積雪期の剣岳
日 時 平成14年4月26日〜29日
場 所 北アルプス北部、早月尾根
参加者 木村正人・木村貴子
コースタイム 26日 伊豆高原−道の駅、風穴の里
18:00 22:30
27日 道の駅−馬場島〜1800m〜 早月小屋
5:20 8:20-00 12:10-40 14:20
28日 小屋〜2614m峰〜剣岳〜 2614m峰〜 早月小屋〜 馬場島−ー蓑輪の湯−道の駅
5:30 7:00-10 9:00-20 10:50-00 11:40-12:30
16:00-30 17:00-40 19:30
29日 道の駅、林林−伊豆高原
報告
木村正人
富山県警地域課に登山許可願いを出し、返事が届いたのは、出発4日前だった。県の許可が要るのは冬の剣と、谷川岳の登攀だけだ。
私は厳冬期の山に魅力を感じているが、この山だけは無理なので今の時期にしたが、雪の剣岳、困難度は国内屈指の山だ。
昨年の夏下見に登った時「雪があるとないとでは、天と地の差がある」と、早月小屋の主人に言われたことを思い出す。
ザイルの支点が雪に埋まっていることを考え、スノーバーの取り扱いと、ミックスルートのアイゼンでの登攀訓練を繰り返してきたが、いくら練習しても不安は消えなかった。救いは入山中の天気予報が最高で、逆に雪崩の心配が出てきた。
26日
仕事を終え、富山県へ向け車を走らす。明日は登山口の馬場島から早月小屋まで、6時間の登りだけなので、今日むりに、馬場島まで行く必要もなく、安曇村にある“風穴の里”道の駅に車中泊した。
27日
馬場島には雪はなく、駐車場には車が15台止まっていて、多くの人が入山していると思った。テントの外張りとワカンは持たなかったが、登攀用具が重く、苦しい。
カタクリとイワウチワに迎えられ、松尾奥ノ平あたりから雪がでてきた。しかし、雪には今日の足跡が1つしかなかった。なぜだろう?。すぐにその先行者を追い抜いたが、その人は、昨年の二月に甲斐駒ヶ岳でラッセルをしあった、磐田市の山田さんだった。奇遇であり、明日のことを考えると心強かった。
その後は夏道と雪渓を歩く。標高1600m辺りで40mの急な雪渓があり、下山時にはザイルが必要かもしれない。貴子はこの傾斜で怖じけずいてしまった。彼女は明日使用するだろうスノーバーの取り扱いに不安を持ち、あまり乗り気ではなかった。「明日は小屋にいようかしら」などとブツブツ言っていたが、私は聞く耳を持たなかった。なぜなら、私も一人では確保に困るので、嫌だった。ここで、この時期何度も登っているという、地元の単独者に抜かれた。
1800m辺りでガスがでてきたので、昼食にし、アイゼンをつけた。雪は適当に締まっていて歩きやすかったが、休んだせいか足が急に重くなり、休み休み上る。小屋に着くとガスが消え、見事に晴れわたり、素晴らしい雪の山々が現れた。
結局ここには私達と山田さん。小屋の少し下にテントを張った地元の人と、小屋泊は写真家とそのガイドだけで、全員で六人。当てがはずれた。明日のトレースは・・・・。心配いらなかった。私達が着く少し前に、来年ヒマラヤに挑戦するとい男女二人が、2300m辺りを上るのが見えた。山頂にテントを張るそうだ。
小屋主に明日のルート説明を聞く。夏道の鎖は雪に埋まり使えない。ハイマツに支点をとる。長く緊張するトラバース等々。貴子はすっかり怖じけずき、止めたがっていたが、私は「こんなに恵まれた天気の日に上らなくていつ登頂できる」とはっぱをかける。
そして意外なことを聞いた。「年末から悪天で、こちらからも室堂からもまだ登頂した人はいない」と。俄然やる気がでてきた。
テント設営後、風もなく暖かいので、富山湾方面の素晴らしい雲海をいつまでも眺めていた。

テントは2張りだけ
28日
朝、万が一に備え、残置用シュリンゲを5本作った。
雪壁の急登は途中で休めないので苦しい。標高2614m峰の壁が特に急で、一歩一歩慎重に登った。下りではザイルを出そう。頂で一休み。雷鳥平が見える。そして本物の雷鳥に何度も遇う。「ガア、ガア、ガア」と鳴き、気おつけてねと言っているように聞こえた。
暖傾斜を過ぎると、きつい斜面にでたので、トラバースをすることにしたが、斜面は雪の重みで発生した亀裂が走っていて、いい気持ちはしない。朝早いので雪崩も起きないと思うが、今つまずけば何m落ちるのだろう!
2800mを過ぎたエボシ岩の登りは、池ノ平側から巻き、残置ロープに助けられ、ハイマツ帯を登る。獅子頭も雪が少なく、岩陵を登れたが、残置のシュリンゲが数多くあり、厳冬期はこれを支点にして登ったり、懸垂下降するのだと解った。またトラバース。急傾斜なので、亀裂の凹みを利用して渡ったが、私の重みで雪崩を誘発しないか冷や冷やだった。
ここで昨夜ビバークしたらしいヒマラヤのペアーを抜く。彼らはいろいろな訓練をしていた。そして、暫くすると先に登っていた地元の単独者が登頂し、下山してきた。強い人だ。
最大の難所カニのハサミになる。夏道の鎖は雪に埋まっているので、ルートではない岩陵を登った。後ろからヒマラヤペアーが来るので、浮き石を落とさないように神経をつかったが、ザイルは使わなかった。二人の先にでたのは、貴子を今年登頂の女性で、一番目にしてやりたかったからだ。
別山方面の分岐から一登りで山頂に着いた。シンボルの祠は屋根だけ出ていた。

結局、貴子は女性で第一登頂者で、私は今年三人目の登頂者となった。
連休で多くの人が入っていると思ったが、室堂側からは一人も入っていなかった。360度の展望を楽しみ、剣の核心は下りにあると心をひきしめ20分で下山。
カニのハサミは登りと違うルートのルンゼを下り苦労した。この時、出発の一週間前、城ヶ崎でアイゼンを付けて岩登りと、下降の練習をしたのが役立った。
上りの時はアイゼンが小気味よく効いたが、今は雪が腐り団子になって歩きにくい。結局きつい傾斜もザイルを出すことなく下れた。私は50mザイルを1本持ってきたが、細くても良いから40m2本がいいと思った。
2614m峰からの下りは楽で、一飛びで小屋に着けた。

予定より早かったので、小屋主にお礼を言って、馬場島へ下る。1850m辺りで近道をしようとして尾根を間違え、大汗をかいて上り返した。上りのとき急に思えた壁もいつの間にか過ぎていた。急な傾斜に慣れたせいだと思う。
日の高いうちに馬場島に着く。天候に恵まれ登頂し、無事下山できたことを喜び合った。
近くの蓑輪の湯で疲れをとり、帰路に向かう時、富山湾に沈む赤い夕日が、しろかきの終わった田んぼに映る幻想的光景に出合えた。
暗くなったので、神通峡近くの道の駅“林林”に車中泊。
29日
観光しながら帰路に着く。