ちょっと怖い話
血の味は格別 - 06/08/02
ヨーロッパの古城の一室で、ふと目が覚めたドラキュラ伯爵。
「うぅぅ..空腹じゃ..たまらんわ〜」
彼が最後に、大好物の血を飲んだのは、いつだったのだろう?
伯爵の脳裏に、ふと記憶が蘇ってきた。
あれは..確か村はずれで野宿を決め込んでいた爺さんを見た時だった。
寝入っているかどうかを確かめるために、爺さんに顔を寄せた時、おぞましいほどの酒の臭いを嗅いでしまった。
アルコールに弱い伯爵には、爺さんの発する臭いだけで、気絶してしまったのだった。
それからというもの、なぜか伯爵の体質に変化が現れていた。
血の代わりに、深夜になると裏の畑から収穫したトマトのジュースしか飲めなくなっていたのだ。
「こんなの飲んでたら、健康すぎて困るなぁ..そうだっ!」伯爵は閃きました。
「爺さんの臭いで体質が変わったのだから、若い女だとどうなるのだろ?」
早速、裏の畑で赤く熟れたトマトを収穫し、マントに包んで夜空に飛び立ちました。
「やっぱり、若い女に近づくには手土産が必要だからな..ケケケ」
海辺の村の上空に来ると、一軒の家に小さな暖炉の火がついているのを見つけました。
音を立てないように、家の周りをまわって中の様子を確かめると...
なんと、暖炉のそばの椅子に若い女が、うたた寝をしているではありませんか。
「しめしめ..おいしいトマトを上げるから、ちょっと匂いを嗅がせてね」
伯爵は心の中でつぶやきながら、戸の隙間をすり抜けて家の中に入りました。
すでに暖炉の火が消えかかっているので、女の姿がよくわからなくなっていました。
「多分このあたりに顔があった筈だぞ..どれどれ..クンクン」
何か変な匂いがしました。
「んっ??..若い女って知らなかったけど、動物臭がするんだな。まぁいいか」
実は伯爵が嗅いだのは、若い女のひざの上で寝ている黒猫の体臭だったのですが、伯爵には薄暗くて黒猫が見えなかったようです。
若い女の匂いを嗅ぐという目的を遂げたと思った伯爵は..喜んで外に飛び出しました。
目が慣れてきたのか、不思議と家の周りが良く見えるようになっていました。
「おっ..ここは、漁師の家だな」
家の外には、来るときには興味もなかった、沢山の魚が干物になってぶら下がっていました。
伯爵は、急にお腹が減っていることに気づきました。
「おかしぃなぁ..今まで魚を見てもこんな気持ちにならなかったのに、やっぱり、体質変化が起こったぞ」
自然と、ある魚の干物へと伯爵の足が進みます。
「ここに来たからには、これを食べなきゃ〜」伯爵の血が騒いだのか、猛然とアジの干物を食べ始めました。
「ん〜..やっぱり、地(元)のアジは、格別じゃわい」