1.評価チームが結成される
2003年10月、ヒマラヤ保全協会の評価チームが結成される。本年度は、当協会の3ヶ年計画の最終年度にあたっており、過去3ヶ年におこなわれた各事業について、評価チームは半年間をかけて評価をおこなっていくことになる。チームメンバーは、田野倉(代表)・田中・鈴木・安本・長田・鳥澤の6人である。
評価事業を始めるにあたって、わたしたちはまず、ヒマラヤ保全協会の定款に記載されている協会の「目的」を確認する。
(1)ヒマラヤ地域において、自然と文化が一体となった「風土」の独自性に基づいた、地域の人々を主体とした開発を支援する。
(2)前項の精神に共感する人々が、主体的に参画することで、学び合い成長できる場を作り出し、豊かで公正な地球市民社会のあり方を探究し提案する。
この「目的」は事業評価の根本的な指標となるものである。そして今回の評価は評価それ自体がゴールではなく、あくまでも当協会の将来計画立案のためにおこなうのであり、そのためのたたき台となるような内容をめざしていくことにする。
過去3ヶ年におこなわれた事業は海外事業と国内事業とに大きくわけられ、海外事業は、森林保全・文化保全・保健衛生・収入向上・学校教育支援・能力開発の各事業にわけられる。わたしたちは会合をかさね、これらの事業についての実績確認をしながら、評価の具体的な観点や方法を話し合い、その結果を「探検ネット」とよばれる図解にまとめていく。
また、評価結果を記入するシートなどもつくっていく。個々の事業に対する評価の具体的な観点としては、妥当性・有効性・効率性・インパクト・自立発展性・住民参加をとりあげることにする。
報告書や会報などに記載されていない不明な点については、ヒマラヤ保全協会ネパール事務所にといあわせて確認していく。それでもわからない点については、現地に実際に行ってしらべ、検証していくことにする。
2.検証の旅
図1 ネパール全図
図2 調査地域位置図
ナンギ村
写真1 ナンギ村に到着
2003年2月28日、ヒマラヤ保全協会理事の栗田さんとわたしはネパール西部のナンギ村に到着する。
まず、ネパール・ヒマラヤ保全協会会長のマハビール=プンさんと苗畑管理人のモッティ=バハドゥール=プルザさんらにお会いし話をきく。
「ナンギ村では、マツ・ハンノキ・ミツマタ・ハーブなどを栽培しています。森林再生のための植林よりも、今は、ミツマタの栽培に力を入れています。ミツマタの皮は紙の原料として日本の製紙会社に販売することができます」
そのご植林地を見にいくと、植林は着実にすすんでおり木々がおいしげっている。木は薪や材木に、葉は家畜の飼料のために計画的につかわれる。再生された森林は地滑りや土壌流出を防止する効果もある。
3月1日、今日は、学校の生徒たちから話をきくことにする。ヒマラヤ保全協会では、奨学金の支給や課外活動の支援などもおこなっている。課外活動としては、クイズ・アート・エッセイの各コンテストをおこなった。
「将来は何になりたいですか?」
「大学に進学して、学校の先生になりたいです」(キラン=プルザ君)
「大学に進学して、村のソーシャルワーカーになりたいです」(チャンドラ=クマリ=プルザさん、カリマイ=プンさん)
「ヒマラヤ保全協会の支援でおこなった課外活動はどうでしたか?」
「とてもたのしかったです。ほかの学校の生徒と知り合え、友達がふえました。自分の村について紹介でき、一方でほかの村について知ることもできました。クイズコンテストは知識がふえるので勉強にも役立ち一番いいです。また是非やりたいです」
写真2 ナンギ村の学校(1年生から12年生までのクラスがある)
写真3 ナンギ村の生徒たち
村人たちとのミーティングのあと、ヒマラヤ保全協会が養成した保健婦のリラ=デビ=プンさんに話をきく。
「ここのヘルスクリニックは2~3年前に開設し今年から本格化しました。月に15日間、1日に4時間開館しています。村の衛生状態はとてもよくなりました。薬や機器は今では十分にあります。しかし、大きな病気やケガの人はベニやポカラまでいかなければなりません」
写真4 ナンギ村
アウロ村
3月3日、わたしたちはアウロ村に到着する。苗畑管理人のチャンドラ=バハドゥール=プンさんから話をきく。
「森林再生はとても大きな成果があがりました。今は野菜栽培に力をいれて、ジャガイモ・カリフラワー・緑黄色野菜などを栽培しています。大部分は村の中で食べますが、ジャガイモの一部は外に販売もしています。将来は、果樹栽培にも力を入れていきたいです。ヒマラヤ保全協会が支援してくれた野菜栽培トレーニングは大変役立ちました」
写真5 アウロ村(中央やや下に集落がある)
ティコット村
3月6日、ティコット村に到着する。ここでは、文化保全委員会の委員長をつとめているクマール=ガルブザさんにお会いすることができる。
「ヒマラヤ保全協会の協力によって制作されたビデオ・カセット・CDなどは、伝統文化をのこし、若い人たちに継承してもらうためにとても役立っています。ビデオを見るときは村にあるケーブルテレビをつかっています」
キバン村
3月7日、わたしたちはキバン村に到着する。ダム=バハドゥール=プンさんの案内で植林地を見にいく。
「25~30年ぐらい前はこのあたりははげ山でしたが、今ではこのようなすばらしい森ができました」
写真6 キバン村(人物は、苗畑管理人のプンさん)
そのあとで、村の長老のサン=バハドゥール=ガルブザ=プンさんから話をきく。
「わたしが子供のころは、村のそばにまだ森があって、薪のためにせっせと木を切っていました。そして長い年月のうちに森林はどんどん後退していき、あたりははげ山になってしまいました。ヒマラヤ保全協会のプロジェクトで、今日ようやく森がもどってきました。すばらしいことです。最近では、シカやヒョウを森の中でみつけることもあります。去年は、10匹のヤギがヒョウに食べられてしまいました。そういえば、わたしがわかかったころ1人の日本人がやってきてこのあたりの地図をつくっていました。わたしはそのお手伝いをしたことがありますよ」
ネパール事務所に報告
その後、わたしたちはパウダル村をへて、3月12日、ポカラのヒマラヤ保全協会ネパール事務所に無事もどる。事務局長のナルバハドゥール=プンさんらに調査結果を報告するとともに、ネパール人スタッフの皆さんに「衆目評価」を実施してもらった。「衆目評価」とはKJ法を活用した評価方法で、ヒマラヤ保全協会がおこなった6つの事業のランクづけをおこなうものである。彼らの評価は、森林保全事業のポイントが一番高く、ついで学校教育支援、その次は文化保全・保健衛生・収入向上の順になっている。
事務局長のナルバハドゥールさんは語る。
「住民たちは、学校の校舎や机・いす、つり橋、水道、寺の補修など物理的な支援を要望したり、あるいは目前の問題のみに注目してしまう傾向があります。そこでわたしたちは、長期的な観点にたって、マネージメント・収入向上・ゴミ問題・健康問題など、村の真の発展のために役立つことをおこなうよう心がけています。それにしても今のネパールは、貧富の差とか治安の悪化などの問題をかかえています。どうしてこのようなことになったのか、よく研究していかなければなりません」
3.植林の成果があがる
さて今回の評価の結果、海外事業の中ではやはり森林保全がもっとも大きな成果があがっているといってよいであろう。植林の計画は妥当であり、住民参加により植林がおこなわれ、みごとな森林が再生されてきた。森林保全や自然環境保全はとても時間のかかる仕事であるが、ヒマラヤ保全協会としてはもっとも実績のある事業であり、今後とも重視していかなければならない。
また、村々の衛生状態は、保健婦の努力や水道やトイレの完備などにより大変よくなった。文化保全の仕事は地味ではあるが、地域の伝統をまもり後世につたえるという意味で大きな役割をはたしている。
今後は、評価結果をふまえて新たな計画をたてるとともに、地域のさらなる自立を促進するために、最終的なフォローアップをしながら成果のあがった地域からは撤収していくことが必要だろう。