核果類の核割れは,硬核期に核の縫合線に沿って剥がれるように割れるものばかりでなく,落花後間もない時期から硬核期の完了まで長期間に渡って発生します.
初期の核割れは,横方向(縫合線に直交する向き)に割れるものが殆どで,上図の細い線で示した果実の付け根から胚(未熟な種子)に繋がる維管束部分(矢印1)で発生すると養分の通路を絶たれた胚は壊死します.
胚が無傷でも(矢印2〜3),果実の食用部分に通じる維管束は核を通って出ているので,この場合では果頂部付近が肥大しない変形果になり易くなります.
樹の栄養状態が良くて梅雨期の悪天候を乗り切れれば,胚が壊死しても単為結果のような状態に移行してすぐには落果しない事が多く,「あかつき」や「川中島白桃」(および類似品種)などでは、外観上は健全なものと区別のつかない状態で収穫できますが,着色が遅れるため日持ちが悪く、苦味が混じるので食味も低下します。
晩生種以降では、着色し易い品種でも収穫前落果が多発します。
【補足】
写真では、果梗部分から入った養水分は、左側の断片に描いた桃色の線に沿って、核内を果頂方向に伸びる管を通って[矢印1と2]の中間辺りから胚に繋がっています(胚と核の接合部は、右側の断片写真の方が判り易い)
健全な胚の表面は白色で、写真のように茶色になったのは壊死が進行したもの。
これらの障害の直接的な原因は、従説通り果実の急激な成長であり,それを促す天候不順や不健康な樹体(衰弱・徒長),地力の低下が関与している事に異存はありませんが,「樹勢が強すぎても、弱すぎても発生する」のような実行の難しい文言はたんなる「逃げ口上」と断罪します。
何ずれにしても、従来指導されてきた摘果を遅らせるような対策には効果が無く、気象災害などの避けられない事故でもありません。
筆者の行った調査によれば、摘果の影響は極めて小さく、干ばつの対策として潅水が行われた直後に発生のピークが見られました。
また、液肥混入器を使用して塩化カルシウム1ppm+ホウ素0.1ppm を添加した灌漑用水を使用すると、無添加に較べて2割以下の障害発生率に抑えることが出来ました。(潅水直前と潅水から1週間後の調査)
適正添加量と他の成分の混用などについて追試中です。
葉柄中のカルシウムとホウ素の含量を追跡すると、潅水の直後だけでなく、草刈りの後にも低下が見られ、草刈りの2日後には検出下限以下となり、回復には早い場所でも1週間以上掛かりました。
葉柄中濃度の低下が最も早く、回復が最も遅れる潅水方法は、少量ずつ毎日行うもので、潅水に先立って除草を行うとさらに悪化します。
除草を行うのは、「草に吸わせる水分がもったいないから」だそうですが、被覆を失った地面の温度が上がるため、実際には蒸発損量が増えます。
カルシウムは細胞膜に,ホウ素は細胞壁の機能維持に必要な要素です が,これら2つのの要素は,ともに細胞質中の濃度が高くなると細胞が死んでしまうため,細胞内部では極めて低濃度に維持されています.
そのため,根から葉へ養水分を送る道管部分の移動は容易ですが,細胞質の残っている師管部分の移動が極めて遅いという特徴があります.(これを肥料の解説書では「再移動しにくい」と表現します)
再移動しにくいという特徴のため,一時的な吸収の不足があると,その前後の期間に十分吸収しても欠乏症状が出る可能性がある要素です.
※カルシウムは細胞壁のペクチンを架橋して丈夫にする役目もあります。