Fate/Staynight外伝

正射必中

第一節・足踏み

 

 

 

「さて、問おう…お前が、私のマスターか?」

「え…」

蔵の中で倒れているオレに問いかける赤い影。

たった今、槍を携えた青い男に襲われたオレを助けてくれた謎の影。

その姿は…

「って……お、前は…」

(………誰?)

見覚えがあるようで、全く見覚えのない人物だった。

 

 

 

「な、何故オレがここに…いや、そもそも何故オレの元にオレが…」

赤い男は何やらブツブツと独り言を言っている。

「あ、あんたは一体誰なんだ?いや、さっきの男の事もそうだけど、一体何が起こって…」

「はっ…そうだ、まだ外にランサーがいるはずだったな。

えぇい、この状況は一旦置いておくとしてまずは現状打破と行かねば」

そう言って赤い男はオレの問いにも答えずさっさと外へ出て行ってしまった。

「くそっ…一体なんだってんだ!」

何とか態勢を立て直して、それに続く。

 

外では、再び赤い男と青い男が対峙していた。

「よう…一応聞いとくが、引く気はねぇか?」

「ほう?愚問だな…と言いたい所だが、そちらにやる気がないのならばさっさと消えてくれると助かる」

「…は?」

意外すぎる答えに青い男が驚きを隠せずにいる。

「今は君との決着よりも解決したい問題があってな。

それに聖杯戦争はまだ正式には始まっていないはずだ。

まずは君のマスターに報告をするべきではないか?ランサーよ」

「何、だと…?」

まるで全てを見透かしたかのような赤い男の声。

「…ちっ、テメェが何者かくらいは確かめたかったが、まぁいい。

こっちとしても興が削がれちまったからな」

そう言って青い男…ランサーは訝しみながらも去っていってしまった。

 

 

 

「さて…待たせたな、衛宮士郎」

「え…?何でオレの名前を…」

「ふん、そんな事はどうでもいい。まず何点か確認したい事があるので答えろ」

先程までとは打って変わって荒々しい口調で話してくる。

(ぬ…何だこいつ。何かよくわからないけど気に食わないな)

「…貴様の考えてる事は大体わかる。だがまずは確認が先だ。

左手の甲を見せてみろ」

オレの答えを待つまでもなく、左腕を掴んでくる赤い男。

「な、なんだよ」

「ちっ…やはり令呪はあるか。周りにそれらしき人間も他にいない…

認めたくはないが貴様が私のマスターである事は確かのようだな」

「あぁ、さっきも聞いたけど、何なんだそのマスターって」

「…説明するのも面倒だが、仕方あるまい。

貴様は聖杯戦争という殺し合いのゲームに巻き込まれたのだ」

「な、なんだって…?」

 

「聖杯という望みを叶えるモノを手に入れる為の椅子取りゲームだ。

マスターとして認められた魔術師が、聖杯の力を借りて召喚した我ら英霊を従え

最後の一人となるまで殺しあう。」

「な、何でそんな物騒なゲームにオレが…」

「…そうだな、強いて言えばお前の父が関連しているのだろう」

「え…切嗣が?お前、オヤジの事知ってるのか?」

「…まぁな。お前の父もまた、聖杯戦争のマスターだったのだ」

「オヤジが…こんな殺し合いを?」

「かつての話だ。今のお前には関係ない。

とにかく貴様はマスターに選ばれた。それが事実だ」

 

「…よくわからない。けど、そんな殺し合いにオレは参加するつもりはない」

「ふ、だろうな。だが言っただろう、聖杯とは望みを叶えるもの。

お前の参加不参加に関わらず、誰かが聖杯を手に入れる。

その時、聖杯が悪事に使われない保証などない」

「な…それって、つまり」

「聖杯戦争の勝者が世界の破滅を願うかもしれない、という事だ。

それでも貴様は傍観するだけか?」

 

「…ふざけるな。そんな事はさせない。

オレは正義の味方として、この街を守る。

その為ならマスターでも何でもやってやる!」

「くく…反吐が出る程単純な奴だ。まぁやる気になったのならいい。

せいぜい最後までその正義の味方とやらを貫いてみるがよい」

「………」

何かと癪に障る奴だが、この街が危険に晒されていると知った今

まずはコイツから情報を引き出さなければ。

「…とりあえず、お前はオレの味方なんだな?

その、マスターってのは未だによくわからないんだが」

「ふむ…まぁこれ以上立ち話もなんだ、まずは屋敷へ戻るぞ」

 

 

 

「…で、一番初めにも聞いたが、あんたは一体何者なんだ」

「私のクラスはアーチャーだ。よってアーチャーと呼ぶがよい」

屋敷の居間に大の男が二人。

藤ねぇといる時以上に華がないのもこの屋敷では珍しい。

「そうか。で、アーチャー。色々とわけのわからない単語が多すぎて混乱してる。

聖杯戦争ってのの大まかな概要は分かった。けど、

マスターとか英霊?とか、この左手の痣とかについてまだよくわかってない」

「全く…まさか私がこんな事を説明する立場になろうとはな」

やれやれ、と肩をすくめながらもアーチャーは説明を始めた。

 

「いいか、マスターとは即ち魔術師、聖杯戦争の参加者だ。

だが、ただ魔術師同士で戦った所で聖杯は手に入らない。

聖杯をこの世に具現化するには、相応の魔力が必要なのだ」

「魔力?って事は聖杯は魔術品なのか?」

「いや…まぁその類ではある。スケールは大きく違うがな。

そしてその聖杯を満たす存在が、我ら英霊…サーヴァントだ」

「サーヴァント…使い魔って事か?」

「言葉上ではそうだが、意味合いは若干違う。

まぁその辺は後に回すとして、まずはマスターについて簡潔に述べよう。

マスターとは我らサーヴァントを従わせ、この聖杯戦争を勝ち残る者。

そして敗北した敵サーヴァント達は聖杯に汲み取られ、

その膨大な魔力を持ってして現世に聖杯が形を成す、という仕組みだ」

 

「そうか…だからわざわざ殺しあわなければいけないのか。

それでこの左手の痣が、マスターの証なのか?」

「その意味もあるが、令呪にはれっきとした用途がある。

英霊とは過去の英雄、かつての生きた神秘だ。

そんな強大な存在を、たかが一魔術師が制御できるはずがあるまい?」

「む…つまり過去に実在した、神様みたいな存在って事か。

確かにそんなのオレじゃなくても手に余るな」

「そこでこの令呪が必要になる。

これはサーヴァントに対して発動できる三度限りの絶対命令権なのだ。

これがあるからこそ、マスターは我らを従わせる事ができる」

 

「ふぅん…三度限りって事は、使いきったらどうなるんだ?」

「…その時は、私が貴様を殺すだけだ」

突然の殺意に背筋が凍った。

「っ…なるほどな、たかが魔術師風情に英霊なんていう奴らが

意味もなく従うはずないもんな。」

「ふ…まぁ令呪がある限りは貴様は身の心配をする必要はない。

せいぜい大事にする事だ」

やっぱりコイツはいけ好かない。背中を合わせて戦うなんて持っての他だ。

 

 

 

「…大体の事はわかった。で、オレたちはこれからどうすればいいんだ?」

「待て。私からも確認したい事があると言ったはずだ。

貴様は何故ランサーに追われていた?」

「え?…確か、見られたからには殺す、とか言ってたような…」

「………。

ならば、貴様は何を見た?」

「あぁ…校庭で怪しい二人が争っていたのを見たんだ。

あいつら普通じゃなかったな…アレがサーヴァントなのか」

「………………。

その、争っていた二人はどのような容姿をしていた」

「えーっと…一人はさっきの青い男だ。ランサーって言ったっけ。

もう一人は…遠くからだったからはっきりしないけど、

鎧のようなものを着ていたと思う」

「…そうか。もう一つ聞こう。

その場には、誰かもう一人、その戦いを見守る者がいなかったか?」

「え?」

 

そう聞かれて思い返してみる。確かにあの時は戦闘光景に目を奪われてしまったが…

「んー…言われてみると、鎧着てた奴の後ろにも誰かがいたような気がするな。

あ、そうか。サーヴァントには必ずマスターがいるんだっけ?

て事はもしかしてそいつもマスターか」

「………そうだな」

何やらアーチャーは一人思案に耽っているようで空返事だ。

「?どうしたんだ」

「…近いうちに会う事になるのは間違いないな。となると…」

「おい、どうしたんだよ。何か思い当たる事でもあるのか?」

「む。あぁ…思い当たるどころか、貴様もよく知っているはずだ。

そのマスターの名前は遠坂凛だ」

「え………え?!なんだって?!」

 

遠坂といえばあの優等生にして男子憧れの的、学園のアイドルじゃないか。

その遠坂が…マスター?

「ちょ、ちょっと待て…てことは、遠坂も魔術師なのか?」

「む?…ぬ、そうか、この時はまだ…

ちっ、私の記憶もまだ完全には明瞭でないようだ」

如何にも失敗した、といった顔で頭を抱えているアーチャー。

 

「まぁいい…そうだ、あの遠坂凛だ。

彼女は貴様と違って純然たる魔術師。聖杯戦争についても研究を重ねてきた事だろう。

そしてお前が見たという彼女のサーヴァントは…その容姿からしておそらく、

最優のサーヴァントと呼ばれるセイバーだ」

「セイバー…最優…?」

「そう言えば説明してなかったな。我らサーヴァントは

聖杯の力によって召喚される時、7つのクラスに分けられる。

セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。

これは召喚しやすくする為に用意された器だが…

英霊はその能力に見合ったクラスを冠する事となる。

その中でも、最も総合的に優れたクラスと言われるのがセイバーだ」

 

「そうなのか…それを遠坂が使役してるって事は」

「あぁ、目下の所最大の敵は遠坂凛とセイバーのコンビという事になるな」

遠坂と戦う…今のオレには想像もつかなかった。

「ちょっと待ってくれ。確かにオレはマスターとして戦うと決めたが…」

「遠坂凛とは戦いたくないと言うのだろう?」

「え?」

何でわかったんだ。そう言えば現れてから今までずっとこいつは

“何もかも全てを分かってるような”口振りで話している。

 

「心配するな。私もアレと戦うつもりはない。

最大の敵、と言っただろう?もし相手をする時があるとしても、

それは全てに終止符を打つ直前くらいのものだ」

「終止符…?」

聖杯を手に入れる事が聖杯戦争の終わりなら、

終止符を打つという言い方は、何か、おかしい気がした。

「…ともかく、遠坂とは戦わないんだな?」

「ああ。最も、他のマスターとも戦わないとは言わせんぞ衛宮士郎?

手を拱いているだけでは、他のマスター同士の争いによって

街に被害が出る可能性も大きくなる。

お前の望む通り、最小限の被害に抑えたいのであれば

こちらから打って出るのが最善というわけだ」

 

「っ…わ、わかってる。何もしないままで平和を望もうなんて

都合が良すぎるって事くらいはな」

「ふ…それで良い。

では今日の所はこれくらいにしておくか。

何、明日から目まぐるしい非日常が始まるのだから

せめて今夜くらいは安らぎを満喫せんとな?」

「…ああ、わかった。お前も、屋敷の中の適当な部屋を使ってくれ。

どこも未使用だから、少しくらいは埃が溜まってるかもしれないけど」

「サーヴァントに肉体的な休息は別段必要ないのだが…

生前の習慣もある事だし、遠慮なく使わせてもらおうか」

そう言ってアーチャーは、まるで慣れ親しんだ我が家のように

屋敷の奥へと消えていった。

 

 

 

オレは蔵には行かず、自分の部屋で今夜の事を考えていた。

聖杯戦争、マスター、サーヴァント。

切嗣、遠坂、ランサー、セイバー、そしてアーチャー。

…そうだ、アーチャー。何でか知らないがアイツの事を考えると腹が立つ。

何故アイツはオレの名前、オヤジの名前、

ましてや遠坂の事まで知っているんだ?

それだけじゃない。あいつはランサーの事すら知っているかのようだった。

…正直、謎が多い。怪しいといえば聖杯戦争なんてモノ自体怪しいが、

少なくとも、アイツを味方だと思っちゃいけない気がする。

…考えて答えが出る問題でもない。寝よう。

明日から行動を開始する、と暗にアイツは言った。

ならば何が起ころうと、せめて覚悟だけはしておかないと。

胸の奥に剣を掲げながら、衛宮士郎は眠りについた。

 

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