あわや遭難 雪洞ビバーク


 3月28日7時14分、白馬大池着。今回は東京のO氏の都合が直前に悪くなり、単独での山行となる。
 8時30分始発のゴンドラリフトに乗る。9時〜9時半、栂の森ゲレンデ。
 天狗原12時50分着。快晴。































 天狗原の祠より小蓮華方面を見る。ガスが湧いてきた。






















 天狗原の祠より、蓮華温泉方面を見た。3月というのに暑いくらいの天気だ。










 13時35分、天狗原出発。

 弥兵衛沢に滑りこむが、雪は重く深くスキーのトップはもぐったままで、満足な滑降はできない。この年は近年にない豪雪だったせいだ。






 コースの途中で、今回めざす予定の朝日岳(2418m)が青空をバックに出迎えてくれた。












 16時、去年の倍以上の時間がかかって、ようやく蓮華温泉ロッヂに到着。ロッヂには私の他に1パーティーのみ。彼等も朝日岳を狙っていて、今日は、平馬の平の辺りまでラッセルしてトレースをつけて来たとのこと。予想以上の豪雪で思うようにトレースを延ばせてないようだ。この時点で朝日も雪倉も単独行での登頂は無理と判断、明日、下山することに決定する。


 3月29日 曇り・小雪 
 8時10分、ロッヂ発。
 11時、角小屋峠の下部に差しかかるころ、ビンディング(マーカーTR)の片方に異常発生。踵を上下させるためのプラスチック製の腕の部分にヒビがはいり、ガタついてブーツが外れてしまう。仕方なく滑降用の踵固定のままで歩く羽目となる。そのため、階段登行だときつい角小屋峠の登りをやめ、比較的楽そうな林道沿いにルートをとることにした。
 しかし、林道とは言っても未除雪。雪の斜面のトラバースとほとんど変わりない。ところどころに何日か前の消えかかったトレースがあったのでそれに従うことにした。

 1時間ほど進んだころ、放置された雪洞の先の崖のところでトレースは突然消えていた。
 さてどうしたものか、しばらく思案したが、どうやらルートはこの崖を下っていると判断。斜度は30〜40度くらいだろうか、意を決して下降することにした。(上の写真 : 雪洞付近から来た方を振り返る)

 高さにして200〜300mくらいだろうか、深雪の斜面を苦労しながら強引に降りきった所は、雪の壁に囲まれた細長い廊下のようなところだった。ここでやっと、ルートを外し大所川の川床に下りてしまったらしいことに気づく。やばい!動揺が全身を駆け抜ける。このまま川沿いに下っていくか。それとも・・・
 あせる心を落ち着かせるため、セオリー通り、ザックを下ろし腰をおろしてお茶を飲む。ここはどの辺りだろう。地図を出して眺める。現在地を確認できないということは、道に迷ったということだ。思わず「遭難」の二文字が頭をかすめる。
 道に迷ったときは、分かるところまで引き返すのが原則。そうだ、引き返しに決定しよう。時計を見ると1時ちょうど。登り返すため再び斜面に取り付く。

 一足ごとに足場を踏み固めようとするが深雪に足をとられ、かえってずり落ちる。まるで蟻地獄だ。足に着けたスキーと肩に食い込むザックの重さを呪いつつ、悪戦苦闘しながら、わずかな報いのための努力を繰り返す。でも、なかなか高度をかせげない。しかし1cmでも2cmでも登り続けるしかないのだ。

 永遠に続くかと思われた作業だったが、少しづつ雪が硬くなり斜面も緩んで、やがてスタート地点の崖の上に、へとへとになりながらもたどり着くことができた。とりあえず、白い蟻地獄からはなんとか脱出できたのだ。
 時計は4時を過ぎている。下りは30分たらずだったのに、登りには実に3時間以上もかかってしまっていた。
 現時点での時間と体力の残リ具合からして、今ここから明るいうちに蓮華温泉まで引き返すには、リスクが大きすぎはしないだろうか・・・・・



 午後4時5分、放置されていた雪洞でのビバークを決意する。

 入り口はビニールシートでふさぎ、床にはスキ−板を滑走面を上にして並べて置き、ベッド代わりにする。
 この雪洞は一人で入るには広すぎる。どうみても4〜5人用だ。しかし贅沢はいえない。ここにビバークできるだけでも、万に一つの幸運なのだ。



























 (雪洞内部 :  ビバーク態勢をとるための準備中)

 ザックは中身を出し、足を入れ、シュラフ代わりにする。
 着替えのシャツをすべて着込み、古新聞をシャツの間に挟み、アルミ箔のレスキューシートを体に巻きつけた。


 暗くなると風が出て、入り口のビニールをバタつかせてやかましい。
 寒いので、ガソリンバーナーで何度もお湯を沸かす。
 室温は多分、0度前後のはずだ。
 バーナーを焚くたびに熱気で天井の雪が融け、水分を含んで重くなるので天井が垂れ下がってくる。そのたびにコッフェルでかき取り、沸かして飲んだ。
 いがらっぽい味がしたのは、どうやら先住者のタバコのせいらしいと気づいたのはかなり経ってからだ。


 白ガソリンの予備も残り少なくなってきた。明日も停滞となると完全にお手上げだ。明日の天気次第で運命が決まる。
















 3月30日、東の空が白み、長い夜が明けた。
 穏やかな夜明けだ。ありがたい! これで行動できる。

 6時30分、最後のお茶を沸かし、簡単な食事をすませ、雪洞を後にする。

 7時5分、トレース沿いに送電線の鉄塔のところまで戻り、地図と地形を確認する。どうも現在地はヒワ平付近のようだ。とすると、ここからもう少し東に行くと白池があって、そこで角小屋峠からのツアーコースに合流するはずだ。
 そういえば、昨日は視界が悪くて気がつかなかったが、向こうの方にトレースの跡のようなものが見える。よし、GO!




 8時5分、雪原状態の白池に到着し、見覚えのあるツアーコースに合流する。



 9時10分、木地屋を経て大所到着。
 たまたま客を乗せて上がってきたタクシーを拾い平岩に出た。

            84/3/27〜30    単独行





 後日マーカーに修理を依頼したが、音沙汰がないのでビンディングを買い替えた。以来ジルブレッタを愛用している。







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