利尻岳西壁中央リッジ〜南峰リッジ

2003年5月1日(木)N〜4日(日)


【地図】 鴛泊・仙法師 2.5万図,利尻島 5万図
【メンバー】 K原,H井,K崎
【予定の行動】 5/1:札幌―(車)→稚内フェリーターミナル駐車場C0
5/2:C0―(フェリー)→鴛泊―(タクシー)→大空沢林道終点→大空沢B.C. C1
5/3:C1→第1コル→大斜面トラバース→中央リッジ→グローブ雪田→南峰リッジ→南峰→南峰基部C2
5/4:C2→本峰→北峰→長官小屋→c1250ポコ→夏道の西の沢→夏道→甘露泉→北麓野営場下山
5/5:予備日
【実際の行動】 5/1:1930 札幌―(車)→2330 稚内フェリーターミナル駐車場C0
5/2:0530 C0 1110―(フェリー)→1315 鴛泊―(タクシー)→1345 大空沢林道終点 1400→1615 大空沢B.C. C1
5/3:0200 C1 0345→0500 第1コル→大斜面トラバース→中央リッジ→1715 グローブ雪田 C2
5/4:0330 C2 0530→南峰リッジ→南峰→本峰→北峰→長官小屋→c1250ポコ→夏道の西の沢→夏道→甘露泉→1415 北麓野営場下山

4月にK原さん、H井さんの2人で同ルートに挑み、体調の都合等で敗退した。 そのリベンジ山行が計画され、僕にも声がかかった。 膝に不安があるし、何よりミックス登攀のトレーニング不足もあって一度は断ったのだけど、 残雪期の利尻の絶景が思い出され、気がつくとリーダーのK原さんに電話をかけなおしている自分がいた。 トレーニング不足は明らか。決して無茶はするまい。自分に言い聞かせた。

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5/1(木)
約束の時刻よりだいぶ早くに迎えが来てビックリする。急いで準備をして出発。 飛ばしに飛ばして日付が変わる前に稚内に着いてしまう。アンビリーバボー。 ささやかに安着祝いをしてから車の中で就寝。 僕は数日前から風邪をひいてしまい、微熱があるまま参加。不安が残る。

5/2(金)
車の中でもそもそと朝飯を食べていざフェリーターミナルに向かうと、 なんと時化のため朝一番のフェリーが欠航になっていた。いきなり暗雲が立ち込める。 いっそのこと今日は停滞するかという話も出たが、第2便は出るようなので、 それで利尻に行って沢を詰められるだけ詰めよう、ということになる。 第2便もGWのツアーのために無理矢理出したという感じで、尋常じゃない混み方・尋常じゃない揺れ方だった。真っ直ぐ歩けないくらい。

鴛泊に着くと余分な物をロッカーにしまい、急いでタクシーに乗り込む。 しおり橋を越えて、神磯の林道を少し入ってから左折。 そうすると大空沢にぶつかり、大空沢沿いの林道を数km車で入ることができる。 タクシーを見送ってすぐに出発。

大空沢の下部には全く雪が無く、水も無く、枯れた沢地形の河原を延々と歩く。 その内に雪が出てくる。 タクシーから見て利尻山の上部には雲がかかっていた通り、沢を詰めていくとだんだんガスが立ち込めてくる。 しばらくするとほとんど視界が無くなってしまい、現在地把握すら困難になってしまった。 これ以上進んで西壁の近くまで行ってしまうと落石があって危険なので、だいぶ手前だろうけど天場を切ることにする。

ミートボールなど微妙に豪華な晩飯を食べて、翌日の2時起きに備えて早々と就寝。翌日の好天と安全を祈りながら。

5/3(土)
朝飯の準備をしていると、H井さんが「目の前に大きな壁がある」と言い出す。 またまたご冗談をおっしゃる。 半信半疑で外を見てみると、暗い中、目の前に大きな壁が。Oh!壁!西壁だー。Why? 昨日それほど歩いていないのに。 お茶漬け雑炊をかきこんで薄暗い中急いで出発。大斜面の通過は早朝でないと落石・雪崩の危険があるのだ。

掌岩を左に巻き、第1コルを目指して雪の斜面を登っていく。近づくにつれて西壁の存在感に圧倒されそうになる。 遠目にはだいぶ立っているように見えるのだ。 辺りの雪の上には至る所に落石が転がっている。デブリ跡もある。 急なルンゼを登り、両面に大きなクラックのできた小尾根状を詰めて第1コルに出る。 まだ早朝なので落石の心配は無さそうだ。 今年のGWは雪が少ないようで、大斜面の斜度もさほど急ではなかった。 雪が多い時は壁のもっと上から斜めに雪が付くため、斜度が急になるんだそうだ。 右上ぎみに大斜面を登っていき、頭を出している岩沿いに草付きのある中央リッジの取り付きまで。 まだ朝の5時過ぎだというのにすでに小石や氷の粒がコロコロ落ちてくる。 これでは早朝でないと渡れないというのも納得できる。

取り付きでバケツを掘って(注:雪を掘ったり踏み固めたりしてスタンスを確保することをこう呼ぶらしい) ロープやギアを出してスタンディングアックスでビレイ。リードはH井さん。
ブッシュを掴みながら草付きのバンド状をトラバース気味に登り、リッジ上に出る。中間支点はブッシュで取れる。 途中のブッシュに残置スリング有り。終了点はがっしりした潅木。35m。

山谷ではここからフリーかコンテニュアスと書いているが、まだだいぶ立った草付きなので、ビレイをして登る。 K原さんがロープを1本引いてリード、その後H井さんと僕がコンテニュアスで登る。草付きのダブルアックスと木登り。40mくらい。

そこからはコンテニュアスにして、若干傾斜の落ちた尾根上をブッシュを掴みながら攀じ登る。 ムカつくくらいブッシュが生えているのでさほどプレッシャーは感じないが、両側はスッパリ切れ落ちていて高度感がある。 バイルやピッケルがブッシュに引っかかって、非常にうざったい。 「下山したら叩き折ってやるからな、このヤロウ」と思いながら登っていた(注:借り物です)。

10mくらいのスノーリッジが出てくるが、左側にブッシュが生えているので、あまり怖くはない(右側は奈落の底)。 スノーリッジ終了点が山谷にも書いてある尾根上の小さな岩。 リッジ左側面の潅木にアンカーを取って、H井さんリードで左に巻き気味に越える。 山谷では「強引にずり上がる」と書いてあるが、巻いた方が楽。小岩上の潅木でビレイしてスタカット。

その先が中央リッジ核心部の露岩である。 山谷では「一段上のバンド状に上がり、右か左にトラバースして直上すればよい」といとも簡単に書いているが、 崩壊が進んだためか、そんなに簡単ではない。 執筆者のT平さんは「足をガバッと手を使って上げて、バイルを利かせながらバンドに乗りこむ」と言っていたが、 そもそも取り付きとバンドはそのような位置関係にはない。 バンドの右下に岩が剥がれたような跡があったので、おそらく以前はそこに足場があってそこからバンドに立ちこめたのだろう。

まずK原さんリードでザックを背負ってトライするが、敗退。空身になって再トライするが、やはり敗退。 フレーク状の岩に乗り、その上のランナーを取ったブッシュに乗り込むところまでは行くのだが、 その先のバンドにどうしても乗り込めない。 気温さえ低ければ草付きにバイルをきめて這い上がれるのだが、気温が高すぎて草付きに全然バイルがきまらないのだ。 どうしようもなくて左のほぼ垂直の草付きにトライしようとするが、この気温の状態ではそちらも自殺行為。
「ここまで来て敗退か・・・?」というムードが漂う。
「あの鬱蒼としたブッシュ壁をクライムダウンするのは無理だ。というか嫌だ。」と思い、リードを志願した。 (今思えば、これは大きな間違いだった)

K原さんと同様に、フレーク状の岩に乗る。この辺は足場はあるのだが、ガバかと思いきやホールドが甘い。 中腹のブッシュに乗り込むが、その先のバンドはそこからだいぶ左で、腕を伸ばしてやっとバイルが届くくらい。 とても足は届かない。壁の微妙なスタンスに足を置き、バンド下のブッシュに乗り込もうとするが、 足が滑ってあまい草付きに刺した左手のバイルの片手ブラ状態になり、ひどくパニックになる。 ギャーギャー喚きながら右手にピッケルを持って草付きに打ち込む。本当に泣きが入った。 みっともないくらい喚きながらなんとかバンド下のブッシュに足を乗せ、バンドに這い上がった。吼えた。 達成感とかはどうでもよくて、ただただ無事にバンドに上がれて安堵した。

たまたま何事もなかったが、ここは怪我をしていてもおかしくなかった。 もっと言ってしまえば、怪我をしなかったのが不思議なくらいだ。 自分の力量を遥かに超えたものに安易に挑んでしまい、たまたま何かの手違いで登れてしまった。まさにそんな感じだった。 あまりの無謀さ、身の程知らなさにただただ呆れるばかりだ。要猛反省。

後続の二人はセカンドなので、空身で先ほどの左側の立った草付きの壁を登った。ザックは上から引き上げ。 みんな疲労困憊したのでここで長めの休憩を取る。

その先は僕が全部リードするつもりで、次の1ピッチを登った。 その次のピッチは左手の雪渓を登ってからリッジに戻るはずだったが、リッジへのトラバースは岩々していて あまりバイルがきまらず、また木がなくほとんど中間支点も取れないことから割と潅木の多いリッジ側面を攻めようと考えた。 登っていくと、意外としんどい。核心ピッチでの疲れもあり、フォールしてしまう。 4〜5m落ちて下向きの木に巻きつけたスリングで何とか止まっていた。要反省。

どこも怪我は無さそうなのでそのままトラバースしてリッジに戻ろうとするも、やはり最初に思った通り、非常に悪い。 そうして足掻いている内に再び力尽きてフォール。 フォールというよりは中間支点のすぐそばだったのでテンションをかけるくらいのつもりだったが、 全然止まらずにどんどん急斜面を転がっていく。 7〜8m落ちてようやく止まった。だがロープが絡まって身動きが取れない。腰も打ったようだ。 ビレイ点のすぐ近くまで落ちていたので、K原さんが助けに来てくれた。 そこでセルフビレイをとり、以後はK原さんにリードをお願いする。 後で聞くと、なかなか止まらなかったのは、フォールの際の落石がビレイヤーのH井さんのメットに直撃し、 一瞬意識が飛んだためだという。申し訳ないです。

リッジに戻り、その後草付き・木登りの3ピッチ程でグローブ雪田に出た。 最初は時間に余裕があったのに、途中ではまったせいでグローブに着いたのはだいぶ遅くなってしまった。 途中ミゾレが降り始め、それが雨に変わった。 びしょ濡れになってしまいガタガタ震えていたので、グローブ雪田が見えた時は本当に嬉しかった。

斜面を切ってテントを設営。黄金の御殿へと逃げ込んだ。 燃料には余裕があったので火はずっと焚いていたが、すっかり濡れてしまった衣類は完全には乾かなかった。 とりあえず今日は生き延びられたという安堵感。 今日はもう登らなくてもいいという開放感。 美味しい食事とウイスキーの満足感。 今日の数々の失敗の情けなさ。 そしてほんの少しの達成感。 複雑な思いでシュラフにもぐりこんだ。 長い一日が終わった。

5/4(日)
朝は割とゆっくり起きた。外に出てみると、清々しい空。 隣りには攻撃的なスカイラインを引いている仙法師稜と、白くなだらかな長浜尾根が見える。 昨日の午後は散々の天気だったが、今日は天気に恵まれそうだ。 ジフィーズを食べて出発。

ノーロープでグローブ雪田を登る。割と急なので、朝一番の堅い雪面だと少し緊張する。 下から見ると、南峰リッジには全然雪が付いておらず、黒い。 南峰リッジに取り付くが、下部2.5ピッチ分くらいはノーロープで登る。 中央リッジに比べると緩めのブッシュの生えたリッジ。木を掴んだりアックスを打ち込んだりして登る。 K原さんは「木を掴むと握力を消耗するから、バイルを打ち込んでそれにテンションして登った方がいい」と教えられたが、 ノーロープなので万が一のことを考えるとどうしても木を掴んでしまう。まだまだだなぁ。

傾斜が出てきたところでアンザイレンする。全てK原さんリード。 2ピッチほど木登りと若干のダブルアックスでリッジを登ると、10m程の緩い雪尾根に出る。 この尾根の頭から10m程が、山谷にも記述のある「鋭く切れ落ちたスノーリッジ」になっている。 両側がスッパリ切れているので高度感はあるが、幅自体はさほど細くない。 もちろん、雪の付き方によって全然違ってくるんだろうが。 雪尾根頭に出ていたブッシュでビレイし、K原さんリードで通過。

次のピッチはリッジを左に巻き気味に緩い草付きの凹地形を詰めて、最後にリッジ上に戻る。50mロープいっぱい。 ブッシュを掴んだり、アックスを使ったり、普通に歩いたり。

次は少しブッシュとアックスを使って登り、上部の細めのリッジをやや右から回り込むように取り付いて登る。 ビレイ点に着くと、この上の雪面を10m登れば南峰Peakだと教えられる。 Peakはもう少し先だと言われていたので、驚く。雪壁をサクサク登って南峰Peakに立つ。

その時感じたのは達成感ではなく、「ここまで来れば何とか無事に帰ることができそうだ」という安堵感だった。 記念撮影をしてから、頭を出していた少し弱々しい這松に懸垂支点をセットして南峰基部に降りる。 南峰直下は10m程の岩壁になっているので、懸垂下降で降りるのが一番楽で確実だ。 南峰基部の雪のバンド状を歩いて本峰基部まで。 本峰直下の稜線は若干立っているので右側面に回り込み、アンザイレンしてK原さんリードで雪壁を登って稜線上に戻る。 10m。日射で雪がグズグズになっているので悪そうだ。 H井さんは雪壁をフォローしたが、僕は少し戻って稜線上を登ることにする。こちらも雪がグズグズ。

その上が山谷にも記述のあるロープを出す部分(本来はこの下から合わせて1ピッチ40mで登るんだと思う)。 K原さんリードで岩が露出している浅い凹角状をだましだまし3m程登ると終了。そのすぐ先が本峰になっている。 後はロープを解いて尾根をスタスタ歩くとほどなく北峰に着く。

北峰には北尾根からの登山者がたくさん。北大のワンゲルもいた。スキーを持ってきている人も多い。 記念撮影をし、今日のフェリーに間に合わせるべく急いで降りる。 膝の調子の悪い僕は、膝を庇いながら歩いているせいでだいぶ遅れてしまう。 長官小屋を過ぎ、その先のc1250ポコを越えた左手の沢型を下る。 上部はだいぶ急な斜面で、疲れた足の筋肉と膝にこたえる。 ある程度緩くなってから一気にシリセードで下る。実は僕はシリセード初体験。すごい楽チンだし、楽しい。 シリセードで滑られないくらい緩い斜度になってからはひたすら歩く。 その内に夏道に合流。後は暑さにヒーヒー言いながら北麓野営場まで。 K原さんとH井さんは、甘露泉で奥さんへのお土産にすると言って水を汲んでいた。 僕には残念ながら奥さんはいないので、汲まない。無念。

野営場でタクシーを呼び、鴛泊のフェリーターミナルで乾杯。 鴛泊から見る利尻は白く、鋭い。つい数時間前にはあの頂上にいたのだ。 つい一日前にはあの反対側の壁の中腹にいたのだ。
温泉に入る時間は無さそうなので、近くの食堂でラーメンを食べてフェリーに乗りこむ。 行きとはうって変わって穏やかな海。傾きかけた陽に照らされた海がきれいだ。 利尻の雄姿を目に焼き付けようと甲板に出た時にはすでに海上に薄く靄がかかっていて、 ぼんやりそのシルエットが見えるだけだった。

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今回はというべきか、ここ数年というべきか、GWの利尻は雪が少ないようだ。 最近の利尻のベストシーズンは4月半ばかもしれない。 実際、K原さん・H井さんが4月に挑んだ時には西壁は程よく白く、登りやすそうだったということだ。

今回は寡雪に加えて異常に気温が高かったのも災いした。 雪が多ければ雪面に、少なければ草付きにダブルアックスで越える部分がある。 気温が高いとそれらが緩んでしまってアックスの利きが甘くなってしまうので、非常に困難な登攀になる。 いくら気温が高くても朝一番は冷え込んでいて雪も草付きも締まっているので、そのような場合にはできるだけ早朝から 行動するように心がけるべきだろう(言うまでもないことだけれど)。

個人的には反省の多い山行だった。 一つ一つの動作の手際の悪さ、2度のフォール。 これらはいただけないが、経験を積んでいくことで改善していくことができるのではないかと思っている。

僕が一番まずかったと思っているのは、核心の露岩で突っ込んでしまったことだ。 草付きが緩み、ボルトが無いという状況では、あそこで敗退するのが正解だったと思う。 もちろん、適切にプロテクションが取れているなら、多少の無理もアリかと思う。 だが、今回はろくにプロテクションが取れず、落ちたら間違いなくグランドフォール・大怪我という状況だった。 自分の力量を測りかねること、相手の力量を測りかねることは、山登りで一番重大ななミスを引き起こすような気がする。 これは山登りに限ったことではないのかもしれないが。

シンアイスのアイスクライミングやボロイ岩壁のドライツーリングなどというハイレベルなクライミングをしている人 にとっては、あの程度は難なく越えられるかもしれないが、 そうでなければ安全に越えるためにはボルトを持って行くことをお勧めする。 すごく雪の多い年や寒波が入っていて気温が低そうな時はいらないかもしれないが。

最後に。
リーダーのK原さん、色々迷惑をかけてごめんなさい。パーティーをグイグイ引っ張って行ってくれてありがとう。 しんどい状況でも動じないその精神力と、経験に裏打ちされた技術の高さには頭が下がります。 まだまだ現役で登攀できますね。
H井さん、天場に着いてから少し怠けてしまってごめんなさい。 僕が一番下っ端だったのに、水用の雪を作ってくれたりして申し訳なかったです。 ビレイもH井さんがしてることが多かったような・・・。

総括:もっと精進しますm(_ _;)m

記:2003年5月27日(火)


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