ちょっと怖い話
メイド・カフェ!? - 07/08/28
大阪の日本橋は東京の秋葉原に次ぐ、関西随一の電気屋街である。
男は若い頃、この電機屋街を歩くのがとても好きだった。
あらゆる電化製品の新しい物が、店頭に並んでいる様は、買う気が無くても男の興味を掻き立てるのに十分過ぎるのだ。
そう、男は俗に言う「新しもの好き」だったのだ。
そんな若い頃に通った電機屋街を再び訪れるのは、何十年振りかのことだった。
きっかけは、男の妻の一言だった。
「ねぇ最近キッチンタイマーがおかしいの」
「おかしいって?どんな風におかしいんだ」
「だって、チキンラーメン食べようとお湯を入れて計ってたら翌日になっちゃったの」
「それって、タイマーじゃなくて、お前がおかしいんじゃないの?普通気づくでしょ?」
「あなたはタイマーを信じて、わたしが信じられないのね。実家に帰らせていただきます」
「そんな..わかったよ。新しいキッチンタイマーを買いに行ってくるよ」
男はタイマーを買うことを口実に、懐かしい日本橋へ行くことにしたのだった。
地下鉄を降り階段を上ると電機屋街の表通りだ。
そこは見慣れたゴチャゴチャとした電機屋街..の筈だったが..
「なんてこったい」男は思わず呟いた。
ゴチャゴチャした商店は一掃され、巨大な電機店のビルからはカラフルな「大売出し」の幕が、そこかしこに垂れている。
若い頃見た風景とは、まるで別世界になっているではないか。
しかし、幸いにも道路はそのままのようだ。
男は、裏通りを歩いてみることにした。
一番大きなビルの横を通り抜けると、男に時間が戻ってきた。
盗品もどきの激安中古品を扱う店は、昔の姿のままそこにあった。
「ここのオヤジは胡散臭かったけど、まだ居るのかな?」
独り言を呟きながら、何気なく店の中を覗きこむと..
「おかえりなさいっ!ご主人様」と、若い女の子の声が聞こえてきた。
男は周りを眺めてみたが..どうやら自分に向けられた言葉だと気づいた。
「若い女の子の声だったけど..姿が見えないぞ?」
男の好奇心に灯がともった。狭い店の中へと足を進めた。
左右の棚にはホコリの被ったTVや、ビデオデッキ、レコードプレーヤーやアンプがところ狭しと並べられている。
やっとの思いで店の奥に辿り着くと..
「おかえりなさいっ!ご主人様」と、あの声で電気ポット型のロボットが喋りかけてきた。
電気ポット型のロボットは、メイドのつもりなのか、頭に巻いてる三角巾がやけに大きい。
「あぁ〜ただいまぁ。喉が渇いたから何か飲ませておくれ」男は適当に話し掛けた。
「では、お手元の紙コップを置いて、私の頭を3回撫でていただけますか?」
「ほいほい、これでいいのか?..ナデナデ」
すると、この暑いのにも関わらず、ホットコーヒーが電気ポットからジャーと流れ落ちてきた。
「アチチチ..やけどしちゃったじゃないか〜」
「お許し下さいご主人様..あたしって何をやってもミスしちゃうんですぅ..うぅぅ」泣き出してしまった。
「よしよし、別に泣かなくってもいいよ。でも、驚いたなぁ。今はこんなロボットが居るなんて」
「ご主人様は、このお店をご存知だったのですか?」
「あぁ知っているとも。若い頃中古の白黒TVを騙されて買ったんだから..今でも忘れられないよ」
「そっかぁ〜..今は昔のディスプレイそのままで、メイド・カフェをやってるのよ」
「ここは、今流行りのメイドカフェだったのか?..まだ、あのオヤジがやってるの?」
「いいえ..オヤジさんは..あたしを作って..とっくにあの世にいっちゃったわ」
「なんてこったいっ!..だったらここは『冥土・カフェ』じゃないか〜」
懐かしさとバカバカしさに呆れて、男は店を飛び出した。
「いってらっしゃい。ご主人様〜♪」
店を去る男の背中に、冥土からの声が追いかけてきた。