双六岳方面スキーツアー遭難報告書
日程 2002年 3月20〜24日(4泊5日)
参加者 榎本 他1名(計2名)
現実的には日程内で、他の人に迷惑をかけることなく下山できたが、行動内容は遭難と同じと思いあえて「遭難報告書」とした。なお、時間については曖昧で、詳細な記載を避けた。
行程 20日(水)新穂高〜鏡平 雪洞泊
天気 快晴
予定では双六小屋だったが、到着できず鏡平で予定外の雪洞泊となった。雪はグサグサのザラメだった。この雪洞泊が後の行動に影響を与えたとは思えない。
検証 行程が長く予定に無理はなかったか?
→一般的なガイドの行程であり無理はなかったと思われる。しかし、4泊分の食
料が負担になったことは事実。食料を担ぐロングの山行は割り引いて考えるべ
きだと思った。
21日(木)鏡平〜弓折岳〜2622mピーク手前の谷の標高約2480m地点 雪洞泊
天気 午前晴れ 午後曇りのち雪
弓折岳に11:00過ぎに到着。双六方面に向かい始めるが、北面はクラストしていた。私はエッジを出さないようにシールをカットしているので危険を感じ、すぐにシールをはずした。同行者はテレマークでシールを付けたまま下っていった。この頃から曇天となる。
次のピークを巻くように進んだが、クラストに弱いテレマークは半分滑落するように下っていった。コルには行けず、150mほど下の谷芯に降りた。高度を下げた私はシールを付け登高し始めたがまもなく滑落。クラスト面の滑落は止まりようがなく20mほど滑落し、ダケカンバにクトーからぶつかり、振り投げられるように背中から首のあたりを木で打ち、そのまま滑落していった。板やストックは外れ、さらに20mほど滑落していった。谷芯の吹きだまりでなんとか停止。滑落原因はクラスト面にクトーだけで乗った不安定な所に、強風が背後からきてバランスを失ったものだった。このとき片方のクトーを破損(使用不可となる)。他はザックのショルダーベルト切断、(もちろん夜にわかったが)ガスカートリッジの破損などもあった。
その後、緊急避難の意識も強く双六小屋に向かった。撤退を考えなかったのは、「双六小屋はトラバースを続けてゆるい谷を登り詰めればある」という行程の気安さと過去、三度、双六小屋でテント泊をしたことある地理的安心からだった。同行者はアイゼンをつけ、私はスキーでトラバースを始めた(私はアイゼンを持っていなかった)。少しトラバースを行った後、尾根伝いにステップを切りながら進んだが、あまりの強風(耐風姿勢でも体が浮き上がりそうになったことが3回あった)とで時間がかかったことと恐さから再びトラバース。
トラバースを続け2622mピーク手前の谷にたどり着いた。雪崩の危険を感じ、トラバースをあきらめ、登高を始めた。再び両手のスキーをクラスト面に突き刺し、ステップを切りながら進んだ。しかし、そのステップも3回ほど力一杯けり込まなければ切れないほど堅く、アイゼンを付けた同行者でさえも恐かったそうだ。一歩ずつ登る遅々とした歩みで標高100mほど登り、ついに時間切れ。
谷芯からわずかに外れた尾根状の所に雪洞を掘る。スキー・ストック・ザックをダケカンバにビレーし、掘る。1mも掘るとハイマツが出てきた。呆然とするが堀り直す余力も時間もなく、奥ではなく横に掘り広げた。何とか寝られるスペースをつくり就寝。寒気の接近か、寒くて一晩中ふるえた夜だった。もっともこの日は行動食をあまり口にできなかったのもふるえた原因だろう。酒は低温下ではよくなかったようだ。
22日(金)2622mピーク手前の谷の標高約2480m地点〜
2622mピーク手前のコル 雪洞泊
天気 午前 小雪 午後 吹雪
この日は撤退を決め登高を開始する。そのためか気力が充実。この日は板をザックに付けストックを雪面に刺しながら登高。なかなかステップを切れないクラストした雪面、ほとんど頼れないまばらなダケカンバ帯・振り返ると見えない谷底。努めて冷静に保ったが必死だった。しかし、不思議と死への恐怖はなかった。標高150mを2時間半かけて登高し、ようやく尾根に出た。このころ天候は悪化し始め、昼前ではあったが、今日の下山をあきらめる。双六小屋へ向かうことに。目の前の2622mピークを越え、滑り込めば小屋のはずだ。濃くなり始めたガスで視界が利かないのと、せり出した雪庇が恐く、下降できなかった。ピーク付近を2回登降して活路を求めたが、双六小屋を断念する。2622mピーク南側コルで雪洞泊と決めた。前日の反省から雪の多い所をゾンデで確認して掘った。4時過ぎに立派な雪洞を完成。今すぐにも退却したかったが、外は風雪。明日はさらに悪くなるとのことだった。長期戦もよぎる。視界が効かなければ危険だ。日曜は晴れるらしい。それが望みだった。
23日(土)沈殿(2622mピーク手前のコル)
天気 吹雪
目覚めると雪洞のふたにしているツエルトが半分埋まっている。夜によく降ったようだ。軽い朝食後再び眠る。目覚めると雪洞内は真っ暗だった。時刻はAM11:00過ぎ。雪が私たちを埋めようとしていた。急ぎ除雪にかかる。交代しながら4時間格闘。掘っても掘っても雪はなくならない。雪かきの手を止め、気息を整える間にブーツ、そしてスネまでも雪が埋まってくる。吹きだまりのコルでの戦いは疲弊した。季節はずれの寒気とのこととはいえ、あきらめたら死ぬかもしれない。作戦を変え穴籠もり戦に出た。板・ストック・ツエルト・雪ブロックでうまく空間を確保し、空気穴はソンデ棒で確保した。ようやく落ち着きラジオを聞くと、明日日曜日も悪天を告げていた。猛烈な降雪・悪天の予報・少なくなる燃料。何度も糸が切れそうになり、ついに無線を取り出しSOSを出す。他人の会話に割り込んだはずなのに反応なし。どうやら発信圏外のようだ。こうなれば自力下山しか残されていなかった。一応食料制限を始める。明日の午前は曇りとのこと。午前に望みを託し早立決意で再び眠った。
24日(日)2622mピーク手前のコル〜弓折岳〜わさび平小屋〜新穂高(下山)
天気 小雪のち吹雪
朝5時半から脱出口をつくる。2mも埋まっていた。すごい雪だ。小雪が舞ってはいるが視界は200m程度。お湯だけ飲んですぐに出発。時間との勝負か。極力稜線沿いに進む。9時頃には弓折岳付近に到着。ここを下ることができれば・・・。しかし、悪天が早まったのかホワイトアウトになる。前線は南で、下る南側はもっと悪そうだ。しかし、あきらめるには早い時間。一瞬ガスが切れ、ピークを確認。低くやせこけたダケカンバの苗木を見つけた。登ってきたところだ!雪庇はないはず。それを信じ思い切って近づく。ゆっくりしていると見失いそうだ。雪は深く重い。稜線かと疑うほどだ。ダケカンバの苗木に板を寄せ、目を凝らす。必ず切れるはずだ。下る決心はできていた。雪崩そうはない。しばらくして予想通りガスが薄れる。ためらうことなく下り始めた。重い粘った雪をスキーで下る。膝上まで潜る。10mほど下ったとき生還の確信を持った。高度を下げるとガスが薄れそうだったからだ。雪崩れそうもない。こみ上げてくる感情を抑えながら少しずつだが確実に下る。大ノマ谷出合に11時頃着く。ガスは相変わらず濃く、遅々としか進めない。なおも下降を続けついに視界が開けた。秩父沢に切れ落ちる対岸の山並みが見渡せた。視界が開けたのだ!あとは体力勝負だった。重い雪と格闘しながら、「帰れる!」と快哉をあげた。しかし、新しい雪崩のあとがそこかしこにあり、気を抜けなかった。重い湿雪にスキー板を潜らせながらもようやく通過。はじめて休息を入れた。ワラビ平までは引きずるように下る。そこからは意外に早く新穂高に帰着できた。二時半だった。
反省と考察
@入山日に2,3日目の天候が悪かったので無理をせずに入山を避けてよかった。ちなみ
に予報では土曜、日曜は晴れだった。
→スキーヤーとして入山したのだから、滑るという目的を忘れないようにしたい
A2日目午前中、好天だったが北面が氷化していた。
→スキーにならないということをもっと自覚すべきだった。
→スキーアイゼンはワンポイントの通過と考えるべき。必要不可欠なとなる行動は避
けるべき。
B装備は故障するものと考えて装備をくむべき。
→アイゼン・ガスヘッドなどがダメになっても生還できるか。
C雪山に入る者は雪洞を掘れる状態で入るべき。
→今回は両メンバーとも雪崩対策意識が高くスコップは個人装備。スピーディーな雪
洞づくりは生還につながる。
ポイントになった装備
マイナス面
○スキーアイゼン→滑落して損傷。ノーアイゼンは恐かった。
○アイゼン→スキーアイゼンに頼り切って持たなかった。これが最大のミスかも持たなかったのは重さも考慮したためだが、深く反省。
プラス面
○ブラックダイヤモンドストック→クラスト面にさせる角が付けられるのはうらやましかった。重くはなさそうだし、ここ一番で分かれ目になるかも。
○スコップ→個人装備はやはり必要。個人の指向でそろえればいいが、今回感じたおすすめは以下のもの
仕事率のいいもの
取っ手はD環の伸縮タイプでシャベル部分は金属製(パーティー内では必携では?)
短めの小回りが利くものだがかき出し能力が高いもの
雪洞内部でのかき出し作業に有利。軽いプラスチックでもいいかもしれないが、個人的にはプラスチックはやはり壊れそうに思えた。
チタン製の堅いもの
雪を切るにはいいだろう
○スノーソー→パーティー内で一つは必要。テント、小屋泊予定でもだ
○新聞紙→靴の湿りを取るのにもやはりいるのでは?凍傷はとにかく防がねば
○凍傷防止薬→冬山エマージェンシーパックには入れるべきだろう
○ブレスサーモのインナー手袋→今回かなり助かった。予備としてもう少し持ちたい
○無線の簡易マニュアル→高機能に対抗するにははやり必要。交信できないとき疑心暗鬼にかかる
○マーキング→どんな場合にもやっぱり必要だ
買い換えを検討した商品
○ライフリンクのゾンデ兼用ストック
ストラップの安全装置が何度か外れた。長さの調節はやはり必要だろう。