滝谷出会 (第四尾根登攀記)
1980/4/27 - 1980/5/2
4月27日
夜行列車から、神岡に降り立つ。
寝ぼけ眼に朝日がまぶしい。
熊本では散ってしまった桜が、神岡の町では今満開である。
タクシーで新穂高温泉に着く。(7:00)
今回の山は僕にとって初めてのビックルート・・・
心の底によどむ不安、恐れ、そして確信、登攀への想い、それから重いザック。
空が青い。峰々は、白く輝いている。
指導書の前でシュラフに入った宮川さんに会う。
笑顔。
登山届けを出すと、指導所の人が「行ってくれるな」と言いながら、
遭難者のビラを5枚もくれる。
滝谷には、6体以上がまだ眠っているという。
不安はあっても、気持ちに変わりはない。
「グリーン穂高」にて朝食を摂り、店の人に山の話を聞いて 8:00に出発する。
穂高平へのヘアピンカーブを描くところで、左の廃道に入る。
蕗の薹が雪の間から顔をのぞかせている。
春の日差しを浴びながら のんびりしたハイキングを楽しんでいると、
どこでルートを間違えたか 藪こぎに苦労する。
急斜面を登り、元の林道に戻って白出沢で一息つく。
宮川さんは、仕事疲れできつそうだ。
チビ沢のデブリを越えて、11:45 滝谷避難小屋に着く。
なかなか立派な小屋なのに中はゴミだらけ。
冬の滝谷を登る人と言えば、かなりのエキスパートなのに・・・
情けない。幻滅。
滝谷の水を汲む。冷たい。
上にいる遭難者のことを思う。
もしかしたら僕も と不安がこみ上げてくる。
時間があるのでカメラと望遠鏡を持ってひとりで雄滝の偵察に行く。
石や氷がブーンと剥げ落ちてくる。
登攀中に落石や雪崩に遭ったらひとたまりもない。
滝谷は、どでかいスケールである。
雄滝の遙か上方にドームが見える。
あの高さまで登るのかと思いながら、ルート偵察をする。
雄滝左側の階段状岩場にフィックスロープが3〜4本残っている。
小テラスに2人パーティが大休止している。
明日は、ここを登ればいいだろう。
左に鳥の巣を見つける。
あの小さな鳥だって、冬はここで過ごしたのかと思うと心強い。
空模様がおかしくなり始めたので退散することにする。
小屋では、宮川さんが紅茶を沸かしてくれた。
宮川さんも僕も、疲れで眠い。
雨が降り始めた。
東京の3人パーティが雨に濡れてやってきた。
聞けば第四尾根を登るそうだ。
少々ライバル意識を燃やして、明日は雨かな・・・沈殿だな・・・と思いながら寝る。
滝谷概念図
4月28日
4:00 に起きたが、雨が降っていたので眠る。
6:00 頃エッセンをしていると、霧が晴れて天気が良くなってきた。
早速、登攀の準備に移る。
ラジオが全くはいらないので、こんなことになってしまう。
東京のパーティは出発した。
どうせ順番待ちならば、ゆっくりしょうと思っていたら、東京のパーティは忘れ物をしていた。
届けてあげなければ。
8:30 出発
9:00 頃 雄滝の下に着く。
まだ、時間がかかりそうだ。
雨のせいで雪が解けて崩れている。
10:00 過ぎ 取り付き。
僕がトップフィックスをたどる。
氷が硬く、荷物が重くて、苦労して登る。
雄滝の流れ以外何も聞こえない。
ホールドの間隔が長く、アイゼンを引っかけるようにして、腕力で登る。
ビレイを取って、宮川さんが登る。
宮川さんも時間がかかっている。
あとで聞くと、僕が使ったハーケンが2本も抜けたそうだ。ゾーーッ
先行した東京のパーティが降りてきた。
An accident だそうだ。
滝谷は僕たちの貸し切りのようだ。
12:00 何とか雄滝を越えて眼下に見下ろしながら、今度の登攀に対する確信を深める。
雄滝の上は、デブリだらけ。
小休止のあとデブリを越える。
周囲に落石の音が響く。
13:30 滑滝下に着く。
デブリの下に埋まっているはずの滑り滝は、壊れそうなスノーブリッジを残して、完全に露出してしまっている。
落石が降ってくる。
早く抜けてしまいたいところだ。
僕が空身で登る。
ホールドが小さい。かなり腕力を使う。
ザイルをフィックスして、ザイルで荷物を引き上げることにする。
しかし、荷物が重いので、岩に引っかかって難航。
宮川さんのザックは、宮川さんが担いでユマールを使いながら、上で僕が引き上げて手伝う。上手くいった。
やっと滑滝の真ん中のテラスに着く。
浮き石が多く、ちょっと寒々した所だ。
フィックスザイルがある左側の岩場を巻くことにする。
僕がトップで登る。
ハングぎみ、雪がホールドを埋めている。
ハーケンを打って、ザイルを固定し、アップザイレンする。
宮川さんがユマーリングで登る。僕は写真撮影。
僕もユマールで登る。
もうザイルは完全に濡れてしまっている。
クライミンググローブで登っていた僕はとても冷たい。
慣れないユマールでかなり時間を食う。
滑滝を越えると60゚〜70゚位ある雪面に出る。
スタカットで登る。疲れも出てきて、ガスってくる。
17:00 頃だ。 そろそろビバーク地を見つけなければならない。
雪崩や落石のおそれがあり、ガスで水が滴るような状況でいい所が見つからない。
4ピッチ位登ったと左側の岩の下にする。
ここなら、体が落ちても落石などの心配はいらない。
雪をかなり切って広くしたがそれでも2人寝るのがやっと。
紅茶を飲んで、まず一服。
「宮川さん、生きているって 気がしますね」
「う〜む、そうだな〜」
なんて話す。
クロカワゲラがゴソゴソ歩いている。
こんな所で生きているのか。
今日の晩飯は、アルファ米、レトルトパックシチュー滝谷風。
なんでこんなのが旨いのだろうか?
うまい。
満腹感に満ち足りた気分でツェルトを被る。
宮川さんは、セルフビレイを取ったままで寝るようだ。
僕はビレイを取らない。じっとして寝よう。
空に散りばめられた星を見ながら・・・
ウト ウト ウト ・・・ ・・・ ・・・
滝谷概念図
4月29日
4:00 起床。ガスも晴れていい天気になりそうだ。
昨日濡れたザイルは、今日凍ってしまっている。
ツェルトの内側は、真っ白になっている。準備完了。
出発 6:10 スノーボールのデブリの上をコンティニュアンスで登る。
急登。かなりの重労働だが、高度は稼げる。合流点で小休止。写真撮影。
滝谷のど真ん中にいる。宮川さんと二人っきり。今まで見ていた滝谷と全く違う。素敵だ。
スノーコルまでC沢を詰める。氷が張った岩場も所々切れて水が流れている。
どこまで行けば、スノーコルがあるのか?長い登りにうんざりだ。
C沢左俣が見えた。クラストした急な雪面を登る。
8:50 スノーコル。大休止。かなり登ってきたのだ。視界が開ける。
ドームが大きく見える。登攀への期待と不安が高まる。緊張する。
登攀準備をしていると、小鳥が飛んできた。レーションの干しバナナをやると
かわいい嘴でついばむ。でも硬くて食べられないらしい。
ビスケットをやるとよく食べる。かわいい。平和だ。心も和み落ち着いてくる。
カメラを出して、ピントを合わせると、小鳥は飛び去ってしまった。残念。
気を取り直して、登攀開始。
1P スノーリッジ。宮川さんがトップ。
2P 僕がトップ。雪と氷と岩のミックス。
浮き石が多く、不安定なホールド、荷物が多く苦労しながら夢中で登る。
3P かぶり気味のところ赤茶けたピークを目指して、空身で宮川さんのトップ。
フィックス完了して宮川さんが登り直す。宮川さんは、ユマーリングに慣れてきて速い。
僕は巧くいかない。時間がかかる。
4P 僕がトップ。雪がないようなのでアイゼンをはずしてAカンテを登る。
D沢側を登り、フィックス。雪がやはり残っている。宮川さんがアイゼンをつけて登る。
僕は少々疲れた。そんな僕を第四尾根のテーマ「大空と大地の中で」が励ましてくれる。
歌を二人で歌いながらニコニコしている。
5P Bカンテ、僕がトップ。荷物を担いだまま、小さいホールドにアイゼンを引っかけながら
ハーケンをかなり打って登る。腕力登攀。
スノーリッジに出てビレーを取る。ハーケンを打つリスがない。何とか打っても打つとリスが
大きくなって抜けてしまう。浅打ちのままビレー。
宮川さんは、そんなビレーとも知らずにザイルを引っ張ってゴボウで登る。
6P 宮川さんが、雪庇に注意しながらトップ。
7P Cカンテ下まで僕がトップ。ザイルが絡まり面倒くさい。もうすぐ日暮れになるだろう。
今日は、ツルム正面壁側にアップザイレンして、ツルム正面壁取り付け付近のハング下を
ビバーク地にする。荷物を運んで、1ピッチ分フィックスを張る。
ホールドの乏しいCカンテ。アイゼンが引っ掻いた跡がたくさんある。
1年生の夏に僕はここをどうやって登ったのだろか?難しい。
Cカンテを越えて雪面のトラバース。ビレーがとれない。緊張する。
ベルグラが張っていて。脆い岩場を登る。ガリーは、完全に氷が張り詰めて、コンクリートの
壁みたいだ。明日の登攀は、今日よりずっと困難になるだろうなと思いながらフィックス完了。
ビバーク地を整備する。岩の屋根は低く何度も頭を打つ。狭いビバークサイトだが、ツェルトが
顔につかない分快適なビバークになりそうだ。
17:30 疲れた。笠ヶ岳の稜線に赤い太陽が沈む。美しい。
今日の晩飯は、牛飯ジフィーズ滝谷風だ。
毎日飯が旨い。明日の登攀はきつそうだ。稜線は遠い。
滝谷概念図
4月30日
目が覚めると、目の先10cmと離れていない所に岩の屋根がある。ここは滝谷なのだ。
悪そうな天気につかれも手伝って沈殿することにする。
朝飯を食って、ツェルトを張り直して荒天に備えることとした。
ツェルトを張り直す作業中にガスが沸き風が出て雪が降り始める。ちょっと寒い。
ツルム正面壁から絶えずスノーシャワーの攻撃に遭う。
ここで、借りてきたゴアテックスのシュラフカバーが威力を発揮してくれる。
部区のシュラフは濡れないのに、宮川さんの新しいシュラフは、ぐっしょりと濡れている。
カワイソー。やっとラジオが入るようになり。天気図をつける。
きっと明日はいい天気だろう。一日ゆっくり休む。
5月1日
4:30 起床。雲の切れ間が見える。昼からは、晴れるという天気予報。
回収に手間取りながらも6:30 出発。
宮川さんは疲れもとれ、ファイト満々のようだ。ドンドン登っていく。
こうなると、僕も負けてはいられない。登攀開始。
荷物が軽くなってきたとはいえ。ホールドが少ないCカンテの登攀は難しい。
スリップ!! 岩にしがみつく。ヒャーリ。さて、どう登るかな。また、ホールドを捜す。
小さなホールドにじわりと体重をかける。「今度は滑るなよ」と祈りながら一気に体重を移す。
上手くいった。
昨日からの雪でホールドは完全に埋まり、ベルグラは硬く凍り、雪の下に隠されている。
一昨日切っていたステップは、何とか残っているようだ。
フィックスを回収しながら、さて いよいよ核心部に入る。
二人で第四尾根のテーマを歌いながら、登っていく。難しい。でも、楽しいのだ。
2P 宮川さんがトップに立つ。僕は下でビレー。新雪が積もったベルグラの登攀。
宮川さんが雪をかき分けてステップを切り、ホールドを捜し登っていく。
下にいる僕は、氷の固まり混じりのスノーシャワーに悩まされた。
なにぶん、昼からは晴れるだろうということで、シャツとレインコートの2枚しか着ていないの
だから、少し寒い。
「ラック!!」 宮川さんの声。反射的に上を見る。落石。「ガーン」。
僕のヘルメットに見事命中。頭が震えている。軽い痺れに似た感じ。
落石の行方を確かめたのだが、まっすぐに僕のほうに来たため避けられなかった。
でも幸運。ヘルメットでよかった。気分はいい。
今までの僕の山行のすべてを、そして僕自身を賭けているという感じが僕自身を満たしている。
後続のパーティが来た。北穂からのアタックのようだ。彼らの身軽な登攀に比べれば、
僕たちは、まるでカタツムリのようなのろい登攀だ。できるだけペースを上げてピナクルまで
行こうと思いながら、3P 僕がトップになる。ホールドはすべて雪の下に隠れている。
でも難しいとは思わない。
ピナクルでハーケンを打ってビレーを取る。
僕の登攀中にも宮川さんにかなりスノーシャワーがかかったようだ。お返し。
ザイルが完全に凍りついているからエイト環では、ビレーし難い。肩確保。
後続のパーティを先行させる。
9:00 ♪「どれ程目を凝らしたら稜線が見えるのだろう。」と歌いながら、天気は悪いし、
風は強いし、寒いし、バカな話を二人でしている。傍らで見たなら、滑稽だろう。
少しでも、気を紛らわしていなければ気が狂いそうだ。C沢右俣奥壁はガスに見え隠れしながら
雪も寄せ付けないで黒々と異様な面を見せている。天気は悪くなり、もはや回復の兆しはない。
一挙に冬山に飛び込んだようだ。じっとしているということが辛い。
幸い二人パーティが先に行った。
10:40 4P 僕が空身でトップ。ここは最も難しく最悪の所だ。吹き付ける雪、寒さ、ツルムの
側壁フェイスは完全に凍り付いて、浮き石はあるし、残置ハーケンは見当たらないし、ホールド
は乏しく、捜そうとしても目に雪が吹き付けて痛い。涙が出る。
メガネも雪が溜まって凍り、磨りガラスのように何も見えない。体が強ばって、動きが鈍い。
このまま転落してしまいそうだ。手袋は破れて指先が露出している。痛い。
痛いってことは、凍傷も大したことはないと自分を励ましながらも、手に力が入らない。
バランスが悪い。やはり、腕力がなければ登攀は難しいということを痛感しながら、
もっとトレーニングしておけばと悔やまれてならない。
凹角の所まで何とか攀る。生きた心地がしない。
あと 5m ちょっとで抜けられそうだが、カラビナが足りなくなってきた。
だいぶん掛けてきたからだ。ザイルの残りも少ないのでフィクスしてアップザイレンする。
寒いユマーリングに不要なカラビナを回収しながら下る。
手が巧く動かないので、口にくわえる。一瞬口に張り付くのが分かった。
すぐ、はずす。唇が痛い。宮川さんにカラビナを渡す時、1枚のカラビナを落としてしまった。
C沢へ落ちてゆく。ガスの中に吸い込まれてゆく。怖いと思った。
宮川さんがユマーリングで登っていく。寒さで体の震えが止まらないという。
しかし、流石 宮川さん。スルスルと登っていく。僕は下でじっとしてビレーをする。
じっとしていることが、これだけ辛く耐え難いものとは思わなかった。
大声を張り上げたくなる。気が狂いそうだ。左手の指先がおかしくなり始めた。歌も歌えない。
無力。滝谷の中にいて壁は厳として僕の前に立ちはだかる。
自然は僕にとってあまりにも大きい。
宮川さんは、登り切ったようだ。確認し難い。
5P 凹角のフィックスを開始したようだ。僕はユマールを降ろしてもらって登り始める。
動いている方が気が紛れる。しかし、遅々として捗らない。目は見えないし、手の動きも鈍い。
フィックスを回収するうちに、装備はゴチャゴチャになる。苛立ち。
何とか凹角を越えて、ツルムの左肩に出る。装備がこんがらかって、身動きが取れない。
回収したザイルで宮川さんがアップザイレンの用意をしてくれている。
6P 下降。ザイルが凍っているので制動が難しい。コルに着く。強風。
両方の沢から吹き上げてくる。それでもコルは雪に埋まって夏山より 2m 位高くなっている。
ビレー用のハーケンも埋まっているので新たに打つ。
風は、僕たちを谷底へ誘っているようだ。ふぅーと、このまま吸い込まれてゆけば、どんなに
楽だろうかなんて思う。悪魔の誘いだ。
少し雲が切れ、太陽が見えた、ちょっぴり暖かくなる。でも、すぐに隠れてしまう。
”もっと光を! もっと太陽を!!” と喚く。喚いてもどうにもならない。
左手の中指がますますおかしくなる。第四尾根のテーマを歌う。
この歌が僕を励まし、宮川さんを励ます。もう一頑張りだ。
14:00頃 7P 夏のIVのピッチ。僕が荷物を担いだままトップに立つ。
指先に力が入らない。小スリップ。苦しい登攀。
巧く抜けることができた。
早くしないと日が暮れてしまう。大きなテラスに出る。全くの吹き曝し。
雲が僕たちの方に向かっているみたいだ。
宮川さんをビレーする。荷物を吊り上げる。小休止することにする。
ツェルトを出す。このとき僕は、ザックからゴミ袋を落としてしまった。焦りがあった。反省。
二人でツェルトを被り、紅茶を飲みやっと人心地がついた。
宮川さんの顔は、氷だらけ、耳には氷が張り付いて、つららのイヤリングをしている。
宮川さんにこのことを話すと全く感じないという。これは、耳を切断しなければならないのかな
と思いながらゾーっとする。
朝から何も食べていない。レーションを一所懸命食べる。
こんな所でビバークしては、死ぬんじゃないかなと思いながら 15:00頃早速出発。
8P 宮川さんトップ。Dカンテを右に巻く。ザイルの流れが止まってしばらくすると、ツルム
の左肩にクライマーが現れる。ツルムの頭に登ろうとしているので教えてやる。
4〜5人のパーティのようだ。
宮川さんのビレー解除の声。登攀開始。後ろのパーティはもう遅いのでコルでビバークらしい。
大変だろうなと思いながら、9P 宮川さんトップ。Dカンテよりかなり右のハング気味の凹を
人工で攀る。
「終了点だ。」 と宮川さんの声。
僕はザイルが絡まって、なかなかユマーリングが巧くいかない。何とか越えた。終了点。
でも、まだ終わらない。稜線はまだだ。終了点に着いても喜びもない。無心だったと思う。
気も抜けない。一歩誤れば、昨年の秋山の時蒼山会の人を呑み込んだ滝谷の底へ・・・
美しい地獄は、すぐそこにパックリと大きな口を開けている。
浮石や、表面のクラスとした雪面のミックス。ルートもはっきりしない。
10〜12P スタカット登攀。
稜線に出る。蒼山会の遭難した地点に出る。
夏道を辿って、秋山の時長居したテントサイトに出る。終わったのだ。
17:00 頃、宮川さんがザイルをはずして最低コルから、涸沢へ下降を開始する。
僕はザイルを回収して、すぐ後を追う。
風が強い。クラストしていて、転びそうになる。
「慎重に慎重に」と自分に言い聞かせながらも、ここで、滑落しても大したことはない。
色々と今回の登攀が走馬燈のように浮かんでは消える。涸沢のテント村の灯りが見える。
下降は、楽だ。膝の痛みも気にならない。生きている。満足だ。
18:30 涸沢小屋
に着く。今日は小屋泊まりと決定。宮川さんと堅い握手。笑みが浮かぶ。
互いの労をねぎらう。小屋の中では人々がストーブのある部屋で、酒を飲みながら楽しそうに
語り合っている。下界に着いたのだ。
装備を揃え、後始末。晩飯にありつく。おかずは山菜に煮魚。ごちそうだ。
生米を炊いたご飯。本当に旨かった。ありがたかった。
宮川さんは、食がすすまないようだ。疲れで食べられないという。ハイエナの金子は宮川さんの
分まで食べた。夜は布団に寝る。手のしびれ、体の痛み、でも生きている。
疲れと興奮であまり眠れない。
穂高周辺概念図
5月2日
5:40 床を出る。
朝食ができるまで涸沢を眺めて過ごす。美しい。生きているからこそ美しいのだろう。
前穂や奥穂が雪煙をあげながら、白く、気高く輝いて聳えている。
風は強い。太陽がまぶしい。そして、全てがすばらしい。
今回の山行は、最悪にして最高のものだった。
7:30 小屋を出る。
穂高を振り返りながら、僕は山に惚れたんだなと思う。山から惚れられると、山で死ぬ羽目に
なりそうだから、片想いの方がいいのだろうか。
楽しい下り。夏道と違って左側をトレースしてある。宮川さんは胃の調子が悪いようだ。
何度も振り返りながら下る。暑い。高度を下げるに従って、春らしくなる。
屏風岩には、2〜3パーティいるようだ。
多くの人とすれ違う。横尾あたりまで来ると、もう雪はあまりない。小屋あたりは人だらけ。
みんなゆっくりと休んでいる。
白銀の前穂を眺めながら、春の陽射しを浴びて涼しい風が心地よい。
残雪の間から、ここにも、ふきのとうが頭を出している。新穂高とよく似ている。
昨日が嘘のようだ。人々が次々とやってくる。
徳沢。
明神。
アベック、ハイヒールの女の人。
稜線には雲がかかっている。あそこは多分吹雪なのだろう。
13:10 上高地に着く。
人混みの中へ帰ってきた。下界もいい。きれいな人がたくさんいる。
河童橋でベンチに座り、穂高を眺めながら、今回の山行を想う。
おわり
穂高周辺概念図
果てしない大空と
広い大地のその中で
いつの日か幸せを
自分の腕でつかむよう
歩き出そう明日の日に
ふり返るにはまだ若い
ふきすさぶ北風に
とばされぬよう とばぬよう
こごえた両手に
息をふきかけて
しばれた体をあたためて
生きる事がつらいとか
苦しいだとかいう前に
野に育つ花ならば
力の限り生きてやれ
こごえた両手に
息をふきかけて
しばれた体をあたためて
果てしない大空と
広い大地のその中で
いつの日か幸せを
自分の腕でつかむよう
自分の腕でつかむよう
手記 メンバー A
手記 メンバー B
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