アイガモ農法と呼ばれている稲の栽培方法がある。これは、アイガモのヒナを田んぼに入れて雑草や害虫を食べさせるものだ。除草剤や殺虫剤を使わず、アイガモが食べてしまう。カモの糞が稲の肥料になる。薬剤や肥料代が軽減される。なにより環境問題や健康問題がクローズアップされるなかアイガモ農法は注目の的である。現在、日本国内で約1万人の農家の人がアイガモ農法に取り組んでいる。日本よりはベトナムや韓国を始めアジアに注目が集まっている。それというのもアジアの各国では日本と違い水鳥を食べる習慣があるからだ。つまりアイガモ農法だと、水稲を農薬や化学肥料などの経費をかけずに栽培できなおかつ鳥も育て食用にできる。
このアイガモによる水稲を試み実践し体系化して本としてまとめ世に出したのが、福岡の桂川の古野隆雄さん(47)だ。古野さんはアイガモの水稲を「アイガモ水稲同時作」と呼ぶ。アイガモと稲が一緒に育ち、水田のなかで自然と生命が循環するからだ。また、アイガモのことを「一鳥万宝」とも言う。一石二鳥どころか果てしもない恵みを与えてくれるということからだ。
古野さんのところでは、水田にどじょうもいて、これも鍋にして食べたりしているし、冬にはカモ鍋も出てくる。晩酌は地元の酒蔵と提携して生まれたアイガモ米で作った純米酒「一鳥万宝」をたしなむ。古野さんに言わせれば「田んぼで主食もおかずも取れるんですよ」ということになる。なんとも楽しくなるいいかただ。
古野さんは家族で農業を営んでいる。取れた作物やタマゴなどは夫婦で近所の人たち百軒に自ら配達して生計を立てているのだ。この配達に同行したらとても面白かった。みなさん声をそろえて「古野さんのところだったら安心して食べられる」だった。配達した家を出ると、ずっと玄関で見送る方もいて地域とのつながりの信頼の深さを感じたのだった。
でもなぜいま配達なのか。古野さんに尋ねたら「自分たちの経済が子供たちにも見えるでしょう。それが大切と思ってるんです。それに農業もいろいろやり方はある。僕は家族の農業を選んだんです」とのことだった。
古野さんの農業を見てると田に生命が循環するように地域も家族も生命の循環が肌を通じて伝わってくるようで、嬉しくなったのだった。そんな古野さんから相談をうけた。「今度ね、また本を出したいんです。次はいかに農業が楽しいかという本をね」。残念ながら私のつてでは本にはならなかったが、別の出版社で形になるらしい。いま、本の完成を楽しみにしているところである。