リンゴのニセ霜害

関連項:ホウ素の欠乏症  関連項:アブラムシ
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2004/08/16〜2009/1/25



症状・1(肥料によるもの)

 2004年頃より晩霜害(自然災害)として紹介され始めた花器障害と酷似した症状で、特定の園で毎年発生している。
 ビターピットなどの対策として石灰を投入した直後から発生し始める事が多く、開花前にホウ素の葉面散布すると回避できるが、地表散布は効果がない事が多い。(→要素の特性は「ホウ素」の項を参照)

 甚だしい時は、花叢全体が萎縮して発育せず、蕾のまま落蕾する。花叢葉が極めて小さく、数も少ない

 中程度の被害では、蕾が発育しても、中心花だけ花梗が短く、雄芯が発育せずに開葯せず、ヤニを吹く事もある。中心花の花弁が小さく雌芯も短い。
 軽い被害では、雄芯だけが萎縮して開葯しない。
 何れの場合も、雌しべが壊死していなければ正常な花粉を人工交配で与えると着果するが、果形が尻すぼみ状となって、成熟しても変形部分の果肉が未熟果のような硬いままになる事が多い。

 本モノの霜害では、蕾の雌芯部分がまっ先に被害を受けて、霜害発生から1〜2日後には褐変する(程度が軽ければ雄芯や花弁は被害を受けない)。

 降霜があった場合、健全花に被害のない温度でも、花梗の萎縮した花には凍結の害が起き易く、花器全体が萎縮したり、開花せずに脱落するものが多くなる。


これは本当の霜害。
降霜から2日後の蕾内部と開花期の様子。
(左)軽症だと、雌芯だけが被害を受ける。
(右)中心花(1番)から3番花までが蕾のまま成育を停止し、4番花が雌器・雄器とも壊死、5番花だけが正常に開花。


これはニセ霜害(軽症)
左は正常化で、右がホウ素欠乏によるもの。
雄芯だけが萎縮している。
 花梗も短くなり、さらに重症になると発育を停止して開花しないまま落ちてしまう。


ニセ霜害。開花期の様子
雄しべはヤニを吹くこともあり、短小で開葯しない。
写真の花は雌しべも萎縮しているが壊死しておらず、正常な花粉をつけてやれば結実するが、果形の縦断面は尻部のすぼんだ逆三角形になり、適熟期になっても、尻部分の果肉が未熟なまま堅くて不味い「青子」の状態となる。
 (写真・下)外観・断面とも左が正常花、右が障害果。品種は「さんさ」





ホウ素肥料の散布試験

 ホウ酸の10,000倍液をハンドスプレーおよび、筆塗りで局所的に与えてみた。

  1. 展葉直後に花梗の発育が止まる場合、花蕾が露出したときにスプレーしたものは花蕾の外観は正常になるが、雄芯の萎縮が残り、開花期以降に脱落する。
  2. 花蕾束がバラける直前にスプレーしたものは正常花になる。
  3. 開花日より3日前以降のスプレーは効果が無く、劇的な効果のあるのは1週間前まで。
     ただし2008-2009年の追試では、開花1週後の散布により、奇形などの外見に異常の無い「青子」の発生が激減するのが観察された。
  4. 吸収部位別では、花梗に塗布したものが最も効果があり、花弁や花叢葉への塗布は効果が無い。
  5.  1.で発育異常となったものに対して、2.の時期に2回目の処理をしたものは正常に発育した。
  6.  

ホウ素入り肥料の散布試験2

 霜害を受けて花蕾中心部だけが褐変した蕾に、花束のばらけ期に 3,000倍液を散布してみた。

  1. 散布しなかったものは発育を停止したり、開花せずに脱落したが、散布したものは、雌器を欠いた点を除き正常に開花した。
  2. 十分な花粉が採取でき、発芽試験にも影響は認められなかった。

所見(2007改訂)

 中心花が萎縮したまま開花しないような園では、花蕾の露出直後と花束がばらけた直後に2回散布が必要で、他の農薬と混用する場合、ホウ砂またはホウ酸の3,000倍 が適当と思われる。(濃度は追試中)
 

 果梗や花弁の発育には花束露出直後の散布が必要で、雄・雌芯の発育には花束がばらけた直後の散布が必要と考えられる。
 2回目の散布を省略した場合、正常花と変わらない外観になるが、雄芯が萎縮したり、果形・果肉品質に影響する事がある。この障害だけなら、散布は落花直後に遅れても回避できる
 逆に1回目の散布を省略した場合、果梗が短いだけで正常に着果する事もあるため、花器が萎縮しなかったことで、希釈されて不足したものと考えられる。



症状・2(アブラムシによるもの)


 写真を持ち込んで照会した所「クビレアブラムシ」に間違いないと確認してもらったが、吸汁痕が原因の被害は公に認められていない。取り敢えず、下に掲載した写真のヤツ。(盛大な被害痕が出来る新種じゃねぇの?・・・と云う案は却下された。)

 一般にはリンゴの枝上で卵(黒色)として越冬するので、休眠期のマシン油乳剤などで簡単に防除できると指導されている。
 当地では、早咲の品種(王林など)が開花する直前頃に有翅虫が飛来して花や花叢葉を中心に定着・繁殖するので、開花期以前の防除は効果が無く、他所で繁殖し高密度に達した後に有翅虫が発生して飛来するものと考えられる(←これが妥協案)。

 多くの殺虫剤が有効で防除は容易だが、開花期直前頃に飛来して開花中に増殖するため、花粉交配用のミツバチが導入される場所では、農薬の使用が制限されて被害が甚大となっている。
 ただし、現行の指導では樹上越冬する害虫で、有翅世代による2次寄生は念頭に無いため、休眠期防除の手抜きや散布技術の稚拙によるものと診断(指導)される(2009/1)。


 腹の横縞がクッキリしたスイカのような模様で、被害を受けた葉がくしゃくしゃに縮れるのが特徴。

 放置しても2〜3週間で終息する(ワタアブラムシに交代する場合が多い)が、落果を免れても吸汁部にサビを生じたり、排泄物が幼果に付着すると黒いカビが繁殖して収穫期まで残るので、商品価値を損ねる。
 果梗に寄生されたものは、満開の約1箇月後に殆どが落果する。
 王林などの早咲きの品種で被害が集中し、授粉用に混植された園では遅咲きの品種にも飛び火するが、ふじの単植園などでは被害が少ない。


 果梗に生じた亀裂はコルク化して盛り上ってくるが、開花から1箇月程度を過ぎると殆どが落果し、6月中旬には殆ど見る事が出来なくなる。
 果梗に及ばず、果面だけに生じた吸汁痕はサビとなって収穫期まで残る。

 無性世代の仔は、既に妊婦の状態で生まれてくるので、母親が次の仔を産むよりも早く孫が生まれる。
 花梗上で生まれた仔は、産み落とされた場所で吸汁しながら育つので、花梗上で縦一列に並ぶ外観となり、体が大きくなる事で押されて少しずつ移動するので、吸汁痕は果梗から果実に掛けて一筋の亀裂が入ったように見える。

   開花間近になってから新たに定着した部分では、1列に並ぶ姿は見られなくなる。
 この頃になると新葉が展開し、花弁や将来果実となる部分が目立って来るので、狭い果梗部分に寄生する必要が無くなり、維管束も分岐・発達して網状になる為と考えられる・・・が、どんなもんでせうか?

 直線状のサビは、凍結による亀裂(霜害)と診断されてきたが、リンゴの果実は解剖学上5枚の葉が紙風船のように綴られた形をしており、つる割れなどの亀裂障害は、原葉の境界(維管束どうしの中間、中心の星型になった胚室の先端部分)に生じ易いのに対して、被害果を切断してみると、線状のサビ(手前中央)は維管束の真上(原葉の中央部分)に出来ている事からも、吸汁痕でる事が判る。
 (星型になったタネの部屋を囲むように点在するのが維管束。蜜入りはこの部分から進行する。)
 (断面左上の褐変は落果の衝撃によるもので、無関係)

←写真をクリックすると原寸で表示する窓が開きます。 



 開花期を迎えると1列に並ぶ事は無くなり、散在して吸汁するので網状のサビとなる。
 被害部は当初、濃淡のある線が入り乱れた様子になるが、果実の肥大に伴って網も拡がって均質なサビ斑となる。サビ斑が密集したところではケロイド状と表現されるような凸凹したサビになる事もある。
 (右側拡大図)背景に白く見えるのが果点で、ずれて重なっているものがあることから、「果点荒れ」ではない事が判る。  所々に見える大きめの斑点が吸汁口で、周囲の平滑な部分は脚を食い込ませた跡かもしれない。(最後のは未確認の妄想意見です)



マンガン肥料による忌避試験

サクランボとの関係で、交配用ミツバチの導入時期が変更できない場合に備え、殺虫剤によらない防除(忌避)の検討も行った。

 肥料用硫酸マンガンの入手が可能となったので、2005〜2008年に掛けて地表散布を行ったが、体内で再移動(=貯蔵)出来ない成分なので発芽〜開花前の体内濃度が不十分で、5月以降に発生するワタアブラムシ以降にしか効果が得られなかった。

 ※ 肥料用硫酸マンガンは、全農が販売権を独占しているので、系統外の肥料店では入手できず、無理に注文しても工業原料用しか手当てできない。
 また、一部の野菜農家以外は単肥で使用しないため、JAの店頭に備え付けのリストにさえ掲載されていないことがあり、上部団体(旧・経済連)への照会が必要です。

 硫酸マンガン500倍液の葉面散布では、稚葉時代なので薬害が発生し、石灰を混用すれば回避できるが他の農薬使用を制限する。考えうる対策は、
 ・石灰を混用せず、希薄液を多数回散布する。
 ・石灰を混用し、農薬をボルドー液混用可のものに変更する。