山の詩 

山で思った事、駄文にしてみました。

「春の斜面を登る」

 いくつもの小さな山村を走り抜け、又今日も山にやって来た。
ぐうっと見上げると緑の中に一筋の白い谷がきらりと光っている。

 足元にアイゼンを着けまだ太陽が低い中歩き始める。
サングラス越しに見る朝の雪が、ダイアモンドの様な
キラキラとした光を放っている。
まばゆいその光の中をゆっくりゆっくりと歩みを進める。

ごうごうと音がしたと思ったらスノーブリッジだ。
雪の厚い所を慎重に通過し安定した斜面に渡りほっと一息ついた。
いくつかの谷を左右に見ながら歩いていくと、
いよいよ谷はその斜面をきつくしはじめた。

 突然、まばゆい広いカール状の斜面に飛び出た。
そこは誰もいない、”青と白”だけの静かな世界だ。
真っ白な斜面に 僕らの跡だけが一筋に刻まれていく。

麓に見える春霞の空は上に行くにしたがいその色を
だんだんと濃くし、見上げる稜線では群青の空となった。

さらに傾斜を増す斜面にアイゼンを慎重にけり込み、
一歩一歩最後の登りを詰めていく。
振り返ると僕の足元から一直線にのびた足跡に続く相棒が見えた。

ようやく頂上稜線である。
雪庇の張り出しをスコップで切り崩し、稜線に体を引き上げる。
ひたたる汗が春の風に吹かれて気持ちよい。
登ってきた白い斜面を見下げると、それは一筋の足跡と共に
麓までずうっと続いている。

 僕らは帰りの滑降をそれぞれの頭に描いて、
目前にせまった山頂へとまた向かった。


04.05.04

「僕らの旅」

はるか遠くまで続く長い稜線を僕らは歩いている。
あの遠くの頂までいけば、いったいその先に何があるのだろうか。
また山が待ち受けているのか、あるいは平坦な台地があるのか。
それは、行ってみなければ分からない。

今はただ、あそこを目指してただひたすら歩くだけだ。
ちょっとくらい休んだり、景色を見たりしてもいい。
でもあそこまでは必ず歩き続けよう。しっかりと地面を踏みしめながら。

あそこに着いたらちょっと休もう。そしてその先をそこで考えよう。
そうして少しずつ、少しずつ歩いてゆけば最後には必ず
僕らの目指すところに着くはずだ。

それまでは、ゆっくりでいいから歩き続けよう。
泣いたり、苦しんだり、笑ったり、怒ったり、感激したりしながら、
そうして僕らは歩き続けよう。

04.02.16


「乗鞍山頂にて」

雲ひとつ無い空の下、今降りゆく斜面を望む。
はるか下まで続く白い斜面と春の日差しを浴び黒々とした尾根が、
はっきりとしたコントラストを描きながら、僕の行き先を示している。

僕は一呼吸し、そして奈落の底へと滑り出す。
重力のままに滑り降りながら、絶妙にクラストした
雪面に思いのままのカーブを描く。
くらくらめまいがしそうなほどの快感を感じながら、いくつもいくつも
ターンを重ねて急斜面を抜け出した。

見上げると頂上から一筋に刻まれた僕らの跡が雪面にはっきりと
影を落としている。
ひと時の戯れの跡を瞼に刻みこんで、僕らはまた麓へ向けて滑り出した。


「春の朝」 

車から降りると真白な空間が広がっている。
朝日に輝くその白い空間を一筋にやぶって
春の川は藍き雪解け水をとうとうと運んでいる。
今日はいい天気だ。

胸一杯に冷たい空気を吸い込み、スキーの板を滑らせていく。
ひたたる汗と冷たい空気を同時に頬に感じながら、
未だ見ぬ斜面に軌跡を刻む僕らの姿を想いて、
また黙々と板を滑らせていく。


「頂上間近か」 

一歩一歩 歩いて、ようやくここまで来た。
斜面はその傾きを少しずつ増しながら
僕の目の少し上で空と大地が一筋の境目を作っている。
滑りはじめた足元にアイゼンをつけ、さらに歩みを進める。

突然、風が僕と背中のザックに襲いかかる。
一瞬よろめき、そして雪面にひざまづき、負けまいと耐風姿勢をとる。
風が弱まった頃合いを見計らい、先行の足跡をたどりまた上へと向かう。

僕の目の上に、今まさに頂稜に立とうとしている連れあいが映る。
待っていてくれ、僕もあともう少しだ。


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