2008 山日記



■2008山行記録■

中ノ岳(2085.2m) 
  2008.6.15(日)晴れ 
 トンネルを抜け、三国川(さぐりがわ)に架かる橋を渡ると登山者専用駐車場があり2台の車が駐車されていた。その横に車を停めると人影はなく、丹後山縦走か?今夜は避難小屋泊まりのようだ。登山口の偵察がてら少し先にある十字峡登山センターに歩いて行くと、「本日の営業終り」の札が下がり、ひっそり静まり返っていた。道を挟んだその前に赤鳥居と祠があり、その左横にコンクリートで固められた階段が急斜面に施され、すぐに登山口は分かった。
 センター前の車に、男性が居られたので聞いてみると岩魚釣りに来ているそうで35cmの岩魚を見せてくださった。車に戻り、夕食の準備をして食事を済ませて待つが、いつまでたっても誰一人来なかった。中ノ岳は累計標高差1700mとハードな山で早出は必須条件になる。まだ暗くならない内からシェラフに入り、明日は私達二人だけかもしれないと覚悟を決め、身体を横たえ眠りに就いた。

 早朝、朝食をとっていると4:40頃一台の車が着き、車中から3人の男性登山者がおりて来られ、5時少し前に颯爽と出発されていった。
 心強くなり私達も身支度を急ぎ、5:10祠に拝礼して、登山届を投函し熊除け鈴を鳴らし、登山口階段を登りだした。
 急登の登山道は高度を稼ぎやすく、まずは第一ポイント500mクリアーして千本松原を目指した。登山道は歩き易く木々は新緑で朝の爽快さや涼しさも手伝い心地よい登りだった。鎖場などをやり過ごし6:10には千本松原に着いた。見晴らしもよく左横には五竜岳がシャープに聳え振り返ると巻機山など遠望出来た。
       
 登山口                   やさしい色のウラジロヨウラク      

   
       
 千本松原                      ブナが美しい    

 第二ポイントの日向山までは600mの登りになる。松やブナの木々が美しく、まるで庭園を歩いているような気さえした。後方から鈴音が聞こえ振り返ると単独男性が登って来られ「健脚ですね」と挨拶を交わし、先を譲った。
 長く感じた道のりだったが、高度計を見るとだいたい察しが付き、心にも余裕がもて淡々とこなし、7:35日向山に着いた。
 雪で覆われた山頂からは雄々しい中ノ岳全景が望め、尾根には登山道がくっきり見渡せた。どっしりとした山容に「カッコいいね」「素晴らしい」と写真を撮り、登高意欲を掻き立てた。ここが中間地点で栄養補給をして日向山の雪斜面をくだった。
      
 背には巻機山も見えてきた                   中ノ岳に向かい日向山を降る      

 生姜畑にはまだ残雪が多く、踏み跡も不鮮明だった。幸い好天なので方向は分かるが、もし昨日のようなガスだったら絶対迷って断念したかもしれないと思うと、登山順を変えてよかったと満足した。好天に恵まれ眺望は最高で、兎岳、丹後山のスカイラインを目で追ったり、中ノ岳を見上げたり、下界を振返ったりと心はときめいた。小天上直下で学生パーティー男女7人が下山して来られ、静か過ぎる山中で人に会うのは嬉しいもの、狭い登山道を譲るとさわやかな挨拶を置き、降って行かれた。
       
 小天上ピーク                   シラネアオイが涼しげに咲く      

 7合目8:25小天上に着いた。この分では予想していた時間よりかなり早く頂上に着けるかもしれない。このあたりではシラネアオイの群生が見られ、目を楽しませてくれた。  池ノ段への湾曲する細尾根の右側は崩壊が進み、慎重に足を運こび進んだ。いよいよ急登に入いると、地肌が出て滑りやすくなっていて緊張する個所もあったが、やがて熊笹で覆われた登山道になり、9:20残雪で埋め尽くされた池ノ段に着いた。
 笹と雪の間を登って頂上に向かうとTが「頂上の取り付きが無い」と言う。池ノ段まで戻りピンクリボンが見つかり藪中に夏道があるのか調べたが見当たらなかった。雪上右谷側に足跡が残されていたが危険と判断し、Tの所まで登ってみた。左に明確な登りよさそうなところがあり、そこに向かうと途中で夏道と合流して、登り進めると避難小屋が見えてきた。「やった。越後三山登ったぞ」と喜び勇んで9:45中ノ岳の頂上に立った。
   
 中ノ岳避難小屋と越後駒ヶ岳                      中ノ岳頂上    

   
 荒沢岳                      会津駒ヶ岳    

   
 平ヶ岳(中)と燧ヶ岳(左奥)                      登って来た尾根と三国川ダム湖(しゃくなげ湖)    

 360度の大パノラマで、残雪模様の名山が惜しみなく姿を見せてくれ、穏やかに広がる風景は心に染み喜びも倍増した。頂上には途中でお会いした魚沼のY氏が休憩され、先に登られた新潟の三人男性が避難小屋から戻られ、池ノ段に降って行かれた。
 赤鳥居に軽く拝礼し、腰をおろし荒沢岳を見ながらランチを食べ、Y氏と山座同定をしたり、山談義などして頂上を満喫した。帰り支度をしているとコーギー犬と中年単独男性が着かれた。「そんな短い脚なのに良く登りましたね」と言うと苦笑されていた。
   
 燧ヶ岳        平ヶ岳                                 至仏山      武尊山    

 10:30男性とワンちゃんに頂上を譲り、下山開始する。登り来た登山道を見下ろし、高山植物の写真を撮り、「下りは楽だね」と気ままに降った。
 生姜畑の残雪を見ると、火照った顔を冷やしたくなり一握りの雪をつかみ、顔に押し付けると雪は一瞬で解けた。気持ちイイ。天上の太陽はギラギラ照りつけていた。
 11:45日向山に着く。中ノ岳も見納めとばかりゆっくり眺め別れを告げた。樹林に入いると少しは涼しくなるだろうと思ったが意外と木陰は少なく、ブナの林に来るとほっとして力も沸いた。
 12:50千本松原に戻りあと一息、膝の負担を和らげるよう意識してジグザグに降り、「十字峡登山センターの水で顔を洗おう」と励みに、ひたすら降り続け、13:30登山口に着いた。
 登山届の半券を投函して、思いっきり冷水で顔を洗うと生き返ったようにさっぱりした。そしてじんわりと満足感に包まれ、幸せだった。
 下山後は五十沢温泉ゆもとかん(500−)で汗を流し、計画通り二座に登れた喜びを土産に、時間に余裕を感じながら帰路に着いた。

平標山(1983.7m) 仙ノ倉山(2026.2m) 
  2008.6.14(土)曇りのち晴れ 
 天気に恵まれず諦めていた中ノ岳、仙ノ倉山だったが、今年の入梅は遅く今週の土日は天気が良いようだ。 これはチャンスとばかり1日目中ノ岳、2日目平標山から仙ノ倉山に登ろうと出かけることにした。
 前日の13日16:00家を出発し、三国川(さぐりがわ)ダムの十字峡に向け車を走らせた。上越から253号線で六日町に近づくと、カーラジオからの天気予報では早朝は低気圧の影響で不安定と判り、少しでも影響が少ないであろう仙ノ倉山に先に登ると決め、17号線を走行し湯沢町元橋にある平標山登山口に向かった。
 20時過ぎに登山口に着くと広い駐車場には5台程の車が停まっていて、大きなテントなどが張られていた。少し離れた場所に車を停め、遅い夕食を済ませシェラフに潜り込んだ。

 朝、目を覚ますと夜中に多くの車が着かれ、早朝4:30にはツァーバスも着き、皆さんストレッチなどして万全な準備をされていた。今日は標高差1200mとそんなに時間を要しない。お天気の回復を狙いゆっくり遅い時間からの出発を考えていたが、後から後から来られる登山者が次々に出発して行かれる姿を見ていると次第に急かされ、シェラフをたたみ朝食の準備に取り掛かった。
 6:00準備を整え、トイレ横のポストに登山届を入れ、歩きだす。二居川の橋を渡り広い舗装道を直進すると右手に松手山登山口があり、丸太の階段を登りだした。広葉樹の森が広がり新緑が清々しく気持ちが良い。次第にブナの木が目立つようになり、振返ると苗場山や鳥甲山、佐武流山などが遠望でき気分も高揚してきた。
        
 トイレ横にある登山口                   苗場山も遠望でき期待が膨らむ        

 やがて風の唸りが大きく聞こえだし巨大鉄塔に着いた。御夫婦が休憩されていたが、谷から吹き上げる風と電線が共鳴してなおも寒く感じ、とても憩う気にはなれず足早に通り過ぎた。
 樹林帯の急登を行くとやがて森林限界に出て、右には平標山に続く穏やかな稜線がラインを描き、左には小高い松手山が見えてきた。
       
 やっぱり巨大鉄塔だった                   松手山から平標山に繋がる尾根(上部にはガスがかかり始めた)      

 7:20松手山に着くと3人の方が休んで居られた。あんなに期待した天気だったのに雲の流れが速く平標山の上部はガスで消され、苗場山をはじめ標高の高い山々はすべて姿を消していった。天気の回復を祈りながら平標山へと歩きだした。 草付きの穏やかな稜線はやがてガレ場となり枕木の階段の登山道になった。風はますます吹き荒み体温を奪った。重ね着をして手袋をはめ登り急ぐと一ノ肩に着き、寒風からも解放され平坦な登山道になり、ハクサンイチゲやコイワカガミのお花畑となり、熊笹に交ってピンクのシャクナゲやミネザクラがモノクロの世界に色を添え、気持ちを和らがせてくれ、8:30平標山に着いた。
       
 ハクサンイチゲの群生                   平標山には誰一人いない      

 深い霧に包まれた頂上にぽつんと山名板が立ち、人の姿はどこにもない。先行の登山者はどこに消えたのか?写真など撮って、仙ノ倉山に向かう。一寸先も見えない霧は奈落の底に落ち込むような深い沈黙と鈍い不安を感じさせ戸惑ったが、勢いで木造急階段を降った。何のことはない平標山はお花の山、稜線斜面にはかわいい高山植物の花々が寒風に震え咲き乱れていた。「ああ残念、ここからの仙ノ倉山の風景を楽しみに来たのに」仕方がないとは分かりつつ愚痴がでる。北側からの風で、耳が切れるくらい痛く手も冷たかった。シャクナゲとハイマツのじゅうたんの中に木道が敷かれ歩き易くなっていて、仙ノ倉山手前のピークでツァー登山者25人位が一糸乱れず下山されてきた。しかしほかには誰にも出会わない、皆さん悪天候で平標山で下山されたのだろうか。
       
 シャクナゲのじゅうたん                   仙ノ倉山は小雨のような霧      

 9:15仙ノ倉山に到着、男性一人が頂上に居られ挨拶を交わす。もちろん霧に包まれ景色は無い。雨のような霧が寒くて冷たく、雨具を着こんで風を避け万太郎山側の熊笹の茂みに腰を下ろし休憩を取った。おにぎりなど食べたが、あとはすることも無く時間を持て余まし、下山することにした。
 9:40方位板を眺め、富士山を想像して下山開始とした。来た道を戻り平標山へ向かう。稜線上では多くの登山者にお会いした。天気も少しずつ回復しているようだったが霧は頑固で晴れそうになかった。
          
 シャクナゲ       ハクサンイチゲ       ミネズオウ                                 

          
 コイワカガミ       ハクサンコザクラ       ミヤマキンポウゲ                            

 10:15平標山に着くと多数の登山者がランチを摂られ寛がれていて、ほんの二時間前の様相がまるでうそのように感じた。空も幾分明るくなり気まぐれに雲が薄くなる。期待が高まり一目だけでも稜線を見たいものだと15分間ほど粘ったが身体が冷え、平標山ノ家に降ることにした。
       
 青空が広がり始めた                   雲の流れが気になり、頂上を振り返る      

 木道の階段をしばらく降ると正面の大源太山の上空に青空が広がり、見る見るうちに広範囲に広がった。戻ろうか?しかしやっぱり平標山は雲に隠れたまま、立ち去り難く後ろを振り返っては思い悩んだ。Tは立ち止まり降りようとはしない。結局30分間も諦めきれず立ち尽くしてしまった。
       
 快適で素敵な平標山ノ家                   山ノ家からの平標山      

 11:20平標山ノ家に着くと意地悪なことに稜線が姿を現した。仙ノ倉山でお会いした単独男性と悔しさを分かちあい、晴れ上がった平標山を眺めた。冷たいおいしい水をいっぱい飲み、11:40平元新道を降った。
 丸太の階段で整備された登山道は味気ない気もしたが、新緑のブナ林ではハルセミの合唱が聞かれ、初夏の爽やかな季節を感じ快かった。森はカラマツに変わり12:15林道にでた。長い林道を歩き、ゲートを過ぎ、橋を渡ると舗装道路になり、すぐに右に駐車場に通じる登山道が出来ていた。切り開かれたばかりで赤いリボンがやたらに下がり間違いようがなく、はやく踏み固めて欲しいように感じた。
       
 平元新道はほとんどが丸太階段               150台収容の駐車場      

 13:10駐車場に着くと車がずらりと並び、Tが「一つの山で、こんなに車の多い山は、初めて見た」と驚いていたが、多くの登山者に愛される人気の山だった。(7/1から有料駐車場になるようだ)
 「機会があればもう一度秋に来よう」と半日遅れた天気の回復に、恨めしく空を見上げた。下山後、ゆっくりと街道の湯(500−)で汗と疲れを取り、湯沢町のスーパーで買出しをして、中ノ岳登山口がある、三国川(さぐりがわ)ダムの十字峡に向け車を走らせた。

人形山(1726.1m)  
  2008.6.7(土)晴れのち曇り
 程よい標高差と、山菜恋しさから人形山に登ってきた。
 五箇山田向から林道に入り、九十九折れを走行すると淡紅色のタニウツギの花が出迎え登山口へと誘ってくれた。中根山荘を過ぎ駐車場に着くと、すでに満車で岐阜からの7〜8人グループが屯され、予想以上の人出の多さに驚かされた。かろうじて我が車も狭いなりに駐車することが出来、身支度にとりかかり、準備を整え8:00登山道を歩きだした。
 ホトトギスが初夏を告げ、無表情な杉林も清々しい。登り進むと登山道はぬかるみ慎重に足場を選びながら第一ベンチへと向かった。
 8:50ベンチに着くと多くの登山者が休憩されていて、横目で見送りながら歩を進めた。すぐに石川からの7〜8人グループが先を譲ってくださり、有り難く前に出ると、一隊の中から「T&Mさんでは?」「いつもHP見ているよ」と声を掛けて下さった。「そうです。わぁ〜うれしい」こんな稚拙なHPでも見て下さっているのだと心から感謝して、熊遭遇の件など話した。登山道にはムシカリやタムシバの白い清楚な花が空に咲き、足もとにはイワウチワやツバメオモトなどが開花し、コマドリやホトトギスやウグイスが高らかに歌い競い、初夏の爽やかさが五感を通じて伝わってきた。
 9:40宮屋敷に着いた。男性が二人休んで居られ、その傍らにリュックを下ろした。長身と端正な顔立ち、どこかで出会ったような?思い出せない。その方が「関本さん」と声をかけて下さった。「やっぱり」と思うが記憶が一致しない、お聞きすると06.1/9小佐波御前山でお会いしたS氏だった。よくも覚えていて下さいました。感謝いたします。S氏を見送り、対峙する人形山を眺めながら鱒ずしを食べ、しばし休憩を取った。
      
 今年のしめ縄少し長くないですか                   端正な三ヶ辻山      

 少量の汚れた雪上を歩き、平坦地を行くと見晴らしも良くなる。早々と年配者3人の下山者にお会いした。小松からの方で6時から登られたのだそうだ。登山道正面には端正な三ヶ辻山が聳え、その谷に残る幾筋の残雪は白模様となりブナの芽吹きの若緑と配色が美しく、いつ見ても心が浄化する風景だ。心にさわやかな涼風が流れ込み、満たされながら行くと梯子坂となり、登り終えると10:30三ヶ辻山分岐に着いた。
      
 根のくぼみに咲くショウジョウバカマ                   カラモン峰側からの人形山      

 辿って来た尾根道を見下ろして、直進して頂上に向かう。今日の白山は姿が見えるが霞んで、はっきりしない。目線は必然と足元にむけられる。稜線にはコイワガカミ、ショウジョウバカマ、カタクリ、ミツバオオレンなどの花が咲き、彩りを添えている。穏やかな頂上も近づき10:50頂上に着いた。
 頂上にはS氏を含め3名の男性が休んで居られ、そこで写真を撮ろうと思ったが、残念なことに岩崎元郎氏の記念山名板は崩壊して木片だけが残っていた。三角点に戻り、少し奥にある刈り込んだ広場に移り、腰を下し寝ころんだ。
       
 カラモン峰                   頂上でくつろぐ人々      

 自然に抱かれる喜びと大きな解放感に、「幸せ」と言葉が突いて出る。お腹を満たし、コーヒーを飲み、静かな平穏な時間がゆっくり流れた。いつのまにかTが居なくなり帰って来た。カラモン峰に延びる稜線を偵察に行って来たのだそうだ。まだまだ気ままな時間が流れた。そうこうしていると、こちらの休憩地にも登山者が集まり、そろそろ下山することにした。
       
  三ヶ辻山を望みながら穏やかな稜線を降る                   宮屋敷に伸びる尾根      

 12:00三角点に戻り下山開始とした。宮屋敷に戻る途中からガスが湧き、山々の景色を飲み込んだ。寂しい気もしたが、Tは涼しいと歓迎していたようだ。宮屋敷で小休憩をとりひたすら降り14:05駐車場に戻った。
 お目当てのウドを少し採取して満足しながら、五箇山荘で汗を流し、心地よく家路についた。
         
        
         

僧ヶ岳(1855.4m)  
  2008.6.1(日)晴れ
 本命の登山は雨で流され、日曜日に単発で近郊の山、人形山に登ることに決めた。朝起きは三文の徳というが、なんとなく去年の人形山を思い出し、インターネットで検索するとやっぱり6/1は人形山の山開きだった。人の多すぎる山は興ざめだし、出発時までは時間もある。検討し直し東又から僧ヶ岳に行き先を変更した。
 家を5:35出発して、片貝川上流を目指す。南又林道を見送り、ガタガタ道の悪路になると群馬ナンバーと片貝山荘手前には京都ナンバーの車がそれぞれデポされ、谷間の緑のしじまにひっそりと埋もれていた。
 7:00登山口に着いた。川幅一杯の雪解け水が激流となり荒々しい水音を立てている。その傍らで謙虚に準備を整え7:15登りだした。
 先行のTは快調に登るがMは足が重い。気合いも無く、のんべんだらりと足を前に出しているとふくらはぎがのびて痛くスピードは上がらない。そのうち慣れると楽観していたが汗が吹き出し自分の腑甲斐なさを思い知らされた。高度も上がってくると阿部木谷右岸の駐車場には12台の車が小さく数えられ、毛勝谷は盛況のようだ。木々の間からは毛勝山や大明神山が望まれ、雄大な景色に励まされ辛抱強く登り続けた。
 8:45 650mを稼ぎ伊折山に着き休憩を入れる。此処まで来ればもうあと半分、青空に清々しく広がる若葉を見上げ、心は舞っていた。
 今年は雪が多いようで成谷山に向かう登山道は残雪で埋もれ かなりのところで藪漕ぎとなっていた。枝に吊るされたピンクリボンを頼りに登っていくと雪面には小熊の足跡が見受けられたり、新芽がまとまってえさ場のように置いてあったりと興味深い観察ができた。
      
 木々の間から毛勝山が見えてくる                   P1455付近の新緑はやさしい色合いだ      

   成谷山に至る登山道の左側尾根からひっきりなしにミィーミィーと聞き覚えのない鳴き声が聞こえ、登るにつれ声は近づき大きく頻繁になった。これは小熊が母親に助けを呼んでいるのではないかと内心怖くなり、熊除け鈴が大きく鳴るように意識して体を揺すりながら登り続け成谷山手前に来た。先頭のTも危険を感じ「あの鳴き声はなに?鳥ではないな。」と足を止めた。「小熊だよ。きっと」そう言っていると、急に鳴き声が至近距離からけたたましく聞こえ、危険を察した私たちはとっさに大声で「オオーイ、オオーイ」と叫びながらストックを力一杯細木に打ちつけ叩き、存在示した。と同時に雪に覆われた成谷山頂上から親熊が堰を切ったように斜面をかけくだって来て、その後ろには小熊が見えた。「こちらに来ないで」と懸命に大声を出し続けると谷に降ったのか姿が見えなくなった。直線距離にして100mくらいで放心状態になった。長い間登山をしてきたが、実物の熊を見たのは初めてだった。Tが「帰ろう」と言う。此処まで来てもったいない気もしたが正直足が竦み怖かった。呆然と立ち尽くしていると、頂上付近がギィーギィーと騒がしくなり今度は猿の移動が始まった。「猿ってこんなに大きかったか?」と思えるほど立派な雄猿が先頭をきり、斜面をゆっくり降りトラバースしながら堂々と北又谷に入って行く。母猿は子猿を腰下に乗せその後に続く。20〜30頭は居ただろう。もうここは人間の居場所ではなく野生動物の縄張りに入らせてもらっているのだと痛感した。猿の通過に時間がかかり気持ちも落ち着き、前進して10:00に成谷山に着いた。
      
 成谷山からの僧ヶ岳                   熊の怖さを感じつつ僧ヶ岳に向かう      

 雪面には多くの猿の足跡に交って熊の足跡が斜面を降りて北又谷に向かっていた。毛勝山は雄大に眩しく輝き、Tが「動物から頂上を奪還した」とはしゃいでいたが、Mは気もそぞろ休憩もせず僧ヶ岳に向かった。
 稜線の雪上にはフカミドリ色の新しい熊の糞があちこちに見受けられ、心細い限りで二人で大声を出しながら先を急いだ。景色など見る余裕も無く、ただただ視界に動くものはないかと緊張の連続だった。時折残雪から顔をだした夏道には陽をたっぷり浴びたカタクリが気持ち良さそうに花弁を広げ、少しは気持ちを和ませてくれた。軽いアップダウンを繰り返し、雪上を登りきると11:00頂上に着いた。
      
 頂上からの駒ヶ岳                   毛勝山をバックに      

 宇奈月側から登られた男性が3人居られ、素晴らしい山日和と360度の眺めを共有して、山談義などを楽しんだ。地元の方で話によると北又谷は熊の巣なのだそうだ。毛勝山を正面にレジャーシートを広げ、頭にリュックを置き、空を見上げ寝そべった。まるで天狗様になった痛快な気分だった。その後、宇奈月側から5人の登山者が頂上に着かれたが、期待した東又からの登山者は無かった。
 待っても無駄のようだ。黒部の男性に「明日の新聞に熊に襲われたと載らないように」と励まされ、12:00頂上を後にした。また熊に遭遇したらどうしよう。下り時で感じる解放感もなく、大きい声を出しながら「腹式呼吸の練習だ」とやけっぱちで声を張りあげ降った。稜線を歩いていると、一ヶ所獣臭が鮮明にきつく感じた場所があった。もちろん大声を上げ、早足で通過した。
      
 不安を感じつつ頂上を後にする                   雄大な毛勝山の風景だが頭の中は熊のことばかり      

 12:40成谷山に着き、ここからは木々で見通しが悪くなる。谷に降った親子熊に遭遇するのではないかと不安も大きかった。腹から声を出し訳もなく長く声が続くようTと競争しながら二人離れず懸命に降り13:10伊折山に着いた。
 やっと安全地帯に着き、気持ちにも余裕が持てた。此処で一休みして急斜の下りに備える。ストックやロープでスピードを抑えながら、長い登山道をひたすら降り、無事に14:10登山口に戻った。
 今日の特筆すべきはなんと言っても親子熊に遭遇したことだ。たぶん親熊だけだと鈴の音が聞こえると逃げると思うが、子を守る母熊はどんな行動をとるか解らなく、危険極まりない。なにはともあれ頂上に立てた事、無事に下山出来たことが何よりも幸いだった。この東又コースが好きだったが、しばらくは遠慮したい重い気分だった。

猫又山(2378m)  
  2008.5.17(土)曇り時々晴れ
 3週間ぶりの山行は猫又谷に決めた。05.5/22、Ta氏リーダーに同行させてもらいTは既に登っているが、所用で不参加になったMを気遣いTa氏が「今度は奥さんを連れて来てあげて」との、約束を叶えてくれたのだった。
 4:30に家を出発して、R8を走行し魚津市街地を右折して片貝川上流を目指し、南又林道に入った。どこで通行止めになるかと心配したが、最終目的地発電所まで入れ、広い空地にはすでに3台の車が停車して皆さん身支度などされていた。
 車から降りると、ちらりとこちらを向きさわやかな笑顔が返る。 如月の詩M氏カップルだった。朝の重苦しい空気が急に華やぎ、うれしさが込み上げ心も浮き立った。また拙い我がH.Pを見て下さっている上市のK氏も声をかけて下さり、俄然 力も湧いてきた。あとの一台は神戸からの単独男性だった。
      
 南叉谷発電所まで入れた                  猫又谷全容が望める(標高1000m林道から堰堤に下る)        

 6:15準備を整え林道を歩きだした。大きなヘアーピンカーブを登ると、単調な林道になり新緑を眺めながらウォーミングアップにぴったりと気持ち良く歩いた。所々にデブリが発生して林道に覆いかぶさり自然の脅威を見せつけている。ようやく猫又谷全容が望めるようになると谷には最終堰堤も見え、林道を離れ河原へ降った。  7:15堰堤を越えると、先行されていたK氏がアイゼンを履いておられ、私たちもここでアイゼンを履いた。
 まだまだ谷は割れていて左岸の雪面を登り進み、標高1200m付近でようやく谷は残雪で埋まった。緩やかな広い谷は解放感もあり登りやすいが、大規模なデブリ跡や落石も多く見受けられ意識的にど真ん中を歩くように心がけ、8:25には二又に着いた。
      
 最終堰堤と猫又谷                  二又 頂上付近には不穏な雲がまとわりつく        

 本日の天気は晴れと見込んでいたのに期待外れで、山頂付近には灰色のガスが立ち込めすっきりしない。立ち止まると身体は冷え寒くなった。此処で上着を着て休憩をとった。
 栄養補給をして上着を脱ぎ登高を続けようとした時、帽子を落として来たことに気がついた。今日は曇り空ゆえ、日焼けの心配はないが、愛着ある帽子を失ったことが寂しくて堪らなく、下山時にはきっと見つけようと気持ちを切り替えた。
 二又から右俣に入るのだが、スキーを履いたM氏が、ガンガン飛ばし後姿が小さくなる。頂上から降って来る四人の人影が見え、ついにM氏と合流して話し込んでおられる。どこから来られたのだろうと会話の交流を楽しみに登り続けると神奈川からの男性1人、女性3人のグループだった。稜線でテントを張り、天候が悪いので朝猫又山に登り下山したのだと答えて下さり、元気良く降って行かれた。
 勾配が増した付近で左の谷から乾いた凄い音が聞え、目を向けると50〜60cmぐらいの雪塊や落石が高速度回転しながら猫又谷に転がって行った。突然の出来事に緊張が走り、気持ちが凍ってしまった。私たちは上部に居たが、下部の人はさぞ怖かっただろう。あんなものを見ると谷の両脇から雪崩が発生するのではないかとマイナス思考が働き、早く稜線に出たいと切に願った。斜度は増しかなり長く感じる。こんなところをスキーで登るM氏は凄い、危険場所は速やかに通過しなくては、Tがジグザグにステップを切ってくれればいいのに、などといろいろな想いが頭の中でぐるぐる回っていたが、此処が今日の核心部、ハイライトこの場所あっての猫又谷だと思えば気持ちも落ち着き、Tの直登のステップをゆっくり慎重に丁寧に足を運び続け、10:20低く垂れこめた雲の中のコルに着いた。
      
 猫又谷下部を見下ろす                  猫又谷上部を見上げる        

 もちろん何も見えないが、予想外の我が元気ぶりに驚き、この調子では頂上までも軽いのではないかと楽観して、頂上に向かった。
 最初の急斜はなんともなかったのに、二つ目の急斜を登るとどっと足に重みを感じた。もうTには付いて行けない。「ゆっくり登って来るから先に行って!」と告げ、後続の富山の男性二人組に先を譲り、その後に続くとなだらかになり、一番乗りのM氏が見え11:05頂上に着いた。
      
 猫又山頂上                  頂上の岩が空を見上げるライオンに見えた        

      
 雲間より一瞬姿を見せた釜谷山と毛勝山                 如月の詩M氏と記念写真          

 山名板と石仏の写真を撮り、少し降った風の当たらないところにTが雪を掘り休憩場を作って待っていてくれた。前回来た時もここで休み、釜谷山や毛勝山が雄大に見えたのだと懐かしんで話してくれた。
 今日は晴天のカンカン照りだと推測して、温いものは要らないとコンロを持参しなかった。それがまるで冬のような寒さで身体が冷え、温かい飲み物を欲した。Tはお酒を飲み暖まったようだが、Mは足が吊り雨具の上下を着こんで凌いだ。Tはもっともっと頂上に居たいようだったがMのあまりの冷たい手に同情して、腰を上げてくれた。 次から次と頂上には登山者やスキーヤーが着き、今日の猫又山は大賑わいだった。
 12:00下山開始とした。あっという間にコルに着き、急こう配の谷を降っているとM氏カップルをはじめ、山スキーヤーが気持ち良く滑降して、蟻粒のように消えていく。それを見送りピッケルを刺しながら地道に降る。二又を過ぎて斜度が緩やかになった所を尻セードで滑ってみた。子供に返ったように自然に笑みが込み上げ楽しいが、なんだか恥ずかしくなり一度だけでやめた。下山時には帽子の探し物の目的があった。すぐに我が手に戻ると信じていたが、結果は見つけることが出来なかった。山の相棒を雪まみれ泥まみれ、または風雨に晒すのかと思うと忍びなく辛かった。
 13:35最終堰堤に着き、アイゼンを外し、合羽ズボンを脱ぎ、解放感や虚脱感を感じつつ林道を降り14:30駐車場に戻った。駐車場にはもうK氏が戻られて居て、軽く山談義を交わした。
    
 降りは速い                   南叉の蛇石        

 帰り道には蛇石があり、K氏と共に良い機会と立ち寄り、しめ縄が掛けられた石に見入った。信仰心のない身としては水神として崇める清き心は無かったが、絶妙な自然のアートに感心させられ、一見の価値はあると大満足だった。また南又林道は山菜とりや渓流釣り、登山者や蛇石見物者が多く入り、強い日差しに目がくらむほど光が満ち溢れていた。あの冬のような頂上は夢幻だったのだろうか。あまりの格差に呆然とするばかりだった。


■2008山行記録■