コンコン、コンコン――
控え目なノックの音で、少女は目覚めた。
「ん、う〜ん…… 誰ぇ?」
寝惚け眼を擦りながら、少女はドアを開ける。果たしてそこには、西洋風の女給姿――言うなればメイド服に身を包んだ人物がいた。
「お、お、お、お義兄ちゃん?」
メイド服に身を包んで慎ましやかに立っている人物こそ、結城紗衣だった。
「おはようございます。まおまお様……」
「な、ど、そ……」
何やってるの? どうして? その格好は何? いくつもの疑問がいっぺんに頭の中を駆け巡り、少女は混乱した。
「まおまお様? どうなさいましたまおまお様ッ!? 誰かッ! まおまお様がッ!!」
義兄の悲痛な叫び声の後、何人ものメイド姿の男たちが駆け寄ってくる姿を最後に、少女の意識は途切れた。
少女の名はまおまお。暗黒スレッドの一因だ(違
暗黒メイド計画 ――○ん○だらけのメイド祭――
「――ポロリもあるのッ!?」
訳の分からない悲鳴と共に、少女は自分のベッドの上で意識を取り戻した。
「まおまお様、お気付きになりましたか?」
声をした方に顔を向けると、そこにはやはりメイド姿の紗衣が、コップと水差しを乗せたトレイを持って立っていた。
「ゆ……夢じゃなかった……」
「怖い夢でも見ていたのですか? 大分うなされてましたけど……」
「今、まさにその続きを見てるみたい……」
「まあまあ、いけませんねぇ。風邪でしょうか?」
「っていうかッ! お義兄ちゃんのその格好の所為なんだってばッ!! もう、今日は何の罰ゲームでそんな格好をしてる訳!?」
「はい? 私の格好、何処か可笑しいですか?」
「可笑しいって言うより、オカシイのッ!」
「ねこ帽子もねこ斧も、黒猫も忘れていませんけど?」
「それ意外ッ! そのメイド服ッ!!」
「あら嫌だ、私とした事が……」
今更気付いたとでも言わんばかりに、紗衣は顔を赤らめ、部屋を出ていく。
「ふぅ、やっと元に戻るのね、って、ちがーうッ!!」
素早く戻ってきた紗衣は、今度は和服に割烹着、言うなれば琥珀さんスタイルで現れた。
「はい? 今日は和風の日じゃありませんでしたっけ?」
「そうじゃなくて、何でお義兄ちゃんが女給さんの格好をしてる訳ッ!? そもそも、ウチは女給さんなんか雇ってないしッ!」
「嫌ですわ、まおまお様。まおまお様と七菜子様に仕えるメイドとして、当然の正装ではありませんか」
酷い頭痛と眩暈に襲われ、少女は頭を抱えた。
「こんなの、お義兄ちゃんじゃなぁ――――――いッ!!」
少女は叫ぶと、紗衣を突き飛ばして部屋を飛び出していった。
「はぁはぁ、一体どうなってるのよ……」
近くの公園まで走って息も絶え絶えになった少女は、ベンチに腰掛けて一息つく。
義兄だったはずの人物が女給姿で現れ、しかも自分と姉に仕えていると言う。たったそれだけの事なのに、何やら世界の全てがひっくり返ったような衝撃を受けてしまった。
「ま、また何かドジを踏んで、罰ゲームをやらされているだけよね。そうよね。きっとそう」
自分に言い聞かせると、だんだんと心が落ち着いてきたような、そんな気もする説もあるという噂風味の伝聞。
「ふぅ、落ち着いたら、咽喉が乾いてきちゃったな……」
「これをどうぞ、まおまお様……」
目の前に差し出された缶ジュース。ふと顔を上げると、そこには暗黒萌え絵師であるどこだめ。が立っていた。メイド姿で。
「ど、どこだめ。さんまでッ!?」
再び叫んで、少女はその場から走り出した。
「はぁはぁ、ホントにどうなってるの……」
手近なファミレスに逃げるように駆け込んで、少女は一息ついた。
兎に角、何やらイベント事か罰ゲームかで、ナチュラル身も心もメイドになりきっている者がいるらしい。
それだけ分かれば充分だ。兎に角今日は起きてから何も食べておらず、家に戻ってもメイドの格好をした義兄が待っている。
高くつくのは癪ではあるが、ここで朝食を取ろう。事態に対処するのはそれからだ。古人も、腹が減ってはイクサーONEと言っていたじゃないか(言ってない
そう決めると、少女はテーブルに付いている店員呼び出し用のボタンを押した。
ぴんぽーん、という軽薄なチャイム音と共に、店の奥からウェイトレスが出てくる。
「ご注文はお決まりでしょうか? まおまお様……」
現れたのは、暗黒楽師の研だった。もちろんメイド姿。
「いやぁぁぁぁぁぁッ!!」
三度叫んで、少女はその場から走り出した。
「はぁはぁ、一体何人がメイドになっちゃってるのよッ!」
大通りから外れた坂道の途中、誰もいない事を確認してから、少女は一息ついた。
どうやら、かなりの人数がこのイベントだか罰ゲームだかに参加している、もしくはさせられているらしい。
そう思えばあまり腹は立たないのだが、男性陣が女装している姿というのは、精神衛生上あまりよろしくない。
何とか、皆が元に戻るまで何処かでほとぼりをさます事ができればいいのだが……
ころころ、ころころ……
妙な音がして、少女はふと顔を上げる、見れば坂道の上からリンゴが転がってきている。
「何これ?」
何気なく拾ってみると、それはやはりリンゴだった。誰かが坂道の上で転がしてしまったのだろうか?
「まぁまぁ、拾っていただいてすみません。あら? おやおや、これはまおまお様……」
嫌な予感がして声の方に顔を向けると、そこにはミラクル酢豚が坂道を降りてこちらに向かってきていた。勿論メイド姿で。
「すぶちんお義兄ちゃんまでぇぇぇぇぇぇッ!!」
四度目の叫びを残して、少女はその場から走り出した。
「はぁはぁ、もう、かなり距離を置くしかないわ……」
恐らくは男性陣の殆どが、メイドに扮しているようだ。ミラクル酢豚から逃げた後も、港ではえすぷぅと灰色の鴉が、ゲームショップではaivoが、予備校ではKILLIが、猫の集まる路地裏ではヴィジランツが、模型店ではBUMとyuichiが、学校ではmomo_canが、カリオストロ城ではD・Pが、土俵では鷹嵐が、ギアナ高地では東方不敗マスターアジアが同様にメイド姿で現れ、その度に少女は悲鳴を上げ、逃げ惑ってきた。
あんまり叫び過ぎて、咽喉が痛くなってきた。
兎に角この場を離れて、一息つこう。そう決心すると、少女は近くを通ったタクシーを止め、素早く乗り込んだ。
「お客様、どちらまで?」
「シンジュク……」
「かしこまりました、まおまお様……」
運転席に座っていたのは、当然の如くメイド姿に身を包んだThom_Eだった。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
あまりの恐怖に、少女の意識はそこで今日二回目の断絶を迎えた。
「お……おまお……まおまおッ!」
自らの名を呼ぶ声に、少女は自分のベッドで目を覚ました。
「マ、ママがキャンディ買ってくれないの……」
訳の分からないうめき声を上げつつ、少女は半身を起こす。
「まったく、お前が寝坊なんて珍しいな。しかもうなされてたし」
「お、お義兄ちゃん?」
そこに立っていたのは、少女の義兄、結城紗衣だった。メイドの格好はしていない。
「ゆ、夢だったのかな……」
「嫌な夢でも見てたのか? やたらうなされてたぞ」
「そっか、夢だったのね。よかったぁ」
悪夢から開放されて、少女は心の底から安堵の溜息をついた。
「大丈夫か? なんかだるそうだぞ」
そう言えば、何だか今朝は随分と身体が重い。まるで、前日に街中を殆ど全力で走り回ったような感じだ。
「今日は休みなんだし、ゆっくり休めよ。朝食は持ってきてやるからさ」
そう言って笑う義兄は、いつも通りの義兄だ。その表情を見て、少女は再び安堵する。
「安心したら、咽喉が渇いちゃった。お義兄ちゃん、その辺にキャンディが無かった?」
「んー? 見当たらないぞ」
「そっか。じゃあ、出かける用事があったら買ってきてくれる?」
「いいとも、まおまお君。いくらでも買ってあげよう」
「うん。とりあえず、お水持ってきてくれる?」
「かしこまりました、まおまお様……」
「えっ……?」
糸冬
このこばなしはフィクションであり、実在の人物/事件/団体/BBSとは全く関係無い(断言
無いったら無い(更断言
「ふぅ、今回は以前にも増して急ピッチだったな……」
「ところで、全然女だらけじゃない気がするけど?」
「あっ――」
終わる。
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