冬の富士山登頂
日 時 平成12年12月16日〜17日
場 所 富士山
参加者 木村正人・木村貴子
コースタイム 16 日 伊豆高原―吉田口・五合目駐車場
10:00 15:30
17日 五合目―六合目―七合目―八合目― 久須志神社―七合目― 五合目― 伊東
6:40 7:10 8:00-10 9:30 11:40-00
13:30-50 15:00-30 19:00
報告 木村貴子
年末から奥穂高岳に登る予定をしているので、その前に雪上訓練と寒さに体を慣らす為、富士山で訓練することにした。天気の状態次第で、登頂も考えている。
そんな折、予定日1週間前の12月10日から11日に富士山で2件の事故が起き、富士宮口から入山の3人が遭難。私達の予定コ―ス、富士吉田口からの入山者は2人死亡のニュ―スが連日新聞に出た。
冬の富士山の恐ろしさを感じると同時に、この記事は私達への警告の様にも思われ、一抹の不安がよぎる。
夫は条件次第で登頂を考えていると言い、尻込みしている私と違い強気である。
16日 晴れ・強風
高度障害を防ぐ意味もあり五合目駐車場に泊まりたいので、富士吉田口スバルラインゲートの開放時間(朝9時〜夕方5時)に合わせ家を出る。
今日は平地でも風が強い。富士山ではもっと強いだろう。スバルラインのゲートをくぐり、富士吉田口五合目駐車場に15時30分到着。風は音を立てて強く、飛ばされそうだ。山頂を見上げると、雲の流れが速い。
駐車場に登山者がいたので、夫が尋ねると「六合目辺りで訓練をしていたが、風が非常に強く、上から押し付けられるように吹いてきて、大きな石がゴロゴロ飛んできた。危ないので訓練を止め帰って
きました。明日は寒冷前線が通過するのでもっと悪いですよ。」と言われる。五合目でこの強風なのだ。明日は安全を第一に考え適当な所で訓練をし、登頂は諦める事にした。
携帯電話で、月例山行で馬場平にいる飯田さんに連絡を取る。「明日は無理をせず、雪上訓練をするつもりです。」と話す。早めに寝たが、風で車が揺すられ、不安で眠れず朝まで
ウトウト・ ・・睡眠不足。
17日 晴れ
5時に目を覚ます。風もやみ静かだ。空を見上げるとオリオン座が光っている。今日は良い天気になるかもしれない。
訓練だけのつもりであったが、登頂出来る時の事も考える。非常時に備えテント、シュラフ、ハーネス、ザイル、食料ガス、鍋をザックに詰め込む
。
6時40分予定より少し遅れて出発。火山れきの広い登山道をジグザグに登る。私は荷物が重く、歩きが遅くなる。七合目になると雪面が滑りやすいので、12本歯のアイゼンを着ける。付近で訓練している人達がいた。「風も無く、天気も穏やかなので、行ける所まで行き無理なら止めて、七合目で訓練しよう。案外、今日は、登頂のチャンスかもしれない。」と夫に言われ、私も同意見。でも反面、低気圧が近づいている事は分かっているので、いつ天候が崩れるか心配でたまらない。
耐風姿勢と滑落停止訓練を少しして登り始める。途中、下山者に会い、話を聞くと「五合目を5時前に出ました。
山頂迄は強風もなく、大丈夫です。10人位の人が登っていますよ。」と言われる。先行者がいるのでホッとした。
八合目になると傾斜が増し、風も少し強くなってきた。ザイルが必要ならば、出すと夫に言われたが「大丈夫。」と断る。
「足を上げて歩け。引きずっているとアイゼンを引っ掛け転ぶぞ。」と注意される。転べば即滑落である。
見上げると頂上付近は綿の様な雲が筋状に緩やかに舞っている。太陽が見え隠れし、綺麗な彩雲も見える。
天気は安定していて、直ぐに崩れることは無いだろうと自問自答する。
九合目を過ぎると凍った雪面が太陽に照らされ光っていて美しい。アイスバーンにアイゼンを効かして歩く。
下山の時は大丈夫だろうか少し心配になる。傾斜は更にきつくなり、息が上がり苦しさに耐えながら進むと、狛犬に迎えられ、鳥居をくぐり神社に出た。コースタイムより1時間早く着いた。山頂だ。ヤッタ−!

いろいろな心配があり一時は諦めたが、天候に恵まれ、冬の富士山に登ることが出来た。この滅多にないチャンスを生かし登れた事を“天と神様”に感謝する。
写真を撮り、剣が峰に進もうとして、火口の見える所に出ると、突然、前触れも無く、巻き上げる様な突風に襲われた。夫は2〜3m飛ばされたが直ぐにピッケルを刺し、腹這になっていた。「ザイルとテープが飛んでいった―。」
(カメラを出した時、ザックのチャックを閉めなかったからだ)私は標識の様な物があったので捕まり、低姿勢をとった。ピッケルを刺そうとしたが、凍っていて刺さらない。思い切り力を入れて刺す。私は暫く様子を見て、安全な小屋の所に移動した。危なかった夫は風の止むのを待ち、近くに飛び散ったザイルとテープを拾いに行った。
大失敗である。強気の夫もこの先は危険と判断し、下山する事にした。
山頂は寒さと強風の為、ゆっくりもしていられないので直ぐに下山開始。下りは滑落の危険があるので、ザイルを出しコンティニアスで私が先に歩く。確保されているが傾斜が強いので、腰が引けのろのろ下る。「アイゼンを信用して歩け。突風に備え、何時でもピッケルを使えるような体勢でいろ。」と大声で怒鳴られた。一週間前の遭難事故もこの様な所で起きたのだろう。突風でも吹いたら、きっと滑落するに違いないと思った。風は朝よりも強くなってきた。手と足の先が冷たくジンジンしている。でも斜面を緊張して歩いているのでそれどころではない。「手が冷たく力が入らなかったら、滑落した時、危険だぞ。」と後で言われた。納得する
八合目辺りで傾斜も緩くなり、ザイルを外す。空模様もだんだん下り坂のようだ。七合目でアイゼンを外し、昼食を取る。お湯が何よりも美味しく感じた。六合目を過ぎると、雪がちらついてきた。山頂は暗く曇っている。たぶん雪だろう。無事五合目駐車場に着き、登頂できた事を改めて喜んだ。
冬の富士山は強風の山と言われている。一歩間違えれば遭難もありえるので、今日登頂できた事は幸運でした。
20人位の人に会いましたが、全員ヘルメットやザイル等のフル装備でした。この時期に登る人は、それなりの心構えで来ていて、私達のヘルメット無しはとても恥ずかしかったです。
反省 。