中部日高:1839峰南西稜

2003年2月7日(金)〜10日(月)


・1742峰(左)とシビチャリ山(右)
噂のRKR(=Rocket Knife Ridge)

【地図】 ヤオロマップ岳 1/2.5万,ピリガイ山 1/2.5万,農屋 1/5万
【メンバー】
L K川(北大山とスキーの会)
SL K崎(北大山とスキーの会,中央労山)
M K森(北大山とスキーの会)
【予定の行動】
2/7 22:30 千歳駅―24:00 静内C0
2/8 04:00 起床―05:00 C0発―06:30 Carデポ―08:00 取り付き尾根末端―16:00 シビチャリ山肩c1590 C1
2/9 04:00 起床―06:00 C1発―08:00 ・1742―10:00 1839峰―11:30 ・1742―13:00 C1=2
2/10 04:00 起床―06:30 C2発―11:30 取り付き尾根末端―13:00 Carデポ―14:30 静内下山
2/11 停滞日
2/12 下山予備
【実際の行動】
2/7 22:30 千歳駅―24:15 静内C0―24:50 就寝
2/8 04:00 起床―04:45 C0発―06:10 Carデポ 07:00―08:10 サッシビチャリ沢川右岸・402 08:25―
10:10 ・933南東尾根c750付近 10:25―11:40 ・933手前c920 12:05―14:50 岩稜帯手前c1300シーデポ 15:10―
16:10 シビチャリ肩南南西尾根c1370 C1―21:00 就寝
2/9 04:00 起床―05:45 C1発―07:00 シビチャリ山―07:25 1つ目のc1620ポコ 07:45―08:45 ・1742東直下 09:00―
10:10 1839峰手前コル 10:30―10:55 1839峰 11:10―11:25 1839峰手前コル―11:45 c1670ポコ―
12:00 c1630コル 12:15―13:00 ・1742 13:15―14:25 シビチャリ山 14:40―15:45 枝尾根c1300付近登り返し―
18:40 C1=2―22:00 就寝
2/10 05:00 起床―07:30 C2発―09:15 シーデポ地点 09:40―12:30 ベニカル沢の橋付近―13:00 Carデポ

「カムエク南西稜に行かないか?」と山スキー部OBのK川さんから誘われた。

カムエク南西稜!僕が現役の時に部で計画されたが、入念なプレを組み万全の態勢で臨んだにもかかわらず敗退しているルートである。 そのルートを4日間で乗っ越してしまおうという計画!無謀なようにも思われるが、完遂したら間違いなくカムエク南西稜の最短記録である。 やってみる価値はあるかな。参加することにした。
だがミーティングの結果、4日間で乗っ越して下山するのは厳しいと判断せざるをえなかった。 カムエク南西稜のモチベーションを下げることなく4日間で乗っ越しないしアタックできる山。 代わりに白羽の矢を立てたのが『1839峰南西稜』だった。

記録は『北海道の山と谷』の記述と、北大山岳部・ワンゲルの記録3つのみ。 その内の一つ、北大ワンゲルの2000年の記録に、『尾根上にロケットのような尖ったリッジ、RKR (=Rocket Knife Ridge) が出てくる』という記述がある。では、そのRKRとやらを拝みに行こうじゃないか。一同、期待に胸を膨らませるのであった。

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2/7(金)
千歳駅に22:30に集合。そこから高速を飛ばして静内のOさんの家まで。 Oさんのログハウスに一晩お世話になる。 時間も遅いし明日も早いので、早々に就寝。すごく快適な小屋だ。

2/8(土)
山谷では尾根の取り付きからシビチャリ山肩の予定天場まで7〜8時間なく着くとのことだが、山谷の時間読みはあまり当てにならないので、 日の出とともに行動を開始できるように早起き。コンビニ飯で軽く朝食を済ませて出発。
裏技を使ってだいぶ奥まで車で入って、某所にcarデポ。明るくなった頃歩き出す。

除雪は東の沢ダム辺りまで。除雪が無くなっても積雪は踝くらいまでで、快適。 取り付きだが、山谷では・741から東の沢調整池に伸びる尾根に取り付くと書いてある。 山岳部の記録ではベニカル沢を詰めて西側の尾根に取り付いている。 一番最近のワンゲルの記録では、染退橋の手前からサッシビチャリ沢川の右岸に延びるブル道を使って・741先のコルに出ている。 今回はワンゲルのルートを行ってみることにした。
ブル道は染退橋の手前から・402の辺りを通り、c390辺りでサッシビチャリ沢川の右岸に合流する枝沢の右岸に延びている。 この枝沢はけっこう深い。右岸の斜面も急で白く抜けているところもあり、あまり快適とは言えない。ブル道ももう使われていない感じ。 c530の二股付近で鹿の群に遭遇。彼ら(彼女ら)は右股を渡り、・933から南東に延びる尾根を登っていった。 もうこの辺りでは左股右岸のブル道は不明瞭な上、右岸は白い急斜面で雪崩が怖いし、ラッセルもしんどそう。 一方、鹿の群が通った辺りにはブル道っぽくなっている。鹿の野生の勘に賭けてみることにする。
・933南東尾根を巻くようにトラバースし、そこからつづら折のようにブル道が尾根を登っていく。 だが、その内にブル道は消えてしまった。仕方なく、シートラしてブッシュブッシュの急斜面を登ることにする。 ひどく不快な斜面で、だいぶ時間を食ってしまう。 ・・・こんなことなら大人しく尾根の末端から取り付いていれば良かった。 c750辺りで尾根が緩くなってから再びスキーを付け、やや細めのブッシュの濃い尾根を木登りするみたいに登っていく。 ・741からの尾根と合流する辺りでようやく歩きやすい尾根になる。 一同、顔を見合わせて確認する。「このルートはダメだ」と。
この頃から天気が良くなり、非常に暑くなる。まるでGW。シールが下駄になって非常に不快。 そこからはサッシビチャリ沢川側に所々雪庇の出ている尾根をどんどん登っていく。雪庇は高々1m、なんも。 だが、所々雪庇を避けるためベニカル沢側のブッシュの中を歩かなければいけなく、それがウザイ。
・1370の肩のc1300から延びる尾根のc1180辺りでシーデポ。 その上のc1200〜1300は岩稜帯になっているが、容易に巻いたり上を行ったりできる。なんも。 この辺まで来るとシビチャリ山の肩、シビチャリ山、・1742が見える。 シビチャリ山の肩、遠いよ?あそこまで行くの?ゴクイよ? ・1742は予想に反して白くて立派な山。名前が付いていてもおかしくないくらいの山だ。
c1370を越えシビチャリ山肩への急登に差し掛かるあたりで16時過ぎ。 これ以上登っても快適天場があるとは限らないし、明日の行動時間にさして差も出ないので、c1370の急登手前でC1とする。 尾根の側面は木が濃いが、尾根上は木は密では無い。だが天場にするには充分。

予定天場まで頑張らずに日和ってしまった感はあるが、その分は明日取り返せば良い。 しかし、暑い一日だった。着ている物がビショビショだ。全装9時間。まあまあ。 晩飯は3人で白飯4合とレトルトカレー4袋(!)。山スキー部ではあり得ない豪華エッセン。嬉しすぎ。

2/9(日)
棒ラーメンなるものを食べ、暗い中ラテルネを付けて行動開始。
朝一からなかなかハードな登り。 シビチャリ山からの朝焼けを期待したが、そんな淡い期待を打ち砕くガス模様。なぜよりによってアタック日に? ガスとは言ってもまだブッシュは出ていて視界が確保できるし、視界もそれなりにあるのでドンドン進める。 シビチャリ山から・1742方面への下りは直下10m程が急だが、木が生えているのでなんも。 その先も地図では細そうに見えるがなんも。 ・1742への登りの少し緩くなるc1680までES(=アイゼン・ストック)だったが(K崎はそれに+ワカン)、ここでEP(=アイゼン・ピッケル)に替える。 K崎はワカンとストックをデポ。
・1742への登りだし辺りまではベニカル沢側にブッシュが豊富に生えていて視界的なプレッシャーは無いが、ここからはブッシュがまばらになる。 この登りには雪庇はほとんど出来ていなかった。ほどなく・1742JP。

ここからが核心。噂のRKRはc1690の北側から尾根がジャンクションするあたりにあるとのこと。ナイフリッジも出てくる。一同気を引き締めなおす。
視界は相変わらずそれほど無いものの、所々ブッシュが出ているので完全にホワイトアウトすることはないだろうということで、先に進める。 若干細めの尾根を歩いていくと、RKRがあるとの場所に高さ2m程のポコが。 まさかね。いくらなんでもこれをロケットだなんて。そうだよね。ハハハ。 何のことはなくスタスタそのポコを越え、その先の細めの尾根を越える。 その先しばらく歩いてもRKRらしきものは無い。マジか、ワンゲル。 このようにして僕ら1839峰南西稜パーティーのアイデンティティーは脆くも打ち砕かれる。 嘆いていても仕方が無い。雪の状態や風の具合によっては難所になるんだろう。
・1742からの下りのc1650付近は若干細い。が、この辺りから再び北側にブッシュが豊富に出てきて、特に緊張はしない。 c1680ポコやその手前のc1670の部分は八剣山の6・7ピッチ並に細い部分も出てくる。 が、やはり北側は直下までブッシュが生えているし、雪はズボズボだし、風もほとんど無いので、なんも。 でもまあ、今回どこが一番の核心だったかと聞かれれば、ここになるだろう。
1839峰手前のc1650コルで一服し、1839峰への約200mの登りに差し掛かる。 下部は靴が埋まるくらいの雪だが、程なくカリカリになる。 登る分にはなんもだが、上部はけっこう斜度がきつく、下りはしんどそうだ。 そうこうする内にPeakに着く。あの、1839峰に、厳冬期に、立つ。 しかし何の感慨もわかないのは、きっとガスガスでなんの展望もないからなんだろう。

下りは上部では所々バックステップを使ったりしながら下る。アイゼン歩行に難がある下級生がいたら怖いかもしれない。 転んだら滑落停止で止められるかどうかは微妙な斜度・堅さである。 正月の主稜線直下の斜度・堅さに比べたらずいぶんマシだが。
コルからはトレースが付いているので速い。所々風でトレースが消えているけれども。 ・1742での休憩後、K崎が間違って1839峰方面に下りだす。かなり恥ずかしい勘違い。しっかり地図を確認して下るべきだった。 ワカン・ストックを回収し、そこで再びESに替える。 後はなんもで天場まで、と言いたいところだが、ここからが長い長い戦いの始まりであった。

シビチャリ山から肩(c1590ポコ)まで行く前に、c1590から南西方向に延びる枝尾根に入ってしまったのだ。 あと天場まで30分もかからない。もう核心は無い。気を緩めていたのかもしれない。 冷静に考えれば、おかしな点はいくつもあった。 シビチャリ山から下った後、肩へのc10を登っていない。樹林内なのに、(ほとんど雪も降っていないのに)全く登りのトレースが残っていない。 3人ともおかしいと思いながらも間違っていると確信がもてずに下ってしまった。 間違いを確信したのは稜線から約c300も下った地点だった。K崎が尾根の先を確認してくると、先で尾根は消えていた。
ここでビバークするか、ラテルネ行動をしてでも天場に戻るかを話し合う。 まだ暗くなるまでは時間がある。それまでに稜線に戻ることができれば、帰幕の可能性もある。登り返すことにする。 だが、思ったより斜度がきつく、雪の状態も悪く、登りづらい。
諦めムードが漂う。そんな、帰幕したら腹いっぱい飯を食えるはずだったのに。ガンガン火を焚いて暖を取れるはずだったのに。 僕の中には泣き言しか浮かばない。でもK川さんやK森さんは大したことなさそうにしている。 行けるところまで行こう。ダメだったらビバークすればいいよ。 こんな時、何もできず、泣き言しか言えない自分が情けない。泣き言を言ってもどうしようもないのに。 山をやって精神的に強くなりたい、ここ最近はそう思って山や岩を登ってきた。少なからず手応えみたいなものも感じたりした。 でも、結局ほとんど前に進んでいなかったみたいだ。
K川さん・K森さんが精力的に登ってくれて、思ったより早く稜線まで戻ることができた。 どのように道を間違えたかが分かれば、戻ることはさして難しくない。もう真っ暗なため視界はきかないが、コンパスを切り、慎重に進んでいく。 風のため稜線上のトレースは不明瞭だが、所々見つけることができる。 シビチャリ山の肩らしきポコを登り、今度は正しい尾根の方向に下っていく。そして、18:40に天場に着く。 はっきり言って、1839峰に立った時よりもだんぜん嬉しい。正に、黄金の御殿、である。

13時間行動をして、もう喉はカラカラだ。腹も減った。 テント内の生活は、下界の生活に比べたら限りなく質素で、この上なく不便な生活。 でも、何を食べても、何を飲んでも美味しい。ささやかなガスストーブの火が暖かい。それだけで幸せ。

2/10(月)
下山日。札幌は+6℃だとか。信じられん。もう春か。 だが山の朝一はまだ寒い。テントを出ると着ている物がバリッと凍りつく。
今日は登りも少ない。楽な一日だ。昨日の今日だから、地図読みは気をつけないといけないけれども。 ルートは行きとは若干変え、・741から西南西に延びる尾根を下ってベニカル沢左岸の平らなところを歩いて道路に出ることにする。

歩き始めると、何だかK崎の膝の具合が思わしくない。SLなのに申し訳ないが、他の2人にラッセルをお願いする。 行きと同じで、所々ブッシュの中を歩かなければいけないのがウザイがなんも。岩稜帯もなんも。スキーを回収してからはシールで下る。 K崎は膝が痛く全然ペースが上がらない。完全にペースメーカー。申し訳ない・・・。
・741と・933のコルへの尾根は、多少ブッシュが濃いものの、下るのには問題ない。・741への登りも同様。 そこから西南西の尾根に入るが、けっこう斜度もきつくブッシュも濃いので、c620の平坦地から南側の沢に降りてしまう。 ツボでスキーを下に投げながら下る。ベニカル沢左岸の平坦地に出てからはスキーを履く。 この辺はブル道っぽいのが走っている。橋の左岸側のブル道から道路にc15くらい降りるともう下山ムード。 天気はこの上ないくらいの晴天。日高の山々との別れを惜しむように、写真を撮りながらcarデポ地点まで歩いた。

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雪は降っていなかったので、帰りの林道も何の心配も無い。 むしろ日射によって雪が解け、行きよりも雪が少なくなっているくらいだ。 日差しが眩しい。耳を澄ますと、気まぐれに近づいてくる春の足音さえ感じられそうだ。 なんだか名残惜しい気がして車の中からふと振り返る。 すると、今まで僕らの前に姿を見せることがなかった1839峰が、その姿を現していた。まるで、僕らを見送るかのように。 僕は微笑み、心の中で呟く。
「サンキュー、39峰。」と。

記:2003年2月11日(火)


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