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どーん、どーん――ドンドンドンドン! けたたましくドアをノック――というより乱暴に叩く音で、俺は目覚めた。 「何だよー、折角の休みだってのによー」 「お義兄ちゃん! お義兄ちゃんってば!! もう朝だよ! 起きてないのはお義兄ちゃんだけだよ!!」 声から推測するに、ドアを叩いているのは義妹のまおまおだ。初めて会った時からちょっと生意気な所のある娘だと思っていたが、 最近は拍車がかかったというか、妙に背伸びしようとしている為というか、むしろ俺の姉にでもなったかのような口振りで色々と世話を焼こうとする。 まあ色々世話を焼いてくれるのはありがたいし、そこが可愛い所とも言えるので、好きにさせている。 それが良き義兄としての態度というものではないか。 「ちょっとー、聞こえてないのー? お義兄ちゃーん!!」 「あー、分かった分かった、着替えたら行くから、先に行っててくれ!」 今まで以上に大声で呼ぶ義妹に、負けじと大声で返事をすると、俺は寝床から起きあがって着替え始めた。 俺の名前は結城紗衣。 暗黒スレッドの一員だ。 暗黒家族計画 ―― 祭 ―― 着替えて自室から出ると、義妹が蝦夷リスの如く頬を膨らませて待っていた。 「んもう、お義兄ちゃんったら何度呼んでも起きないんだから!」 「折角の夏休みなんだから、ゆっくり寝たっていいだろ」 「何言ってるのよ、お義兄ちゃん、七菜子お姉ちゃんに祭の主催を任されてたでしょ?」 「あっ――」 忘れていた。 祭の事は忘れていなかったが、いつも祭好きな七菜子義姉さんが仕切ってくれているので、今回は自分が仕切らなければならないという事を すっかり忘れていた。 「まさか、忘れてたんじゃないでしょうね?」 「はあっはっはっは、忘れているなんて事がある訳無いじゃないか」 思わず雄山笑いでごまかしてみたが、どうも誤魔化しきれていない気がする。っていうか気のせいじゃない。 義妹の俺を見る視線が痛かった。 祭。 最近突発的に行われるようになったこのイベントは、暗黒スレッドの内外を問わず様々な人を巻き込み、回を増す毎に大きくなっていた。 規模の大きい祭の主催者になるという事は、結構なプレッシャーである。 何せみんなが心待ちにしているイベント、お祭り騒ぎだ。もし失敗しようものなら、俺は二度と暗黒に居られないかもしれない。 「そう思ってみれば、七菜子義姉さんはやっぱりすげぇんだなぁ……」 ただのお祭り好きだと思ってたのに。 「何か言った? お義兄ちゃん」 「いや、何でもないよ」 何故か背中に悪寒を感じつつ、俺は義妹に答えた。 「とにかく早く行こっ! きっともうみんな待ってるよ」 義妹に急かされるようにして、俺たちは祭の会場へと向かった。 義妹の言った通り、祭の会場には既に多くの参加者が集まっていた。 忘れていたと言っても、参加者を募ってそれぞれに仕事を割り振るまではしていたので、各々準備を進めてくれている。 みんな明日の祭を楽しみにして、忙しい合間を縫ってそれぞれの仕事に励んでくれているのだ。 「おいーっす、司令ー、祭の準備は楽しいねー、てひひー」 大きな華飾りを運びながら声をかけてきたのはどこだめ。。万翼長の二つ名を持つ彼は、仕事は遅いが必ずいいモノを作ってくれる。 「さいさんおはよ〜、わたしも頑張るからね〜」 櫓に紅白の幕をつけているのはtinaさん。ちょっと薀蓄が多い所が珠に傷だが、しっかりとした考えを持っている人だ。 「あっ、パパン。私も頑張ってるわよ〜」 「ゆーきサン、私も私も〜」 櫓につける小さな華飾りを作っているのはりんださんと桜さん。突然参加を依頼したにも関わらず、快く承諾してくれた。 「はっはっは、皆、がんばっておるのう」 「これは私たちも頑張らねばなりませんな」 模型駆け込み寺のBUM住職も、普段は落ちついた紳士のD・Pさんも、祭の昂揚感を抑えきれない様子だ。 七菜子義姉さんだって、俺の見えない所でしっかり仕事をしてくれている筈だ。筈だ(何故二回 「みんな頑張ってるなぁ」 「何言ってるの、一番頑張らなきゃならないのはお義兄ちゃんでしょ」 感慨に耽ろうとする俺を、義妹が現実に引き止めてくれた。 「俺も頑張ってますよ」 「うわぁ!」 突然背後からかけられた声に、俺は思わず大声を上げてしまった。 振り向いた先に立っていたのは研くん。りんださん、桜さん同様に祭初参加という彼は、なんと演奏をしてくれるのだという。 「別に驚かなくても」 「ああ、ゴメンゴメン、ボーっとしてたから。とにかく、よろしくな」 「任せておいて下さい」 忙しく音響器材を運ぶ研くんの背中を見送りながら、俺は自分の仕事に取り掛かった。 祭は明日。 のんびりやっている時間はもう無い。 どーん、どーん――ドンドンドンドン! 翌日の夕方、再びけたたましくドアをノック――というより乱暴に叩く音で、俺は目覚めた。 どうやら寝てしまっていたらしい。 「お義兄ちゃん! お義兄ちゃあん!!」 「あー、うーん」 重い頭を身体全体で持ち上げて、俺は起きあがった。 何故だろう。頭だけじゃなく、身体全体が重い。 「お義兄ちゃんってば! もうお祭りの時間だよ!!」 「いつも元気だなぁ、お前は」 「そんな事はどうでもいいから、早く準備してよ! みんな待ってるんだから!!」 兎に角、俺は寝床から起きあがって着替え始めた。 何故だろう。身体全体がだるい。 祭会場には、昨日より多くの人が集まっていた。 俺が声をかけて参加してもらった人、自ら志願して参加してくれた人、そして見物に来てくれた人。 その熱気にあてられて、俺はようやく不調の原因に気が付いた。 「俺、帰る」 「お義兄ちゃん? 何言ってるの?」 唐突な俺の言葉に、義妹が怪訝な顔をする。 「だから、俺は帰るんだ」 「え、だってお義兄ちゃんが行かなきゃ始まらないよ? だってお義兄ちゃんは主催者だし、今回はお義兄ちゃんのお祭りなんだよ?」 「それが嫌だって言ってるんだよ!」 俺はついに爆発してしまった。義妹にだけは、いや、誰にもこんなちっぽけな自分は見せたくなかったのに。 しかし一度堰を切った感情は、後はただ溢れるしかなかった。 「何が結城紗衣祭だ! 俺の何を祭ろうって言うんだ? 俺が普段『弄られてナンボ』とか言っているのは、俺でもネタにされる何かがあるって信じたいからだ! そうさ、俺に何も無いって事は、俺が一番良く知ってる! ふざけたスレにしたって、真面目なこばなしにしたって、みんな何かに影響を受けたパロディの域を出ちゃいない! パロディにしたって、自分のものとして消化できている訳じゃない! オリジナリティが無いんだよ!」 「お義兄ちゃん……」 地面に膝をつき、両手をついて、俺は項垂れた。泣いていたのかもしれない。 「俺には何も無い、何も無いんだ……」 「あーはいはい、分かった分かった」 呆れたような声に、俺は顔を上げた。そこには会社帰りなのか、ぴちっとした女物のスーツに身を包んだ七菜子義姉さんが立っていた。 「七菜子ねえ――」 「このバカ弟子(?)がぁ――――――ッ!!」 「ハリマオっ!?」 リングロープの反動を利用したかの如き全身の体重を乗せたパンチに、俺はもんどりうってノックダウン(リンかけ)した。 「紗衣アンタ、本気で言ってるの? ここまでやっておいて、今更やめるなんて、本気で言える事なの!?」 「七菜子お姉ちゃん、もうやめて!」 「まおまお! アンタは黙ってな!!」 止めに入ってくれた義妹を、七菜子義姉さんは一喝でどかせた。 「オリジナリティだ? そんなものを持ってるやつなんて、そうそういないのよ。みんなそれを探していつも迷ってるのよ。こんな所でウダウダ愚痴を言ってる暇があったら、見つかるまで前を向いて探すのよ!!」 「そうですよ、さいさん」 「Thom_E隊長……」 七菜子義姉さんの横には、何時の間にかThom_E隊長も立っていた。 今回は体調不良の為参加はできなかったが、見物には来てくれたのだ。 「それに見てごらんなさい、何も無い人の祭の為に、あれだけの人が集まると思いますか?」 見れば、櫓の周りには先ほど見た時よりも多くの人が集まっていた。 akiponさんtoyaさんを始めとして、暗黒の住人だけではなく、他板の住人も何人か見に来てくれている。 「ああ、そうか、そうなんだよな」 やっと分かった。自分が本当は何に怯えていたのか、何を求めていたのか。 「そうだ! こうしちゃいられねぇ!!」 「あっ、待ってよーっ! お義兄ちゃぁーんっ!!」 義妹の制止の声も聞かず、俺は駆け出した。みんなのいる、あの場所へ。 この祭が終わっても、また次の祭がある。 祭が無くても、みんなとの繋がりは無くならない。 そこに暗黒スレッドがある限り。 俺の名前は結城紗衣。 血は繋がらなくとも心で繋がっている、暗黒スレッドの一員だ。 このこばなしはフィクションであり、実在の人物/事件/団体/BBSとは全く関係無い(断言 無いったら無い(更断言 「七菜子さん、俺、最近分かってきた気がします。七菜子さんが何故暗スレを作ったのか」 「おもしろけりゃ何でもいいって思ってたからねぇ〜」 「えっ――」 終わる。 |