17日 :上高地 6:00〜奥又白池
11:30〜5・6のコル 15:30(幕営)
18日 :5・6のコル 6:00〜前穂高岳 14:20〜岳沢 17:40(小屋泊)
19日 :岳沢 4:50〜上高地 6:20
装備:ザック18kg(水なし)
登攀装備:DMMヌンチャク(プロワイヤー)x5、BDオーバルワイヤーx2、BD D型ワイヤーx3、80cmスリングで作ったヌンチャクx3(2組はBD D型、1組はポジトロン ロック付き)、60cmスリングx5、30cmスリングx5、120cmスリングx3、安全環付きカラビナx8、ロープスリングx2、ハーケンx3、ハンマー、ペツル アッセンダー右左用各1、ルベルソ、グリグリ、DMMナッツ#1、3、5、7、9、11、フレンズ#1.5、2.5、9.5mx50mシングルロープ、ハーネス、チェストハーネス、ヘルメット
その他装備:CAMP HL250、CAMP アルミ12本、ICIゴアライトXツェルト(ポール使用)、イスカウルトラライト(化繊)、イスカウェザーテックシュラフカバー、EPIチタンクッカーS、スノーピーク地、ガス110缶、MSRドロメダリーパック4.5L(水筒)、グリベル ロック35Lザック、ロウアルパイン アルパインアタック30Lザック、BDジェミニ、ザックカバー、GPS、スカルパ メスカリート、ゴア雨具、スパッツ、フリース
不使用装備:アイゼン、ナッツ、フレンズ、ハーケン、ハンマー、ロック無し単体カラビナの大半

ロープが必要なバリエーションルートに行こうという目標を立てて早一年が経過した。一年間フリークライミングを中心に練習してきたがパートナーを得るという最大の難関に対してソロという結論を出してゲレンデ練習をしてきた。それでも一緒に行ってくれる人がいる場合には2人でマルチピッチに行くこともあった。それによって得た結論は装備重量&スピードの面で今の私には無理というものであった。それでも練習の成果を得たいということもあり最初に行くのは入門ルートと言われている前穂北尾根単独という計画を立てた。小屋泊で登攀装備を最小限(径の細いロープとシャント等)にすれば軽量化によって却って短時間でこなせるのは分かっていたが、ツェルト泊&グリグリ利用の登り返し法の単独縦走を試みることにした。結果は雨の中なんとか縦走を果たしたが重量オーバーの荷で著しくペースが落ちてしまった。ザックのフロントポケットにロープを入れたため(ザックの構造上の問題であるが荷物が軽い場合にはこの構造は重宝している)重心が後ろ寄りになってしまったのもスキーツアーでこなせる重量でへばった原因かもしれない。ゲレンデクライミングばかりで山に入っていなかったので体力が落ちたのが最大要因とも言える。
ルートは5・6のコルからとし、当初涸沢で考えていたが奥又白から入ることにした。いろいろ調べると涸沢からの方が結果的に短時間で行けるようであったのだが奥又白池にも行ってみたいし海の日の3連休の混雑した涸沢へのルートを避けたいというのもあった。奥又白からのトラバースでの位置把握の為にGPSも準備した。週末の天候は梅雨前線が東北南部に停滞して梅雨明けというのにあまり芳しくない。普通なら中止して延期するところなのだがこのタイミングを逃すと次は8月下旬まで土日で空いている週がない。最悪奥又白池でも見て帰ってこようかと思い出発した。
仮眠で眠りすぎて沢渡を出るタイミングが遅れ上高地BTから徳沢に向かう道では多くの先行者を追い抜いた。新村橋を渡りパノラマコースへの道に向かう。道にはロープが張ってあり残雪の為にパノラマコースは通行禁止と書かれていた。道が左へ曲がり沢沿いを登る辺りでテントを張っている人がいた。その人と少し立ち話をした後登っていくと雨の増水のせいか道が川になっている。

水の心配がないのでここで荷物を軽くする為に余計な水を捨てる。少し先にも人が歩いているのが見える。正面に松高ルンゼが見え、右手に遭難碑のプレートが見える。先行の人はパノラマコースへ向かうようである。中畠新道はこのルンゼ左岸の尾根を行くのだが私は何故か勘違いをしてこのルンゼに入ってしまった。ざれて登りにくいところを一段登るとそこにはハーケンが打ってあった。冬はルンゼなんか登る人はいないのだしここで気がつけば引き返せたのにそのまま少し登ってしまった。浮石が多くとても戻ることが出来ない状況に陥った。本来のルートは右上にあるのは明白なので右手の草付きを登ることにした。草でも木でもなんでも掴みつつ上部の緩傾斜で簡単になったところでさらに気を引き締めて登る。クライミングをやっていなかったらこの登りの緊張には耐えられなかったと思う。

尾根に出ると明確な踏み跡を辿って上に向かう。途中で雨が降ってきたので雨具を着る。冬も奥又白に入れるのはこの地形のおかげなのだなとよく分かる。左右は木に囲まれ高度感はないが急峻に落ちている。正面に岩が立ち塞がるように見えてきて細い尾根も終わり幅が広い斜面となった辺りでT字を左に折れ少し登るとそこには静かな奥又白池があった。テントが一張りある。今朝ここまで上がってきたそうだ。池から流れ出す沢は遠慮して池の向こう側に行くと沢が流れていたのでここで水を補給する。全部で2.4L、ザックはこれで20kgになる。

ここで携帯が通じるので5・6のコルに向かう旨メールを送る。元来た道を引き返し奥又白のトラバースに入る。草原の中に明確な踏み跡があり赤テープも豊富である。奥又白池で電源を入れたGPSを見ると当初想定した標高2450mで入力したトラバースラインよりやや上に向かっている。赤テープと踏み跡を辿ると突然ルートは真下に向かう。滑りやすい道を木に掴まりながら下ると雪渓に出た。幅は大したこともなくアイゼンを付けている間に渡れる程度である。斜度はスキーで滑れる位の急斜面。転べば只では済まないがピッケルを使えば問題なく横断出来る。雪渓の中に赤テープの付いた木がある。流されていることを考えるとそこよりは上から対岸に登るのであろうが位置が判然としない。GPSを見ても受信状態が悪いのかすでに通り過ぎた辺りの位置を示している。登りやすそうな所が赤テープの木の少し上辺りだったのでそこから登る。登った向こう側はルンゼになっている。ルンゼ対岸は切り立っていてとてもそのまま進めそうにないしルンゼにも降りるのは容易ではなさそうである。引き返すのはそう難しくないのでそのままその小尾根を登っていく。フェースに塞がれる辺りでその岩の基部に黄色円のペンキ印があった。ぱっと見そこからルンゼに入っていけそうもなく見える。ルンゼ右岸は雪渓がなくなり下がえぐれている。しかしよく見るとルンゼ左岸斜め上にルートが取れそうなことが分かる。ルンゼに降りるのもここからだと3m位のざれを下るだけである。ルンゼに降り、雪渓脇を下り雪渓に這い上がれそうな所でピッケルでカットした後這い上がって対岸に行く。そこからは踏み跡と赤テープを辿りつつルンゼ左岸を登る。そのうちルートは左岸の尾根の上になる。だんだん草が多くなり歩きやすくなり、後半は左右が切れ落ちてきてその尾根は終わる。右はカール状になっていてすとんと落ちている。5・6のコルは右手カール上端なのだろう。このカールをトラバースするとは、最後に核心部があるのがここで分かった。踏み跡を辿るとカール部分に草付きがありトラバースの前半は安心だった。ほっとしたのもつかの間正面にざれたカールとその上の垂壁に挟まれたバンドのトラバースが目に入った。ざれで足を滑らせば一巻の終わりである。核心部には両端をハーケンで固定されたロープが張ってある。安全を考えればハーネスからのカラビナをこの固定ロープに掛けてトラバースなのだろうが片手ホールド、片手ロープでトラバースした。ロープはまだ弾性が失われてなく引っ張るとよく伸びる。ホールドもぐらぐらする部分があって選ぶのが大変である。そこを通過すると傾斜が緩くなったざれを登るとコルに飛び出した。

ツェルトを張って中に入ると雨が激しく降って来た。時折強い風で煽られる。丁度奥又側をテント大の岩で塞がれているので耐えられるが吹きさらしだとどうなっていたことやら。ICIのゴアツェルトは結露も少なく、天井部に縫い目がないこととサイドに張り綱が張れることが幸いしてテント並みの快適さである。靴はべろが袋状になっていないのが災いしてぐちょぐちょである。最初から分かっていたが雨では登ることはないだろうと考えていた。靴は諦めて他の物を乾かす。多めに食事もとって就寝する。
4:30に寝袋から這い出した。いつの間にかツェルトの端2箇所の固定が外れていた。ペグの上に岩を載せてそれまで何度も目を覚ましたときは大丈夫だったのが風で煽られたせいかペグが抜けていた。雨も止んでいるようだったので撤収を決めた。靴の水気を少しでも吸い出して濡れた靴を履き、片付けも終わって出発するのは6時前になっていた。

気持的には涸沢側に降りてしまいたい所だったが雨も止んでいるのでとりあえず5峰を登ってみて考えることにした。ガスは時折切れて涸沢側が見下ろせたりしたのだが、それもつかの間、時折雨も降ってくる。5峰は目の前に立ち塞がる様に見えたが登ってみると比較的簡単な登りであった。それでも濡れた岩はつるつるに滑る。道はほぼ稜線上を辿るがピークに近い所で左手のはい松の生えた脇を通る。ピークにはテント一張り分の平らなスペースがある。ピークの右手にも踏み跡を見たがざれのトラバースで悪そうに見えたので左の踏み跡を辿る。踏み跡は不明瞭となってきて尾根の左を下っている。とりあえず右手の尾根に上がってしばらく眼を凝らす。ガスが少し薄くなると尾根の先はナイフリッジになっているのが見えた。間違っているのが分かりしばし座り込んでいるとさらにガスが切れてしばし4峰が右正面に聳え立つのが見えた。5峰よりさらに険しそうである。雨は断続的に降り続き、風も時折強く吹く。ここで4峰も登ってしまうともう引き返せない。というより抜けてしまう方が楽になる。しばし座って考える。この尾根に只一人、天候も雨、これ以上天候が悪くなると進退極まる可能性もある。弱気なのかそれとも正しい判断なのか引き返す決意をした。丁度その時はまた雨が降り出していた。5峰を下り始めた時に下から人の声がした。女性を先頭に男女ペアが登って来た。あとで自己紹介されたのだがタック&オギャーさんという方達だった。一人じゃなくなると帰るのがもったいなくなった。タックさんが言うにはこれ以上は天候が悪くならないだろうということであり、何故だかそのタイミングでガスが切れてやや明るくなってきた。現金なもので後ろをついて行かせてもらうことにした。所詮自分には厳しい単独行は出来ないことを痛感してしまった。5峰はピークの右のバンドをトラバースして4・5のコルに降りる。4峰は最初涸沢側を巻き気味に登っていくのだが踏み跡が稜線から外れていってしまう辺りで左側の稜線上に乗ってしばらく登り、今度は奥又側の緩傾斜帯を登る。この緩傾斜帯でもなるべく稜線に近い側を登っていく。正面やや左上に残置支点が見えるがここで右手の飛び出した岩を抱えるように巻くと涸沢側の踏み跡を見つけることが出来る。そこからしばらく登れば4峰のピークである。ここで左を巻く踏み跡を辿って3人は下ってしまう。だんだんなだらかな草付きになり行きづまってしまった。私は涸沢側にでも降りてしまったのかと思ったがタックさんは奥又側の4峰ルート上部であろうと言う。コンパスを出してみると確かに3峰は右手方向である。しばしそこで留まっているとガスが一瞬切れて3峰が見えた。4峰のピークまで登り返してピーク右手の正しい踏み跡に戻る。そこからしばらく下ると3・4のコルである。コルに降りる手前の岩陰にデポ缶の残骸があった。その向こう側にビバークの跡があったらしくオギャーさんがそこに寄っていた。
私はここで初めてハーネスを着ける。準備をしているうちにまた雨が降り出した。タック&オギャーさんはフリースを着込む。私はソロなので休む間がないのでそのままで行く。最初にオギャーさんが一段上がったビレイポイントまでロープを引き摺って上がる。タックさんは残りのロープを抱えながら続く。私はロープを入れたサブザック片手にザックを背負いそこまで上がる。最初のビレイポイントはリングボルト2つでそのうち片方は見たことが無いタイプで古そうである。下側にカラビナを掛けさせてもらって登る準備をしてザックもそこにぶら下げる。オギャーさんがリードでまず登っていく。タックさんと話をしながら待つ。風に吹かれて段々体が冷えてくる。なかなか解除のコールがない。ようやっとコールの後タックさんが続く。そのしばらく後から私が続く。ハーケンにランニングを取りつつ登るとタックさんに追いついた。どうやらオギャーさんが4級の凹角を登ってしまったようだった。真中には幅30cm位の割れ目があり右手にハーケンの連打、左のリッジ状にタックさんが取り付いたところでつまっている。雨でつるつるで非常に困難なようである。それでもタックさんが慎重に登り切る。続く私はハーケンに付いている残置スリングでA0しつつ右のハーケンと左のフェースの窪みでステミングしてみるがつるつるでとても進めない。A0で一旦降り、今度は正面の割れ目に靴をこじ入れる。靴のつま先と踵だけでは滑ってロック出来ない。膝も押さえつけるとようやくロック出来たのでずり上がって上のホールドをつかむ。さらにタックさんがセットしてくれたお助けスリングを掴んでようやく上に這い上がる。岩にスリングを巻いたらタックさんにハーケンとカラビナで連結した方が良いと教わりさらにスリングの位置まで直してもらった。ロープをフィックスして懸垂下降する。下って今度はザックを背負い登り返す。さっきの凹角はユマーリングの要領でロープに頼って登る。ビレイポイントに着くと既にオギャーさんの姿はなく次の登りの準備をする。次のピッチは簡単で最初にあったハーケンにランニングをとりあえず取った後はざれの登りというのもありノープロで登った。左右を壁に囲まれたルンゼ状のざれをその途中に詰まった岩を乗り越えながら進むとビレイしているタックさんの姿が見えた。最後ざれているので気をつけるようにと言ってもらえた。またタックさんがビレイに丁度良い岩を指示してくれたのでその岩にスリングを巻いて懸垂の準備をしていたら下から単独の人が登って来た。この人はフリーソロだった。悪びれていたがクライミング経験者だったら私のような重荷で苦労するよりその方が安全かもしれない。タックさんが登り始める。出だしは少し足場が悪そうである。懸垂下降して荷物を取りに戻り3ピッチ目に入る。最初こまめにハーケンに2箇所ランニングを取り左上する。当初写真で目星を付けていたクラックのあるフェースに取り付く。クラックというより窪みといった感じでホールドスタンスも豊富であるが最初の凹角ほどでないにしろクライミングっぽい登りになる。ハーケンにランニングを取りつつ快適に登る。いつしか雨も止み岩も乾き始めている。そのフェースを登るとまたざれた緩傾斜となり支点に丁度良い岩を見つけるまでロープを伸ばす。岩にスリングを巻いて懸垂下降、登り返し。そこから先はロープを入れたサブザックをメインザックに固定してロープなしで登っていく。最後正面を登ると3級となっているので涸沢側を巻こうと右手に飛び出ている岩の辺りからトラバースしたが踏み跡はそこよりやや下方であった。クライムダウンしつつ斜め下にトラバースしてあとはその踏み跡を辿ると3峰のピークに立つ。そのまま稜線上のもう一つ先のピーク2峰に向かう。正面に本峰のピークが見え、タック&オギャーさんの姿が見える。

2峰の先は段々細くなって左右、向こう側とも切れ落ちている。タックさんにルートを尋ねるとそのまま進めば良いとのこと。2峰の端に着くと5m程垂直に落ちている。

左側にスリングの下がったハーケンが見えたのでそちら側から慎重にクライムダウン。ホールドスタンスも確実で岩も乾いてきたので簡単にこなせた。

あとは正面の本峰の踏み跡を辿る。最後の登りは大変そうに見えたが3峰から2峰に登るのと似たような労力で山頂に立てた。

山頂には我々3人しかいなかった。一時晴れ間も出たが奥穂〜北穂の稜線までは見えなかった。お互い記念写真を取り一足先にタック&オギャーさんは岳沢ヒュッテに向かった。私は当初上高地下山の予定であったが、体力を使い果たしていて翌月曜も祝日ということもあり夕方ようやっとたどり着いた岳沢ヒュッテに泊まることにした。敗退しなかったことを思えば小屋代は安いものである。小屋でタック&オギャーさんとしばし歓談の後ふとんに入った。翌朝は一足先に雨の中、上高地へと下山した。
タック&オギャーさんにはお世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。
END