米良 亮祐の部屋
| 研究領域 | ||
| 主 題 | ||
| 論文構成 | ||
| 序 論 | ||
| 本 論 1 | ||
| 本 論 2 | ||
| 結 論 |
はじめに
よく、「人間は一生の3分の1を寝て過ごす」といった事を耳にする。なにげなく聞き流してしまいがちだが、よく考えると大変なことである。日本人の男性の平均寿命は大体78歳くらいなので、この場合一生の間の約26年間を寝て過ごすことになる。
第一章 睡眠のしくみ
1 脳波の発見
「眠り」というと、長い間「うとうと」か「熟睡」くらいの区別しかされていなかった。しかし、ドイツの精神科医ハンス・ベルガーが、人間の頭から「脳波」を初めて取り出すことに成功してから、一夜の眠りに複雑な構造があることが分かってきた。
そして、「脳波」を連続して記録する「脳波計」は、睡眠の研究には欠かせない装置となった。ベッドに寝かせた被験者の頭に電極を何枚か張っておくだけで、自動的に紙の帯にペンが波形を描き、脳波を記録していく装置である。こうして発見された脳波は、主に次の6種類に分けられる。【図1】
(図1)
●「ベータ波」 目覚めているとき
●「アルファ波」心が落ち着いているとき
●「シータ波」 うとうとしているとき
=(この状態を、睡眠段階1とする)
●「シグマ波・K複合波」浅い睡眠のとき
=(睡眠段階2)
●「デルタ波」深い睡眠のとき
「アルファ波」が混ざっている状態
=(睡眠段階3)
「アルファ波」がほとんど消えた状態
=(睡眠段階4)
2 <レム睡眠>の発見
その後、世界で初めて睡眠専門の研究所を設立したのは、アメリカ、シカゴ大学のクライトマンだった。そして、彼のもとで博士号の取得を目指して研究をしていたアセリンスキーが、とんでもない大発見をした。そして、1953年に科学雑誌『サイエンス』に発表した、クライトマンとの共著論文によって、世界の睡眠研究が急展開することになった。
アセリンスキーの大発見とは<レム睡眠>である。<レム睡眠>の「レム」とは、急速な目の動き(Rapid Eye Movement=REM)の略語である。一夜の眠りは朝まで7〜8時間続くが、これが約90分おきに10〜20分ほど挿入され、そのとき夢を見るのだ。
3 一晩の眠り
人は普通、眠りにつくと、最初の<レム睡眠>までの約90分間、<ノンレム睡眠>という睡眠が続く。【図2】
(図2)
布団に寝て目を閉じると心身がリラックスし、一般的な人なら数分後には「うとうと」の、睡眠段階1に入る。そして、不眠症で悩んでいる人でなければ、ここから数分〜数十分ごとに、睡眠段階2から3をへて、睡眠段階4の深い眠りとなる。この深い眠りは30〜40分ほど続く。やがて、睡眠段階が4から3に移行すると、少し体を動かしたり、寝返りを打つ。そして、睡眠段階2になって数分すると、再び体が動くが、これが収まると、<ノンレム睡眠>とはまったく異質な<レム睡眠>に入ってゆく。
第二章 眠くなる原因は?
1
「日の出とともに目を覚まし、日の入りとともに一日の活動を終える」
かつては人間もこのように生活していたのである。そして、そのころのなごりが、日周期リズムとして現在まで続いているのである。
日周期リズムとしては、まず<体温リズム>がある。この場合の体温とは、脳の中心部や肝臓などの外気温の影響を受けない深部体温のことを指し、正確に測るのならば肛門から7〜10p内側の「直腸温」を測定しなくてはならない。また、わきの下で代用する場合は、上腕でしっかりと10分ほど体温計を包み込むようにし、深部の熱が伝わってくるのを待たないといけないが、それでも「深部体温」より1℃ほど低くなってしまう。
こうして一日の体温変化を記録を記録すると、大多数の人は午前3〜6時に最低に、午後3〜6時に最高になる【図3】。また、その変化の幅は小さい人で0.7度、大きい人で1.2度ほどである。この<体温リズム>は昼間の気温差や活動・休息とはほとんど無関係で、たとえ数日間寝なかったとしても、<体内時計>を基準に動いているため、普段からのリズムはほとんど狂わない。また、体温リズムは眠気のリズムと平行していて、体温が下がり始めると、急に眠気が強まってくる。
(図3)
2
そして、体内リズムのもっとも中心的存在ともいえるのが、<自律神経>とよばれるものである。<自律神経>とはまったく正反対な働きをする、交感神経系と副交感神経系から成り立っていて、それぞれがべつべつに脳幹や脊髄にある中枢から、心臓、血管、胃腸などの各臓器につながっている。
少し激しい運動をしているときは、心臓の拍動が速まって血流量が増え、血圧が上がり、呼吸数も増え、体温も少し上昇する。これは、交感神経系が優位に立ち、副交感神経系が抑制されるからである。これに対して、熟睡しているときに心臓や肺の動きが鎮まるのは、
副交感神経系が優位に立ち、交感神経系が抑制されるからである。【図4】
この<自律神経>は、夕方ごろになると副交感神経系がだんだん強まってきて、心臓の動きが制限され、血管が拡張して血圧が下がり、精神的興奮が鎮まる。また同時に、胃腸の働きやホルモン分泌が盛んになるので、昼間消耗した体の回復に都合が良い。じつは睡眠中も食物の消化が進み、得られた栄養分は血液に乗って体の隅々まで運ばれて、昼間の活動でいたんだ組織の修復に使われているのである。
そして、夜が明けてくるにつれて今度は交感神経系が強くなってくる。そうすると、心臓の働きが盛んになり、血圧や体温も上がり始め、精神的興奮が誘発されて体の活動能力が高まり、心身ともに活動しやすい状況となるのである。
(図4)
2 体内時計
<体温リズム>や<睡眠リズム>というのは、時刻を知る手がかりが無くても、だいたい毎日同じ様なリズムが続くことがわかっている。
1962年、ドイツの生理学者アショッフは、被験者を募り温度・湿度が一定で外界からはまったく音も光も入ってこない地下室で、「隔離実験」を行った。そして、その実験によって、時刻を知る手がかりが何もないと、たいていの人は、ほかの動物と同じく確固とした<体温リズム>と<睡眠リズム>を持っていることが明らかになった。しかしそれはきっかり24時間ではなく、大多数の人は日ごとに入眠時間が少しずつ遅れていき、平均すると約25時間周期であった【図5】。
(図5)
これを、研究者たちは「概日リズム」などと呼んでいるが、簡単にいえば「25時間リズム」なのである。つまり、自然環境や社会環境から隔離されて時刻の手がかりがなくなると、実際は25日たっているのに大半の人は24日しかたっていないと錯覚する。
では、この25時間リズムで動いている<体内時計>は、どのように24時間周期に修正しているのだろうか。
哺乳類や人間の<体内時計>は脳幹の視床下部の前方先端に位置する<視神経交差上核>に存在するとされている【図6】。
(図6)
左右の目の網膜から出た視神経が交わる<視神経交差>のすぐ上に接しているのでこんな呼び名がついたのである。<視神経交差上核>はごまのように小粒だが、中には神経細胞がぎっしりつまっている。この「体内時計」は25時間周期で動いているとさっき述べたが、これは外からの強い光の刺激、特に太陽光にあたるとひとたまりも無く同調してしまう。
3 睡眠物質
だれでも夜がふけると眠くなるものだが、これは視床下部の睡眠中枢が<体内時計>から「もうそろそろ寝る時間だ」という指令を受け、覚醒中枢である中脳網様態の活動がおさえられ、その周辺に散在している睡眠担当細胞が各種の睡眠物質を巻き始めるからだ。
日本では例をあげると東京医科歯科大学の研究グループの活躍がめざましく、1983年には断眠させたネズミの脳幹から「ウリジン」という睡眠物質をとりだし、1990年には「グルタチオン」が発見された。
また、大阪バイオサイエンス研究所のグループによって、「プロスタグランジンD?」
が脳の膜に作用すると「アデノシン」などが神経細胞に働きかけて眠りを起こすことが分かった。「プロスタグランジンD?」は、少量だと<基礎睡眠>だけを、多量になると<レム睡眠>も誘発することも分かっている。
今ではアメリカやヨーロッパでも睡眠研究が進み、すでに数十種類の睡眠物質が発見されている。どの睡眠物質も単独で働くのではなく、お互いに作用しながら睡眠をコントロールしているらしい。
第三章
1 短眠者と長眠者
成人の一晩の睡眠時間は、平均して約7時間である。そしてそこから1時間の偏差を境にして9時間以上眠る人を<長眠者>、6時間以下の人を<短眠者>と呼び、それぞれ数パーセントいるとされている。
なみはずれた<短眠者>として有名なのがフランス皇帝ナポレオン一世と、白熱電球などの発明者、トーマス・エジソンである。
ナポレオンは遠征中ほとんど眠らずにすごしたことから「睡眠三時間説」が生まれた。また、「男は6時間、女は7時間眠れば十分で、それ以上眠るものは賢くない」と言ったともいわれている。
エジソンは「研究所の階段で昼寝をしたから、夜は大して眠らずにすんだ」といったことから短眠者エジソンの伝説ができたようだ。
確かに、何かに熱中すると睡眠を2時間ほどに切り詰めて実験に打ち込んだ夜もあった。
彼は「8時間眠る人も、ぐっすり眠っている時間はわずかで、すっきり目覚めるとは限らない」「眠ってばかりいるのは知恵の足りない証拠だ」と言ったともいわれている。
一方、長眠者の代表は、アインシュタインである。毎晩10時間以上も寝て、相対性理論もベッドの中で思いついたという。
アメリカの精神分析医ハルトマンは、「短眠者に野心家、精力家、成功者が多いのに対して、長眠者は活発さに欠け、引っ込み思案になりがちだ」と主張したが、たしかに生まれつきの短眠者と長眠者とは生活習慣やライフスタイルに違いが現われるのは当然だ。一日に5時間しか眠らない人は10時間眠る人より5時間も自由に使える時間があるので、そのぶんいろいろ、やりたいことを見つけて、挑戦できるだろう。
ところで、短眠者と長眠者は睡眠の長さだけでなく、質もかなり異なる。短眠者では睡眠段階4の深い睡眠が長く、睡眠段階2の浅い睡眠は短い。これに対して、長眠者は睡眠段階2とレム睡眠にとられる時間が長い。
つまり、短眠者は長眠者にくらべて、かなり効率が良い寝かたをしているのである。
2 眠らぬ人たち
世の中にはごくまれに、一日数時間しか
らないか、もしくは、一日1時間程度眠るだけで十分という人もいる。イギリスの睡眠研究者メディスが行った無眠者の調査報告には、35歳の男性の健康的な男性の例が挙げられている。
月曜日 眠らず。睡眠なしは今日で4日目。
火曜日 午前4時20分から62分眠る。ぐっすり眠った後、書き物をした
水曜日 午前3時から20分眠る
木曜日 午前0時から2時間45分眠る。直前にサウナ。通信機を組み立てる。
金曜日 眠らず。一晩中、山岳地方をドライブ。
土曜日 午前1時から55分眠る。夕方パブで過ごして、キャンプ
日曜日 午前2時10分から65分眠る。昼間は登山。書類を整理した。
月曜日 眠らず。愉快な週末を過ごしておかげで、非常に元気
火曜日 3時20分から40分眠る。イヌを連れて散歩した。
水曜日 午前1時45分から75分眠る。疲れていたが、元気回復。
木曜日 眠らず。心理学の本を読んだ。
金曜日 眠らず。週末を船に乗って過ごす。
土曜日 2時間ほど眠る。船室には時計が無かった。
日曜日 午前1時50分から45分間眠る。
模型ボートを製作した。
まさに、驚くべき睡眠日誌である。調査し
た十四夜の内、五夜は一睡もせず、一日の睡
眠時間の平均は50分足らずである。この男性は昼間は地方公務員として働き、夕方5時から5時間ほどアウトドア施設で青少年クラブの指導にあたっている。一女の父。家族が寝てしまってから、読書、創作、詩作、模型組み立て、ギターなどの趣味に打ち込むのだという。
このほか、一日50分ほどしか眠らずに70歳まで働いたロンドンの看護婦の話もある。
また、15歳以降は15分以上眠ったことが無いというロンドンの孤児院院長もいて、各国の睡眠研究者の間では有名人だそうだ。しかし彼は「一度私たちの睡眠実験室に来て、睡眠記録を取らせてくれませんか?」と頼んでも「私はモルモットではありません。信じてもらえなくても結構ですが、私はほとんど眠らずにすごせるのです」いつも断ったため、残念ながら彼の記録は無い。
疲れていなければ、寝なくても良いのである。しかし、無眠者もまったく寝ないのではなく、わずかな睡眠で十分なのだ。普通睡眠中にしかできない脳の機能の修復を覚酔中にやってしまうに違いない。例えば、まったく眠らないように見える動物でも、脳波を調べてみると、左右の大脳半球を代わる代わる眠らせている。この<半球睡眠>は、鳥や魚が空中や水中で行動を続けるために開発された特殊な睡眠である。また、いつ肉食獣に襲われるか分からない草食獣は、睡眠をまとめて長く取れないので半ば覚酔状態、半ば睡眠という「うとうと睡眠」を身につけている。立ったまま眠る馬を見れば分かるように、全身の筋肉の緊張を保ったままでも睡眠が取れるのである。
3
では、人はどのくらい眠らないでいられるのだろうか。観察、監視が続けられる実験室で断眠実験をしてみると、初日はたいしたことは無いのだが、二日目から眠気が強まり、三日目になるとたったままでも眠ってしまう。そして四日目にもなると、幻覚が現われることもあり、脳が壊れてしまわないか怖くなることもあるという。しかし、体自体はたいした変化も無く、食欲も普通だし、心臓や胃腸の状態、体温にも異常は無い。
200時間眠らなかった人は、専門家に確認されただけでも10人ほどいるが、みな、たいていは怒りっぽくなり、イライラがつのり、集中力が無くなり、最後は幻覚や妄想に取りつかれるようになっていたという。体のほうはじっとしていれば大丈夫だが、睡眠の最大の目的は脳を休めることにある。脳細胞が壊れるのを防ぐ、安全装置としての機能を果たしているのだ。
1964年アメリカでサンディエゴに住む17歳の高校生ランディー・ガードナーが『ギネスブック』の不眠記録を更新しようと断眠実験に挑戦した。眠らせないようにと友人たちが協力し、スタンフォード大学のデメントら睡眠研究者グループも立ち会った。
このとき立てられた記録は264時間12分(約11日間)でまだ破られていない。最後の日の深夜などは眠気がひどく、医師とバスケットボールの試合をしてまぎらわした。