夢の話は私の創ったお話
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−掌編小説−

○雪幻想

 

 電車に座っている。.ガラス窓を通り抜けてくる日差しの暖かさと電車の振動が、心地よい子守歌のように感じられうとうととしてきた。今日は風が強くまだ寒いが、電車の中は一足早い春のようである。

 次の駅で降りるつもりだが、あまりの気持ちよさに、このままもう2つ3つ先の駅まで行きたい気分になった。どうしようかと迷っているうちに駅に着いてしまい、あっという間に電車のドア−が閉まった。座席から立てなかった。

 目が覚めるともう3つ先の駅まで来ていた。降りるか。外は寒い。降りたホ−ムでコートの襟を立て、今度は上りの電車を待つ。待つこと15分、再び電車に乗り込んだ。

 ホ−ムの上では風が強く、寒くて震えていた。こんなことならもっと先の駅まで行けばよかったと思った。もう少し座っていればよかった。

ドア−のそばに立ち日差しを身体いっぱいうけながら外の景色を見つめていた。

 あれ、雪が降って来た。いや、空は青空が見えているぞ。なんだこの天気は。
 しばらくはこの状況を不思議な思いで見ていた。そうだ。これが風花(かざばな)なんだ。遠く見える秩父の山々には雪が積もっている。この雪が今日の強い風で吹き飛ばされここまで飛んで来たのだ。今日は気温が極めて低かった。だから溶けることなく流されて来たのだ。 しかし、風花は降りる駅までは飛んでこなかった。

 

 そういえば、雪といえば不思議な経験をしたことがあった。あれは何年前だったか、息子と福島の猪苗代湖に行った時のことであった。猪苗代湖には親戚の別荘があり、ここを借りて息子がスキ−に友人二人とを行くことになった。カメラに凝っていた私はお目つけ役に格好をつけ写真撮影のため同行してのである。

 その日、スキ−のできない私は息子たちと別れ、カメラを抱えスキ−場のはずれをを歩いていた。いい被写体を探しスキ−客にぶつかられないようにできるだけ隅のほうを歩いていた。

 スキ−場の外れの森に近いところを歩いていると青空なのに雪がちらついてきた。しばらくすると更に雪は多くなり、しまいには吹雪のようになってきた。あれほど晴れていたのに不思議な天気だなあと思いながら、天候が回復するのをその場所で待った。吹雪の中でも何故か恐怖心はなかった。スキ−場にいるという安心感がだったのかもしれない。

 私はカメラを抱え、吹雪の中にじ−と立ち尽くしていた。何故か寒さを感じなかった。ふと山の稜線の方に目をやると白いキャンバスの中に白い人影が見える。吹雪の中で山の稜線の方角が分かるはずがないのに、そう思った。これがブロッケン現象か。そう一瞬思ったがこんな吹雪の中ではそんな現象は起こるはずがない。人影は近づく訳でも遠ざかる訳でもない。じ〜と立ち続けている。私はカメラのシッタ−を切った。何枚かの写真を撮った。誰かに私が今見ているこの不思議な光景を理解してもらいたかった。

 写真を撮り終えると、不思議なことにあれほど激しく降っていた雪が止んだ。私はやはりスキ−場の外れに一人立っていた。スキ−場では何事もなかったように大勢のスキ−客が楽しんでいた。

 自宅に戻ってから、写真を現像してみたがそこには白いキャンバスが写っているだけであった。あの不思議な現象は何もなかった。

 

 昨日みた風花はもしかしたら猪苗代湖の雪だったのかもしれない。何故だか確信みたいなものがその時にの私の心に沸いてきた。