糖度計は、砂糖と塩の区別がつかない
−−糖度と糖分含量の違いは大きい!


 ぶっちゃけた話、なんであんなもので糖分含量が測れるのか不思議と思っていた方々の「勘」は間違っていなかったと云うだけのお話です。

2004/07/21,8/23
2005/2/14,2009/8/16


 巷で使われている、いわゆる「糖度」とは、事実上「手持ち式屈折糖度計示度」の略です。英語では "Brix_scale(ブリックス計)" と呼ばれ、測定値の名称は "brix" で、単位は無名数(単位を付けない)または「度(°)」 です。
 姉妹品として卓上型や、デジタル型もあります。

 稀に「RM示度(Brix)」と表記される事もありますが、「屈折計(Refuraction Meter)の示す値を糖度の目盛り(Brix scale)に置き換えたもの」という意味で、糖度をややこしく書き換えただけのものです。
 これの亜型で「RM示度」と書かれたものは通常 "1.00000〜3.00000" 程度の値をとりますから、もはや糖度とは全く違ったものです。

 赤外線センサー式の糖度測定器も、可視光線の代わりに赤外線という透過力の優れた光を使う事で、果汁を取り出さない非破壊検査を可能にしたもので、、測定の原理に大きな違いはありませんし、可視光線を使った糖度計と同じ値がでるように補正されています。


【ちょ〜簡単な実験】
・どの家庭にもある「食塩」を水に溶かして測定してみてください。
 食塩水も砂糖水も、濃度が同じなら同じ糖度が測定されます。
・クエン酸や酒石酸のような酸味料があれば、食塩と同様に測定してみて下さい。熟す直前の酸っぱい果実の方が糖度が高い理由も判ります。

【補足】
・測定値の名称と単位−−
  (例)10cm は長さの測定値で、単位はcm
    10kg は重さの測定値で、単位はkg

・示度−−器械の指しす目盛りを読み取った数字の事。g(グラム)やm(メートル)などの厳密に定義された単位ではなく、便宜的に決めた合いです(お酒を飲んだときの酩酊度、癌の進行度、・・・などと同じ目安になる数字で、「指数」と呼ぶ事もありますが、指数は数学で指数関数などべき乗を表す数なので、紛らわしくなる恐れもあります)。


【解説】
 一般には「屈折計」と呼ばれる光の屈折率を測定する器械の一種で、自然光を光源にする手持ち式と、人工光源を使う卓上式があります。
 屈折糖度計は屈折率の目盛りを、ショ糖溶液の濃度(%)と同じになるように置き換えたものです。(ショ糖/蔗糖は砂糖の主成分です。)
 これは、ガラス・プリズムを使って光の屈折率を測定する比較的単純な器械で、この器械で測定した値が示すものは、その濃度のショ糖溶液と同じ屈折率を持っている事だけを示します。(ただし、プリズムや接眼レンズなどの部品は精密光学機器です)

 さらに平たく言い直すと、糖度計の目盛りが指すのは、「もしも、それが砂糖水なら、濃度は○○%です」というだけで、砂糖以外のものが混じっていれば、砂糖だけの濃度を知ることは出来ません。

 この種の製品には糖度計、塩分濃度計、尿濃度計、血液濃度計などの用途別・読み取り範囲別(高濃度用・低濃度用)に市販されていますが、目盛り盤の刻みと目盛りを読みやすくするために拡大する接眼レンズの倍率を取り替えただけの違いです。

 実際の農産物(果実など)では、酸味成分のクエン酸や酒石酸・リンゴ酸などが同じく糖度として上乗せされます。
 これらの成分は収穫適期が近づくにつれて減っていくので、土壌水分が一定の時の糖度は、成熟の直前にピークを迎え、熟度が増すにつれて低下します。
 もちろん、成熟期と干ばつが重なれば糖度は上昇しますが、熟期とは無関係で土壌水分が足りなければ何時でも上昇します。

 有機酸と同様に、硫安・硝安・塩化カリ・硫酸カリなどの肥料成分も「糖度」として検出されます。
 浸透圧調節のため、植物は土が乾燥して水が吸いにくくなると、体内に溜めたでんぷんなどを分解して糖溶液に変えます。雨が降るとこの逆の作用で糖分を減らすので、降雨開始から2時間も経つと甘味が減るのを感じることが出来ます。
 十分な雨の後でも糖度が下がらないで13度以上もあるような場合、もともと糖分の少ない未熟な果実だったり、果実にチッ素やカリのような肥料成分が多量に含まれていたり、根が弱ったり土の塩類濃度が高くて吸水できない状態・・・等々たくさんの原因が考えられます。

 「それほど甘くないのに、意外と糖度が高い」「糖度が高いのに甘くない」果実が存在するのは、異常な品種・系統のせいではなく、多くは早採りと多肥のせいです。

 いずれにしても、「糖度」が「手持ち式屈折糖度計示度」の略語であることを忘れて、「糖分含量」の同義語だと勘違い開いている限り、摩訶不思議な現象としか理解できないでしょうね。

【解説の補足】

 





糖度計の説明書を読んでみよう

 糖度計を買うと、説明書が付いてきます。
 格納ケースの底にひっそりと入っている事が多いので、気付かない事も多いと思います。

 測定の原理などは読み飛ばしても構いませんが、説明書には必ず「温度」による変化を補正する表と、ショ糖以外の溶液を測った時の表が付いています。
 この表を見ただけでも、ショ糖(砂糖)以外の沢山のものに「糖度」がある事が判ります。

実験上の注意

 製品には結晶水を含んだものと、含まない無水品があります。  健康食品として売られているクエン酸の場合、日本薬局方規格のもの(局方クエン酸)など主だった製品は16分子の結晶水を含んでいますが、食品添加物(酸味料)やJIS規格の試薬・工業原料などの中には、結晶水を含まない「無水クエン酸」があって、同じ重さを溶かしたのでは違った値(糖度)になります。


おまけ・屈折率

図左:横軸が境界面です。縦軸と交差する位置で入射角"θ"で光線が入ってきたとき、屈折して出射角"θ’"になっていることを表わしています。
 このとき「sinθ/sinθ’」で表わしたのが屈折率です。
図右:"sinθ" というややこしいのがでてきますが、角度(θ)を測るよりも一定の位置で長さ(aやb)を測った方が楽(=精密!)なので、「ほんとうは角度なんだけど”sinθ=a”と云う性質を使って長さを測ってます」と云うだけの意味です。

 光の速度は、真空中だと波長に関わらず一定ですが、媒質中(←真空ではないとき)では波長や温度によって変わるため、屈折率も変ります。
 一般的な光源には、ナトリウムのD線(589.3mμ/ミリミクロン)などが用いられ、例えば 20℃で測定した場合「nD20°=1.33333」のように表記します。

 精度が犠牲になりますが、このような面倒な知識や測定の煩雑さをすっ飛ばしたのが糖度計です。(扱いが簡単で便利な器械ですが、正しく使いましょうね。)


気になる会話

 手持ち式の糖度計を持っていても自分で測定をしなかったり、やっても1度きりの農家が多いようですが、収穫に先立って出荷団体などで調査を行うため、
「7日前に測ったら16%もあった。
 あの時よりも甘くなったので、今なら20%くらいあるはずだ」
・・・といった種類のお話をする方がいます。

 ふつうは、収穫適期になると酸味が減ったせいで甘味を強く感じるようになりますが、有機酸に反応していた分が減るので、糖度は下がります。
 お客さんの前で実際に測って恥をかかないようにご注意を!

気になる会話・その2

「下成り果実は糖度が低い」
 モモの場合、ある程度収穫が進むと着果の負担で止まっていた根の伸長が再開され、果実内の糖分が回収されて根に回るので、甘味が減っていきます。(”あかつき”という品種は例外的に変わらない)
 収穫は通常、上成りから始まって最後に下枝になるため、下枝の果実は甘くない事が多くなるのですが、出始めの果実は旨いが、残り物は不味いという1樹内での収穫時期の要素が大部を占めます。

 上成りであっても熟期が遅れた残り物は不味い事が多いので、お客さんに勧めて不評を買わない様にご注意ください。

 このため、美味しい果実を生産するには熟期が揃って一斉に収穫できる事が大事になってきます。(詳細は栽培各論へ)
 くれぐれも「長い時間樹に置いた方が甘くなるはずだ」という巷の予想は、現実と違うので、ご注意下さい。

気になる会話・その3

「果実に光が当たった方が美味しくなる」
 これには2つのケースがあって、収穫前に剪定をして光を当ててやろうとするものと、有袋栽培で光を遮る紙製の袋よりも光を通すワックス袋などの方が美味しくなるはずだというもの。
 前者には、果実の着色を良くするための摘葉作業がが付随するはずなのですが、不思議な事に「葉を残した方が美味しくなるはずだ」という正反対の主張も流行していて「剪定はするが、葉摘みはしない」方が良いと云います。

・収穫前の剪定は確実に、果実の肥大・着色・糖分含量に悪影響を与えます。
 最近では「20cmくらい切り残す」指導が流行して、この結果2次伸長をはじめるので(徒長枝を残さない時より)更に着色は遅れます。
 着色し易い品種だと、平年なら影響が少なく、曇りがちな年にだけ差が出ますが、「天気が悪い所為」にするのは冤罪です。

 モモの「あかつき」や、この血を引いた品種などは、途中で胚(タネ)が腐っても正常なものと区別出来ない外観に仕上がるという優れた着色形質を持った品種ですが、これはあくまで売る側の都合で、美味しそうに見えるのに不味いものを掴まされる消費者から見れば、好ましい性質とはいえません(世間では「詐欺」に遭ったといいますが、関係者は不可抗力と云います)。

・摘葉で糖度が下がると云うデータは、「葉摘みをしないりんご」を高付加価値製品として売り込む際に作られたもので、それ以前のデータはどれも「変わらない」か「葉摘みをした方が高くなったが、これは誤差の範囲」という結論ばかりでした。
 測定のサンプリングは生産地ではなく、出荷後に小売店の店頭で購入したものを比較しているので、一見公平に見えますが、新商品を定着させるためと云う理由で園地や樹体ごとに検査して合格したものだけが葉摘みをしない商品として出荷され(もちろん、箱詰め前の検査もある)、これに適さないものが葉摘みをした商品となっていました。
 つまり、葉摘みをしたものは、葉摘みをする前から品質が劣る事を保証されていたわけです。

気になる会話・その4

 有袋栽培ではワックス袋が流行し「光が当たれば光合成が・・・」という理屈が罷り通っています。
 小学校の理科では、光合成には光・水・二酸化炭素が不可欠であることを習います。光だけ当てたのでは温度が上がる分、呼吸による損失が増えて糖分は減る・・・とは考え付かないのでしょうか?
 理屈ではなく実際に、ワックス袋を使用すると遮光の有無(1重/2重袋)や底部解放の有無に関わらず、極端に味が悪くなります。肥料と早採りで高くなる糖度だけ測って「味見をしない」愚をなさいませんように。
 流通業者や最終消費者は糖度を測ったりしません。食味だけで判断するのが普通です。

気になる会話・その5

 「糖度が高いのにちっとも甘くない果実があった。枝変わりに違いないので見つけ次第伐採命令を出すからよろしく!」という通達を出した出荷組合があります。
 ネタを仕入れたのは2004年で、どの程度の農家が被害にあったのか、現在この指導が続いているのかなどは不明です。

栽培情報

 糖度を高くするために、収穫直前にカリ肥料や塩(しお)の入った資材の施用を薦めている書籍・雑誌や肥料店があります。
 これらの資材を入れると、土中の塩類濃度が上がって水が吸いにくくなるため、乾燥したのと同じ状態にする効果(甘くなる)と、吸収された資材そのものが糖度として上乗せされる効果(甘味は変わらない)とがあります。
 また、カリ肥料を追肥したり、基肥であっても多すぎた場合、減酸が遅れて酸っぱい果実になりますが、酸味は糖度として計上されるので、糖度はさらに上昇します。

 前者の「吸水阻害によって甘味を増す」効果は、塩素イオンの効果が最も高く、土壌溶液の塩類組成中で概ね5%を超えると、一般の作物は全く吸水できなくなるというデータがあります。
 もちろんこの数値には幅があって、海岸で難なく生活する植物も存在し、これを「耐塩性が高い」といいます。
 メキシコでは、トマトの収穫直前に海水を撒く伝統のある地域がありますし、日本でも岩塩や海水を撒く農家が紹介されたことがあります。
 他の肥料成分でも多く与えれば吸水阻害を起こしますが、味が悪くなったり糖分そのものが減ったりします。

 後者の「糖度として上乗せされる」効果の場合、適量を過ぎれば、過剰に吸収されたカリウムイオンは代謝を阻害して光合成が衰えるのと、浸透圧を維持する為に使っていた糖がカリウムに代替されて要らなくなるので、デンプンなどに変えられ、体内濃度は低下します。
 この結果、果実中の糖分を減らす直接効果と、酸味によって甘味を感じなくする間接効果によって「不味く」なります。

健康情報

 糖の種類によって甘味の感じ方は変わり、ブドウ糖に較べて果糖やショ糖の甘味は強く感じられるため、とにかく甘い物が求められた時代ですから果糖やショ糖含量の高い作物が育種の目標になる事があります。
 ブドウ糖は、冷たくすると甘味を感じにくくなりますが、ショ糖や果糖は冷やしても甘味の感じ方が変わりにくい特徴があります。

 ショ糖は、ブドウ糖と果糖が結合したもので、二糖類と呼ばれます。
 近年の高齢者向けの健康相談などでは、「果実摂取を200g未満にしなさい」という話が登場することがあります。(日本果実農協のCM「毎日果実を200g食べましょう」とは意味が正反対なので注意)
 「ブドウ糖」は全ての細胞で代謝できますが、「果糖」を代謝できるのは肝臓などの特殊な細胞だけなので、砂糖や果糖を多く摂取すると肝臓の負担が増えて、他の機能が滞り尿酸値が高くなるからというのが理由です。
 尿酸が血管の外に溜まって起こる病気が痛風(ふっと息を吹きかけただけでも痛くなる病気だそうな)で、痛みを抑える以外に治療法はなく、徹底的な食事制限が果されます。
 肝臓は血液中の尿酸を分別して、胆汁として腸に送り出す仕事もしているので、「肝機能低下=血中尿酸値の上昇」となるのだそうですよ。




 カリウムは血圧を下げる働きがあるとして宣伝されているので、増肥してもよかろうと考える向きもあろうかと存じますが、全くのデタラメです。
 ・「カリウムを与えると尿中のナトリウムが増える」という話に、
 ・「ナトリウムは血圧を上げる」という話をくっつけ、
 ・カリウムにも血圧を上げる働きがあることを隠す・・・と、
冒頭の宣伝文句が出来上がります。

 カリウムとナトリウムが血圧を上げるのは、血中の濃度を下げようとして水分が増えるので、血液の量が増えますが、血管の容積は急に変わらないので、圧力が上がると云うだけの仕組みらしく、血液中ではカリウムもナトリウム同様に血圧を上げる作用があります。
 一般に「健康なヒトなら問題ない」と言われていますが、お医者さんに質すと、乳〜幼児・高齢者・妊婦などは「健康なヒト」に含めないのが常識だそうです。
 過剰なカリウムの摂取はナトリウムの減塩食と併用すると健康な人にとっても有害で、食品添加物の「減塩しお(塩化カリウム入り食塩)」に含まれる塩化カリウムは、50%以下にしなければならないと法で定められているのもこのためです。


最後にもう一言

くれぐれも、糖度を上げる為だけ(=甘くならない)の、指導をなさいませんように。
 また、糖度は高いのに甘味がさほどではないと云う現象を、品種や系統のせいにして伐採などを指導しませんように、お願い申し上げます。m(__)m。

 糖度計で計測した値は、糖分だけの濃度ではありませんが、同じ条件で栽培・収穫された果実であれば、糖度の高低と甘味の強弱は比例します。
 自園の管理データとして役立てるのであれば、簡便に使用できる有効な手段です。