第九回ご隠居横丁句会
二〇〇五年六月十七日(金)午後6時半開会 銀座「杉林」

 六月の句会は上記日時、場所で開催しました。
 兼題は「蛞蝓」「競馬」「夏薊」(青軸出題)
 参加者は内藤呈念先生、荒谷黄昏さん、吉田鉄井さん、青軸の四人。
 大庭さんが投句参加されました。
 いつも通り五句選で秀句二句に講評でした。

兼題の部

呈念選
@切りすぎた髪もまた良し夏帽子   (大庭)
〈評〉すっきりした句。佐藤忠良の彫刻を髣髴させる、夏にふさわしい、すがすがしい作品です。
A駆け抜けて騎手を見上ぐる目ふたつ (鉄井)
〈評〉「目」は「めー」と延ばし読みするのだろうか。関西の人かと思う。競馬に負けて騎手を気の毒がちに見るのか、または勝ってどうだと見上げているのか、馬の様子をうまく描いている。
 ・放つ手に螢のかをり残りけり   (青軸)
 ・二の腕の思わぬ日焼け梅雨晴れ間 (大庭)
 ・DNA何よりものいう競馬かな  (黄昏)

黄昏選  
@蛞蝓のごと溶けむと思ひし日々のこと(青軸)
〈評〉先に講評した鉄井さんの見方ではなく、青春の蹉跌、悔恨、つらいこと、寂しいこと、穴があったら入りたいという感じを言ったのだと取った。共感を覚える。
Aたてがみで雨ふり払え夏競馬    (鉄井)
〈評〉俳句は静的な鑑賞が多いが、これはダイナミックな勢いがあって心動かされた。馬を主体にしていることにも新鮮な驚きを感じた。
 ・切りすぎた髪もまた良し夏帽子  (大庭)
 ・放つ手に螢のかをり残りけり   (青軸)
 ・馬糞紙は死語となりけり競べ馬  (呈念)

鉄井選
@人間も水から成れりなめくじり   (呈念)
〈評〉普通のものを見てその中に新しいものを発見するのが俳句。ナメクジを見て人間を発見した。所詮、ともに水であると。芭蕉のようである。「なめくじり」という、古い素敵な言葉を教えられたことも収穫です。
A蛞蝓のごと溶けむと思ひし日々のこと(青軸)
〈評〉良い句かどうか分からないが、このまま溶けてしまいたいというぽやんとした感じ。癒される思い。良い句かどうかは分からないが、癒してくれてありがとう、でした。
 ・二の腕の思わぬ日焼け梅雨晴れ間 (大庭)
 ・放つ手に螢のかをり残りけり   (青軸)
 ・DNA何よりものいう競馬かな  (黄昏)

青軸選
@馬糞紙は死語となりけり競べ馬   (呈念)
〈評〉競馬→馬糞→馬糞紙の連想であろうか。諧謔性、軽みを感じる。俳句とは本来このような言葉の連想の輪から始まったのではなかったろうか。
A午前九時燕の親は今朝も留守    (大庭)
〈評〉午前九時は作者が出勤するころか。子燕は五六羽もいるのだろう。その空腹を満たすため親燕は餌集めに忙しい。巣をあける不安以上に生きることに懸命なのだ。描いたのは、おそらく燕に仮託した自分である。
 ・立山や岩の裂け目の夏薊     (黄昏)
 ・二の腕の思わぬ日焼け梅雨晴れ間 (大庭)
 ・切りすぎた髪もまた良し夏帽子  (大庭)

提出句一覧

呈念
 ・きつぱりと全身さらしなめくじり
 ・人間も水から成れりなめくじり
 ・馬糞紙は死語となりけり競べ馬
 ・突然に靄はれあがり夏薊     靄=もや〉
 ・カウベルの遠く聞こえて夏薊
黄昏
 ・蛞蝓や志ん生困った長屋消え
 ・DNA何よりものいう競馬かな
 ・競馬縁外務役人ホリエモン    〈縁=えん〉
 ・湯煙やランプの宿の夏薊
 ・立山や岩の裂け目の夏薊
大庭
 ・軒先のなめくじ白し傘を干す
 ・自転車の子らダービーの馬となり
 ・二の腕の思わぬ日焼け梅雨晴れ間
 ・午前九時燕の親は今朝も留守
 ・切りすぎた髪もまた良し夏帽子
鉄井
 ・なめくじの大群窓はう露に似て
 ・たてがみで雨ふり払え夏競馬
 ・パラソルの下くちづけす夏競馬
 ・駆け抜けて騎手を見上ぐる目ふたつ
 ・紫外線拒む仕草か夏アザミ
青軸
・蛞蝓のごと溶けむと思ひし日々のこと
・草競馬分余の夢を見てをりし
・夏薊とげ立て守るものは何?
・放つ手に螢のかをり残りけり
・紫陽花の萼わかければ緑がち



席題の部

席題は、「枇杷」「梅雨」
時間が少なかったので三句提出、四句選、秀句一句講評となりました。

呈念選
@かかとから梅雨をじんわり感じをり (鉄井)
〈評〉類句のできない作品。よほどの脂性の足か、或いはかかとへ雨がしみ込んでいるのか。いずれにせよ梅雨の感じが出ている。こんな形で梅雨を詠んだ句は初めてである。
 ・五月晴蚯蚓くの字に乾きけり   (青軸)
 ・恨めしや果肉より厚き枇杷の実よ (鉄井)
 ・梅雨深しかびも浮世の友にして  (青軸)

黄昏選  
@かかとから梅雨をじんわり感じをり (鉄井)
〈評〉谷崎潤一郎の親戚か?。淡いエロスを感じさせる。かかとに感じるのが鋭い感覚ではなく、じんわりだというのが、感じがよい。
 ・五月晴蚯蚓くの字に乾きけり   (青軸)
 ・軽く毛の生へてつややか枇杷の実よ(鉄井)
 ・一滴が空気含みて重き梅雨    (鉄井)

鉄井選
@点滴のリズムもどかし梅雨に入る  (呈念)
〈評〉一日か二日の入院経験しかないが、点滴はかんに障るもの。でも案外気持ちよかったりする。ボレロを聞く感じに似ているかも知れない。
 ・枇杷の実を争ふ吾と白鼻心    (呈念)
 ・梅雨深しかびも浮世の友にして  (青軸)
 ・枇杷の肉歯でこそげ取る乙女かな (呈念)
青軸選
@かかとから梅雨をじんわり感じをり (鉄井)
〈評〉靴が破れているのか。雨中の外出でかかとから水がしみてきて、それで梅雨を実感したのだ。よく分かる。
 ・一滴が空気含みて重き梅雨    (鉄井)
 ・枇杷の肉歯でこそげ取る乙女かな (呈念)
 ・クチナシや露と添い寝の梅雨空よ (黄昏)

提出句一覧

呈念
・枇杷の実を争ふ吾と白鼻心
・枇杷の肉歯でこそげ取る乙女かな
・点滴のリズムもどかし梅雨に入る
 
黄昏
・枇杷食へば空が広がる武蔵野よ
・クチナシや露と添い寝の梅雨空よ
・梅雨空や雪降りかとやヤマボウシ
鉄井
・軽く毛の生へてつややか枇杷の実よ
・恨めしや果肉より厚き枇杷の実よ
・かかとから梅雨をじんわり感じをり
・一滴が空気含みて重き梅雨
青軸
・びわの種小さき種を慈しむ
・梅雨深しかびも浮世の友にして
・五月晴蚯蚓くの字に乾きけり


俳句インデックスへ      俳句のことへ     トップページへ