより下あご長き汝かな
 ・応援歌やっと覚えて卒業す
 ・舷の鋭き光さより跳ね   <舷=ふなばた>
  
たそがれ
 ・瀬戸の香を築地で味わうさよりかな
 ・地獄とてくぐれば悟る試験かな
 ・「さより」ではないのよ私は「サユリ」なの
 ・ホフマンは「卒業」くぐって大成し
 ・文の道すっきりくっきりさよりかな
  
鉄井
 ・春の陽に骨をさらして行けさより
 ・消しごむの滓集めをり模擬試験
 ・試験の朝母の豚カツ胃にもたれ
 ・試験官九十分の独裁者
 ・秒針は親の敵か試験中
 ・吐く息に願をかけたり試験の月
 ・卒業式丸めた証書でのぞく未来 
                   <未来=あす>
 ・烏来て我祝福す卒業式
 ・水ぬるむふたりが始まる台所
青軸
 ・南風ふいて浜にさよりを干してをり
                 <南風=まじ>
 ・iに泣きπを恨みし大試験
 ・アルバムの十五の春なほ輝けり
 ・くろつかす地を割りて燃え死ににけり
 ・春愁には早き弥生に母逝けり


午後10時半過ぎ散会。
次回は3月27日、昼席・花見吟行の予定。兼題は一つだけ「燕」が出ています。
施主はたそがれさん。下働き・青軸です。


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