RagnarokOnline外伝
ハチミツとクマ
ここはフェイヨン。弓手達の住まう町。
生い茂る緑は森の動物にとっての楽園である。
高台には番人役の彷徨う者、その傍では純潔の乙女ソヒーが楽しそうに仲間たちと語り合っている。
最近は冒険者も他の狩場に注目を浴びせているようで人通りも少なく、至って平和な日々であった。
そんな中、深いため息が聞こえる。
茂みを掻き分けながら現れたのは、ビッグフット…クマである。
「はぁ……」再びため息をつくクマ。
何かを探すように周りをキョロキョロしながらのっそりと歩いている。
やがて疲れたのか諦めたのか、その場にドスンと腰を下ろしてうなだれている。
スモーキーたちも、ちょっぴり怖いながらも遠巻きに心配そうにクマを観察している。
クマは空を仰ぎながら、ぼそりと呟いた。
「最近ハチミツを食べてない…」
ハチミツは彼の大好物だ。だがこの森にあるハチミツは、彼が持っている分しかない。そもそもこの森にハチはいないのだ。
(ハチミツ食べたいなぁ)
遠く焦がれるように思いを馳せるクマ。
と、そこへ人間の話し声が聞こえた。
普段ならば追い払う相手をするのだが、今は何となく面倒なのでこそりと茂みの中に隠れこんだ。
「いや〜参ったよな〜あの時は」「だねぇ〜」
どうやら会話をしているのはソードマンとシーフのようだ。
特に興味もなかったので通り過ぎるのを待っていると…
「まさかハチの大群に囲まれるとはな〜」
不意に気になるフレーズを耳にした。そのまま、気づかれないように聞き耳を立てるクマ。
「怖いねぇミョルニール山脈って」「もうちょいLV上げてからまた行こうぜー」
(ミョルニール山脈…?)
場所自体は知ってはいる。だが基本的に森から離れないクマにとっては縁のない場所だ。
そうして談話しながら去ってゆく冒険者二人。それを見届けた後、
(そうか…ミョルニール山脈にはハチがいるのか…)
好物のハチミツへと再び思いを巡らせる。そう、ハチがいるという事はハチミツもあるという事だ。
「よーし、行ってみよう!」立ち上がり、グッと拳を握り締めるクマ。
支度をして―といっても荷物などないが―ワクワク気分で森を出てゆくのであった。
そして―――
ブンッ!
クマの腕が唸りを上げる。
バシッ!!
クマの腕が振り下ろされる。
標的はもちろん、ハチ…ホーネットだ。
びっぐふっと は ほーねっと を たおした! びっぐふっと は はちみつ を てにいれた!
高々とハチミツを持ち上げるクマ。その表情はもう辛抱溜まらんといった所だ。
さっそく手に入れたハチミツを口にする。「ん〜〜〜〜〜甘〜〜い♪」
美味しそうにハチミツを抱えて舐めるクマ。その顔は喜びで綻んでいる。
「やっぱおいしいね〜ハチミツは♪」
そう言いながら颯爽と平らげてしまった。しかしその口元にはヨダレが。
(まだまだほしいな〜…もうちょい探しに行くか)
そうして再び標的を探し歩いてゆく。
その光景を、山脈のモンスター…アルギオペやマンティスたちは他人事のように見ていた。
森とは違い、ここに住むものたちは特に仲間意識を持たない。むしろ獲物を奪い合う競争相手のようなものだ。
よってその行動がホーネットだけに絞られている今、彼らはクマに対して干渉しない。
しかし…
再び手に入れたハチミツをほうばりながら、ルンルン気分で歩いてゆくクマ。
しかしその背後に、怪しく光る謎の影が!
(ハッ…殺気?!)
不意の悪寒に後ろを振り返る。
ズガァッ!!
背後から激しい電撃がクマを襲う!
「うわぁっ!!」何とか咄嗟に避けるクマ。
突然の出来事に驚きながら、攻撃の主を確認する。そこには、怒りを露わにした巨大な女王蜂がいた…
(あ、あれは…ミストレス!)
ミストレスはホーネットを束ねる所かこのミョルニール山脈全てのモンスターの上に立つ、事実上のボスだ。
当然一介の雑魚モンスターであるビッグフットとは格が違う。
たった今放たれた電撃魔法…ユピテルサンダーがその実力の差の大きさを物語っている。
ミストレスの怒りの原因は当然、同胞を手当たり次第やられた事にある。
他種族に対しては薄い仲間意識も、当然同種に関しては別だ。
(や、やばい…逃げなきゃ!)急いでその場を離れようとするクマ。だが…
ズキッ「あぅっ!」
逃げようとした矢先に、足に走る痛みに戸惑うクマ。そのまま地面に膝を突いてしまう。
(くそっ、さっきの攻撃で…!!)
どうやら直撃はしなかったものの、咄嗟に避けた事で足を挫いてしまったようだ。
しかしそうしている内にミストレスの影がすぐそこまでにじり寄ってきた。
その針がバリバリと電撃を帯びてゆく…!
(や、やられる!!)もはや逃げられず、焦って身構えるクマ。
バシュッ!!
「…え?!」
驚きはクマと、ミストレスのものだった。
突然、飛来した矢がミストレスの目の前を掠める。
飛んできた方向を見ると、そこには人間の冒険者…弓の名手、ハンターがいた。
いや、一人ではない。他にも沢山の人間たちがいた。
「いたぞ!ミストレスだ!!」中心にいた、騎乗用ペコペコに乗ったナイトが声を張り上げる。
すると周囲にいた人間が一斉に、ミストレスへと襲い掛かってきた…!
慌てて攻撃対象を人間共に変えて応戦するミストレス。
冒険者達も、ビッグフットなぞに興味はないようで、ミストレス退治に集中している。
(ボス狩りギルド…か?とりあえず助かった…)
その場にあった岩にもたれかかり、ほっと一息つくクマ。
目の前ではボコボコにされているミストレスが。
さすがの山脈の女王も、戦い慣れた上級職の集まりには勝てないようだ。
剣戟の音を背景に痛めた足をさすっていると、
「あら…どうしてこんな所にビッグフットが?」
と、声に気づくクマ。人間に気づかれたようだ。
襲われるか、と思い逃げようとしたがその足では満足に立ち上がる事もできず、声の主を見つめる。
そこにいたのは、プリーストだった。
不思議と敵意は感じなかった。最近の冒険者は例え聖職者でも平気で撲殺してくるというのに。
「足をケガしているの?」声をかけてくるプリースト。
どうやら立ち上がろうとしているのに立ち上がれない事に気づいたようだ。
プリーストが何やら足に手を添えてきた。呆然と彼女を見つめるクマ。
「ヒール!」
プリーストのかざした手から癒しの魔法が放たれる。
「これでもう大丈夫よ」
にこっ、とクマに笑いかけるプリースト。
(モ、モンスターのオレにこんなに優しく…)
驚き照れるクマ。その足はすっかり傷が癒えていた。
やがて背後の剣戟が止み、代わりにガヤガヤと喧騒が聞こえてきた。
どうやらミストレスが倒されたようだ。
「ドロップハチミツかよ〜」「いらないな〜」
人間たちはミストレスのいた場所を囲みながら何やら愚痴り合っている。
「んじゃ撤収するぞー」と、転送魔法で次々と帰り始める面々。
それに気づき、振り返るプリースト。
そこに残されていたのは、ハチミツだった。
ひょい、とハチミツを拾い上げるプリースト。
そのまま去るのかと思いきや、クマの元へと再び歩み寄ってくる。
そして、すっ、とハチミツを差し出すプリーストの手。それに気づくクマ。
「はい、食べる?」
にっこりと微笑を浮かべるプリースト。
それをおずおずと受け取るクマ。その顔は真っ赤になっている。
そしてやがて、意を決したかのようにハチミツを口にした。
その味は、今までになく、甘かった。
その後―――
プロンテラの街。その片隅で、何やら集まっている者たちがいた。
あの日、ミストレスを退治しに来たギルドの面々だ。
「ったく、最初は枝かと思ったぜー?」呆れたような声を出すナイト。
「えー、でもかわいいよ?いーなー♪」それとは逆に楽しそうなハンター。
会話の中心には、ビッグフット…クマがいた。
そしてその傍にはあの時のプリーストが。
クマはプリーストのペットとして、今ここにいるようだ。
もちろん、前例はない。クマをペットにできるなど。
だがこの異例の出来事にメンバーもそう悪い顔はしなかった。
何よりプリーストが幸せそうだったから。
一人のモンクがクマを撫でつつ、「エサは何あげてるんだい?」と聞いてきた。
プリーストはクマを抱きしめながら、愛おしそうに答えた。
「ハチミツよ」
END
あとがき
元々はのあに漫画として描かせる予定だった内容です。
どんな物語なら描く気が起きるかな?と考えた結果、クマでした(何
まぁ結局描いてないわけですが…そのままお蔵入りももったいないので
プロットでしかなかったものを頑張って文章化してみた、というわけです。
はっきりいってクマ好き以外にとっては何の価値もない物語です(ぇぇ