
いつからであろうか?象使いに憧れたのは。ただの空想としか考えていなかったことが、今その一歩を踏み出そうとし
ている。とは言っても所詮憧れの範ちゅうである。一生を託そうとは今のところ本気では考えていない。
しかしこの先どうなるのかは自分でも分からない。
象の病院には行くつもりであった。そして実際に行ってもみた。
しかし、象使いの訓練を受けることなど夢にも思っていなかった。ところが何処でどう間違ったか、ある日、隙間だらけの板の間から起き上がると、その日から象使いの訓練が待っていた。これは絶好の機会と飛び込んではいったものの…。
筋肉痛に悩まされ、ゾウさんを本気で殴れなかった凸凹夫婦の奮闘ぶりをどうぞお笑い下さい!
病院も5分もあればすべてが見て回れる広さである。
もう3日もいるとちょっと何処かへ出掛けても見たくなる。
病院から徒歩10分に象の訓練センターがある。
ちょうど良い案配に、プリーチャーが“ちょっと遊びに行っておいで”
と言ってくれた。病院内の坂道を登り切ると急に視界が広がる。
向こうに訓練所が見える。
急坂を一気に駆け下りると象が水浴びをする大きな池に出くわす。辺に大きな糞が転がっている。そこを迂回し観光客が象に乗るための台座の横を通り過ぎるとセンターの中央に出る。中央に管理棟のような建物があり、ポパイに出てくる悪漢ブルート似の気の良いムンキンさんが我々を出迎えてくれる。彼は病院で働くトンコムのお兄さんということだ。ムンキンがあそこへ行けといって指差す。何も知らず指差す小山の方へと歩み出す。しばらく坂を上っていくと見ず知らずの兄ちゃんが“トンスクの家へ行け”と言う。何が何だか分からないままに指差した方へ向きを変える。
辺りは象使いの家々でごった返している。その迷路へとはまり込んだ我々はオロオロしていると、一軒の小屋の戸に吊り下げられたかわいらしい表札が目に入った。何とそこには日本語で「トンスクとプンプァンのお家」と書かれていた。なんで〜、とは思いながらも近寄っていくと、向こうからおじさんが来て“トンスクは食事だから此処で待っていなさい”と言われた。何故皆が我々のことを知っているのか、何故トンスクさんと会うのか、また何故日本語の表札が飾ってあるのか等々不思議なことばかりである(日本の湘南動物プロダクションからヨウコさんという方が象使い(この方は本当の意味での)の訓練を受けるためにしばらく逗留していたことをあとで知った。このホームページを見るようなことがもしあればご連絡下さい!)
とにかく何だかんだで、トンスクさんに会い、いきなりあなた方の象を連れ戻しに今から森に行こう!ということで森の奧へと入り込んでいったのである。ゾウさんは一日に2〜300kgの食事を取るので、訓練が終わると食料の豊富な森へと戻してあげるのだ。そして訓練の時間になると象使いがお迎えに行くという仕組みである。ゾウさんも午前3時間、午後1時間程度の訓練のみであとはゆっくりと森で休息をしているというわけだ。
あとは語るも涙の特訓物語です。明日こそはズル休みをしよう!と二人で誓ったこともあったのに、何故か次の日には全身筋肉痛の体を引きずりながらも出掛けていった私達です。どうしてかって?可愛いんですもの!

女房が担当した雌ゾウのプンプァンと先生のトンスクである。
ゾウの一生は人間と同じで、寿命は7〜80歳程度である。
また、妊娠期間は22ヶ月、赤ちゃんゾウは母親の側にくっついて離れないが、3歳程度で親離れをさせる。プンプァンは13歳で、女の子らしき顔立ちをしている。トンスクはしきりに“かわいい!かわいい!”と(注:女房のことではない)誉めていたが、私達も同感である。
ゾウさん立ちの顔立ちは皆異なっているが、このプンプァンは確かに優しい目をしている。また鳴き声が可愛いのである。雄ゾウがジュラッシック・パークに出てくる恐竜のような声で鳴くのに対し、彼女は“キュッ、キュッ、キュッ”と鳴くのだ。本当に可愛らしいゾウさんである。
迎えに行くと向こうから“キュッ、キュッ、キュッ”と我々を呼んでくれる。
ゾウさんに乗るにはちょっとしたコツがある(後述)のだが、背中というか頭に乗って歩くだけでも難儀である。平地を歩くだけならいざ知らず、急な坂道や川の中を歩いたり、おしいしそうな葉っぱがあればそちらを向くし、
その都度重心を失い落ちそうになる。
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象使いの朝は早い。朝6時にもなると皆起きだし支度に掛かる。
象使いは皆、手には棒(名前は忘れたが長さ30cm程度のトンカチのようなもの、先端が尖っていてゾウを叱るときなどは、この先で頭を殴ったりもする)、頭には麦藁帽子を被っている。
まずは先程話したように森へゾウさんを迎えに行く。その後近くの池で水浴びをさせる。ゾウさんは大の水浴び好きで、近所にいる隠居じじいの風呂好きの比ではない。一度入ったら放っておけば位置時間でも2時間でも遊んでいる。そんなゾウさんを池から出すだけでも素人の我々には無理な話である。互いの信頼関係で動くので、今一つ信頼されていない我々の言うことを聞いてくれないときもある。
忘れられない思い出となっている出来事があった。それはやはり森からパンコットという雌ゾウ(このゾウさんが不幸にも私のパートナーに選ばれたのだが)を連れて帰るときのことであった。何時も歩き慣れている道の横で小さな山火事があった。しかし、人と仕事をするゾウさんは火を怖がってはいけないのである。もちろん火の中を歩くようなことはしないのだが、この火は彼女を怯えさせた。そして象使いの制止を振り切り自ら横道を歩いて先へと進み始めたのであった。この後の彼女は象使いからあのトンカチで思いっ切り頭を幾度となくぶたれることとなったのだ。その音が近くの山々に木霊しては私の耳に届いてくる。何十回殴ったであろうか…。頭に出来た傷からは血が滲み出ていた。
しかし、そうしなければならないのだ。象使いは意味もなく、また愛情もなく殴ったりはしない。しかし、その力加減が私には分からない。あの棒で叩くような時があると、いつでも“もっと強く!!”と怒鳴られた。大人が力一杯殴ったところで思ったほどダメージはないのであろうが。
血を流して歩いているパンコットの姿を見て、向こうからプンプァーンが近づいてきた。そして肌を寄せ会うと、自らの鼻で彼女の血を拭ってあげている。パンコットはプンプァーンの尻尾を鼻で摘み二人でセンターの方へと歩いていったのだ。
ゾウさんの話をするとつい長くなってしまうので、この辺でやめましょう。
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象使いはゾウとのコミュニケーションを特別の言葉で取っています。ここではその言葉を象語と呼びます。
我々は以下に示すような基本的な象語しか習いませんでしたが、実際にはまだたくさんあるようで、
ゾウさんと象使いは信じられないような連携プレーを見せてくれるのです!
| 前足を上げなさい | ハップ・スーン | 前足を下ろしなさい | ハップ・ローン |
| 頭を下げなさい | タック・ローン | 前足を折って | マッブ・ローン |
| 座りなさい | ナン・ローン | 起き上がりなさい | ルックン |
| 前に進みなさい | パイ | 止まれ | ハァウ |
| 後ろに下がりなさい | ソック | 右に曲がりなさい | ベル・クワァ |
| 左に曲がりなさい | ベル・サイ | 拾いなさい | ケップ・ボン |