第8回ご隠居横丁句会

二〇〇五年五月十七日(火)午後6時半開会 銀座「杉林」

 五月の句会は上記日時場所で開催しました。四月は開催できず。
 兼題は「桜」「鯉幟」「鯖」(呈念出題)
 参加者は内藤呈念先生、高橋なには橋さん、荒谷黄昏さん、吉田鉄井さん、青軸の五人。米原幌櫃さんは欠席でしたが、七句投句されました。
 今回は提出句が多いため、五句乃至六句選とし、秀句二句に講評。
 「桜」の題は、先の第七回「花見句会」が開花時期に合わず花の句が得られなかったため、「季節はずれるだが敢えて」と出題されたものです。席上、月と花は俳句をする者として一つは得ておきたいものだから、と呈念先生の解説でした。

兼題の部

兼題 「桜」「鯉幟」「鯖」

呈念選=六句
@あす汝と別るる鯖火見つめをり    (なには橋)
〈評〉舞台は房総であろうか。東京へ発つ前の夜、別れを惜しむ。沖には鯖漁の漁火。文学的な物語がわき出てくる。よい句である。
A板前の包丁照らす鯖の肌       (幌櫃)
〈評〉鯖は光り物。その光を直截言うのではなく、板前の包丁に反射させて言った。巧みである。
 ・鯖糶るや水にぬれたる空の色    (なには橋)  〈糶る=せる 書記注〉
 ・ベランダをはみ出ぬほどの鯉のぼり (青軸)
 ・風吹きぬいざ旅立たんこいのぼり  (幌櫃)
 ・ひげそりの跡青々と鯖を食う    (幌櫃)

なには橋選=五句  
@鯖鮨を切り分けたれば飯こぼる    (青軸)
〈評〉鯖鮨はなかなかすっぱりとは切れず、包丁にくっついたり飯粒がばらけたりする。その感じをとらえて鋭い。鯖鮨の旨さが出ている。
A鯉幟天守閣尾で払ひをり       (呈念)
〈評〉鯉幟が尾でお城の天守閣を払ったという。堂々とした景で結構である。ゴジラを想起させる。「で」の散文調が気になるが、大きな天守を尾で払う、その発見が見事である。
 ・焼き鯖の背にくつきりと波模様   (呈念)
 ・ベランダをはみ出ぬほどの鯉のぼり (青軸)
 ・ひげそりの跡青々と鯖を食う    (幌櫃)

黄昏選=五句  
@地に降りて魂失へり鯉幟       (鉄井)
〈評〉鯉幟といえば、泳ぐか垂れ下がるかしか連想しないが、晴れ舞台である幟竿から降りた場面をとらえたところに感心した。
A緋牡丹の刺青花ぶさの忍び泣き    (幌櫃)     〈刺青=すみ〉
〈評〉刺青から七十年代の映画を思い浮かべ懐しい。また、映像を感じさせる。
 ・板前の包丁照らす鯖の肌      (幌櫃)
 ・かうもりにスパンコールの散り桜  (青軸)
 ・飛花落花吉野にフーガ奏でをり   (呈念)

鉄井選=六句
@かうもりにスパンコールの散り桜   (青軸)
〈評〉スパンコールは人工的で安っぽい。対して桜は日本人に愛されてきて高尚である。散り桜を人工的なものに譬えることで逆に刹那がよく表現された。
A板前の包丁照らす鯖の肌       (幌櫃)
〈評〉鯖は青くてらてらしたもの。それを言うのに板前の視点をもってきた。生き生きしている。やられたという感じ。「桜飯」と迷った末こちらを選んだ。
 ・みづうみや冷えたるがよき桜飯   (なには橋)
 ・緋牡丹の刺青花ぶさの忍び泣き   (幌櫃)
 ・死んだらねお骨は桜の根のわきに  (黄昏)
 ・実桜の稔らぬしべを降らしけり   (青軸)

青軸選=六句
@地に降りて魂失へり鯉幟       (鉄井)
〈評〉黄昏さんの評に尽きるが、元気に空を泳ぐ姿より、地に降りて力を失った鯉の方に視点を向けた感覚がすばらしい。
Aみづうみや冷えたるがよき桜飯    (なには橋)
〈評〉桜飯を知らないが、めでたい桜と温かいのが良いはずの飯が、「冷えたるが良い」と取り合わされて良い感じである。みづうみは何処なのだろうか。
 ・飛花落花吉野にフーガ奏でをり   (呈念)
 ・死んだらねお骨は桜の根のわきに  (黄昏)
 ・山国や四代集へる鯉のぼり     (なには橋)
 ・桜散る川面魂集めたり       (幌櫃)

提出句一覧

呈念
 ・飛花落花吉野にフーガ奏でをり
 ・鯉幟天守閣尾で払ひをり
 ・身を寄せて余生送るや鯉幟
 ・焼き鯖の背にくつきりと波模様
 ・恐竜の大き眼窩や暮の春

はには橋
 ・夕桜ひと日の日焼け汝が頬に
 ・みづうみや冷えたるがよき桜飯
 ・山国や四代集へる鯉のぼり
 ・あす汝と別るる鯖火見つめをり
 ・鯖糶るや水にぬれたる空の色
黄昏
 ・死んだらねお骨は桜の根のわきに
 ・桜散る美学に酔うて道はずれ
 ・伊豆の川両岸結ぶ鯉幟
 ・癌の奴鯖たらふくで負けねえぞ
 ・おふくろや鯖の塩焼きよう食べた
幌櫃(投句参加)
 ・桜散る川面魂集めたり
 ・さくらもてともだちだもとてもらくさ
 ・こいのぼり風の神様戯れり
 ・風吹きぬいざ旅立たんこいのぼり
 ・ひげそりの跡青々と鯖を食う
 ・板前の包丁照らす鯖の肌
 ・緋牡丹の刺青花ぶさの忍び泣き     〈刺青=すみ〉

鉄井
 ・卒業式さくら≠歌ふ若き声
 ・地に降りて魂失へり鯉幟        〈魂=たま〉
 ・鯉幟高く尻振る雄姿かな
 ・背を剥きて白き塩ふり鯖食らふ
 ・鯖鮨の前歯に残る甘さかな
 
青軸
 ・実桜の稔らぬしべを降らしけり
 ・かうもりにスパンコールの散り桜
 ・平和とは四分咲きほどの桜かな
 ・ベランダをはみ出ぬほどの鯉のぼり
 ・鯖鮨を切り分けたれば飯こぼる


席題の部

席題 「筍」「蚕豆」

呈念選
@幼子の頬に空豆あまりけり      (青軸)
〈評〉大きなそら豆を口に含んだ小さな子どもが、ほっぺたを膨らませている情景が見えてくる。
A蚕豆の端丁寧に母削る        (鉄井)
〈評〉我が子が食べやすいように、そら豆を削って出してくれたのだろう。いまここに出ているこの豆のように。作者の姿が浮かびます。
 ・蚕豆を茹でん赤穂の塩掴み     (なには橋)
 ・蚕豆のいびつな丸みなでて酔ふ   (鉄井) 〈丸み=まろみ〉
 ・筍や掘り忘れても嬉しいや     (黄昏)

なには橋選  
@幼子の頬に空豆あまりけり      (青軸)
〈評〉離乳食を終えて間もない幼子が、口に入りきらない大きな豆を美味しそうに食べている情景が目に浮かぶ。それを見ている親の幸せそうな姿も浮かんできます。
Aお茶の水アテネフランセ橡の花    (呈念) 〈橡=とち〉
〈評〉青春の俳句でしょうか。母音の音調、調べがしゃれている。俳句は韻文であり、音調が命です。
 ・蚕豆の端丁寧に母削る       (鉄井)
 ・糠木の芽添へて筍宅急便      (鉄井) 〈糠=ぬか〉
 ・地下足袋の足裏筍つんと突く    (呈念) 〈足裏=あうら〉

黄昏選  
@地下足袋の足裏筍つんと突く     (呈念)
〈評〉古風な味わいがいい。今やなくなりつつある地下足袋。その足裏。それを筍の頭が突いた。「つんと」の言葉が良く、句の命である。
A蚕豆の端丁寧に母削る        (鉄井)
〈評〉食べやすいようにそら豆の皮をすこし取る様子だろうか。そら豆は栄養がある。母は、それを食べやすくして子に与える。優しい心根がそこに見える
 ・蚕豆のいびつな丸みなでて酔ふ   (鉄井)
 ・楠若葉裸婦像林立公募展      (呈念)
 ・裏庭の胡瓜蚕豆取って来よ     (なには橋)

鉄井選
@地下足袋の足裏筍つんと突く     (呈念)
〈評〉足の裏に当たる筍の感じが実感を持って浮かぶ。直感的な句。生き生きした感覚。「つんと突く」の表現が何ともチャーミングだ。
A友送る宵の筍尽しかな        (なには橋)
〈評〉筍にはめでたい、楽しい時に食べるイメージがある。この「送る」は旅立ちか、あるいは葬送か。祝福にしろ送りの席にしろ、「尽くした感」がある。苦い思いも含めてツンとくる。ぐっと、泣ける感覚だ。
 ・蚕豆を茹でん赤穂の塩掴み     (なには橋)
 ・蚕豆の部長の席へ飛び出す     (呈念)
 ・紫陽花は光のめまひといふべけれ  (青軸)
青軸選
@母の日や花屋小走りに駆け抜けり   (鉄井)
〈評〉母の日、花屋に寄るのももどかしく自宅を目指す。母を思う気持ちが良く出ている。動きがあるのもよい。
A蚕豆のいびつな丸みなでて酔ふ    (鉄井)
〈評〉そら豆は、確かに少しゆがんでいる。そのゆがんだ丸みをがまた酒を進める肴になるというのである。酒飲みの本領発揮の感がある。
 ・友送る宵の筍尽しかな       (なには橋)
 ・楠若葉裸婦像林立公募展      (呈念)
 ・お茶の水アテネフランセ橡の花   (呈念)

提出句一覧

呈念
 ・糠木の芽添へて筍宅急便      〈糠=ぬか〉
 ・地下足袋の足裏筍つんと突く    〈足裏=あうら〉
 ・蚕豆の部長の席へ飛び出す
 ・楠若葉裸婦像林立公募展
 ・お茶の水アテネフランセ橡の花   〈橡=とち〉
はには橋
 ・友送る宵の筍尽しかな
 ・悪い方の筍送ってすんまへん
 ・筍をむさぼりつくすけものかな
 ・裏庭の胡瓜蚕豆取って来よ
 ・蚕豆を茹でん赤穂の塩掴み

黄昏
 ・筍や掘り忘れても嬉しいや
 ・筍や唐で生まれて高く売れ      〈唐=から〉
 ・むくむくと筍伸びてみなぎった
 ・筍や戦後還暦はるかなり
 ・蚕豆や腎臓とられし父哀し
鉄井
 ・筍の我を掘るなと叫びをり
 ・蚕豆の端丁寧に母削る
 ・蚕豆のいびつな丸みなでて酔ふ    〈丸み=まろみ〉
 ・実を剥きて皺のおりたる蚕豆よ
 ・母の日や花屋小走りに駆け抜けり
 青軸
 ・筍の伸びすぎたるを切りにけり
 ・幼子の頬に空豆あまりけり
 ・紫陽花は光のめまひといふべけれ
 ・どくだみの夏闇に十字切りてをり
 ・いのちつぐ託卵あはれほととぎす 

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