◇気候条件の影響
太平洋側と日本海側の気候条件の違いは、ブナ林の垂直分布にも影響を及ぼす。そのため太平洋側の箱根、丹沢では下限が750〜800mであるのに対して、日本海側では著しく下がり、下限は400〜500m程度である。また、新潟県村上市や山形県鶴岡市には海抜60mに成立するブナ林もある。一方分布の上限も日本海側では100m程度上にずれているのである。
◇白神山地と世界遺産
白神山地のブナ林は世界でも最大級のものである。しかもブナ林を構成する植物の種数は日本の方がヨーロッパに比べ5〜6倍と圧倒的に多く、多様性という点でも群を抜いている。
森林生態系保護地域では、ユネスコの人間と生物圏計画の生物圏保護地域の概念を取り入れている。コアエリア=核となる地域とバッファゾーン=コアエリアを取り巻く緩衝帯から保護地域が成り立つ。その外側に更にトランジョンゾーン=移行地域がある。これを模式的に表すと、核の部分を中心とした同心円となる。なお、日本ではトランジョンゾーンを省略している。
白神山地では核の部分の保存地区が約10000ヘクタール、周りの保全利用地区が約7000ヘクタールである。その全域がブナを中心に構成された冷温帯落葉広葉樹林で被われ、生態系の多様さ、保存のみごとさなど世界に誇るべき内容である。
平成2年に森林生態系保護地域が設定され、平成4年に環境庁が自然環境保全地域に指定し、更に平成5年に世界遺産条約に基づく自然遺産に登録された。
◇ブナの生態系
ブナは山の生態系を守る樹ということで注目されてきた。その重要な役割を知ると、一層愛着を覚えるようになる。どんな植物も太陽光と大気と水とを使って光合成を行い、澱粉などの有機物を作っている。更に地球温暖化の原因にもなっている炭酸ガスを吸収し、植物内に固定化し、代わりに酸素を排出している。
人間がどんな最新の科学技術を駆使しても、無機物から有機物を生むことはできない。たとえ将来可能になっても公害をまき散らすに違いない。植物たちはもう何千年も前からこれを常温でやっている。人間や動物は、植物が作ってくれる有機物を利用しなければ生きていけない。ブナの原生林内には植物、大中小の動物、キノコなどの菌類、土壌生物などの多くの生き物が生きている。
森の中で大木が倒れたり、動物が死ぬと、菌類や土壌生物が元の無機物に分解する。そして、樹木の成長を助ける養分として再使用されている。だから森の中で営まれていることには一切無駄がない。森の中のひとつひとつの生き物は森という精密機械のひとつひとつの歯車のような役割を持っている。これを生態系という。だからこのひとつが壊れてしまうと、森という精密機械は壊れてしまう。
ブナの大木は、一本の樹で50〜60万枚の葉を茂らせて、秋になると落葉させる。ブナの葉は分解されにくい性質があって、長く林床に残る。このことが分厚い腐葉土層を作り、ここに水を貯める。原生林内では、ブナの大木一本で約8tの水を貯めることができるという。だからブナ林全体ではものすごい量の水を蓄えていて、「緑のダム」ともいわれる。どんな大雨が降っても、この腐葉土に一旦受け止める。ブナ林に貯められた水は長い期間土壌で浄化され、天然のミネラルウォーターとなって、ゆっくりと流れ出る。この清らかな水がおいしい米やソバを育てる。
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