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T崎のエッセイ&小説
 
 
湖のそばでテントをはって  (仮題)
 
 今日はまちにまった休みの日です。だい君はお父さんと、山にキャンプに行く約束をしていました。
 朝から、太陽の光が、カーテンを透かして、部屋に射込んでいます。
 昨日の夜は、キャンプに行く楽しさと、期待で、なかなか寝付けなかった、だい君ですが、部屋に射込む、太陽の強い明かりで、寝坊することなく起きるこ とができました。
 お父さんは、早速キャンプの準備をしていたので、だい君も慌てて、顔をごしごしと、いくらかぬるい水道の水で、洗ってからお父さんに「おはよう」と挨 拶をして、支度を始めました。
 いつも使ってる水色のリュックサックに、あめ玉、着替えと洗面具、双眼鏡、軍手等キャンプに持っていく物を、忘れ物がないように、ゆっくりと確認しな がら準備しました。
 お父さんは、釣り竿に、テント、寝袋等いつもの道具を大きめのダッフルバックとリュクサックに入れていました。
 支度の終わったお父さんは、二人分の簡単な朝食を、用意していてくれました。
 お父さんの作ってくれたおにぎりと目玉焼きを食べながら、だい君は言いました。
「お父さん、きょうは絶好のキャンプ日和だね」
 するとお父さんは、半分平らげたおにぎりを口にほおばりながら言いました。
「昨日の夜のうちに、だいが寝た後、テルテル坊主を、作っておいたのだよ。」
「お父さんの努力のかいがあったね」だい君が言うと、お父さんは部屋の遠くを見て笑いました。
 「お父さん山では何を食べるの?」と聞くと、お父さんは釣り竿を片手に言いました。
「お父さんがそばの湖で魚を釣るから、魚を焼いて食べるのだよ」と言うとだい君はすぐに疑問がわきました。「湖って?魚を焼くって?どうするのだろう」
 しかしだい君は、すぐには質問をすることはやめました。実際に山に行って見ればわかるはずだからと思ったのです。
 
 これで履くのは二回目の、茶色のブーツをきっちりと紐を結び履くと、いよいよ出発です。
 お母さんがお見送りに玄関まで来てくれました。
 
 まだ朝の早い時間です。風が、長袖シャツの袖口を通して、肌にいくらか伝わってきて寒さを少し感じました。しかし空を見上げるときっちりと青い空と太 陽がありました。

 最寄りの駅までは、バスで行くことにしました。バス停までの間、さらに頭上近くまで上がった太陽が容赦なく二人を照らしました。
   だい君は言いました。
「お父さん、暑いから短い半袖のシャツじゃいけないの?」
   するとお父さんは、熊よけの鈴を、必要以上に鳴らしながら言いました。
「だい君これから山に行ってキャンプをするんだよ、山に入るとここよりはいくらか風もあるし冷えるんだ。虫も多いからそのためにも肌を出さない方がいいのだよ。」
 
 バスの中は駅に向かう人達でいっぱいでした。これから町に遊びにいく人や、お仕事をしに行く人達です。
 内浦駅に着くと、オレンジ色をした2両のディーゼル車が停まっていました。
 お父さんが切符を、買ってきてくれたので、すぐに乗ることが出来ました。
 いくらか油の匂いのする列車は、二人が向かい合わせの席に着くと、エンジンの音を大きくしながら動き始めました。
 お父さんは網棚の上にリュックサックとバックを載せると、窓を少し上に持ち上げ開けました。
 内浦湾の海の匂いが、気持ちの良い列車の風にのって車内に入り込みました。
   列車に揺られる事50分で、山見駅に着きました。駅からは、山まで少し歩いて、目指すはキャンプ地です。
 だい君の家の周りにも、山は、見渡せますが、ここの山はだいぶ様相が違います。家の周りにたつ、小森山の低く連なる山と違い、ロウソクのように、てっぺんに向かって伸びる山は、だい君の好奇心をすぐに刺激させました。
 だい君は、山まで向かう道の途中に、お父さんに聞きました。
「これから行く山は何ていう名前なの?」
 お父さんは、山見駅で貰った、『山見周辺日帰り観光ガイド』をシャツの胸ポケットから取り出して、広げると言いました。
「この辺りに住む人達は、トンガリ山と呼んでいるみたいだね。だいも、だいの友達も、みんな小森山の事を、たぬき山って、呼んでるだろ。それと同じで、 ここの人達も、自分達の呼びやすい言い方で言っているんだね。お父さんも来るまで知らなかったよ」
 そう言うと、いくらか近くなったトンガリ山をみて笑いました。
 だい君は名前のとおりだなっと、おかしくなってお父さんと一緒に笑いました。
 山に向かう途中で、お父さんは小さい商店に寄りました。キャンプで食べる食料を買うためです。
 赤い塗料の塗られた郵便ポストと自動販売機が表にあり、お店自体も全体が綺麗なオレンジ色で塗られていました。お店の名前は分かりませんでしたが、そ のまま『オレンジ商店』なんて名前だったら面白いなーとだい君は思いました。
 だい君は、表のジュースの並ぶ、自動販売機を見てノドが鳴りました。
 朝、家を出発してから、いままで何も口にしていないのです。お店の中で買い物を終えたお父さんが外に戻ると、言いました。
「お父さんノドが渇いたよ」
お父さんは買い終えた食料を、リュックサックに、手際良くしまい終えるといいました。
「そうだねここでしばらく休みにしようか、だいぶ暑くなってきたし山もすぐそこだからね。」
 
 お店の脇には、丁度よくオレンジ色に塗られた、ベンチがあったので二人してそこに腰掛けて、飲料水を口にしました。
 時折小さなトラックが、農作業に使う道具を載せて走っていく音や、田んぼの中を行き交うトラクターの軽快なエンジン音の他は、水田の脇を流れる小川の 気持ちよい音や、遠くの方で聞こえる山鳥の鳴き声が聞こえるだけで、だい君はとても気持ちの良い景色だなーと思いました。
 ガイドマップを広げていたお父さんは何か子供が宝物を発見した時に喜ぶ仕草で、
「トンガリ山の中には、馬返し峠という場所があって、昔まだ車がない時代に荷物等を馬に載せて旅をしていた人々は、馬でも越せない急な峠坂で廻り道をしないとトンガリ山を越せなかったんだ。だから馬返し峠という名前がついたみたいだよ」
 と、ガイドマップとまじかにせまる、トンガリ山を交互に眺めながら、言いました。
「それにね、トンガリ山って呼んでるけど、さっきガイドマップを広げていて、分かったんだけど、トンガリ山の正しい名前は、馬入不山(ウマイラズ山)っ て言うらしいよ。」
 だいくんは、目の前に立つトンガリ山の正しい、名前を教えてもらい、何だか、分かった様な、分からない様な気持ちでした。
 それでも、何となく、さっき話した、馬でも越せないくらいの、峠があるのだから、それに関係しているのだなっと思いました。  
 傍らに立つ木々がまるで、今の話に頷いたかのようにザワザワと枝葉を揺らし始め、辺は気持ちの良い木々の擦れる音で満たされました。

 店先のオレンジベンチで、休みをとった、お父さんと、だい君は、トンガリ山に向かって、再び歩き始めました。
 気持ちいい水田と木立の中を、ところどころジャリの混ざった、その道は、なだらかなS字を描き、ゆっくりと二人の目指す、トンガリ山入り口に延びてい ました。
 山見駅から、トンガリ山までは、ゆるやかな坂道になっていると、分かったのは、入り口手前にある、バス停に来てからのことでした。
 バス停には、『馬入不山登山道入り口(トンガリ山)』と書いてあり、駅から、走るバスの終点で、バスが折り返せる様に、大きな駐車場があり、簡易トイレと、トンガリ山登山道の記した看板が、ありました。
 バス停の脇には、茶色のペンキに塗られたベンチに、この辺りに住んでいるのであろう男が、二人が来た道の、はるか先を、傍らにおいてある少し耳障りな雑音が入る、ラジオを鳴らしながら、眺めていました。
 男は、だいくんとお父さんが、来たのを知ってか知らずか、「きょうは内浦の海がよおく見える。」と、ガサガサと、掠れる声で言いました。
 だい君とお父さんは、なぜ今まで気ずかなかったのであろう内浦の海を、振り返り眺めました。
 遥か二人の見る、眼下のさきには、めいいっぱい降り注ぐ太陽の、光を浴びて、内浦の海が、白波をたて、きらきらと光っていました。
 はるか先に望む内浦のうみの潮風が、気持ちのいい風に、吹かれてここまでくるのであろうか、茶色のペンキで塗られたバス停、男の腰掛けてるベンチと、トンガリ山ガイド看板が、ところどころ、錆びて剥げかかっていました。
 だいくんは、それらは潮風の影響で剥げてしまったとわかっても、そこまで届いているのであろう、内浦の潮の匂いを、いっぱい、いっぱいに深呼吸して、 鼻から、口から空気を吸い込みましたが、潮の匂いとは程遠く、嗅ぎ分けることが出来ず残念に思いました。
 お父さんは、リュックサックの中からおもむろに、カメラを取り出すと、そこにある、トンガリ山を背に、少し剥げてしまっている山案内看板や、ベンチに 座り、ラジオを鳴らしながら、目の前に広がる、内浦の海を眺めてじっと動かない男を、または、内浦の海をカメラに収めていました。
 だい君も、なんとなくその場の、状況を見て取って、背負っていたリュックサックの中から、あめ玉を取り出し口の中に放り込むと、口の中であめ玉を舐め回しながら、双眼鏡を手に取り、まじかに迫ったトンガリ山と、内浦の海を交互に眺めました。
(続)
 
2004.6.24
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