ホウ素欠乏(写真集)

2003/12/31, 2006/12/21


 果樹では早咲きの花ほど被害が著しく、遅れて咲く花は正常に見えるため、霜の害と言われてきたが、ホウ素肥料によって回避できることから発芽時の一時的なホウ素欠乏によって発生するものと考えられる。
 ホンモノの霜害では、雌芯(めしべ)がまっ先に被害を受けるのに対して、ホウ素欠乏では最後まで残り、正常な花粉をつけてやれば着果する事が多い。

 花粉の自家不和合性とされてきた不稔は、一部の作物についてホウ素の施用で解消する事が判明した。

リンゴの症状

花梗の萎縮した花叢
着色した花弁が見える時期になっても花梗は1cmに満たないまま伸長を停止しており、この長さのまま収穫期を迎える。

開花直前の内部の様子。
左側の正常化に較べ、右の雄芯が萎縮して雌芯だけが目立つ


中心花だけが萎縮した花叢。
左側写真の中心花(蕾)はこのまま開花せず、指先で触れると脱落する。
右側写真の中心花は正常に開花した様に見えるが、花梗が極端に短い。
 遅れて開花する側花ほど果梗が長くなるのがホウ素欠乏の特徴(軽症)で、亜鉛欠乏では全ての花が短くなる。



正常花(王林)の開花時と蕚立ち頃の様子


雄芯の萎縮花(王林)の開花時と蕚立ち頃の様子
上の正常果と較べると葯殻が少なく、葯柱の萎縮した分が蕚に埋もれている。

【おまけ】中心花の脱落した肥大開始後の姿(王林)
 幼果の付け根付近の形の違いがつるサビの原因といわれている。
 上の写真(中心果)が"なで肩"なのに較べて、左写真の側果は"イカリ肩"をしている。
 不幸にして中心果が残せない場合は、できるだけ"なで肩”のものを残す事が重要といわれているが、開花前にホウ素資材を散布するとツルサビの発生果が減る効果も見られた。

 春先の一時的な欠乏の場合、リンゴでは中心花だけが萎縮し、側花は正常となることが多い。
 蕾早期の霜害(凍結の被害)と酷似した外観になるが、花器が被害を受ける順序が異なり、霜害では雌芯がまっ先に壊死するのに対して、ホウ素欠乏では雄芯→花梗=花弁→雌芯の順に萎縮し、開花前に花梗の付け根から脱落する事もあるが壊死は見られない。

 著しい欠乏では、発芽しなかったり、花叢葉の展開後も蕾が発育せずに開花頃に脱落するが、蕾の発育途中で回復すると花柄が短くなる。回復時期によっては、開花しても雄芯が発育せず雌芯も短く、花の中心にヤニを吹くこともある。
 雌芯は萎縮していても機能を保つ事が多く、正常な花の花粉を付けてやれば結実するが、ホウ素資材の散布などを行わずに放置すると、蕚窪部付近の変形(尻すぼみ果)が収穫期まで残り、底部の果肉が硬いまま成熟する事が多い。
 モモと同様、花粉が正常に発芽せず、肉眼で異常が見られない場合でも着果率が低下する事がある。

【主な原因】 開花直前(概ね3ヶ月以内)に行った石灰や堆肥類の投入で土壌 pH が高くなった時や、発芽前後に除草を行って土表面が乾燥しやすくなった状態で高温や風の強い日が続いた時に多い。
 特に中心花のみに被害が見られる場合は、除草による乾燥が原因である事が多く、側花の一部や花叢全体に被害のある時は石灰や堆肥類による土壌pHの変化が原因である事が多い。(開花前の石灰投入や除草は危険!)

 花叢葉が展開して花蕾の先端が見えた段階では、正常花・異常花とも中心花が一段高く突出てみえるが、側花の花梗が伸びるにつれて中心花が取り残されていくようであれば、ホウ素資材の葉面散布を実施する。  ホウ酸5000倍液に展着剤を加用する。展着剤は固着成分を含まないものが望ましく、量は付着の具合を見て加減する(毛茸が水滴を弾くので、一般の農薬散布よりは濃い目に添加する)。
 通常、開花の1週間前に追加散布が必要で、欠乏状態が続いているのに一時的な補給で花蕾が発育すると希釈効果によって雌・雄芯の欠乏が助長されることもある。

 ホウ素の欠乏樹は霜害を受けやすく、花蕾の発育が停止したり脱落する事が多いが、ホウ素資材の葉面散布を行うと、雌芯だけが壊死したまま霜害を受けなかったもの同様に発育・開花する

青子・尻すぼみ果

 成熟期に達しても幼果のように果肉が硬いままで、最終肥大期にほとんど肥大せず、果実表面が妙にツルツルして果粉の生成や微細な皺を生じない「青子(あおこ)」や、同様の症状が果実の下半分だけに起こって、全体が逆三角形の尻すぼみ果となるのもホウ素の欠乏が原因と考えられる。
 土壌の乾燥や春先の石灰施用など、ホウ素の吸収を妨げる要因があった時に発生するものと考えられ、土表散布の効果は無い事が多い。

類似した他の要素欠乏症状

 亜鉛が欠乏した時も花梗が短くなる
 ホウ素の欠乏と違って花器に障害が出ることは無く、中心花と側花で花梗の長さが違う事も無い(花叢全体が短くなる)。欠乏の程度によっては頂芽花は正常な長さになっても側芽花だけ短くなる事もある。
 亜鉛はホウ素と異なり、樹体内を再移動し易い成分なので、前年に吸収したものが再利用され、症状の発生は短期的なもので終らない。
 葉面散布(←葉に限らず、作物体へ肥料溶液を散布する時の通称)では枝幹からも吸収するので、落葉期の高濃度散布も可能。



モモの症状


 モモ・正常花(品種・あかつき)


 (写真・左)雌芯の開花前露出(右の蕾は縦断して内部を見たもの)
 (写真・右)開花時に雄芯の一部が萎縮したもの
 雌芯の開花前露出も、花弁抽出時期以降であれば結実に影響は無く、緊急な対策は不要な事が多い。
 樹全体に発生しているのでなければ、乾燥や除草などによる一時的な吸収阻害なのでホウ素資材を投入する必要は無いが、年々増えるようであれば増肥によって改善される。


 開葯せずに壊死した雄しべ(左)と、花全体が萎縮したもの(右)

 ホウ素資材の散布で起こした人為的な過剰症の様子。
 雄しべの軸がしわくちゃになって、ストローを取り出した後の袋のようになっている。

 初期の欠乏(軽度)では、開花直前に雌芯が露出するだけで開花時の外観による判別は出来ないが、開葯しても通常培地(寒天1%,ショ糖10%)での花粉の発芽率が低下したり、発芽しても正常に伸び無いものが増え、ホウ素を添加した培地では正常に発芽する。

 放置して症状が進むと、開花前に雌芯の露出する時期が早くなり、雄芯が萎縮したり、開葯せずに萎れてしまう。

 柱頭露出に伴う耐寒性の低下は確認されていないが、花粉の発芽率低下により着果率が低下する。

 実験的に葉面撒布によって過剰症を起こさせると、花弁や雄芯がしわくちゃになる。高濃度で散布したり、重複散布で発生するので注意が必要。



その他の作物のホウ素欠乏症状


 キュウリ(果実)と、トマト(新芽・葉)

 キュウリでは、果実先端が壊死して肥大しない。トマトでは、頂芽の壊死と葉縁焼けを発症したもの。エキ病と誤診され易いが発症部位が全く違う。


 ブドウ(花穂と新芽の壊死)と、クルミ(頂芽枯死)

■ブドウで重症の場合、新芽が数cm伸びたところで枯死し、腋芽が出てくるが、これも枯死してしまうのを繰り返す。
 茎葉に症状が無くとも、花器に起こった欠乏によって着果しないことがある(花振るい)。葉面散布によるホウ酸の施用は短期間の効果しかないが、「花振るい」防止には有効。
 大粒種の「巨峰」で著しく、これが原因で品種登録を拒否され、やむなく商標登録にしたといういわく付きのもの。(現在の種苗法と異なり、旧法では「役に立つもの」と云う登録条件があった)
■クルミは、頂芽が壊死して脱落仕掛けた頃のもの。

オオムギ ニンニク
 大麦とニンニク。 ともに施肥試験による比較

■大麦:左側の緑色を保った穂が施用区のもの。
 欠乏すると分けつも少なく背も低くなり、穂が短く、登熟が早まる(子実の充実が悪い)
 甚だしい欠乏では不稔となって、正常な株の登熟期には立枯れた様な姿になる。オオムギは、イネ科の中でも特に欠乏に弱い。
■ニンニク:左側の無施用区では、球根が肥大する前に夏枯れしてしまった。
 ニンニクに限らず、球根で繁殖するものは種球が年々小さくなっていき、開花しなくなったり、いつの間にか消えてしまう事が多い。(当地では「ユリ」などもホウ素の施用無しでは、たとえ堆肥を入れても栽培が困難)
【写真から導かれる教訓】 こんなに近い株単位で効果に差が出ます。ホウ素資材を使う時は「散きムラ」に注意が必要です。


 ナスとピーマンでの過剰症。 教え方が悪かったせいで、定植時の埋め戻す土に直接ホウ砂を混ぜて起こったもの。
 ポットで育苗後、植穴にホウ砂を一つまみ入れ、軽く混和して移植して約2週間後の姿。根に直接触れた為に生じた過剰障害。
 欠乏した時は、石ナス(不受精果)が多くなる。
 ※ 全体に葉色が黄色なのは、ホウ素の過剰障害とは別の原因によるもの(芝生用の目土を入れたために起こったリン酸欠乏と、石灰の過剰投入によるとマンガンの欠乏)

ニンニクの過剰症  ニンニクの過剰症。下葉から順に先端が枯れこむ。
 播種時の誤った施肥によるもの。
 葉の先端が枯れこむ症状を示しても、ホウ素の欠乏では奇形を伴い、カルシウムやカリウムの欠乏では初期に失緑斑点を生じる。





対策

 恒久対策としては、ホウ素入り資材を投入する。
 堆きゅう肥などの投入を思いつくかもしれないが、ホウ素の補給が目的なので、堆きゅう肥原料の生産地が被害発生地同様のホウ素欠乏地帯であった場合は、全く効果が無い。
 また、過剰時に有機物を投入して吸着させる方法があることから、欠乏を助長する可能性もある。

 過剰害が激しいため、定期的に土壌分析(化学分析)を行った上で使用するのが望ましい。

 化学分析の代わりに、欠乏に弱いアブラナ科作物などを指標作物として利用する事もできる。
 目的の作物の症状が回復したら、指標作物に障害が出るまでホウ素の施用を停止する。
 ダイコン・ハクサイなどは欠乏によって生育不良を起こすが、茎葉の生育程度による判定は難しく、不稔現象の観察が最も判定しやすいので、収穫せずに抽苔させる。

 ホウ砂に換算して、1年平均1kg(10a)とし、1回施用量は最大3kgを厳守とする。
 (解題)欠乏の甚だしい場合は、初年度に 3kg を散布し、以後2年間は使用しない。
 【以上は私家版規格につき、研究機関等に由来する引用文献はありません】

 作物ごとに適した濃度が異なり、過剰障害が出易いので、「気休め」施用は絶対にしない

 ホウ素入りの肥料などを散布直後に、土寄せ・培土などを行うと雨水などで拡散し難くなるので、当該部分に新根が張り出した際に過剰障害を起こす事があります。
 特に粒状の化成肥料は長期間効果を持続させるために溶け難く出来ているので、与える時は土中に埋めず、置き肥として使って下さい。


(参考)換算表
ホウ素として無水ホウ酸として
無水ホウ酸/酸化ホウ素(B2O3)29.6%100%
ホウ酸(H3BO3)1756
ホウ砂(Na2B4O7・10H2O)1136
 ※ 資材の表示が「ホウ素含量(%)」であっても、実際には無水ホウ酸に換算した値なので、複合肥料の計算には注意する。

 ※ ホウ砂にはこのほか、5水物、無水物などが市販されているが、肥料用に登録されているのはほとんどが10水物。



【!!重要!!】

 ※ ホウ素は植物体内で再移動し難く、種子や球根を除いて貯蔵成分は役に立たないので、蕾〜開花期に根から新たに吸収されなければなりません。

 ※ 花器に起こった障害では、開花後に葉面散布を行っても効果はありません。開花前の散布だけが有効です。土壌施用を行ってください。


※ 凡例:
     少←□□■■|■■□□→多
      不適域←→適←→不適域

 欠乏に強い←□■■■|■□□□→過剰に弱い
 欠乏に弱い←□□□■|■■■□→過剰に強い

付表:作物のホウ素に対する反応

作物名 欠乏←− −→過剰 備考
アスパラガス弱い□□□■====
アルファルファ弱い□□□■====
イチゴ強い□■■■■□□□頗弱
イネ強い□■■■■□□□頗弱イネ科はホウ素の必要量が少い
インゲン====■□□□頗弱
エンドウ強い□■■■■■□□弱い
オオムギ弱い□□□■====ムギ類→別項
オクラ====■■■□強い
カーネーション弱い□□□■■■■■頗強
カブ弱い□□□■■■■■頗強アブラナ科は必要量が多い
カボチャ微弱□□■■■□□□頗弱
カリフラワー====■■■■頗強
カンキツ類弱い□□□■■□□□頗弱みかん→別項あり
キク====■□□□頗弱
キャベツ====■■■□強い
キュウリ微弱□□■■■□□□頗弱
ケール====■■■□強い
コショウ====■■■□強い
ゴボウ====■■□□弱い
ササゲ====■□□□頗弱
サツマイモ微弱□□■■■■■□強い
ジャガイモ====■■□□弱い
シュンギク強い□■■■■■■□強い
スイカ微弱□□■■■■□□弱い
セルリー弱い□□□■■■□□弱い
ソバ微弱□□■■====
ダイコン弱い□□□■■■■□強いアブラナ科
ダイズ強い□■■■■□□□頗弱
タバコ微弱□□■■====
タマネギ微弱□□■■■■■□強いネギ→別項
テンサイ弱い□□□■■■■■頗強
トウモロコシ強い□■■■■■□□弱い
トマト弱い□□□■■■■■頗強
ナシ微弱□□■■====
ナス微弱□□■■■■□□弱い
ナタネ弱い□□□■■■■□強いアブラナ科
ニンジン微弱□□■■■■□□弱い
ニンニク微弱□□■■■□□□頗弱
ネギ微弱□□■■■■□□弱いタマネギ→別項
ハクサイ弱い□□□■■■■■頗強アブラナ科
パセリ微弱□□■■====
バラ====■■□□弱い
ピーマン微弱□□■■■■■□強い
ブドウ弱い□□□■■■□□弱い果樹類で特に欠乏しやすい
ホウレンソウ====■■■□強い
マスクメロン====■■■□強い
ミカン弱い□□□■====
ムギ類強い□■■■■□□□頗弱オオムギ→別項
メロン====■■□□弱い
モモ微弱□□■■■■□□弱い果樹類は適幅が狭い
========
ラッカセイ微弱□□■■====
リンゴ微弱□□■■■■□□弱い
レタス微弱□□■■■■■□強い
作物名 欠乏←− −→過剰 備考
※ 表中,”====”の欄は不明.