台木の養成から芽接ぎ、定植、高接ぎ更新
2004/1/1-200712/25,2008/9/14,2009/3/4,3/19
【重要!】 種苗法の改正により、登録された品種を増殖した場合、権利者に無断で譲渡すると罰せられます。(譲渡は、販売と異なり無償・有償を問いません)
苗は信用の置ける種苗商から購入するか、自分で作りましょう。
【緒言】「市販の苗を買えば良いので、接木技術は習得する必要が無い」という意見もありますが、市販苗の根は極めて貧弱で、結実を待たずに枯れてしまう事さえあり、育成者に敬意を表すためにも苗木を購入するのは大事ですが、採穂専用にして定植せず、自家養成した台木に接ぎ直した方がその後の生育・収量に大きな違いが出ます。
高接ぎは品種更新ばかりでなく、モモのように不定芽が出来にくい種類では禿げ上がって結果部位が主幹から遠ざかった場合にも適用可能で、剪定作業の一部と考えれば、「剪定も満足に出来ないの?」と言われちゃいますよ。
【2009補追】乾燥防止などの目的で穂を密封状態にすると、雑菌の繁殖によって腐敗し、活着しない場合がある事が判明したので、対策を補追しました。
掘り上げた根に接ぐ事も可能だが、主として台木は実生繁殖で育成する。
以前は素性のはっきりしない野生桃と称するタネが使われたが、台木専用に育成された品種の使用が広まって置き換えられた。
種子の大きさは小さい方が良いとか、細長いのが良いとか、直根は切り落として伸びないようにした方が良いとかの言い伝えは、特定の地域・環境でだけ通用するもので、例外が多すぎる。
台木用品種の中には病虫害抵抗性や矮化性を謳ったものがあるので、目的に応じて選択する。 以下は、巷の流言に関する注意事項。
・栽培種(商品として果実を売るための品種)のタネを使うことも出来るが、果肉の核剥がれがよく、核が自開するものを台木専用に選んでおくと作業がはかどる。
多くの農家が保有する台木の採種用樹の中には、購入した経済品種が事故で台木だけ残ってしまったようなものも多く、野生種や台木専用種の苗が入手できないときは、既存の栽培樹から発生したヒコバエを利用して養成する事もできる。
土地や品種との相性があるので現在収穫中の樹から好ましいものを選抜すると効率が良い(穂品種との相性があるので、必ず自家苗での結実を待って最終判定する)。
タネを自家採取する場合、周辺の栽培種と交雑しないようにするには、開花前に訪花昆虫の忌避剤を散布する。
忌避剤に使用されるのは農薬として市販されている「アセフェート剤」(商品名:オルトラン/ジェイエースなど)で、忌避剤としての登録は無いが、アブラムシ・ハマキムシなどの害虫の予防に使用出来る。
適用登録は苗木類の育成のみで、果実の収穫を目的とした「モモ」には登録が無いので、ドリフトなどに注意が必要。
覆土前の様子。
播種床は露地にばら播きでも構わないが、育苗箱を使って芽の方向を揃えておくと絡まったりせず、移植の際に傷が少なくなる。
既に発根してしまったものは、竹ヒゴなどを突き刺して播種床に穴をあけ、そっと根を差し込む。横に寝かせてしまうと、曲がった根が出来てしまう。
水やりは、上から掛けるよりも、播種床より一回り大きな容器に肥料袋などを切り開いたものを敷いて作ったプールに入れ、底から吸水させた方が表面の土が固まらない。
水やりのタイミングは、割り箸などを播種床に挿しておき、時々抜いて乾き具合を見て判断する。
土の表面から1cm程度まで乾いたらプールに給水するが、常時水が溜まらない様に半日経ったら捨てる事。
発芽の様子
右端のごっそりと出ている部分は、播種前に伸び始めていた種子だけ集めて播いたもの。 この部分だけ早めに移植する予定。
密蒔きにした場合、種子が水分の上昇を遮断するので土の表面がすぐに乾いてしまいます。
このような状態で、表面が乾いたからと言って頻繁に水やりすると種子から下の土は水分過剰となって腐ってしまうことがあります。
表面の乾燥具合を目安にせず、予め播種床の隅に割り箸などを突き刺しておき、引き抜いたときの濡れ具合で判断すると巧く行きます。
表面から3cm下まで割り箸が乾いたら、水やりが必要と判断します。この方法は一般の鉢植えにも適用可能です。
【2007年暫定版・新たな試み】
古くから、「土中緑化」と呼ばれる育苗法があります。播種時に種子の上からガーゼや寒冷紗などを敷いて、その上に覆土をしておき、発根だけした段階で一旦覆土部分をとり除いて子葉を緑化させ、再び覆土して芽を出させると、丈夫な苗が出来るというものです。
そうした仕掛けをしていた訳ではありませんが、覆土部分が浮いて、なんとなく取り外せそうだったので、発芽前に覆土を取り除いてみました。
既に発根していた種子は立ち上がって緑化し、子葉(種子の胚乳部分)が芽の両側に寄り添うような形になりました。
移植時に子葉が欠けてしまうとその後の生育が劣りますが、このような形態をしていれば移植の際に折れる事もなくなりそうです。
と云うことは、播種の際に種子を寝かせるのではなく、発根部を下に向けて挿す様に並べたら? 来年のお楽しみです。
※注意:種子の乾燥防止のため、播種直後の覆土は絶対に必要です。
【2009年事後報告】
種子を寝かせるのではなく、尖った発根部分を下に突き刺すようにして播種したところ、問題なく発芽し、根と芽が上下に真っすぐ伸びるため定植時に絡まって折損する事故が減りました。(オススメ!)
一旦発芽して新梢が伸びだした後で枯れてしまう型の「接ぎ落ち」があり、接合部を観察すると癒合した形跡が認められます。
また、講習などの場で、こちらで準備をして接木操作だけ行わせると問題なく9割以上活着するのに、自宅で同じことをすると全く活着しないという不思議なケースも多々発生して居ます。
これらの現象を検討した結果、接木後の穂木(芽)が結露状態になると雑菌が繁殖して腐敗し、接ぎ落ちの原因になる事が判明しました。
芽接ぎの結束や穂接ぎでの乾燥防止にメデールテープを使用する場合は、穂木の殺菌を行うことで活着率が向上する可能性があります。
以下は、組織培養などの手順書から材料殺菌の処方を転用したもので、実験計画の段階であり、効果を確認したものではありません。
【方法1:アルコールを使用する場合】
【方法2:次亜塩素酸ソーダを使用する場合】
【補足】
塩素系漂白剤は、ピューラックスやキッチンハイターなどの商品名で市販されている物で、次亜塩素酸ナトリウム5% と界面活性剤を含む。
次亜塩素酸溶液は主として食品を扱う産業全般で容器などの消毒や、市区町村などが運営する水道局とは別に小規模で運営されている簡易水道などに使用が義務付けられている殺菌剤で、いわゆる「カルキ臭」の素。
通常の保管状態では、1年以内に使い切ることが推奨されている。
有効成分の次亜塩素酸ナトリウムは、塩(シオ)を電気分化して得た塩素を水に溶かしたものにナトリウムで中和したもの。塩素が塩化物イオンに戻る際に活性酸素を発生して殺菌力や漂白力を発揮するが、製造後約2年で塩水に戻ってしまう。
有効成分は「有効塩素濃度」として表示されるが、実際には塩素ではなく酸化力を測定して表示している。
購入後月日が経って、特有の臭いや希釈液に触れた時にヌルヌルする感触が失くなったものはものは効力が失われているので、有効塩素濃度を測定できる機器が無い場合は使用せずに、迷わず新品を購入する事。
類似の商品に酸素系漂白剤があり、漂白力が適度に弱いので色柄物衣類にも使用できることを謳っている。
殺菌力が劣るので概ね衣類の漂白専用で、以前は過酸化物の粉末だけであったが、液状品も販売されているらしく、商品名も似ているので確認して購入すること。
必要な道具はこれだけ!
左図・イス上の左側上から刃の保護紙・取り出した刃・ケース。隣の黄色い箱がメデールテープ
右図・手前がイス。奥のバケツに必要なものを入れて移動する。
ここでは、切接ぎ法を使用している。入門書では「T字接ぎ」を薦めているが、筆者の周囲での結果を見る限り、活着率が格段に劣るため採用しない。
これには、剥皮の適期が短い上に、時期の判定が難しいのと、下部の切り口から癒合が始まるというメカニズムに反している為で、おそらく、初心者に薦める理由は、穂が皮に押えられるので台木に固定し易いと云うだけの様に思われる。
使用する刃物は、作業直前に洗浄・拭き取りなどを行って表面の油分やサビなどを落とす。(手指の消毒もやってね!)
違う母樹から得た穂を扱う時にはウィルス病の蔓延を防ぐためにも消毒用アルコールなどで拭き取る事を推奨する。
試し切りを兼ねて、穂材料の先端部など不要な枝に切り付け、消毒液を拭ってから使用する。
台木を縦に切り込む。切り終わりの位置に親指の先を当てておき、次の下端を切り込むときの目印にする。
台木の下端を切り込む。左図は切り欠き部を取り除いたところ。
ただし、実際の作業では穂の準備が出来るまで付けたままにしておいたほうが良い。
穂の調製。
台木の調整が出来てから穂の調整に取り掛かる。順序を反対にすると、切り出した穂をどうしていいのか判らなくなりますよ。
(左図)枝先を手前に持って芽の上側から切り下ろす。
(右図)接穂下端の切り込み。 初めに切った上端を押えながら行う。
切り口の角度は台木をやや狭く、穂木をやや広めに切っておくと、台木の切り口にはめ込んだとき動かなくなる。
この後、刃物は要らなくなるが、不用意に地面に置くと汚れたり見失う危険があるので注意。
昔の人は口に咥えたが、危険なので絶対、他人に勧めてはイケナイ。
穂を台木の切り口に乗せる。
下端のクサビ部分(表皮側)から活着するので、形成層の位置合わせは下端を起点に行う。
テープで固定する。この種のテープ(パラフィン・テープ)を使うときは、2重までなら芽が自分で突き破ることが出来るので、芽の上から全体を巻いて構わない。
引き伸ばしながら巻きつけ、最後は引っ張って密着させながら引きちぎるとそのまま固定される(結ぶ必要はない)。1芽当たり数cmで足りるが、作業の便から30cm程度に切り離して使うと無駄が少ない。
この際、巻く方向によって芽が引っ張られて動く事があるので、台木の方が太くて穂を左右どちらかに寄せた場合は、寄せた側とは反対側から巻き始めるとよい。
図の左側4本が作業を終了したところ。手前に横たわっている緑色の枝が穂を採取した残りの枝。
右の2本は、接木前に邪魔になる葉や副梢を切り落とした後の様子。
晩夏〜秋に行う「夏接ぎ」は、翌年春に行う「春接ぎ」に較べて半年以上も早く接木するので生育が勝り、副梢が発生しやすい。
写真は、前年9月に芽接ぎ・同年12月に定植したもの。(台木の播種から16ヶ月の姿)
すぐに定植するのであれば問題にならないが、1年以上育苗してから移植しようとすると、副梢の発生によって切り返す場所が見つからない事もありうる。
(蛇足)移植に伴う断根によって、新梢の伸びが悪くなるのと、前年に伸びた枝が下垂し易くなるため、強く切り返す切り返す必要がある。
夏接ぎした苗は、発芽前に定植してしまうのが望ましく、止むを得ない事情で育苗後に定植する場合は春接ぎにした方が良い。
4月以降の遅い時期に移植すると、生育が劣るので副梢の発生も少なくなる。
降雪前に移植(定植)したものと比べ、商品となるような果実が収穫できるまでの期間も1〜2年遅れ、すぐに定植せずに数年間育苗した場合は更に2年遅れる上に衰弱が早まるので、経営上の都合を勘案して決定する。
けっして、育苗期間を設けて大苗で定植する事が「畑の有効利用」になるなどと言う戯れ句に惑わされぬように注意せよ。
一般の剪定では、落葉後の早い時期に切った方が生育旺盛になる傾向があるが、移植する場合発芽の1ヶ月前を限度に遅くしたほうがその後の生育がよい。
移植などで「根が減った時には、枝も相応に減らした方がよい」というのが従来の通説で、枝を強く切り縮めた方が移植当年の枝の伸びは良くなるように見えます。
ところが、枝の中に貯めた養分が移動して根の治癒や発育を助けるので、1年目の根張りは逆で、2年目以降の生育では地上部でも枝を切らないほうが勝るようになります。
強い剪定をすると、残った芽から出た枝は多少長く伸びますが、総伸長量で劣り、2次伸長しやすいので根の生育に悪影響があり、移植から2年目以降の生育に差が出ます。
接木後1年以上経った苗の場合は剪定せずに移植し、芽接ぎ苗の場合は台木部分の切り落としを遅くします。
「定植は遅い方がいい」などの言い伝えもあるようですが、苗が衰弱するので、ヒコバエ掻きなどの作業が楽になるだけです。管理が出来ないのであれば生育は遅い方がいいので、どちらが良いともいえませんから、労力に合わせて選んで下さい。
予め雨上がりなどの時間を使って定植位置を決め、支柱になる棒を挿して置きましょう。
支柱や目印になる棒は必ず必要になるので、最初に準備して配置します。
目印の棒を中心に植え穴を掘り始め、適当なところで外して植え穴を完成させます。植付け直後に支柱として挿し直しておけば定植後に誤って苗を踏み付ける事故を防ぐ事が出来ます。
接いだ苗の定植は、落葉後であれば早い方がその後の生育がよくなる。ただし生育がお旺盛になる分、台木からのヒコバエが発生し易いので、頻繁に見回って掻き取らなければならない。定植を遅くして地上部が発芽してからであればこの作業は大幅に軽減されるが、初期の生育も遅くなるので、好みで選ぶこと。
仮植することを「休める」と表現する地方があり、「本圃の有効利用法」と(頭だけで)考えたようだが、定植時の樹体が大きくなるほど傷口も大きくなり、実際にはひじょ〜に「疲れる」のが現実です。
移植に伴う断根は、根腐れと同じ「健全な根を失う」障害に他ならず、移植時に枝を強く切り返しても硬化しにくくなるので、主枝が下垂して潰れた樹形になりやすい。
カキが移植に弱いといわれるのは、掘り上げた際に根が乾燥して壊死するためだそうで、表面が乾いて白っぽくなっただけで、発根しなくなると云われている。(カキの根の表面は真っ黒です。)
まとめて掘り上げる場合は、必ず覆いをして、時々打ち水をする。
バケツに水を用意するよりも、ハンドスプレー(霧吹き)などを使うと便利。
また、風の強い日や、太陽光の強い時間帯を避けた方が良い。
移植の際に根を切るのは、根の側面が傷ついた部分などを落として傷口を小さくするためなので、全ての根を切り揃える必要はなく、出来るだけ残した方がよい。
根の側面に傷が付いてしまった部分や裂けた部分だけを切り落とす
購入苗の場合、太い直根を持っている事があるが、これを切り落とすように指導するのは植え穴を深くするのが面倒だからと言うのが大方の理由で、徒長枝が出易かったり直立してしまう原因の殆どは、定植後の多肥によるもの。
根はできるだけ多く残した方が良好に経過します。
多く切り落とすほど生育が悪くなるので、
→たくさん肥料を与えたくなり、
→徒長枝が増えるので、
→剪除量が増えて、
→樹が暴れて、
→老化して衰弱するまで良い果実が収穫できなくなります。
冒頭の理由のほか、移動の際に芽が傷つくのを防ぐ事ができます。
最低限、支柱を設置してから切り落とさないと、誤って踏みつけたりする危険が高くなります。
台木の新梢部分が持っている栄養分が根に移動して傷口の治癒などに役立つので、定植後数週間放置してから切った方が生育は優れます。
当然ながら、定植が春先遅くになってしまった場合は、この限りではありません。
発根部より下にも発生するので、丁寧に取り除く。この時点で完全に取ってしまえば、後はほとんど出てきません。
1本だけ離れて高い位置から細い根が出ている場合、切除します。
これを残すと、他の大部分の根が深植え状態になるのと、地表近くで横に張り出して除草の際に傷つけられたり、管理に都合が悪くなります。
逆に、下の部分は出来るだけ切らずに丁寧に伸ばして植えます。
根の出る向きは「落葉樹で枝と反対側、常緑樹は同じ側」などと云われますが、接木してある落葉果樹類の場合、上から見て時計回りに90〜120°ずれる傾向があるようです。
活着しているように見えても花芽に化けてしまうものがあるため、芽接ぎ苗を定植する場合1割程度の予備苗を確保して、接ぎ落ちが確認でき次第(5月中が限度)接ぎ直すか移植しなおす。
台木の余分な枝を切り離す前に支柱を設置して下さい。
定植位置を決めるときの目印として、予め配置しておく事を薦めます。
剪定ばさみを使うときは、受け刃(細い方)の当たった側が潰れて壊死するので、残す芽と反対側に、受け刃が上になるように当てて切ります。
僅かでも太い場合は、無理をせずに鋸を使った方が壊死する部分が少なくなります。
早く大きくしようとして肥料を与えすぎると、強大な側枝が出て切り落とさなければならなくなり、早期多収に必須の側枝が確保できなくなります。
畑がもったいないからと言って周囲に野菜類を作ると、多くの場合、果樹苗の必要としている10倍以上の多肥栽培になるため、樹形が乱れ、結実が遅れます。
生育中に夏季剪定を行うと、2次伸長したり、副梢(側枝)の先端が上に屈曲して生育し始めるの事があるで、誘引などの余計な作業が発生したり、樹形が乱れる原因になるので、完全に生育の止まるまで剪定は行わない。
モモは結果までの年数が短いので、高接ぎ更新の機会は少ないが、台木が準備できなかったときや、結果樹齢になって違った品種が混入しているのが判ったとき、育種では圃場の有効利用のためなど、機会がないわけではない。
育苗と同様に芽接ぎでも可能だが、太い枝には適用出来ないため、発芽前の切接ぎや袋接ぎになる。
芽接ぎに適した枝がある時は、育苗と同様に晩夏に接木し、冬の剪定で余分な枝を切り落とす。
春先に行う場合は、周囲の枝と競合して活着しても伸び難くなるため、芽接ぎでは一挙更新や半身更新など、元の品種の枝の大部分を剪除しないとならなくなるが、切接ぎのように穂のサイズが大きいと前年晩夏に芽接ぎしたのと同様の生育をする事が多い。
出来るだけ根元に近い場所に接ぐのが望ましいが、適当な場所がない場合、一旦幹から離れた場所や高い場所に接いで置き、数年後に元の品種を切り落とすと極めて強い剪定を加えることになるので胴吹き枝が発生し易く、改めて接ぎ直す方法もある。
【補足の解説】
下向きで出発した芽でないと真上に伸びてしまうので、芽接ぎで高接ぎする場合は台となる枝の下側に接がなければならないが、切り下げ剪定と同じ状態になり、新梢発生部から見て上を向いた切り口部が出来てしまう。
(図・上)切接ぎであれば、台の切り口上面に穂の先端を下に向けて接ぐ事ができるので、将来接木部分から裂けてしまう事故が減る。
(図・下)太い枝に接いだ場合、下側に接ぐと台の切り落とし部分がいつまでも癒合しないので、枯込みしやすく、結実の重みで裂けてしまう事が多い。
主として発芽期前後の春に行うが、夏季の緑枝接ぎも可能。
緑枝接ぎでは、副梢を使用すると活着率が悪いので、いくら太っていても使用しない。
冬季に剪定で切り落とした部分に接ぐ場合、接木までの期間が長いと枯込む事があるので、長く残して直前に切り直した方が良い。
母樹の枝を残した漸次更新の方が安全に思えてしまうが、一挙更新の方が、活着も良く、初年度の新梢伸長が良いので短期間で更新を完了できる。
【穂木の確保】
春先の接木では、発芽していない穂木が必要になるので、剪定枝などを低温で貯蔵しておかなければならないが、あまり早く採取して貯蔵期間が長くなると乾燥したり、カビが生えたり、枝の内部が黒変したりといった障害が起きるので、家庭用の冷蔵庫を使う場合は特に、貯蔵期間が概ね2箇月を越えないようにする。
モモの場合、カキなどと異なって3月になれば活着するので、貯蔵せずに採収直後の穂木を接木する事も可能だが、不慮の事態に備えて、無駄になるのを承知で貯蔵の習慣を付けた方が良い。
現在、防カビ剤と酸化防止剤による貯蔵前処理の試験中。今のところ防黴剤としてオスバンが有望。酸化防止剤は云わずと知れたビタミンC。
【穂木の長さ】
穂木の長さが短くなるほど、新梢は上向する傾向が強くなる。
主幹部分の更新では頂芽が立ち上がった方が良いので、クサビに切り込む際の保持しやすい最低限の長さ(2〜3芽)があればよいが、側枝や横行枝の候補になる部分では4芽にする。
モモ以外の樹種や品種によっては穂木の長さ(芽数)が花成に影響する事も多いので、花芽のつきにくい種類では長くする。
【用具】
(0)冷貯蔵した穂木を使う場合は、乾燥して切り込みにくいので、予め水差しして吸水させると良いらしい(2009/5 仕入れた新ネタ)。
【思いつき!】吸水の際に、発根促進剤や果実肥大促進剤として市販されているサイトカイニン系のホルモン剤を併用すると活着が良くなるのではないかと思いついて、検証予定。
(1)穂木を必要なな長さに切り、パラフィルムなどで乾燥防止用の被覆をする。(穂木の消毒は【芽接ぎ】の項を参照)
剪定鋏を使って切断する時は、受け刃側の枝が潰れてしまうので、必ず芽の裏側に受け刃が当たり、受け刃は切り残す部分(穂の先端となる部分と反対側)に当たるようにする。
乾燥防止のため、以前は接木後にポリ袋などを掛ける様に薦められた時代もあったが、風にあおられて穂木が動いてしまうなどの不具合が多く、廃れている。
芽接ぎで使用したものと同じ理化学用のパラフィルムや、接木専用のメデールテープなどを使って、切り揃えた直後の穂木を被覆する。接木テープで固定され、覆われる下端数cm は被覆しないくて良い。
<写真>右端が被覆を完了したもの。左は被覆の必要な範囲を説明するために手順(3)で被覆上から接合部を切り付けたもの。
この段階ではまだ切り付けは行わず、台の準備を先に行う。
(2)台木を切り込む
上面を削ぐように、木部に達する切込みを入れる。
切り始めの部分が高くなって穂木を入れた時に浮き易いため(下図・中)、予め角を切り落としてから切込みを入れる(下図・右)。
(2-2)台部分が太いときは削ぐのが難しいので、平行な切込みを入れて剥ぐ事もある。
写真左では、穂の太さに合わせた竹べらを定規替わりに使って切り込んでいるところ。(蛇足:先端を手前に当てないとやりにくいよ!)
下写真右で、切り込んだ部分の皮を剥いでいるところ。
皮を剥ごうとすると、必ず形成層から剥がれて半分が台部分に残るので、台の剥皮面は全面が形成層となり、以降の作業で穂の形成層を合わせるという必要はなくなる。
剥離面に形成層の繊維が屑状に残っても、穂木と密着して乾燥さえ防げばカルスに成長するので放置して構わない。
無理して平滑に仕上げ用として形成層細胞を毛釣り落とさないように注意。すると
台木の切断面が大きくて上を向いている場合など、切り口の塞がるのが遅くなりそうな時は、切断面の周囲に複数接いで、傷口が塞がるのを助ける様に勧められている。
(切り口が横を向いていれば、上辺に1本だけ接げば足りる。)
(3)穂木を切り込む
切った部分が汚れないように保持しなければならないので、必ず台木の準備を終えてから取り掛かる事。
写真は、説明のために乾燥防止の被覆をしていないが、実際には手順(1)の写真のように被覆の上から切り込む。
(3-1)先端、または先端から2番目の芽が真下を向くように保持して、下端の上面を45°〜60°程度に切り落とす。(右から2番目を参照)
(3-2)先端の芽が真上を向くように持ち直して、下端の上面を平らに削ぎ落とす。削ぎ落とす長さは、台木の切り込み長さに合わせる。
(4)穂木を差し込んで、テープで固定する
(4-1)台木切り込み部の最深部と、穂木のクサビ部分先端の形成層を合わせながら奥まで押し込んでから、台木切り口部分(木口)の形成層を合わせる。
(4-2)穂木のクサビ部分からテープを巻き始め、全体を固定する。
台木部分が太い場合は、テープだけで切り口全体を覆うのは難しいため、「接ぎろう」を塗って露出部分を隠す。
酢ビエマルジョンを主成分にした切り口保護剤(トップジンMペーストなど)は流動性が高いため、接合面に流れ込んで癒合を邪魔する危険がある。使用上の注意にも「接木には使用しない」旨が記載されているので注意。
ただし、太い切り口などで、接ぎろうだけで覆うのが大変な場所では併用した方が良く、事前に太い枝を切り落とした時に、通常の剪定時と同様に保護剤を塗って乾いた状態で、接木に必要な部分だけ切込みを入れると手間が掛からない。
(4-3)必要に応じて釘で固定する。
・台や穂の切りつけ精度が低くても密着させられない場合。
・太い枝(=古い枝)になると表面に凹凸が出来てくるので、剥皮した場所に穂木を密着させるのが難しい場合。
・太い枝に接ぐ場合。
主枝の基部など太い部分になるほどテープの固定力が小さくなるので、穂木に2列ある形成層のうち片側が先に癒合すると盛り上ってもう一方が離れてしまい、葉が出ると風でぐらついて取れてしまう事が多い。
このような場合に、釘を使って固定すると成功率が高くなる。
・予め、穂木に打ち付けて割れないことを確認すること。
釘は細いほど割れ難いが、釘の先端を潰すと更に割れにくくなる。
・釘はテープを巻いた後に打つこと。テープを巻く前に打つと釘の頭が邪魔になって隙間が出来てしまうし、除去する時に面倒になる。
・撤去は、接いだ枝が太ってくる9月までに行うが、一挙更新ではない場合など、接いだ枝があまり伸びないときは放置して冬まで置いても構わない。
新梢が50cm以上にもなると風で動くのを止めるような力は無く、残しても抜き難くなるだけなので、早く抜いて不安になる必要は無い。
風揺れを防止するには、2箇所以上で誘引するか、添え木をして固定する。
・写真の仮止め釘と使った場合、除去にはプライヤーを使用する。(素人は電工ペンチを使いたがるが、意外なほど使いにくいし、そういう道具はない。)
場所によっては真上に引き上げられない事もあるので、横から挟んで金槌でプライヤーを叩き上げる。
20cm程度の小型のバール(棒状の釘抜き)も便利だが、穂を傷付けるので梃子力で押し上げたりせず、差し込んでから金槌で叩き上げる。
・撤去作業には必ず「釘入れ」を携行する事。小型の飲料缶に紐をつけてぶら下げたものが便利。
飲み口部分(天蓋)をポリエチレンシートを2重にしたもので包み(=ポリ袋などを被せて)小さな切れ目をつけて挿入口にすれば落としても出てこなくなるので更に安全。巻き締め部分が滑り止めになるので長めの紐で縛って下げ紐と共用にする。
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【実験・接木テープの固定力】 細い枝と太い幹に小枝やマッチ棒等を添えて巻き較べてみましょう。 幹に巻いたテープは簡単に引き上げたりずらす事が出来ますが、細い枝に巻いたものは容易に動かせません。 (考察1)短いテープよりも長いテープの方が伸び易い。 (考察2)太い円柱の外周は平面に近づくので、太い枝になると巻いたつもりでも上から平行に覆っているだけになってしまう。 |
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【実験・釘の先端を潰すと割れにくくなる】 薄い板にいろんな太さの釘を打ってみましょう。 太いほど割れ易いのは予想の通りですが、先端を潰した釘が割れにくくなるのは意外でしょ? (考察)木材は木目に沿って力が加わると割れ易いので、釘の先端が鋭利だと、木材の繊維の隙間に沿って左右にぶれながら刺さって行くので釘が曲がり易いし割れ易くなるが、先端が鈍いと繊維を潰して真っすぐ入るので曲がりにくく割れにくくなる。 |
【釘】の補足
各種資材を検討の結果、「仮止め釘」と呼ばれる樹脂製のスペーサーが付いたものが使いやすかった。
写真は、太さ0.91mm、長さ22mm、軟質塩ビ製のスペーサーが付いていて、座金の役割を果たすとともに活着後は容易に除去できる代物。
ホームセンターにて、100本入り288円で購入。これ以外のサイズもあり、小分け業者の違いなどにより入り数や単価の違いが大きい。
活着後の穂木が太ると押されて縮むので、除去が遅れても食い込む心配が少ない優れもの。
台木側は形成層部分まで剥皮してあるので、意外なほど材が固く、固定力は十分だが、穂木が太すぎる場合は下のメモを参照。
【携行容器】
何本も手持ちしたり、箱や袋から取り出す時に爪の間に刺すと何日も痛むので、容器の選択は重要!
金属製で蓋をスライドして開閉するタイプの携帯灰皿が使い易い。引き出し型の場合は内筒の後端を塞がないと閉まらなくなるので加工が必要。リール付きだと腰にぶら下げられるので、さらに便利。
この他では、脚立や腕などにスポンジ束子を括りつけて数本挿しておくか、30mm程度の接木テープに釘を縫い付けるように(2箇所以上でテープにくぐらせて)刺しておき、テープの一端を三脚などに結びつける方法もあるが、落としやすいので危険を伴う。
【メモ】
・仮打ち釘を見つける以前に、活着後に取り外す必要から、釘ではなく木ネジを検討しました。
太いので穂木が割れ易く、下穴あけが必要ですが、圧着性能は勝るので検討に値します。
使用する場合、抜けにくい釘として宣伝されている「粗目造作ビス(細ビス)」と呼ばれるものが適し、穂木を傷つけないための座金代わりには、「ウクギ」「クワ」などの髄に穴の開いた種類の枝を 5〜10mm 程度に切って使う。
・仮打ち釘が入手できない場合、太さ1mmを越える釘だと穂が割れるので下穴が必要。虫ピンサイズの細釘を購入し、スペーサーは自作する。
明太子などのお土産用包装容器に使われている硬質の発泡樹脂でが最有力(一体成型でなく張り合わせた四角い箱型のもの)。
お土産でもらえない場合、厚さ5oまたは10mmの発泡ポリスチレン(EPS)の両面にカラーシートを貼り付けたものが「デコボード」の名で市販されているが、売価に3倍程度の幅があるので地道に捜しましょう。
樹脂板の場合、7mm幅に切って虫ピンサイズの「細釘」を挿し、使用直前に切り離すのが良いようです。コスト的には約1/10となります。
・(番外)それ以前に耳にしたのは亜鉛釘(亜鉛メッキの鉄釘ではなく、無垢の亜鉛釘)で、栄養源として溶けて吸収されるので抜く必要が無いそうだが、柔らかいので打ち込むのに熟練が要るらしい。入手出来なかったのでマンガン乾電池のジャケットを溶かして自作したが、やっぱり下穴無しでは刺さらなかった。手間が掛かりすぎるので不採用。
(おまけ・台木が細い時の仕上がりの様子)
・・・意外と簡単でっしゃろ?
(5)定期的に見回って芽かきを行う。
高接ぎ更新では、比較的強い剪定になるため、強い徒長枝が発生して接いだ枝が負けてしまうため、できるだけ頻繁に見回って掻き取る。
(6)日焼けの防止
残った主枝の背中が日焼けを起こしやすいため、できるだけ日焼け防止の白塗剤や収穫期に使う光反射材などを使って保護する。
塗布材の場合、幹全体に塗る必要は無く、上面のみ、全周の1/3程度で十分目的を果たせる。
市販品の白塗剤には固着成分が配合されているので、3箇月以上持続すあるが、石灰乳を使う場合は雨で落ちやすく塗り直しが必要になるので、カゼイン石灰などを加用すると長持ちする。
上で採用した方法のほかに、「割接ぎ」と称して台木部分を削ぐのではなく、真っ二つに割って穂木を挿す方法もある。
これの応用で、初期生育の悪い矮性台木を使ったリンゴを対象に地上部1m のあたりで母樹を切断し、切り口を鉈で二つに割って穂木を挿している農家もある。このときの台木切り口の直径は10cm 以上になることもある。
大きな隙間が出来て、塞がるのに時間が掛かるため、傷口の巻き込みが早い樹種でないと危険で、リンゴの場合でも、ふじは遅く、つがるや王林は早いなどの品種差が大きい。
【高年次の幹への接木】
高年次の太い幹では樹皮が厚過ぎたり、モモでは荒れて瘤状の角皮が出来てくるので、このままでは剥皮して接ぐ事が出来ない。
このような時は、樹皮の表面を削ぎ落として薄くしてから慣行どうりの方法で行う。
モモ用の実生台は、播種した直後の晩夏に接木可能な太さになるが、リンゴ・ウメ・カキなどほとんどの実生台では初期の生育が遅く、播種から2年以上必要になる。
リンゴ用のマルバ台など挿木繁殖台の場合は、はじめから接木の可能な太さの枝を挿し木すればよいが、細い挿穂しか確保できない時は2年以上必要となる。
春接ぎであれば、台木の切り落とした部分は接木に適した太さなので、これを挿穂にすれば翌春に台木として使用できる。
多くの樹種で春接ぎは、発芽の1箇月前になると接木可能になるので直前に切った枝を使うことが出来るが、カキは発芽後暫くして葉の展開し始めた頃(当地では5月初旬以降)でないと活着しないため、穂木の冷蔵は必須となる。
高接ぎ更新は極めて強い剪定を伴うため、ただでさえ暴れ易く、花芽が付き難くなる事を考慮する。接ぎ数は多い方が良い。
通常の剪定で強く先刈りした時に、下芽を残しても真上に向かって伸びてしまう様な品種(王林など)では、穂の芽の数を4〜5芽確保して、先端芽を上に向けた方が良い場合がある。
【5芽未満にする理由】葉序が 5/2 なので、6芽目で先端と同じ上向きになるため、4芽であれば先端以外の芽は横か下を向き、先端芽だけが旺盛に生育して残り3芽から発生した枝は下垂し易く、花芽を持ち易い枝になる。
主枝や側枝の切り口ではなく、幹の中間に皮を剥いで接ぐ方法。
接木部の先端側が鋭角になるので、発出角度の狭い側枝同様に樹皮が巻き込まれてしまうので、ノミを使って2cm角程度の穴を掘り、部分的に枝を切り落とした断面に見立てて接ぐ。
高接ぎ病ウィルスなどに感受性の台木が高接ぎによって枯れるのを予防・治療する手目の方法。
穂木と同様の枝を地際30cm程度の部分に下から挿すように接ぎ、下端は土に埋める。通常挿木の困難な種類であっても、穂の上端が活着すれば発根する。
予防的に行った場合、高接ぎ病によって元の台木が冒されると、副え接いだ枝が太り出すが、大事が無ければ細いままなので除去しても構わない。
ウメの実生台木は生育が遅く、モモのように春に蒔いて夏に接ぐというわけには行かない事や、自家用程度の規模であれば別途台木を用意する手間が掛かるため、親和性のあるモモ台を流用することが出来る。
モモの台木を使った梅は初期生育・結実が早いが、10年程度を過ぎた頃に突然枯れてしまう事が多い。
10年も経つと周囲の状況も変化して植え替えが必要になる事態も多いため、寿命が極端に短い事に注意して、更新用の苗木を確保すれば、モモ台の流用も有用ではある。
ナシの場合は、穂木の長さを30cmにする長梢接ぎも行われているが、棚仕立で容易に固定出来るため、風などで接木部分が折れるのを防ぐ事が出来る。
特殊な例として、沖縄などの暖地で栽培すると花芽の分化が起こらないナシを栽培するため、花芽分化の済んだ枝を持ち込んで毎年接木する栽培法(接いだ年に結実させる)が紹介されたことがあり、この場合も穂木の長さは30cm前後らしい。