硫黄岳(敗退)

2002.11.09〜10


9日 林道を1km程行った駐車スペース(標高1720m)04:50〜ゲート5:20〜本沢温泉7:10、7:40〜夏沢峠9:45、10:10〜爆裂火口端(標高2740m)13:10〜夏沢峠14:20〜オーレン小屋15:00  *本沢入口1600m、ゲートまで10分の駐車スペース1720m、ゲート1820m

10日オーレン小屋7:20〜夏沢峠8:15〜本沢温泉9:00〜ゲート10:10〜駐車スペース10:20

装備 ザック20kg位、スノーシュー+ストック2.5kg位

今回は冬期12月への予行練習として硫黄岳に挑戦という当初の計画であったが、一足早くに冬が来てしまいどうみても本番ということになってしまいそうだった。装備は12月に行く時と同じ重量を背負うということで最初から完全冬装備としていたため予行演習なしというのを除けば不安要素はなかった(10月に偵察済み)。アイゼンだけでなくわかんも用意していた。わかんすら必要ないとは思ったが万一のため積雪林道歩きでは楽できるので出発前に車にスノーシューもほうり込んだ。

八ヶ岳が近くなると国道でも小雨がぱらつき出した。太平洋岸を低気圧が北上しているのでその影響だろう。この低気圧が北に抜けるとここ2〜3日弱まっていた冬型がまた強くなりそうだ。稲子湯の手前辺りで雨足も強くなってきた。ところどころで路面が凍結している。本沢温泉への道を右折すると雨はみぞれになってきた。林道入り口まで来ると雨は雪に変わった。22時だったのでここで天気図をつける。低気圧は東北沖を北上中である。大陸からの高気圧が進んでくるので、雪は明日にはやんで冬型が強まるだろう。林道は4駆でないと行けないようなことが書かれているがとりあえず行ってみることにする。案の定途中の急坂で登れなくなる。勢いをつけなおして再トライするが今度はその先で登れなくなる。仕方ないので少しバックしてチェーンをつける。しばらく登った所に駐車スペースがあり、看板にゲートまで10分云々と書かれている。無理して行かずにここに止めていけといった内容だ。10分は短く見積もってのことだろう。とはいえ雪も降っているのでここまでにした。

4時前に寝袋から出て準備をする。EPIのウィンタースペシャルでお湯を沸かすがガス残が少ないのか効率が悪い。缶に湯をかけながらテルモスと水筒に入れる2Lを沸かす。ストーブはAPSA2だが氷点下で屋外だから意外に時間がかかってしまった。APSAとウィンタースペシャルは車にほうり込んで出発する。積雪は3〜5cm程であるが迷わずスノーシューを使うことにする。当然わかんは置いていく。まだ暗いのでヘッドランプをつける。ヘッドランプは先月購入したBDのジェミニで私としては初のLEDライトだ。単3、3本で重量は電池込200g位だがLEDで使うと電池が殆ど消耗しないので手放せなくなった。キャンドルランタンも不要になり、電池ケースが後頭部にくるので寒冷地でもアルカリ電池で問題ない。

看板に10分と書かれたゲートには30分近くかかって到着する。荷物が20kgあるのと汗をかかずに体力セーブしているのでこんなものだろう。ゲート手前も十分過ぎる駐車スペースがある。本沢温泉関係者の物と思われるジムニーが2台駐車してある。ゲートをまたいでさらに行く。道は温泉までは幅員2mくらいで歩きやすい。本沢温泉には7時過ぎに到着する。温泉手前で道を横切る小川を何も考えずにスノーシューで渡ったら裏に雪が団子になってついて重くなってしまった。気をつけないといけない。

9日AM07:09 本沢温泉

本沢温泉のベンチでうどんを茹でて味噌汁と卵スープと混ぜて食べる。温泉には従業員はいるのだろうが人気がない。食べ終えてすぐ出発する。道は登山道らしく狭くなるが傾斜は緩く軽快にスノーシューで進む。樹林の中をジグザグに登っていく。登りが急になって休憩したくなったが高度計を見ると夏沢峠まで40mほどなのでそのまま進むと建物が見えた。

9日AM09:41 

ゆっくり登ったせいもあるが10時になってしまった。登りにCTの倍の2時間で済めば十分な時間があるように思える。これから硫黄岳への登りなので一旦オーバーズボンと上着を脱いでフリースの中間着を追加する。目出帽も薄手のウールのものからゴアウインドストッパーの厚手のフリースの物に替える。この日の衣類はこの時点でモンベルドロワット上下、マイクロフリース上下、ウール襟付きシャツ、化繊下着、同タイツ、革靴に靴下2重である。夏沢峠から硫黄岳へ樹林の脇を進む。この辺りが一番積雪が多かった。それでもせいぜい20〜30cmくらいだ。樹林帯を出る前に手袋を替えることにした。化繊の軍手みたいな物の上にウールの手袋、その上にイスカの5本指のオーバーグローブをしたのだがこれでは不足なような気がした。ザックからバイク用の冬期用ゴアグローブを出した。化繊の軍手の上につけたらきつかったのでゴアグローブ単体(それでもフリースインナー+アウター)で使う。

樹林帯を抜けると右から強烈な北西風が吹き付けてくる。ストックを120cmから110cmに縮めて使う。どこかでスノーシュー+ストックからアイゼン+ピッケルに切り替えないとならないだろうが吹きだまりもあるのでとりあえずそのまま行く。ゴーグルはフードが抑えられると思い、フードの上からバンドをしたのだがこれが大きな失敗だった。風は強烈でストックでなんとか持ちこたえながら進んでいく。視界は30〜50m位で山頂にかかっている薄い雲の中にいるようだ。道は雪が飛ばされていて夏道が露出している。それでも登山道部分はところどころ吹きだまりになっていてスノーシューをしていても膝まで潜るところもある。道の切り替えしでザックに風を受けてふらつく。風は時たま強まることはあっても決して息をついたり弱くなることはない。こんな視界の利かない中、単独で登ってもと思いつつも引き返す決心がつかずにいた。

9日AM11:34 蓼科方向

突然雲が切れて下界が見えた。写真はまたガスが出始めてすっきりしないが一瞬はっきりと下界から天狗岳方面の視界が開けた。雪の白と下界の紅(茶?)葉のコントラストが美しい。こういう景色を見てしまうと冬山は素敵だと思ってしまう。気を取り直してさらに登る。視界も元の白い世界に戻ってしまった。岩を乗り越えないといけない部分があり、丁度風を遮れるのでここでアイゼンに替える。風さえなければつぼ足で楽勝な感じであるが風をこらえるには少しでも支えがあった方がいい。傾斜がそんなにないせいかピッケルの先が雪面に届きにくい。ピッケルの長さは先がくるぶしくらいがいいなんて嘘っぱちだと思った。次は75cm位のを買おう。それでも前かがみになりながら進んでいく。視界が悪くなってきたと思ったらゴーグルの内側と眼鏡が凍り付いていた。ダブルレンズでも内側に風が吹き込んでしまったようだ。後で気がついたのだが眼鏡のつるでゴーグルのスポンジの一部に隙間が空いていた。手袋でぬぐいながらまた進む。傾斜がゆるくなってケルンの連なるところまで来た。これがないと方向がわからなかっただろう。この影で休憩すると嘘のように風がなくなる。立ち上がり一歩を踏み出すと引き倒されそうなくらいの風を受ける。何度か引き返そうと思いながら爆裂火口縁のロープを張ってるところまで到達した(帰ってから確かめたことだが10月に偵察に来たときは20kg背負ってここまで夏沢峠から1時間、ここから山頂まで10分)。白くて見えないが山頂はすぐそこの筈である。時計を見ると1時を回っている。夏沢峠に戻る時間を考えるとそろそろ限界である。体力的にも下り分しか残っていない。3時間かかってここまでしかこれなかったのと3時間風に煽られたのを考えるとかなり消耗している筈だ。山頂には小さな避難小屋があるが戻ることを考えると広い山頂に出て視界を失うのも恐い。それでもすぐそこまでと歩きはじめたのだが風が一段と強くなりピッケルで体を支えるのがやっとでなかなか足を前に踏み出せない。こりゃだめだと思い下ることにする。戻りはじめるとまたガスが晴れて天狗岳まで見えた。この時の気温は氷点下15度だった。

 

9日13:09 天狗岳

10月の写真、おそらく矢印の辺りで敗退

ケルンが立ち並び方向がはっきりする。普通なら視界があるうちに山頂を目指すのだろうが後ろは振りかえらなかった。少し下るだけで歩くのはやっとだが引き倒すほどの風ではなくなった。とはいえさっきと同じ強さなだけで疲れた体と下りで歩幅が広くなった分、膝をつくことが多くなった。あれだけ苦労した登りも下りは風をこらえるだけで済む。ゴーグルは使い物にならないので左手で風をよけながら視界を確保する。行きは視界が利かなかったせいもあって右往左往した登りもケルンが見えるのでまっすぐ進める。行きのトレースは殆ど消えている。わずかに足跡の残っている部分もあったが、膝まで潜った吹きだまり部分は跡形もない。傾斜が一段急になる部分に立ち、今まで死角だった下山路の方向を見定めた時はこれで無事降りれると思った。ここからは夏道もはっきりしてジグザグに下って行く。大きな岩の左手を回り込むとあとは樹林帯目指して下るだけだ。風は相変わらず強く積雪が比較的多いところまで下ったが往きのトレースは全くない。結局1時間強かかって夏沢峠に降り立った。

9日13:34 夏沢鉱泉方向

9日14:12 樹林帯まで下りたところ

9日14:18 夏沢峠

9日14:20 夏沢峠から佐久側

夏沢峠からオーレン小屋に向かう。誰もいないから夏沢峠で幕営してもよいのだが小屋の間は風がよけれるが岩がごつごつしているし、風をよけるには根石岳方向の樹林帯の中に適地を捜さないといけない。下り道で今日はじめて人の足跡を見る。小屋はやっているか確認してないがやってなければ幕営料が浮くだけだ。樹林の中の道はさっきまでの烈風下と違い嘘のように静かだった。スキーで滑れそうなくらいの道である。オーレン小屋の「単独登山者進入禁止」なんていう看板を見て、幕営を拒否されるのだろうかと思いながら降りていったが小屋の受付は若いおにいちゃんでそんな心配は無用だった。

板の上に張ればと薦められたがどうも性にあわないのでスコップで整地してテントを張る。濡れたものを乾かしたかったが懐や靴下の間に挟んで何も食べずに寝てしまう。後でテントの外に出るのが億劫だったので雪を袋に入れて入り口の外に置く。今回は3シーズン寝袋なので試しにゴアの上下を着たまま寝てみる。却って寒いというのが常識であるがこの位寒ければ真偽をはっきりできるだろう。案の定1時間ほどうとうとしたら目が覚めた。足と手が冷たくなっている。足はダウンのテントシューズ、手は毛糸の手袋をつけているというのに。結論がはっきりしたのでゴアのアウターは脱いで寝袋の上にかける。

2時半くらいに起きてようやく飯にする。ストーブをつけるとゴアテントの内側の霜が消えていった。普通のテントだと水滴になって滴れるので感心してしまう。反面外張りは結露の氷が融けて水滴が落ちてくる。換気の為に開けた入り口上部の水滴を拭き取る。ストーブは最近バーゲンで買ったEPIのBPS3チタンで火力が強いので冬場はこれ一本でいこうと思っている。これまで使わなかったブースターも贅肉を削って軽量化したのを持ってきた。アルミを削った分効率ダウンの筈だが缶の結露が凍ることもなくさくさくと雪からお湯が沸かせる。食べて荷物も片付く頃にはすっかり明るくなっていた。

10日AM06:24 テント場

テントの中で靴も履いて外に出る。外は昨日よりガスが濃い。朝だからかもしれないが。気温は氷点下11度。夜半に吹いていた風も収まったようで寒くはない。小屋の煙突からは湯気が出ている。

10日AM06:24 テント場から峰の松目方向

10日AM07:10 準備完了

10日07:19 氷点下11度

10日07:31 分岐指導標

樹林の中を昨日降りてきた道を登って行く。朽ちた木がギーギー音を立てて軋んでいて泣いているようだ。そろそろ夏沢峠かと思い高度計を見るとまだ標高差100mもある。と思ったら着いていた。昨日より気圧が上がったようだ。

10日08:12 夏沢峠

夏沢峠からは軽快に下り一気に本沢温泉を目指す。下りは急なところはスノーシューの欠点が出る。そんな時は横向きで降りる。本沢温泉の露天の所には沢山の人の足跡がある。上は人っ子一人いなくてもこの辺りは人が沢山来るようだ。

10日09:02 本沢温泉

10日09:17 本沢テント場

本沢温泉で少しだけ休憩して歩きはじめる。中高年の人達と沢山すれ違う。シーズン中の山を歩いてるみたいだ。雪は融けてはないが踏み固められてスノーシューががりがり音を立てる。上と違って日も射してきて暖かい。帰りは看板通りゲートから駐車スペースまでは10分だった。

10日10:12 ゲート

10日10:22 駐車スペース

帰りの車中で気がついたが顔の右側に凍傷を負っていた。ゴーグルの隙間から長時間風を受けたためだ。ゴーグルのバンドはフードの上につけるものではないと思った。日焼けのようになっていて水脹れになっている。左と鼻の上にも少しある。見た目は大きなシミのようである。

今回の山行は冬山の恐ろしさを見せつけられた。衣類は顔の凍傷の原因となったゴーグル以外に失敗はなかったが稜線上の強風下の逃げ場のない所での行動は夏山のようにいざとなったらビバークという軽い気持ちでは近づけない領域だった。あの状況下ではザックの中の物を出すということも中身を吹き飛ばされる危険を承知でなければ出来ない。また行きたいと思う気持ちより次回は天気図を睨みながら安定した隙にと思ってしまう。また私の実力では本沢温泉またはオーレン小屋で前泊が妥当だと思う。

END

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