〜ブルーギル〜
 私が中学生の時の話である。

その日は、古くからの友人K君と釣りに出かけた。

二人で、コブナ釣りを楽しんでいると、

同じ中学校の同級生が「いっしょに釣ろうよ!!」とやってきたのである。

それは、S藤君S戸君であった。

初めは、4人で、コブナ釣りを続けていたが、

コンビニで昼食を取った後、ブラックバスを釣ることにした。

しかし、2時間ほど粘ったのだが

ブラックバスがルアーに食いついてくる様子も無いので、

近所の釣具店で活きた「藻エビ」を買い、それを餌にブラックバスを狙うことにした。

エビの餌で釣り始めたばかりの時は、外道のブルーギルばかりだったが、

一匹釣れだすと、次々とブラックバスが釣れた。

みんな満足しながら釣りを楽しんでいた。

しかし、

そんな中1人一匹もブラックバスが釣れず

寂しそうに釣りをしている男がいた。


S戸君である。


ブルーギルしか釣れない彼は、何やら自分のリュックサックから取り出していた。


野球用のグローブである。


そして、何をするかと思ったら、グローブをはめ、

いきなり土手にある小石を投げ始めたのである。

投げ返してくれる相手もいないのに、はたしてグローブは必要があったのか。

現在でも疑問である。

その後、

餌の藻エビも無くなり

コブナ釣りに使っていたミミズが、余っていたため、

近くのため池で釣りをすることになった。

その池は、

フナやタナゴ、コイ、

さらにブラックバスやブルーギルまで釣れる、

五目釣りが楽しめてしまう池なのである。

もちろん、

その池でも、S戸君を除いた3人は次々と釣れるのであった。

それから数十分が経ち、S戸君がグローブをはめ、小石を投げていると、

ヤンキー風のお兄さん5人組がやってきて、

「に〜ちゃん!ここは何が釣れるんだ?」

と聞いてきたので、私たちは素直に、先ほどあげた魚の名前を言った。

S戸君は私たちと離れた所にいたので、 ヤンキー風のお兄さんたちは、S戸君の所へ向った。

そしてS戸君は、

からまれていた。

それからも、しばらくの間、

ヤンキー風のお兄さんは、私たちの釣りを見ていた。

私たちとヤンキー風のお兄さんは、少し仲良くなり、

私たちに魚がかかる度に、お兄さんたちは、

「うまいね!に〜ちゃん」とか「でけーなー」などと、声をかけてくれた。

そしてなんと、

S戸君のウキにアタリ!待望の一匹!!

「やったな!に〜ちゃん!」と、お兄さんたちも大歓声。

しかし、その魚は、

ブルーギル。

とは言っても、S戸君にとっては、うれしい一匹にちがいない。

私たちもいっしょに喜んであげよう。

そして、暗くなってきたので、そろそろ帰ることにした。

S戸君の釣った魚が、その日の最後の一匹となった。

S戸君は池にその魚を返した。どことなく満足げである。

だが、

逃がした魚は、ものの数分で、プカーっと水面に浮いてきたのである。

そして、

ヤンキー風のお兄さんたちは、

「あ〜あ!殺しちゃった!」などと、S戸君に罵声を浴びせるのだった。

魚が釣り針を飲み込んでしまい、弱ってしまったのである。

やがて、ヤンキー風のお兄さんたちは、帰っていった。

それまで離れた所にいたS戸君が私たちの所にやってきて、

私たちに寂しそうにこう言ったのである。

「殺す気は・・・無かったんだけど・・・」

こうして楽しい1日は過ぎていったのである。