ちょっと怖い話



  焦げた死体 - 06/08/16

 

 ある日曜日、男は朝から、いそいそと買い物に出かけた。

 

長く一人暮らしをしていたその男にとって、今日は新しい生活のきっかけとなる筈だった。

 

以前から職場で目をつけていた、ぽっちゃり系の彼女。

「また振られるかも知れないけど・・」勇気を出して、声をかけた一昨日の場面が蘇る。

「あのぅ〜、次の日曜日、あいてますか?」

「あたしの予定はないけど・・何かあるんですか?」

「僕は一人暮らしが長いので、料理には自信があるんですよ。でも、その料理を評価してくれる人が居ないもので・・」

「あたしでよかったら・・ってこと?」

「そうなんだ、君はいつも職場の食堂で、調理係の人に文句を言ってるのを見ていたんだよ」

「まぁ失礼なっ!..こう見えてもあたしは、味にはうるさいのよ。でも、料理は何がお得意なの?」

 

男は少し考えて「ハウスの黒カリーかな?」

「何よっ!それ?」

「いや..レトルトだったらだよ..温め方次第で、美味しくなったりまずくなったりするからね」

「やだやだ、そんなの毎日食べてたら、色黒になっちゃいそうだわ」

「毎日、食べたいものかぁ〜..それだったら、ご飯にカツオブシと醤油をかけると飽きないよ」

「それって、ネコまんまじゃないっ!..あたしは...卵焼きが食べたいわ」

「よしよし、それじゃぁ卵焼きを作るから、食べにおいで」

「わぁ〜い」

 

男は、普段は作ったことのない嘘の料理話から、思わぬ展開に酔いしれていた。

 

男の胸中は「毎日食べたいと言うことは、僕との新婚生活を夢見てるに違いないぞ。でも、卵焼きってどうするんだっけ?」

ふと感じた不安を振り払い、男は卵を求めてスーパーへと向かった。

 

やがてお昼になると、約束どおり彼女は男のアパートにやってきた。

 

ピンポーン♪軽快なチャイムの音。

 

丁度、男はインターネットで「卵焼きの作り方」を検索し、読み終えたばかりだった。

 

「いらっしゃい。卵を抱いて待ってたよ」

「あら..ペンギンじゃあるまいし..でも、ジョークもなかなかのものね」

「でへへ..そんなことより、お腹が減っただろ..これからとびっきりの卵焼きを作るから待ってて」

彼女を居間のちゃぶ台の前に座らせると、男は卵焼きにとりかかった。

 

彼女といえば、男の部屋が珍しいのか、目をキョロキョロさせている。

 

「たしか料理は、大人数分を一度に作ったほうが美味いと書いてあったな」

男は、今朝スーパーで買い込んで来た卵1パック分を全てボウルに割り入れた。

 

「調味料も、同じだけ増やせばいいはずだな。塩は・・一人前なら一掴みだったから、五掴みくらい入れておくか」

『一つまみ』を間違えて覚えしまっていたようで、買ったばかりの食塩の袋は、約半分の量しか残らなかった。

 

「胡椒は少々か..んっ?..しょうしょう??..きっとこの意味は、小瓶が2本だな」

勢い良くぶちまけた胡椒の小瓶から、男の鼻にハクション大魔王が集団で召還された。

「ハッハッハッ、ハァ〜...ハッハッハックショ〜ン!」

 

「最後は、隠し味に醤油を少々..これも醤油の小瓶を2本入れて..と」

 

「何か得体の知れない色になってきたけど、まぁっ、いいかぁ〜。グルグル混ぜてあとは焼くだけから」

 

コンロの上で、すでにフライパンは真っ赤に焼けている。

「それっ!..これが男の料理だ〜」掛け声もろとも、得体の知れないものがフライパンにぶちまけられると、部屋の中は茶色い煙で覆い尽くされた。

 

「きゃぁ〜何々..急に視界が悪くなったわ」何も知らない彼女が悲鳴をあげて、部屋から逃げ出そうとした。

「怖がらなくても大丈夫だよ。いつもやってるから。...ほら、もうできたよ」

男は、彼女の目の前にフライパンを差し出そうとしたが、フライパンが熱すぎて中身の黒い塊が床に落ちてしまった。

 

徐々に、部屋に立ち込めていた煙が薄らいできて、彼女は床に散らばったものを見て驚いて叫んだ。

 

「この真っ黒なのが、ほんとに卵焼きなの?」

 

男「あちゃ〜〜、ちょっと焦げた!失態みせちゃった」

 

男が振られたのは、言うまでのことはなかった。..



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