支点の使い方

アルパインクライミングで出てくる支点はRCCボルト、リングボルト、ピトン(ハーケン)の3種類におおまかに分けられる。さらにフリーのマルチピッチや一部アルパインルートではハンガーボルト等もある。ドリルで穴を空けるケミカルアンカーはハンガーに書かれている(25kN)という数字を信用しても構わないがそれ以外の支点については強度もまちまちである。

上の写真は左からリングボルト、RCCボルト、8MMハンガーボルト、10MMハンガーボルトである。普段は岩から出ている部分しかお目にかからないが岩の中に刺さっている部分は写真のようになっている。先端に付いているのは楔でこれが金属部分に刺さって押し広げるようになるので岩から抜けないようになっている。こう並べるとその差は歴然である。ハンガーボルトとリングボルト等では太さも違えば長さも違う。当然支持強度は倍以上変わってくる。

上の写真は10MMハンガーボルトのパーツをばらしたものである。ハンガーには25kNと書かれて矢印が書いてある。矢印の方向に25kNの強度があることを示している。ただこれはハンガーの強度であってネジの強度ではない。例えば強度区分(70kgf/mm^2)のステンレスネジでとめてある場合には5×5×3.14×70×.0.8=44kNとネジの方がハンガーより強度がある。ネジが緩んでいると2割強度が落ちるがそれでもハンガーよりは強い。このネジが安物のSC40辺りがついているとハンガーと同じ強度になって、さらにネジが緩んでいるとハンガーより弱くなってしまう。とはいえこのタイプならまず安心であろう。

上の写真は8MMハンガーボルトのパーツをばらしたものである。ハンガーはアルミであるがネジは強度区分80のステンレスである。アルミのハンガー自体の強度は15kNである。このタイプは手で打てないこともないのでマルチピッチ等各所にある。ハンガーとネジがセットで売っているので大抵このペツルのネジがついているがSC40などの安物ねじが付いているとハンガーより強度が弱くなってしまう場合がある。多くの人がこれでハングドックしたりフォールしていると危険だが山の中にある場合にはRCCやリングボルトより信用は高い。

上の写真はそれぞれを手打ちでセットする場合のジャンピングセットである。この状態でハンマーで叩いて打ちこむ。穴の空け方は試しに穴を空けてみて練習すれば誰でも出来るようになる。ルート下にわざわざ穴を空ける必要はないのでその辺は良識の範囲内で。

上の写真はキリを外した写真である。8MMと10MMはボルト自体がキリになっていて、穴を空けた後に楔を入れて打ち込んで固定する。

各ボルトを並べるとこんなに違いがある。太さだけでなく長さも重要である。リングボルトはリングが通してある部分からテーパーが掛かって細くなっている。この形状は応力集中しやすく8mm径のボルト部の強度が計算上で20kN程度になるのがこの形状によって半分から3分の一くらいになってしまうと思われる。10kNないと思った方が良い。さらにリングは5mmと細いのでリングの強度は計算上6kN程度になる。これは溶接部の強度低下が2割として溶接部を9時または3時の方向にした場合であり、実際は5kN程度ではないかと思う。あとリングは3kNで伸びてしまう。RCCボルトはアゴが理想的に利けば20kN近く強度が出そうな計算になるが実際のところは16kNが最大であろう。しかし抜ける方向にも力がかかりそうだし、曲がりながら抜けていきそうなことを考えれば10kNもあれば御の字といったところではないだろうか?またこの2つのボルトは打ちこむ時に楔がボルトを割く方向に入っていき、その残留応力と叩きすぎの場合の残留応力が残るのでさらに強度が低下する。鉄の場合はこの残留応力歪は時間と共に消失していくので新品のぴかぴかのボルトより赤錆びてやばそうなボルトの方が強度があったりするから不思議である。(2010.01追記:この文章を書いた当時は読む人が数人というつもりで書いたのだが、アクセスが多くなったので補足する。以前、榛名黒岩の大スラブの最終ピッチのビレイ支点を自分のソロクライミングの都合にてハンガーに打ちかえたのであるが、この時に同じ場所に並んでいた古いボルトを撤去した。手間もあるのでボルトの頭部をハンマーにて叩き落とすという手法で済ませたのだが、この古いボルトが曲がりはするがなかなか折れないのであった。打ったばかりのリングボルトはチェーンハンマーで抜くのも簡単だし、頭部を叩けば簡単に首が折れる。ハンマーと墜落の衝撃は異なるがこの経験と工学的知見から書いたものである。錆は当然強度低下の元となるのであくまで表面で錆が収まっている前提である。)

ボルトの太さは上の写真の様に8MMとリングボルトは同じ太さである。しかしながら材質の違いとネジの有無を含め1.6倍の強度差がある。力のかかる部分が壁から離れるのとその形状からさらにリングボルトは不利である。ボルトの根元にナッツ等でタイオフすればなんとかナッツのワイヤー強度位は出ると思う。ここで8MM、10MMと言っているのはネジの太さであり、アンカー部分は8MMで12mm、10mmで14mm(だったと思う)。

ハンガーには普通上の写真の様にカラビナを掛ける。ハンガーは荷重が掛かった時にネジが緩まないように11:25辺りを指している。ネジは時計回りで締まっていくのでこうすると荷重が掛かった場合に締まる方向に回るので緩まない。ハンガーに掛ける向きは登る方向等によってケースバイケースであるが、登ってからロープによってクイックドローが引かれた場合をイメージしてセットすると良い。

例えば上の写真の様にセットして向かって右方向に登って行った場合に。

ロープに引かれたクイックドローが反転したりすると。

さらにその状態でフォールして写真の様に外れてしまう場合も稀にある。

リングボルトには引き抜き方向に力が掛からない様に写真のようにカラビナを掛ける。リングボルトはボルトが短いので墜落時に引き抜き方向に力が掛かると簡単に抜けてしまう。

とりあえず急いで上の写真の様に掛けてしまった場合には。

カラビナを外さずにそのまま回してしまえば解決する。

リングボルトに写真の様にロープスリングをガウヒッチでタイオフするのは危険である。人工登攀等、体重程度であれば問題ないが墜落した場合にはスリングが切れる可能性がある(12mmダイニーマソウンスリングは10kNでも耐えた07/07)。リングボルトは計算上では5kN程度まで耐えるし、6mmロープスリングも7kN程度の強度があるのに何故?と思うかもしれない。しかしながらリングは3kNも掛かると伸びていく。伸びていくと幅が狭くなってはさみのようにスリングを切ってしまうのである。通常ガウヒッチだと写真手前の一本が2本を跨いでいる部分の1本になっている所が切れる。しかしながらこの場合は2本の部分のうち一本がはさみで切るようにすぱっと切れてしまうのである。これはリングだけでなくナッツのワイヤーにも当てはまるので注意が必要である。

私の場合、ピトンにはカラビナを介さずスリングをガウヒッチでタイオフする。理由はカラビナを減らしての軽量化とボルトと違ってピトンはある程度の墜落荷重で抜けてしまうことを想定してである。ただスリングはダイニーマやスペクトラ等のソウンスリングを使用する。理由はロープスリングはガウヒッチによる強度低下とピトンの角による強度低下にさらされて大した強度が出ないからである。ダイニーマのスリングであれば少なくともリングボルトのリングよりは強度がある。ただ心配な向きにはスリングを通し両端をカラビナに通すのが最も強度が高い。ロープの流れより墜落時の安全を優先する場合にはこの方法をとる。

穴に通せない場合や浅打ちの場合は首にスリップノットでタイオフする。

上の写真は左からガウヒッチ、スリップノット、インクノットである。この状態で荷重していくとガウヒッチとスリップノットでは大差ないがインクノットは結構持ちこたえる。力点を壁から離したくない場合はスリップノットがいいかもしれないが、ガウヒッチをするならインクノットにしてタイオフした方が強度がある。ただ面倒ではある。

D型カラビナは写真のスリングの位置に荷重が掛かることを想定して強度が規定されている。ゲートが開いているこの場合は強度は8kNとなっている。

しかしながら上の写真の状態ではとても8kNには耐えられない。おそらくその何分の一かの荷重で折れてしまうだろう。そういう意味ではこの手の軽量カラビナをビレイ点等であとからゲートを空けて何かを押し込む場合には使わない方が良いだろう。

写真の二つのカラビナはゲートが閉じた場合の縦方向の強度は同一である。それは写真の位置にスリングが掛かっている場合を想定してである。D型ビナの場合、スリングが細い程カタログスペックの強度が出る。

同じ強度なのに厚さはこんなに違う。メーカーの想定した使い方をしない場合は太い方が当然強度がある。

フリークライミングでフォールやハングドックを繰り返すとカラビナには写真の様に傷が付いて行く。あぶみのカラビナも然りである。このようになったカラビナはメインロープを通す用途には使わない方が良い。ただアルパイン等では墜落は稀で、テンションしてもそこでムーブを探ったりとかはしないのであまり傷つくことはない。

クライミング用品の強度は破断強度が書いてある。20kNと書いてあれば1回20kNの荷重が掛かれば壊れてしまうことを示している。普通の家庭用品ではこのようなことはない。体重60kgの人が座れる椅子であれば毎日座っても乱暴にどすんと座っても壊れないように出来ている。金属は繰り返し延々とストレスを受けるとその破断荷重の半分の荷重でも壊れてしまうという。鉄の場合は大体半分以下の荷重に収めれば繰り返しストレスによって破断することはない。しかしながらアルミ等の金属はいくら小さい荷重でも無限にストレスを受けつづければいつかは壊れる。その為、鉄製の一般的な製品では使用想定荷重の3倍程度の強度を見込んでいる。さらに衝撃荷重(クライミングで言う衝撃荷重とは全く異なる、近いものと言えばハンマーで叩く場合とかを想定すると良い)によって金属の強度は半分から3分の一に落ちる。あと形状による強度低下等、細かいことを計算するのが面倒なので使用荷重の15倍程度の強度を有するものもある。最低でも3〜5倍程度の強度を有するのが普通である。カラビナをこの基準に当てはめると非常に耐荷重の低いものとなってしまう。2tにも耐えるんだ!すごい素材を使っている!なんていうのは間違いである。そういう訳でクライミング用品は消耗品である。

2005.11.19

文中リングボルトの強度を5kNとしたが、その後の実験では最大でその倍程度あることが判明した(当然溶接ばらつきで5kN程度で切れたものもある)。リングが伸びきらない(端部にRが残る)ようにダイニーマの太めのスリングでタイオフした場合(カラビナも同様と思われる)、過重は伸びた2本のリングに分散され溶接部が引っ張り応力により破断するまで耐える。溶接部を上下端に配置すると溶接部のせん断応力で破断するので5kN程度であろう。2007.7.12

END

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