朝日川黒俣沢ガンガラ沢 2002年8月17〜19(2泊目小屋)
佐藤昭一()、佐藤博美(写真

 朝日川黒俣沢ガンガラ沢
 その沢は3年前登った朝日俣沢からの帰路、中ツル尾根から左に見えていた。又、熊越しのコル正面眼下、あるいは、荒川源流中俣遡行帰り大朝日岳山頂からも見下ろせた。そこはいつかは登りたいと思っていた。朝日鉱泉手前林道駐車スペースで軽く入山祝い。翌朝4:30起床、曇り空の下、相変わらずのザックを背負う。朝日川に架かる第1の吊り橋を渡る。水量平水、水色透明、朝モヤ漂う緑のシダ葉の下草ブナの森の中を歩き第2、第3の吊り橋を渡る。2時間ほどの朝の散歩で、朝日俣沢と黒俣沢の合流二又に着く。第4の釣り橋が架かる黒俣沢にガチャ類を装着し入渓。アブ子達の歓迎はまだのようだ。少し歩くと沢が右から出会っている。本流を進む。しばらくぶりの沢水を楽しみながら遡行を続ける。

さあーいくぞぉー

 やがて岸壁現われゴルジュ帯の様相を見せ出してきた。いくつかの淵を腰、お臍胸まで浸かりながらへつり上流を目指す。春の雪シロでだろうか?狭いゴルジュに倒木がダムを作り前を塞いでいた。両壁とも垂直、ハングしている。取り付いてみるも後少しのところで脚が届かない。  少し戻り、右岸を高巻き15メートル懸垂で沢床へ降りた。続いて3M滝。右を巻く。今回は軽量化を計り、食料もほとんどジフイーズ、レトルト中心である。
 でも、せっかくだからとテンカラ竿を1本だけ忍ばせて来ていた。少し時間を割いて、もう少しで出会うだろう魚止め滝まででもと、相方が竿を振る。

 ここまで釣り人の足跡は1つもなかった。岩魚の走る影も見えなかった。
 『あッ!走った!』『いた。いた!いたヨー!。』 とりあえず魚影を確認できて少し嬉しくなる。
結局、釣果はゼロだったが、『まあいいやぁー。』と思う自分が数年前にはとても考えられない。右左にルンゼ、滝が架かるナメ滝を登ると右手に黒倉沢が落ちている。

 ゴルジュに続くトロ場を越え小休止。菓子パン半分で人心地つく。地形図を見ると、上流左から横吹付沢が滝を架けて出合っている。ここで2又に分かれ黒俣沢がガンガラ沢と名を変えているらしい。左ドロ壁斜面に雪渓残骸を残すガンガラは10M滝で出会っていた。直登シャワアークライミングは無理。左草付き垂直壁をお助けヒモを肩に空身で攀じる。アイスハンマーを効かせヘイこら登る。去年の横松沢バーチカルどろ壁登りを彷彿させる。上部潅木にフイックス、下に放る。(ありゃー。届かん!。)一旦途中まで降りて相方にザイルを持ってもらい連結。ザックを背負い登り返す。先を覗くもゴルジュ、連爆帯の気配濃厚。高みが霧に煙る横吹付超細尾根稜線の人跡気配皆無のやぶ密集尾根を登り渡る。




  ガンガラ沢最初の滝

横吹付沢左岸の超細尾根の背丈以上の藪を漕いだ

 きつい藪漕ぎにいいかげん音を上げはじめた頃、遥か眼下に大滝を架けて右に曲がりくねるガンガラの沢が1筋の白い水線をひいているのが濃密の木々の狭間からはるか遠くに望めた。
急斜面を潅木帯の切れ目までモンキーで降り懸垂支点を探す。斜面は途中で草付きが切れ垂直岸壁と変化し切れ落ちている。ここしか無いだろうという斜面潅木にシュリングをかませてフト足元を見る。足掛かりにしていた木の根っ子に色あせた残置シュリングがその存在を静かにアピールしていた。相方も同じ気持ちらしく不思議に嬉しい心持ちでそのシュリングをしばらく見ていた。先達に敬意を表して、同じその木に支点場所を変更。高度感が半端でないので40mザイルを8の字で結びダブル連結。

 緑の草付き急斜面に一際目立つ1輪の日光キスゲを途中目印に30m懸垂で沢床着地。下流はやはり両端狭まる連獏帯であった。先の情報ではこの辺りは例年雪渓で埋まっているとのことであった。 が、わずかばかりの黒ずんだ細長い氷が壁に張り付いているだけだった。眼前にナカナカの威容を誇る2段30M滝が轟音をたてて落下している。

 滝口が若干ハング気味だが何とか右側を登れそうだ。空身でザイルをひく。これより上流は少しずつ高度を上げ始めているらしい。

 大きく左に曲がって沢が続いているらしいが前方は白いモヤでハッキリ見えない。喉も渇いたし、お腹もすいた。今日はここで行動休止。上流からの冷たい風を塞いでくれる大岩バリアーゴロ岩一間を今宵宿屋と決める。焚火流木を探すが濃厚霧でシトド濡れそぼるわずかの細木があるばかり。諦めきれず集めるも片手に余る程度。それでもしつこくテン場までズルズル運び込む。冷えた身体に沢水冷却キンキンBEERはお腹に良くないので乾いた服に着替える。まずは、落ち着くべェー。焚火は無いけど、岩魚もイナイけど、ビール、ウイスキー、焼酎がある。

 焼きビーフン、パスタペンネオーレ、ベーコン、チキンらーめんもある。そして大滝に取り付く前に見つけたまだ食べられるウドも数本GETしてある。何より目の前にはガンガラの沢がいい音を立てて流れている。幸せ!。ハッピイ。やでうれしや!。
アブ子の姿を見ていないのが少し寂しい。(やでうれしや。)

 翌朝4時30分起床。1瞬、アルコハイマーで『あれ!。ここどこ?。』相方はシュラフの中。寝ぼけ眼でお湯を沸かしモーニングコーヒーの準備。テン場片付けあいかわらずのザックを気合を入れて担ぐ。今年は例年にない寡雪でGW朝日縦走で見た降雪量は昨年の3分の1であった。これより先の上部雪渓もおそらくはきっとグズグズなんだろーか。きのうは敢えて考えないでいたが少し覚悟決めるかぁー。遥か前方に不気味な白いガスもやの塊が見えてきた。進むにつれガスで真ッ白の世界が広がって来た。この幻想的な世界は現実だよなぁー。やがて見えてきたのはモヤにかすんで浮かぶ巨大雪渓のシルエットであった。目の前に立ち塞がるその姿はまるで巨大コンコルドが翼広げる様。しばらく目を凝らすも奥が見えない。先が見えない雪渓は潜れない。けっこうな高巻になるが左草付きを這い登り上流確認。やはり先は切れていた。

ヤバイ雪渓が連続してきた

 そのままトラバースを続け懸垂下降。
 数基の小滝を遡り越え、先程見届けた上部雪渓より流れ下る冷気の空間に身をさらす。
眼前に立ち塞がる雪渓を息を呑み見上げる。キリがかかり出口が見えない。両壁は黒く濡れた岩が聳え立っている。とても高巻はかなわない。雪渓上に登るか。ハーケンを打つか。くぐるか!。思いが散り散りに浮かぶ。無意識のうちにザイルをハーネスに結んでいた。時間だけが流れ去っていく。相方がいても立ってもいられない様子で壁に取り付きリスを探している。もう1度雪渓大口を覗く。向こうに続いているだろう出口の光が1瞬鈍く点滅した。大急ぎでザイルをしまう。今度はハッキリ見える。

 『行ける!。』息をひそめて薄暗い雪渓腹中に飲み込まれる。氷で作られた大伽藍だ。畏怖の念が湧き上がる。クジラに飲み込まれたピノッキオの気分。天井から無数の冷たい水滴が糸をひいて滴り落ちている。たちまちのうちに全身びしょ濡れになる。かまわず走る。息を切らして走る。わずかに右にカーブして続く氷の廃墟の出口は青いコバルト色を放つ大小の崩壊ブロックに埋め尽くされていた。舌は口中の皮に張り付き、喉がヒリヒリ痛む。胃液が喉元まで上がってきた。喉湿しを冷たい沢水でもらい気を落ち着かせる。

出口にはブロックが散乱していた

 出口左から5mの滝が架かりその水勢での崩落のようだ。滝落下隙間から身をせり出し滝口につながる滑る氷塊を慎重に登り越える。しばらく歩くとまた雪渓だ。最初の雪渓にはその異様さに少しビビッたが今度は冷静に相方と状況を読む。100mトンネルを2本くぐり抜ける。もうお昼である。予定ではもうY字雪渓をルンルン歩いているはず。事前に読んだ資料と雪渓の状態がまるで違う。再びの雪渓が顔を見せる。
 右岸との隙間ラントクルフトをつっぱりで登り雪渓上を歩く。前方正面に雪渓谷を2分して尾根筋が聳えていた。本流雪渓は先で切れ、続くゴルジュには白い2本の滝が遠望できた。近づいて見るも直登不可。左岸高巻も不可。右岸壁を探るも中間バンドは途中切れ。沢は左に回りこんで先が見えない。右岸に立つルンゼ下部の岩場20mを空身でよじり、越すべき前方沢すじを確認。その先には高度を上げながら霞む雲上に消えて伸びる雪渓が見て取れた。『Y字雪渓か!。』気合を入れて荒ぶる沢にチャレンジスピリッツを奮い立たせる。アドレナリンとエンドルフインを充満させザックを背負う。OK!いくべ。

コンコルドのようなブリッジ

 オーバーハング岩に根付く逆層?潅木に全体重をあずけモンキーで猿渡り。両腕はパンプ。気合で抜ける。40Mザイル2本連結で1ピッチ懸垂。まだ残置用シュリンゲは1回分ある。40Mギリギリで沢床に着いた。苦も無く雪渓上に登りつく。身体は疲れきっていたが高揚する気持ちが勝っている。ゼイゼイ息を切らし1歩ずつ歩を進める。傾斜がキツくなり滑るウエーデイングシューズにアイゼンを取り付ける。いつの間にか霧が流れ去り周りの景色に色がつき始め、登り来たY字雪渓の長大な沢スジの全景が視界に飛び込んできた。その高度感に思わず身体が硬くなる。滑り落ちたら一気に数百M滑落だな。そそくさとしかし、慎重にザックを背負い直す。急峻雪渓を3点歩行でジリジリと登り、目の前10Mで雪渓が消えガレ場に続く地点に辿り着く。いつの間にかヤバイ中央ルートを歩いていた。後ろにつく相方の軌道修正の声が耳に届く。数M戻り左壁ラントクルフトを突っ張りで降り始めた時だった。ハンマーを取っ掛かりにしようと硬く締まった氷雪渓に2回打ちつけたその刹那、突然、目の前の雪渓数10トンが、コンマ数秒のまばたきの間、『ズズーン!』という腰に響く重い音と共に消え去った。視界の片隅には表情を無くしてボーゼンとたたずむ相方の姿が見える。彼の足元つま先から先は虚無の空間であった。岸壁を降り立ちしばらくは2人ほうけていた。風にたなびく緑の草原の急斜面を登りつめフラフラで辿りついた大朝日小屋裏の平らな地面で無事到着の握手をしたのはテン場出発から8時間後の午後3時過ぎであった。小屋入り口でたむろする登山客が怪訝な顔で我々を見ていた。夏がいつか消える前に光り輝く季節の残照を追いかけて歩を進もう。

昭一氏がバイルを打ち付けた瞬間、足元の雪渓が、地響きをたてて崩壊した

最後の斜度のきつい登りはお花畑だった

 デジタルなバーチャルの世界が席巻する世の中、ズルドロ沢登り世界はアナログレコードの1条の溝をたどる針のようにその身を削りながらもノイズ交じりのイイ音を聞かせてくれる。たとえレコードが割れ、針が擦り減ってもそのメロデイーはいつまでも心に残っている。
さあ!今度はどの沢に行こうか?

日本海に沈む夕日

夕暮れの稜線

大朝日岳ピークから

日程  8/17  AM5:30 車止め発〜 7:30二俣〜 7:45ドダス沢出合〜 9:30倒木ダム15M懸垂〜 10:00黒倉沢出合〜 10:45横吹付沢出合細尾根ヤブ越〜 PM1:00ガンガラ沢30M懸垂〜 2:00大滝2段30M〜 2:30テン場
      /18  AM7:00テン場発〜 PM0:00雪渓100M2本〜 0:30上の横吹付沢40M懸垂〜 3:00Y字雪渓下部〜 PM3:30大朝日小屋
      /19  AM7:00小屋発〜 車止め(お昼頃)