ボルドー液

2002/07/21,2009/1/19,3/21



準備

 以前は薬液タンクを兼ねてコンクリート製の調合枡を設置する農家が見られたが、スピードスプレーヤーの普及に伴って持ち運べる小型容器での調合が主流になっている。



石灰乳の調整

 石灰乳は消石灰(水酸化カルシウム)の濃厚な懸濁液だが、消石灰は空気中の二酸化炭素を吸収して炭カル(炭酸石灰/炭酸カルシウム)に変化しやすい性質や、固結した場合に懸濁液の調整が困難になるなどの理由から、生石灰(酸化カルシウム)を使って使用の都度、調整するのが一般的になっている。

 生石灰に水を加えて消石灰にする過程を「消化」と呼ぶ。(生石灰であれば、塊であっても消化の過程で崩れるの)

  1. 必要な生石灰を計量する。薬液タンク1杯分の量を調整容器の容量に応じて小分けする事。
     4−12式で 500 リットル必要な場合、生石灰は 6kg 必要なので、20リットル容器を使うなら2分して3kgを2つ作る。
  2. 生石灰に対して夏季5倍/冬季3倍相当の水を用意する。
  3. 容器の隅に未消化の生石灰が残るのを防ぐため、計量済みの水を使って、調整容器の底に2〜3cm程度の深さになる分だけの水を入れる。
     多すぎると、生石灰を入れた時に噴出して危険なので、少量に留める。
  4. 計量済みの生石灰を一度に投入する。
  5. 用意した水の残りを少しずつ注ぐ。
     一度に入れてしまうと冷えすぎて反応が止まってしまうので、注いだ水が沸騰してくるのを待ちながら徐々に注ぎ足す。  生石灰の量が少ない場合は失敗し易いので、必ず熱湯を使う事。
  6. 用意した水を全て注いだら、直ぐに蓋をする。
  7. 沸騰が治まったら、調整容器の7〜8分目(運搬時にこぼれない程度)まで水を足す。特に、冬季3倍量の水で消化した場合は必ず水を足しておく事。
  8. 火傷しない温度になるまで冷ましてから使用する。
     翌日に使用するなら放置して構わないが、天候などの都合で延期する可能性がある時はポリエチレンシートで覆って空気を遮断する(十分冷めてから出ないとシートが溶けるので注意!)。


ボルドー液の調整・1

 教科書に載っている一般的な方法。アルカリ性の環境(石灰が勝っている状態)で2者が触れ合うと微細粒子に仕上がるのだそうだ。
 調整終了後に水を加えると粒子が大きくなって沈降し易くなるので、予め石灰乳と硫酸銅を2:8の割合で溶かしたものを用意し、混ぜ合わせて完成となる。
 よって、薬液タンクとは別に8割相当の別の容器が必要になる。

 石灰が勝っている状態で反応させる事が重要で、混ぜる順序を間違えずに行っても、硫酸銅液をバケツでザブンと汲み入れたのでは、局所的に石灰が負ける部分が出来るので、塊になってしまう。

  1. 薬液タンクに、散布液全体の2割相当の水で石灰乳を溶かす。
  2. 別の容器で、残り8割相当の水で硫酸銅を溶かす。
  3. 石灰乳を溶いたタンク内を攪拌しながら、徐々に硫酸銅液を注ぐ。
     水面がタンク投入口の網底に達したら、網を外した状態で硫酸銅液を注がないと攪拌が巧く行かずに網の周囲にこびり付く。
  4. タンク投入口の網を戻し、展着剤や混用する農薬などを少量の水で溶いて加える。

 2液の混合には様々な混合装置も市販されているが、多くの農家は自己流に簡略化した方法で行うため、仕上がりが粗い粒子になって、防除効果が低下するといわれている。
 ゆえに、指導機関が調整済みの「ICボルドー」を薦めるのは、濃厚な接待を受けたからというだけではない。



ボルドー液の調整・2(逆量法)

 薬液タンクとは別の大型容器が不用となる方法。
 以下の方法も、自己流に簡略化した方法に慣れた農家にとっては面倒に思えるかもしれないが、ストレーナーや噴口が詰まって作業が中断する事が無くなるので、全体の作業効率は非常に高い。

  1. 硫酸銅の濃厚水溶液を作る。通常5倍程度の水で完全に溶かす事が出来るが、溶け残った場合は水を足すよりも、上清を別の容器に移してから、溶け残り分だけに対して新たに水を加えて溶かした方が早く溶ける。
     ・樹脂製容器を使用すれば溶解後も劣化しないので、ゴミが入るのを防ぐ程度の処置で長期保存可能。
  2. 薬液タンクに、上で出来た硫酸銅溶液の分だけ減らした量の水(概ね9割8分)で石灰乳を溶かす。
  3. タンク投入部の網を外し、攪拌しながら如雨露で硫酸銅溶液を加える。
     如雨露の口は下向きにして、水流の激しい場所を中心に水面全体に広げながら加える。
     欲張って大きな如雨露にたっぷり入れてしまうと腕が保たないので注意。
  4. タンク投入口の網を戻し、展着剤や混用する農薬などを少量の水で溶いて加える。

 汎用の動噴がある場合、吸水管から硫酸銅液を吸い上げ、散布用の噴口を使って噴霧・添加することも出来る。

 硫酸銅液を加える時は、必ず投入部の網を外す事。網の内部で反応するとドロドロの塊になってしまう。



ボルドー液の評価

 必要なのは仕上がりの性状で、教科書の手順のうち最も肝心な「を少量の石灰乳に大量の硫酸銅液を混ぜる」という部分を無視する場合、他の手順がどれだけ似て手も意味がない。

 ボルドー液の性能は、微細粒子が均等に分散しているかどうかで決定され、粒子のきめ細かさは沈降速度で数値化できる。

 簡易に行うには、15cm程度の深いコップなど透明な容器に、攪拌中のボルドー液を汲み入れて静置し、一定時間後に生じる透明な上清層の割合で判定する。

 コップに入れたとき、直後〜数分後の底に沈殿物が見られず、1時間後の上清層が全体の高さの1割未満になる事が望ましい。



【参考:ボルドー液の薬効】

 ボルドー液の効果の主体は銅イオンで、石灰は銅イオンの生成を低下させて薬害を抑える目的で配合されている。

 銅イオンは、植物や微生物が生産するエチレンの代謝経路を活性化し、増産されたエチレンは酸化されて酸化エチレンとなり、強力な殺菌力を発揮する。
 酸化エチレンはディスポタイプの注射器(医療用)の殺菌にも使用されており、個包装にも明記されているので、機会があれば見て頂戴。
 植物や微生物自身も自分が生産したエチレンによって死んでしまう事も多く、相手を選ばない強力な物質。

   銅イオンそのものの殺菌効果は低く、筆者が行った実験では、モモ穿孔細菌病の病原細菌を徐々に高濃度の銅イオン(硫酸銅を使用)を添加していった培地で生育させると、最短4回の継代で 1,000ppm を添加した培地に耐えた。
 これは実験室の中だけでなく、ボルドー液の散布後、徐々に薄れていく状態や散布ムラによって低濃度の場所が必ず存在し、散布を繰り返す事で徐々に高濃度になっていく状態に相当する。
 この様に銅イオンへの耐性を増した株であっても、ボルドー液を散布したモモの葉上では死滅する事も確認した。

【余談】 リンゴでボルドー液が使用され、収穫時の果実に残る薬斑が問題になった際、残留しているのは殆どが石灰で、殺菌成分の銅は短期間で流亡していることが報告された。すなわち、残効は見た目よりも短い。



【参考:石灰類のおさらい】

(1)生石灰(CaO/酸化カルシウム)は、
  吸湿力が強く、水と反応して消石灰になる。

(2)消石灰(Ca(OH)2/水酸化カルシウム)は、
  二酸化炭素吸収力が強く、反応して炭酸石灰になる。

(3)炭酸石灰(CaCO3/炭酸カルシウム)は、
  石灰岩の主成分で、粉末にしたものが市販されている。
  高温処理(550℃以上)すると生石灰になる。→(1)へ

・炭酸石灰が化学的に最も安定した形なので、これを原料に無理やり作った生石灰や消石灰は、変化しやすい。
・消石灰が炭酸石灰になるとき、結合して脆い固まりになる(水硬性セメント)になるので、ボルドー液には固着機能が生じる。
・笑い話:二酸化炭素の排出による地球の温暖化問題を思い出した人が、「石灰で吸収させればいいんだ!」と叫びましたとさ。