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【本頁のポイント】巷のウワサに惑わされないために
・蜜に見えるのは蒸散が低下して溜まった水分
・蜜は他所から入るのではなく、出て行く途中の姿
・ソルビトールは、ブドウ糖(デンプン)が体内を移動する時の姿で、いつでも、どこでも、普通に存在する。
【巷のウワサ・・・ここに集めたのは、全部ウソ】
・リンゴは完熟すると蜜が入って美味しくなる。
・蜜は寒さから果実を守るために集まってきたもの
・(5年前くらいまで)蜜が入ると糖度が高くなる
・(最近)蜜の成分は砂糖の60%位の甘味度しか無いため、蜜が入ると糖度は低くなる。
【リンゴが美味しい条件】
【果実中の糖分の挙動】
リンゴは果実にデンプンを溜め込みながら成長し、熟期が近づくとそれまで果実に溜め込んだデンプンを糖化して、種(タネ)を運んでもらうための動物たちに、ご褒美として甘い果肉を提供します。
水溶化した糖分はそのままだと他所に流れ出してしまうため、離層を作って実を母樹から分離しますが、落果し易くなるのは栽培上で都合が悪いため、栽培種の多くは離層が出来難く変化したものが選抜されて来ました。
(※ 離層の形成を遅らせるホルモン剤の登場で、栽培に必須の形質では無くなってきました。)
こうなると、糖分が母樹に戻ってしまうのは避けられず、「完熟」と称して遅採りしたものほど、果汁糖度は低下します。
ただし、指導者(および、指導を受けている農家など)の間では未だに、熟度の進んだ方が糖度は高くなると信じている人々が多く、強い信仰に変化しているので実演しても何らかのトリックだと断じられてしまうので、公言するには注意を要します。
【ビタミンC】
風邪の季節でもあり、風邪の予防や治療に有効という宣伝も行き渡っているので、ビタミンCを含む食材は購入動機にもなり得ます。
ところで、植物がビタミンCを作るのは、私たち動物に食べさせるためではありません。
植物の行う光合成は、光・水・二酸化炭素を材料にして、デンプン(≒ブドウ糖)と酸素を作り出しますが、食品や肌の酸化が好ましくない様に、大気中の分子状の酸素(O2)もかなりな毒性を持ちますが、光合成の途中で出来る遊離の酸素(O)は、くっつく相手を探して何にでもちょっかいを出します。
これをワザと使って殺菌に役立てる事もありますが、体の中でむやみやたらにくっついてしまうと、必要な機能が阻害されるので猛毒となり、光合成を行う植物にとっては、酸素の毒性を防ぐために酸化防止剤のビタミンCは必須な成分となっています。
※ビタミンCは水溶性ですが、同様な働きのビタミンEは脂溶性で、活躍の場所を分担しています。
蜜入りのし易さは品種によって異なり、ふじ・紅玉・デリシャス系で入り易く、ゴールデン・つがる・祝・旭・陸奥などでは入りません。
また、果肉の色が真っ白だと蜜入りになっても判り難いのですが、果肉が薄黄色の品種だと明瞭な水浸斑になって現れます。
近年では美味しい証として消費者にもてはやされていますが、本来は収穫が遅れたときに果心部分が水浸状になる生理現象です。
蜜入りが過大になると貯蔵中に果肉が褐変すると云われますが、褐変はビタミンCの消失が原因で、蜜に見える物質とは関係ありませんが「収穫を遅らせる」と進行するという点で共通しているだけです。
水浸状に見えるのは、細胞間の隙間に滲み出したソルビトール(後述)に水分が集まったもので、ソルビトール自体の浸透圧によるものと、水余り(=主として蒸散力の低下)が作用するものと考えられます。
蜜入りはホウ素入り資材の葉面散布によって簡単に増やす事が可能で、収穫が盛んになるよりも遥か以前の11月3日「文化の日」を中心に行われる品評会で入賞するには必須の「化粧技術」と云われています。
蜜入りは細胞間隙に樹液が溢れる現象で、収穫時期が遅れるほど入り易くなるため、チッ素の多肥や収穫前の剪定によって青臭くなってしまった果実や、カリの多肥で酸味が強すぎる場合、収穫を遅らせることで臭みや酸味も薄れるので美味しく感じますが、甘味が増えるわけではありません。
蜜入りに執着する方たちは、食べようとして皮を剥く前に、半裁して果心部分の蜜入り程度を見るのが習慣になっているようですが、肉眼で「蜜」のように見えるのは水分です。(「蜜の正体はソルビトール)」と云う薀蓄については、後半を参照)
例えば、水道水と濾過した海水は区別が付きませんが、海水が浸込んだ衣類はいつまでも乾き難く、濡れた衣類は色柄が濃く見えるので、見ただけで乾いているかどうか凡その具合は判ります。
果実の細胞同士の間には隙間があって、普段は呼吸のための空気の通り道になっていますが、この隙間が水分で埋もれてしまったのが蜜入りです。
よって、蜜入りには水分が必要で、乾燥が続く年には進行が遅く、降雨が十分な年には早く進行します。
牛乳や畜肉だと「水っぽい」のは嫌われますが、リンゴに限っては「水っぽい」食感を「瑞々しい」とでも言い換えてるのかしらね?
美味しいと思う方もいるので、これ以上の味覚への論評は避けます。
・完熟というと聞こえはいいのですが、実体は過熟・老化であって、樹上に遅くまで成らせたままにされた果実の糖度や糖分含量は、蜜入りが始まる少し前頃から低下するのが普通で、貯蔵養分として根に回収されているものと考えられます。
・蜜入りと同時にビタミンC含量も急速に減るので、皮を剥いて放置したりんごはすぐに褐変するので「剥いてすぐ、塩水に晒すとよい」などのおばあちゃんの知恵がもてはやされる事になります。
・貯蔵性も低下し、蜜入りした果肉の中心部から褐変し易くなったり、褐変を免れても甘味が無くなったり、果肉がボソボソになる「ミソ入り果」になるのが早くなります。
ホウ酸が殺菌剤として使われているように、ホウ素はあらゆる生物の細胞(原形質内部)にとって毒なので、細胞膜には細胞内に入るのを防ぐバリア機能が存在する。このため、根から吸収して体中に運ぶ事は出来ても、生きた細胞で出来ている師管を通過して再移動する量は極めて少ない。
ホウ素の欠乏時にソルビトールが集積する事例が観察されており、ソルビトールがホウ素を包み込んで(キレート作用)隠蔽し、転流させていると云う説もあったが、ソルビトールはホウ素欠乏の有無に関わらず光合成産物が移動するときには常時生じている物質で、移動が阻害されるために滞留するだけの現象であろうと考えられる。
ホウ素は体内で再移動しにくい成分で、ホウ素入り資材の葉面散布を行っても果実内部には届かない事や、果肉内のビタミンC含量の低下などから、主たる作用は葉の老化を促進して秋が深まったように装う事だと考えられます。
【葉摘みとの関係】
葉摘みをしない方が蜜入りがよくなるという現象は、「たくさん光合成をするから」と云うのが理由になっていますが、冒頭で「予備知識」の項で述べた通り、糖化が始まった果実には糖分が溢れているので、葉から転流されてくるよりも逆流して出て行く方が多くなると考えるのが自然です。
こうなると、いくら光や温度が適切な環境でも光合成は開店休業の状態で、葉は専ら消費者になります。
葉摘み作業を行わないと、果実内のビタミンCは減少する事が観察できます。
老化した葉がビタミンCの消費者となって、果実に溜めたビタミンCを消費するからと考えられます。
「蜜の正体はソルビトール(sorbitol)」などと記述されることがありますが、ソルビトール(および光学異性体のマンニトール)は、糖アルコールの一種で、 糖を転流するときに葉や根で生成され、流入側(果実の細胞)でソルビトール脱水素酵素(+補酵素:NAD)の働きでブドウ糖に戻される物質です。
ソルビトールの生成やブドウ糖への再転換は、常時行われていますが、何らかの原因で細胞の外に集積してしまうと、浸透圧の都合で水分も集まり、細胞間の隙間を満たします。
細胞間隙が水分で満たされると、衣服が濡れたときに色が鮮やかに見えるのと同じ現象で、果肉の色が濃く見えてきたのが「蜜入り」です。
白い布よりも色物の方が濡れ加減が判り易いのと同様に、果肉の色が真っ白な品種よりも黄色い品種の方が、より蜜が入ったように見えます。
【補足1】ソルビトールが細胞の外に集積する原因は、温度低下などの原因で酵素の働きが低下したために、糖に戻れずに溜まってしまうという説が主流ですが、葉での蒸散力の低下が水脹れを起こしただけと考える事も可能で、考察のみの段階です。
【補足2】工業的なビタミンCの製造では、ブドウ糖に水素を添加してソルビトールにする工程を経て造られます。
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細胞間隙に長時間集積したままの蜜入り状態が続くと、細胞間隙を通じて得ていた酸素が欠乏するので酸欠状態となり、分子間呼吸(無気呼吸)を始めるのでエタノール(酒精)が生じる。 エタノールは、さらにアセトアルデヒドに酸化されて果肉が褐変する原因となる。 |
収穫期に雨が少ないと蜜入りが悪くなるのは、ホウ素の吸収が妨げられ事よりも「蜜」の最大構成成分である「水分」が不足するためと考えられます。
テレビ等の影響は絶大で、タレントが「うまい」と言えば、いくら説得しても納得できないのが常なので、無理強いするのは反感を買うだけとなるのが現状です。
小売戦略としては、「蜜入り」は貯蔵中に徐々に消える事を伝え、すぐに食べるための蜜入りリンゴの他に、年越し(「ふじ」の場合)後に食べるための貯蔵用を別に買ってもらい・・・必ず信じないので、交互に食べる羽目になり・・・食べ較べる事で蜜入りリンゴが如何に不味いかを実感してもらう他無いと思います。
【ソルビトールのまとめ】
ソルビトール/マンニトール
C6H14O6
ブドウ糖 C6H12O6
こんなごっつい
輪っかだったのが、→
見た目もスリムで、
どこでも通り抜け
られそうな形でしょ?
↓
CH2OH
|
C−−O
H /| \ H
|/ H \|
C C
|\ OH H /|
OH \| |/ OH
C−−C
| |
H OH
(α型/α-グルコース)
繋がり方が↑↓変わっただけ
CH2OH
|
H−C−OH
|
HO−C−H
|
H−C−OH
|
H−C−OH
|
CH2OH
(ソルビトール)水
素
が
2
つ
→
←
増
減
CH2OH
|
C−−O
H /| O
|/ H ‖
C C
|\ OH H /|
OH \| |/ H
C−−C
| |
H OH
(アルデヒド型)
繋がり方が↑↓変わっただけ
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CH2OH は、
|
H−C−OH
|
H の省略形です。
CH2OH
|
C−−O
H /| \ OH
|/ H \|
C C
|\ OH H /|
OH \| |/ H
C−−C
| |
H OH
(β型)
ナナカマドの赤い実から発見されたので、ナナカマド属の学名(sorbus/ソルブス)から名をとったそうな。
ソルビット (sorbit) またはグルシトール (glucitol) とも呼ばれる。甘味は砂糖の約60%(同じ濃度の砂糖を60%に薄めると、同じ程度の甘味を感じると云う意味。ブドウ糖も同程度の約58%)
細菌などのつくる酵素によって分解されにくく、脂質の酸化防止、たんぱく質の安定化、デンプンの老化防止(β化させない)などの効用から食品添加物としても使用されている。口内細菌が分解して酸を発生する事が少ないので、虫歯にもなりにくい。
水に溶解する際に吸熱反応を起こし、口の中でひんやりとした感触がすることから、飴・ガムやスナック菓子等に清涼剤として使用されている。
バラ科植物(リンゴ・モモ・ナシなど)ではデンプンを師管を通じて転流する時にグルコース経由でソルビトールに変換され、果実に送り込まれる時に再び元のグルコースやフラクトースに変換されるが、成熟して変換が停止した後も転流が継続するので、維管束周辺に蓄積して「蜜入り」の状態になる。
ただし、肉眼で見えるのは重量比で8〜9割を占める水分が細胞間隙を満たしたための光学的な変化(布をぬらすと色が濃く見える現象)なので、果実水分が減少しただけでも蜜入りが減ったように見える。
動物の体内では、グルコース(ブドウ糖)をソルビトール経由でフラクトース(果糖)に転換され、精子の栄養源などに使われる。
フラクトース(果糖)は、精子や肝臓の細胞など特殊な場所でしかエネルギー源として利用出来ないため、フラクトースの摂取量が多いと飲酒時のように肝臓が占有されて他の機能が滞り、肝機能が低下した人(および年齢層)では血中の尿酸値上昇として現れます。
・「砂糖が骨を溶かす」というデマは、1930年代に創作され、1980年代にマスコミの健康番組を通じて広まったものだそうです。砂糖は C-H-O だけから出来ているので分類上も中性の食品ですが、「酸性食品なので、摂取すると骨からカルシウムを溶かし出して中和しようとする」仕組みを某大学教授が思いついた(!)と云うだけのお話。
骨については無実ですが、砂糖は果糖とブドウ糖に分解されるので、肝機能に影響します。
・健康食品の解説などで「ショ糖(砂糖)は還元性が無いので体に悪い」といった文言が使用されますが、ブドウ糖で還元性を持つのは上記3態の内アルデヒド型だけが持つ性質。
この3態は平衡状態にあるため、アルデヒド型の割合が減るとα型やβ型から補充されて一定の割合が保たれる。
・光学異性体は、立体構造で見たときだけ違いが分かる代物で、炭素の骨格に対して付属する原子の向きが違うだけのもの。
とはいっても、酵素は僅かな違いでも型が会わないと働けなくなるので、分解されやすさなどに違いが生じる。
・ソルビトールの上から2番目 [H-C-OH] の向きが反対になったのがマンニトールで、多くの陸上植物にも含まれますが、干しコンブ(昆布)の表面に付いた白い粉の成分として紹介されています。
・ソルビトールは「D-ソルビトール」と表記される事もあります。
グルコース(=ブドウ糖)と同様に、光学活性を持つ物質で、2種類の光学異性体が存在し、これを区別するための記号です。
実験室以外で出来る天然型ソルビトールは全て "D-"型です。
【はじめての実験→化学用語などを参照。】
ホウ素資材の葉面散布後に、ビタミンCを外部から供給して蜜入り具合の変化を調べる。青臭さの抜け具合も同様に調査できる。