■ 雨の降り出す7合目
手足の感覚が無くなり、空気が薄くなってきてる。おかまいなしに目の前いっぱいに広がる崖。




■ 引くに引けん ■

7合目にさしかかり、案外楽じゃん♪と思っていた時、それは予告もなく訪れた。目を疑うような、壮大に広がる岩・岩・岩、が織り成す崖!!これはなんだ?私の知っている山は綺麗に舗装されていて、そのうちアスファルトにでもなるんじゃないかしら?と思われる所だ。こんな両端に申し訳程度に引かれた命綱を頼りに登るなんて聞いていない。

今まで後ろにいた人々が、待ってましたと言わんばかりにグングンと私達を追い抜いて行く。 「木ヲ見テ森ヲ見ズ」私の脳裏にそんな言葉がよぎる。馬鹿みたいにスピードを出していた私達を横目に、彼らは笑いながら、体力を温存していたんじゃなかろうか。そんな根拠のない卑屈な精神とともに今までの無謀な登り方が祟って、早くも足が上がらない。
横を見れば友達も恨めしそうに前の人々を見ながら歯を食いしばり登っている。そんな私達を畳み込むかのように雨がポツリ・ポツリ。状況は最悪。・・・馬鹿な私達。

売店のおばちゃんの助言「杖があると岩場が楽になるわよ。」を聞き入れ、杖を購入。時間はすでに午後10時をまわり、辺りは真っ暗。片手に懐中電灯、片手に杖をつきながら、両手を塞がれた状態で危なかしげに岩を這い上がってゆく。「本当に楽になったんだろうか」小首を傾げるが、とにかく「楽になる」という富士山歴の長そうなおばちゃんの呪文が今の私の支えだ。

何度か売店の前で休憩をとる。その度に温かいコーヒーやお茶が飲みたくて店内を見に行くが、そこは富士山レート。『HOTコーヒー 700円』『HOTティー 700円』買えるはずがない。こんな時にも自分が貧しいこと位は認識している。売店の人がガイドさんにだけは無償でお酒を振舞う。「ああ、人間ってこんな時に犯罪を犯すのかしら」と思いながら、ひったくりたい衝動をどうにか抑え込む。
なんせ、お酒一つで山に置き去りにされたらたまらない。

なんども足場の無い岩場で、足を滑らせ転げ落ちそうになりながら1歩1歩進んで行く。体力の限界は何時間前に過ぎたのだろうか?もうダメかもしれない。でもこんな暗闇の中ドロップダウンして、この崖を降りることも不可能だ。それより、なにより、私より高齢の人が誰もドロップダウンしてない。
変なプライドが私を前に進ませる。7合目が終わる頃、かなり前を行く小粒のように見えるガイドさんが大きな声で(←私達の耳に届くころには、小さすぎて空耳の可能性も考えたが。)「では、今日はここに泊まります。」と叫んだ。

小屋には囲炉裏が焚かれ、暖かな布団が用意してあった。朝起きてそれがすべて枯れ葉に変わっていても私は驚かなかったであろう。玉手箱をそっと手渡されたとしても、甘んじて受け入れたであろう。地獄に仏。その時だけは貧しさも忘れ『カップラーメン 600円』を購入し、囲炉裏の前で頬張った。
睡眠時間3時間。一時の休息であった。




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