果実の品質

2004/11/31,12/23
2005/2/14




INDEX




与太話

 テレビや雑誌・単行本では、よく「おいしい○○の見分け方」というのをやりますわな。
 私らが胡散臭く思って見ているその内容を一生懸命暗記して、お客さんに暗記した通りのことを話す農家がいます。
 農家同士で「ホントにそう思うの?」
 「ううん、でもテレビでやってたから」と云う会話もしばしば。

 地方のテレビ局が同じ企画をすると、聞かれた農家は中央のテレビ局が放送した通りに話すので「農家のお墨付き」があった「みんなそう言っている」という事になって、何度も同じ話しを見た人がお客さん側の方だったりすると、そうした条件のものを出せと言ってやってきます。
 全てデタラメと言うわけではなく、それなりの妥当性もあるのですが、言われたとおりの条件を満たした「とびきり不味いモノ」を用意してお渡しするのも可能で、こうした密かな楽しみの為だけに、予めそういった話の収集・分析もして居る次第です。




着色

リンゴ

モモ・リンゴ・オウトウ・ブドウなど多くの果樹の品種は、誕生した瞬間からより着色しやすい系統の選抜・更新が始まる。
 りんごでは特に著しく、公的試験場での食味に重点を置いた育成母樹に対して、民間での枝変わり選抜が行われる結果、外観だけ重視された品種へと変化していく。

 現在「ふじ」として販売されるリンゴのうち、「ふじ」と云う品種名で登録された品種(以下「原種ふじ」と呼ぶ)の新植は、(家庭菜園を除いて)ほとんど行われていない。

 着色系品種が普及した初期には「T系」と呼ばれる縞模様が入らずに全面紅色になるものと、「U系」と呼ばれる縞模様のできる系統が混在した。
 「T系」は不味いとの評判が流れて駆逐されつつあるが、不味いのは本来の性質ではない。
 食味とチッ素含量は負相関の関係にあることが知られていて、チッ素含量の高い果実ほど不味いのだが、多肥栽培や着果量の不足、過度の剪定や収穫前の徒長枝切りなどを行うと、原種ふじであれば色が付かず青臭さが残っていたものが、着色系の枝変わり品種は、色だけは着いていしまう性質を持っただけのこと。

 2005年現在、「着系(着色系の略)」と言えば「T系」着色種を指す事が多く、縞状着色しないものは不味いと言う烙印を押した都合上、「U系」着色種のことを「着色優良系」とか「早期着色系」などと「味に変わりは無いですよ」というニュアンスで言い換える習慣がある。
 従来の品種であれば、赤い縞模様がくっきりしていれば確実に美味しいが、赤くても縞が無ければ当り外れが大きいと判断できたが、これらU系着色種の普及によって区別できなくなった。

 別項に述べた通り、携帯型の糖度計や糖度センサー付き選果機は、「糖度」と称しつつも糖分を測っている訳ではなく、水に溶けて屈折率を変える物は全て糖度に反映されるので、多肥栽培したものや酸味・青臭味など甘さ以外の成分であっても量に応じて糖度が高くなってしまう。

 選果機に付属した色センサーにより、着色具合による選別が容易に調整出来るようになった。
 豊作などで値崩れが予想されるときには撰果条件を厳しくするが、一定以上に上げると縞模様に見える白い部分が着色不足とみなされてしまい、T系のように全面赤に着色したものでないとパスしないというばかばかしい事態も起こっている。
 T系(ベタ着色系)との違いは、陳列したときには見えない蕚窪部(お尻の窪み付近)に、僅かな縞模様があるか否かなのだそうだ。



 リンゴでは「今年は気温が高いので、着色が悪い」と云った会話がなされるが、リンゴの着色は低ければよいのではなく、品種固有の適温がある。
 アントシアニン(赤い色素)は、一定時間だけ光が当たればその後は明暗に関わらず連続して生成され、従来の通説だった昼夜の温度差は全く関与せず、適温であることだけが要件となる。
 生成速度のピークは成熟期で15〜25℃、未熟期では15〜20℃。15℃以下ではどの品種でも低下し、10℃以下では殆ど着色が進まなくなる。
 紅玉・旭出:適温は20〜25℃だが、25℃を越えてもさほど低下しない。
 つがる・ふじ・スターキング:適温は15〜20℃。20℃を越えると著しく低下する

 良好な着色には、緑色が分解される(地色が抜ける)事も必要で、こちらも25℃以上の高温で低下する(地色の抜けが悪くなる)事が知られている。

これらの温度は気温ではなく、果実の表面温度なので、気温が15℃以下になる時期でも、直射日光の当たった場所は着色が進む。
 熱線を反射しないのが特徴のPE不織布製の補光シートは早生種で効果が優れるが、晩生種で劣る可能性が高い(未確認)。

 リンゴの表皮は3層になっており、一番外側は白〜無色で、2〜3番目の層にアントシアニンが蓄積されるが、層によって性質が異なる。
 ベタ状(全面)着色層はチッ素含量が多い方が着色しやすい。
 原種で縞状になる層はチッ素含量が多いと着色し難かったが、チッ素含量が多い方が着色しやすい変異を起こしたものが混在すると考えられる。

 チッ素の豊貧と着色の関係は、「多いと色が付かない」「少ないと色が付かない」という2説が現在も平行して主張されている。
 10年程度の期間に渡って施肥試験を行った結果、チッ素含量の変化を横軸に、着色度を縦軸にしてグラフを作ると、、原種ふじでのピークは1つだけなのに対して、着色系(T・U系とも)品種では2つのピークが存在する事がわかった。
 おそらく、本来はグラフの山が2つに分かれるのではなく、着色層によって2種類の特性に分かれているだけかもしれない。
 左のグラフで緑が在来種、赤が着色系枝変わり品種を示す。横軸が施肥量、縦軸にアントシアン量(着色)をとって模式化したもの。
 在来種は一定以上の施肥量になると極端に着色が劣るのに対して、着系は一旦着色が悪くなるものの、さらに増肥すると着色が回復する様子を表している。
 実際の着色具合では、アントシアンだけ蓄積しても葉緑素の消失が伴わないと着色が悪く見え、赤と緑が混じった小豆色になる。

 (解題)原種ふじでは着色せず、青臭くて食べられなかったり花芽が飛んでしまうような状態から、チッ素の吸収量を減らしていくと、着色系枝変わり品種も着色度が低下していくが、一定量まで減って原種ふじの着色が良好になるレベルになると、着色系枝変わり品種も再び着色しやすくなる。



葉摘みと甘さ

テレビのクイズ番組(2008/9 ウソバスター2時間スペシャル)で「赤い色と甘さには関係がない」と云うネタが採用されました。

 葉の陰になった部分には色が付かず、赤い色を付けるために葉っぱを取るのですが、葉っぱは甘さの元になる糖分を作る場所なので、甘味が減ってしまうという解説でありました。
 ところで、甘さを調べるのにアタゴ社製の卓上型糖度計を使用し、食べ頃の真っ赤なリンゴと、いかにも早過ぎて青く酢っぱそうなリンゴを較べたら、案の定、酸っぱそうな方が「糖度」は高くて、平均で3度の差があったそうな。
 農家でさえ誤解していることなので無理もないのですが、糖度計で測定しているのは糖分含量でなく、酸味成分も肥料分も糖分と区別がつかずに上乗せされるので、酸っぱすぎて食べられないような未熟な果実の方が糖度は高くなります。
 酸味が過剰な着色する前の青いリンゴの方が糖度は高くなるのが普通です。 (「糖度計は塩と砂糖の区別が付かない!」「酸味」「葉摘み」を参照)

モモ

 モモでも着色の容易な系統の選抜は盛んだが、「果肉先行」「黄熟」「よろけ」などの名で呼ばれる着色不良は核〜胚の異状によるものが大半を占める。
 このため、優良系統が登録・販売されても評判の良いのは最初の数年だけで、植栽が進むにつれて「あれはダメ、これもダメ」と云う噂が立つ事が多い。

 何ら障害の無い状態で果肉が軟化を始める時期と、果皮が着色を始める時期は品種毎に異なるが、着色開始は天候(日照不足)によって遅れる事があり、管理によってさらに遅らせることが出来る。
 「白鳳」に対して、近年流行している収穫前の夏季剪定を行った場合、果実に日陰を作る徒長枝の類を根元から落とした場合で3日、切り残して腋芽から2番枝を出し直した場合は5日以上の遅れが生じる(処理時期が早いほど遅れる)。
 白鳳と同時期に収穫される「あかつき」でも同様の遅れを生じるが、品種の特性としての着色開始時気が早いため、問題にならないことが多いのだが、日照不足の年には果肉の軟化開始時期より遅れて「果肉先行」と呼ばれる事になる。


 開花後から硬核期までの管理が影響する着色の異常では、「ぜひとも、果実を縦に割って核内部を観察してください」と話すのですが、よほど忙しいらしくて、農家に限ると誰一人「見た」と云う方にお会いしていません。
 より良い系統を捜し続ける熱心な方もいますが、品種・系統のせいではない事が多いので、どんな苗・穂を渡しても陰で「騙された」と言われますから、求められたときは具体的にどんな性質を望んでいるのか聞かないと、悪い評判が立つ恐れがあります。

 実生で繁殖させたモモは母樹に比べて熟期が遅れるのが普通で、育種は、食味を別にすると早生系の変異を見つける事に重点が置かれて来た。近年の民間(個人)育種ブームで晩生種が増えたのはこのため。

【農家の錯覚】
 「収穫後に夜露に当てると実が締まる(柔らかかった実が硬くなる)」という話を耳にする事があります。
 調査の結果、真相は収穫直後の選果である程度の軟果を取り除くため、翌朝に触れた時はひどい軟果は無くなっているというだけの話でありました。

品種による日持ちの違い

 硬い品種とか、日持ちのしない品種という云われ方をしますが、根本的な違いは、熟す前に果皮に着色するかどうかだけです。
 、堅すぎて味も悪く食べられないような時期に赤く着色する品種は、早取りするので長い期間並べておく事が出来ますが、果肉が柔らかくなるまで色が付かないと収穫が遅れて日持ちがしないといわれるだけの違いです。
 甚だしい例では「阿部白桃」のように収穫の1箇月前から真っ赤になるものさえあります。

 品種の違いも大きいのですが、管理方法の違いでさらにこの差が開きます。
 着色を良くするために日当たりを良くしようとして、剪定をすると色が付き難くなるという性質があります。
 大抵は徒長枝なので、葉っぱだけ掻き取って先端部分を残してやれば影響が少ないのですが、これとは逆に枝の1/2〜1/3を残して切るように指導している地域もあって、着色し難い品種は軟くて日持ちしないダメな品種という烙印を押されるようです。




食味

【糖度と甘さ、甘い事と酸っぱくない事の違い】
 「糖度」は、糖度計で測った値の事で、糖度計は塩と砂糖の区別が付かないシロモノなので、甘さと混同しない事。
 酸味や渋み苦味なども糖度として計上されるため、不味いモノの方が糖度が高い事も多い。
 当地の試験場では、酸味のない果樹の品種を「甘いだけ」と表現するが、JAの指導部では、酸味が全くない事を「食味が優れる」と表現するなど、文学的な表現に頼ると混乱する事がある。

【収穫前剪定の影響】
 強剪定が行われると着果量が不足して徒長枝が乱立する。  日当たりをよくして着色させるためと言う理由で収穫前に徒長枝切りを行うと果実に青臭い味が着くが、長い間多肥の所為だと勘違いされてきた。
 切らなければならない様な枝が乱立するのは多肥にも原因はあるが、収穫前の剪定をしなければ大部分は回避できる。
 着色系枝変わり品種であれば問題ない事が多いが、収穫前の剪定を行うと着色が遅れ、日照が不足する年には着色系品種でも着色できない事態になることがあり、「天気の所為」と諦めるのはもったいない。

【収穫時期】
 季節の贈答品需要など、出荷の都合ではじめから収穫を遅らせるつもりの場合、徒長枝切りや追肥などによって仕上がりが遅れるのは問題にならないと言う意見がある。
 食味に問題が無い状態で収穫されるリンゴに限れば、晩生種の「ふじ」などでは早く収穫したものの方が遅くまで貯蔵でき、12月以降に収穫したものは正月明けくらいが限界であるが、11月末の時点でも青臭さが残るようなものでは全く老化せず、翌年1月以降にやっと臭味が気にならなくなると言った具合で、単純には比較できない。

 青臭いリンゴでも果汁にした場合、数日放置すれば青臭さが抜けて美味しくなるが、市販のビタミンCを添加すると臭味が抜けず、いつまで経っても生食したときの味のままになるので、専ら屑リンゴを原料にする加工業者は1月くらいまでは添加しないのが通例になっている。

 青臭い味が付いたリンゴから臭みが消えのは、生果中のビタミンCが減る時期と一致しており、果汁にして放置すると数日で消えるが、果汁にした直後にビタミンCを添加すると青臭さが消えなくなる事から、ビタミンCが邪魔をしていると考えられる。(老化現象である蜜入りの進行も、ビタミンCの減少と一致する)
 臭味が我慢できるレベルに減ったものは、皮を剥くとすぐに褐変するリンゴになってしまい、おばあちゃんの知恵として知られる「リンゴは皮を剥いたら塩水に漬ける」といった雑学が活躍する下地を作っている。
※ (弁解)ビタミンCには還元型と酸化型があり、酸化防止剤は還元型ビタミンCを指します。体内では酸化型ビタミンCも還元型に戻して再利用される事から無駄にはなりません。
 上記中の「ビタミンC」は全て一般的な健康情報などで扱われる「還元型ビタミンC」の事で、「ビタミンCの減少」とは還元力の低下と云う意味で使っています。
 還元性の有無のみを調べる簡易分析しか行っていないため、ビタミンCそのものが分解されるのか、酸化型になるだけなのかは不明です。


モモ・果肉の堅さ

 堅いモモが食べたいと云う要望をよく耳にしますが、多くの農家が誤解してるように、未熟で堅いものが良い訳ではないと思います。

 先の項目で品種や管理方法で着色の時期が変わる事を述べましたが、核障害のうちでも発生時期が早くて種が死んでしまうと、着色し難くなる性質があります。
 その様な障害のある果実は苦味や渋みがあって「確実に不味い」ので、食べる側から見れば、障害のあった時に色が付き難くなる品種の方が良いはずなのですが、現行の主流品種「あかつき」やその枝変わり品種には、タネが死んでも外観が変わらないという特性があって、売る側の都合とテレビの宣伝が相まってもてはやされ、そうではない品種が淘汰されていくのが現実です。

・不味い堅さ:未熟な果実
       弾力がなく、溶けかけの氷のように果肉が砕ける
       果肉が歯茎に当たって痛い
・おいしい堅さ:食べ頃の果実
       弾力があって、鮮度の高いお刺身のような食感
       歯茎に当てっても心地よい

 本来ならば、果色の良否で食味が容易に判定できた方が良い筈なのですが、食味に関わらず着色が進む品種だけが好んで増植され、不味いと色が付かなくなる品種は淘汰される現状は、なんとも悔しい限り。




ビタミンC−−皮を剥いたリンゴの褐変

 皮を剥いてから塩水に漬けると褐変しない・・・といった裏技もあるようですが、そもそも、褐変するのは品質の劣化(老化)現象。

 青臭いリンゴをジュースにして放置すると数日で青臭さが消えるが、褐変防止に市販のビタミンC粉末を入れると、臭みが消えなくなる。
 また、新鮮なリンゴは皮を剥いて放置しても褐変しないが、収穫が遅れたものや蜜入りの進んだリンゴは褐変しやすくなる。
 褐変しやすさとビタミンCの含量は負相関にあり、褐変しやすいリンゴのビタミンC含量は例外なく少ない。

 生果でも同様の現象が起こっていて、始めに青臭さが出た果実から青臭さが抜けたときのビタミンC濃度は極端に低下しており、濃度が低下しなかった果実からは青臭さも抜けないという関係がある。

 【蛇足】ビタミンC含量については、過去に牛乳の国産と欧米製品の違いで論争になった(国産製品にはほとんど含まれない)事があって、「そんなにビタミンCが欲しけりゃ足せばいいじゃん」といった暴論まで飛び出しましたが、もともとあるものが減ったことに問題があるのであって、何らかの見えない障害が蓄積した指標としてビタミンCを測定しているに過ぎません。

 ホウ素が細胞の周囲に多量に蓄積してしまうと、細胞内に侵入する量が増え、細胞の機能低下によってバリア機能も低下するので、侵入量が急速に増えて壊死に至る。
 ここまで至らずとも、これが内部褐変と呼ばれる貯蔵中に起こる障害で、早い話が貯蔵性を低下させる。



酸味

 カリの豊貧と酸味の関係は正相関を示し、カリ過剰の状態では酸の抜けが遅くなるのに対して、欠乏に近くなると異常に早く酸味が抜けてしまう。

 カリは、過剰症の起き難い成分であるため、施肥量を増やせばいくらでも吸収させる事の出来る、いわゆる「ぜいたく吸収」を起こす。
 果実の甘味指標である「糖度」は、果実の屈折率を計測して、同じ屈折率のショ糖溶液の濃度を便宜的に表示したものなので、屈折率に影響する物質は全て糖度に反映されてしまう。
 酸味成分のクエン酸やカリウムイオンも重量比でショ糖とほぼ同じ屈折率の変化を起こすため、カリの施肥量を増やすと糖度が高くなり、酸の抜けが悪くなるので効果的に「糖度」を上げる事が出来るが、もちろん甘くなるわけではない。




日持ち性

リンゴの晩生種に限っていえば、収穫時期の早いものほど日持ち性が高く、長期貯蔵が可能になる。

 着色期に、果実を日光に当てようとして剪定すると、果実のビタミンC含量が低下するのが観察できます。
 皮を剥いた時に褐変するのが早くなる程度で済めばバレずに済みますが、「蜜入り」信仰が強くて収穫を遅らせると、内部褐変に進行してクレームの対象になりかねません。