雄冬海岸の氷瀑:『濃昼の滝』・『モンゴロイドの喘ぎ』

2003年1月19日(日)


『濃昼の滝』をリードするK崎
『モンゴロイドの喘ぎ』をリードするK崎
Photo by TONO
Photo by TONO

【メンバー】T平,K崎
【実際の行動】札幌―濃昼の滝―モンゴロイドの喘ぎ―浜益温泉―札幌

アイスアックス、BlackDaimond社の『Viper』を買ってしまった。学生なのに。 雄冬海岸の『濃昼の滝』と『モンゴロイドの喘ぎ』での試し履き、となる。
せっかく高い買い物をしたんだから、何か成果を持って帰る、そう意気込んで臨んだ山行だった。 そしてその結果、大変充実したクライミングができた。 自分のクライミング人生の中で、確実にカチリと一つ歯車が進んだような気がする、そんな山行だった。

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濃昼の滝:K崎→T平

場所・記録
厚田村と浜益村の中間辺りに濃昼という村がある。 その村少し先、尻苗トンネルの手前の沢の河口にある滝が『濃昼の滝』である。 車道より下の海岸際にあるため、車道からその姿を確認することはできない。この滝を見つけた人の執念はすごいと思う。 『北海道の山と谷』には載っていない。雄冬の氷瀑は北稜倶楽部の御用達であり、その会報に詳しいらしい。 『岳人』の2001年11月号で北海道のアイスクライミングが特集されていて、その中で紹介されている。 インターネットで検索しても、いくつか記録は出てくる。ちなみに『濃昼』は、『ごきびる』と読む。

滝へのアプローチ
尻苗トンネル手前の道路脇に車数台分の駐車スペースがある。そこに車を停める。
滝へのアプローチの方法は2つある。
1.岳人2001年11月号にある通り、尻苗トンネル手前の赤デポ布から海岸に降りて滝の下まで海岸を歩く方法。
2.沢を下降し、濃昼の滝を懸垂で降りる方法
今回は1の方法をとったが、降り口にあるという赤デポ布は見つけられなかったため、適当に下り、立ち木で25mの懸垂下降をして海岸に降りた。 帰りはそのまま沢を詰めるのが一番楽だろう。

滝の概観
1ピッチ45m。幅は15m程。2段に分かれていて、1段目は傾斜が緩いが、だんだん傾斜が出てきてテラス(というかレッジ)に着く。 中間部からの2段目は出だしの5mが垂壁である。そこを抜けると上部ではまた傾斜が落ちて、潅木で終了。中間部の垂壁が核心である。 今回は下部の真ん中に穴が開いていたため、下部は中央やや右岸寄り、中間部は凹角の右の垂壁を登り上に抜けたが、 もし下部の状態が良ければ、左岸寄りに登っていった方が中間部の傾斜は若干緩い。

記録
まずはK崎リードで取り付く。
2回目のアイスクライミングなので、動きがぎこちない。 下部の最初45°位だが、だんだん傾斜が出てきて70〜80°位になる。 氷の弱点を突くようにして若干のトラバースなどもしつつ中間部のテラスまで。
そこから右にトラバースをして左岸寄りの若干傾斜の緩い垂壁を登ることも考えたが、 そこから左岸側へのバンドっぽく見えたところはほとんど立てる感じではないし、 アイスクライミングではトラバースが難しいと言われているので、トラバースせずにテラスから直接垂壁を登ることにする。
アイススクリューを1本打ち登り始めると、身に染みて垂壁と90°未満のアイスクライミングの違いを体験できる。 全く違うのだ。腕にかかる負担も、怖さも。垂壁になると足が使いづらいため、ほとんど手に負担がかかることになる。 慣れない内は打ち込んだバイルに全体重をかけて登るのが生理的に怖いのだ。バーティカルの世界の洗礼を受けることとなる。 自分にはこの垂壁をリードするのは無理と判断し、テラスまでクライムダウンする途中で1mの小フォール。 きっと心の中に焦りや恐怖心があったせいなのだろう。情けない。 T平さんと話し、リードを交代してもらうことにする。

T平さんリード。
テラスまではトップロープ状態で登っていく。非常に早い。僕が苦労したところを難無く登っていく。あっという間にテラスまで。 達人、といった雰囲気を醸し出している。
テラスからはさすがに慎重に登る。 テラスでスクリューを打ち足し、登り始めて・・・フォール! まさかT平さんが落ちるとは思っていなかったため、驚く。体は何ともないようだ。ホッ。バイルが外れたらしい。 テラスまで登りなおし、再トライ。
しっかりバイルを打ち込み、足を上げ、スクリューを打ち・・・
確実に前進していく。さすがだ。一度落ちても動転せずに冷静に登れるのもすごい。 核心の垂壁を越えて一息。傾斜が落ちると言っても、まだ70〜80°はある。でも難無く登り、落ち口まで。

僕はフォローで登るも、垂壁の部分で数度テンションをかけてしまう。 アックスにフィフィをかけてレストする練習をしたりしたのだが、フィフィをかけるとどうもアックスが抜けてしまう。 だがこれはフィフィをかける場所が悪かったようで、スピッツェの穴にかけるとアックスが外れることなく、安定してレストできることがわかった。 (もっとも、こんなことは初心者でも知っているのかもしれないけど・・・) 垂壁で予想以上に腕の力を使うことに驚き、ヒィーヒィー言いながらやっとのことでビレイ点に辿り着く。


モンゴロイドの喘ぎ:K崎

場所・記録
もう一つの滝『モンゴロイドの喘ぎ』(すごいネーミングセンスだ)は、浜益と雄冬の間、タンパケ覆道の上にある。 頑張れば覆道の柱の間から見えないこともない。 『北海道の山と谷』に載っているが、かなり漠然とした情報しか載っていない。 登っている人はけっこう多いと思われるが、インターネットではほとんど記録を見ることはできない。 名前の由来は不明。

滝へのアプローチ
タンパケ覆道を過ぎてすぐのところに非常用電話のある駐車スペースがあり、そこに車を停める。
『マムシに注意』の看板のついたゲートを越え、壁沿いに2〜3分歩くとモンゴロイドの滝の取り付きである。

滝の概観
1ピッチ50m。幅は濃昼の滝とは対照的に非常に狭く、2m程。 全体的に傾斜がきついが、特に中間部は傾斜がきつく、バーティカルではないかもしれないがそれに近いくらいの傾斜があり、そこが核心である。 核心の中間部を抜けるとだいぶ傾斜が落ち、70〜80°位になる。 全体的に立っているため、終始気が抜けない。 それにもかかわらず濃昼の滝の核心部に比べてプレッシャーがないのは、 滝が狭く凹角っぽくなっているために横に足を置くという3次元的な登り方をできるためだろう。 落ち口を抜けて5m位先の右岸側の岩に(伸びて錆びた)リングボルトや錆びたハーケンを打った岩があり、それでビレイ、懸垂下降をする。 50mロープだと、そこまでロープを伸ばすには滝の下部の雪壁の上ギリギリでビレイしなければ届かない。 残置のスリングはボロイため、バックアップとしてスリングを残置した。

記録
「登るか?」とT平さんに聞かれ、正直迷う。 さっきの濃昼の滝での僕の結果を考えると、安全に登れると太鼓判を押せたもんじゃないのは明らか。 加えて、さっきの垂壁の登りで(情けない話だが)腕も疲れている。
「でも、じゃあ、何のためにバイルまで新調して来たの?」と内省する。
焦りは禁物だ。今リードできなくても、来年、再来年でもできる。
でも、全く無理なんだろうか?自分はただ日和見をしているだけなんじゃないか?
日和見をすること、無茶をすること、どちらも誰にでもできる。簡単にできる。 日和見と無茶の間の境界線を捉えること、自分の能力を過不足なく見極めること、 それがクライミングで一番重要なことであり、クライミングが身に付けさせてくれる大切なことの一つだ。
自分はアイスクライミング2回目の初心者だ。それを踏まえた上で、冷静に、慎重に登れば勝算は充分にあると思った。 中間部の立っている20m程、そこが勝負だ。
「行きます、(ビレイ)お願いします。」そう言っていた。

まず雪壁を数m登り、傾斜70〜80°位の狭い下部の凹角状の氷を登る。 窮屈だが、氷は割と良く、横の壁なども使いながら中間部手前のテラス状まで。
中間部はバーティカルではないのだろうが、けっこう立っていて腕にくる。 まだアックスにフィフィをかけて手を離すことに生理的な恐怖感があるため、 スクリューを打つまではアックスから手を離せずに余計しんどい思いをする。 左岸側で足を置けるところがいくらかあるので、そのスタンスを拾いつつ前進。 垂壁を越えるところで右手のアックス(Naja)を刺していた氷が剥がれてバランスを崩すが、 左手のアックス(Viper)がしっかりと残ったためセーフ。 一息入れて落ち着いてから慎重に中間部を越える。ホッ。
だがまだ上部10mが残っている。気を抜いてはいけない。 腕はだいぶ疲れているものの、中間部を越えた今となっては、ヘマをしない限り問題ない。 疲れて振りぬけないために決まりづらいアックスを辛抱強く決めながら落ち口へ。
落ち口から5m程先のボロイ支点でセルフビレイを取る。・・・しんどかった。時計を見ると15時過ぎだ。 登り始めたのが13時過ぎくらいだから、2時間位登っていたことになるんだろうか。ドッと疲れがくる。 そして、心の底から湧き上がってくる充実感。日本海には西日が煌めいている。 その風景と充実感が何よりのご褒美だった。
フォローのT平さんは、やはり早い。フィフィをかけてレストしたのは1度だけだったそうだ。 懸垂下降1ピッチでギリギリ雪壁まで降りる。日が傾く中、車へ急いだ。
帰りは浜益温泉に寄る。大人\500。(温泉にとって一番忙しいはずの)日曜日だというのに、けっこう空いている。経営は成り立っているんだろうか。 帰りに見つけた食堂でT平さんに晩飯をご馳走になる。店の名前は忘れたが、まあまあ良心的な値段。ゴッツァンです。

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モンゴロイドの滝を登るに当たっての僕の心理状態なども書いてしまったが、実際はそれほど難しい滝ではないだろう。 現に、『北海道の山と谷』では、「見た目より易しく楽しめる」と書かれているのだから。 あくまで、アックステンションすら怖い初心者にとってはリードするのは怖かった、ということで捉えていただきたい。
でも濃昼の滝で情けない結果になった後に、気を取り直して『絶対にフォールせずに慎重に登る』と願をかけて、 実際に成果を出せたことは自分にとって大きな自信になったと思う。 まだ2003年は始まったばかりなのにこんなことを言うのもなんだが、この1本は僕にとって2003年のベストクライムの一つになるだろう。 (熟練者にとってはモンゴロイドの滝なんてアップにもならないんだろうけど・・・)

記:2003年1月20日(月)


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