2007/3/10,2008/2/6
【役割】
・リン酸は,遺伝情報を司る「核酸」やエネルギーの代謝を仲介する「ATP(アデノシン3リン酸)」の原料.
細胞そのものを形作るタンパク質・リン脂質の原料。
湿害によって過剰な鉄分が溶け出すと結合して不溶化し、リン酸の欠乏となって現れる。
【根肥か? 実肥か?】
・欠乏が起こると,野菜類では最初に果実の肥大が悪くなり、リン酸の施肥を行うと果実の生育が良くなるように見えるため「実肥」と呼ばれるが、果樹類では根の生長が衰え、施肥で回復する事から「根肥」と呼ばれる。
園芸の入門書などでは、「リン酸は実肥」「リン酸は根肥」の一方だけしか書かれていない事が多く、また殆どが他書から書き写した寄せ集めのため、果樹・野菜−根肥・実肥の関係がウソになってしまう場合があります。
実肥・根肥といっても、欠乏症状が回復するだけなので、充足量以上に与えても増収するわけではないことに注意が必要です。
このお話の原作は、「欠乏症状が現れる部位は作物ごとに違うので、この特徴を診断に役立てましょう」といったものでした。
(参照→カリの場合)
| 肥料成分 | 欠乏の現れやすい場所 | ニックネーム |
| P | 果樹類の根 | →根肥 |
| 野菜類の子実 | →実肥 | |
| K | 果樹類の子実 | →実肥 |
| 野菜類の根 | →根肥 |
【土中での形態】
土中でのリン酸の形態は、作物の利用し易さによっていくつかに分類される。
施肥リン酸が土壌中で難溶性になることを「土壌がリン酸を固定する」と言い、固定力の大小は「リン酸吸収係数」として数値化され、土壌が持つリン酸の肥効を妨害する力の目安となる。
リン酸吸収係数の測定は、リン酸含量の測定とほぼ同じで、抽出液の代わりに一定濃度のリン酸を含んだ溶液を使って、土壌と攪拌した後でどれだけ減るかを調べるものなので、過剰のCa・Mgの下で生じるク溶性リン酸(リン酸二石灰・リン酸二苦土)や鉄分と反応して生じるリン酸鉄(V)などは、リン酸吸収係数として測定されるため、これらの物質を含む有効態リン酸の分析値と重なってしまう。
有効態リン酸が多い割りに、リン酸吸収係数が高い場合などは、Ca・Mg・Feの項目にも注意を要する。(リン酸単独の測定値だけでは、何も判らない)
・リン酸が土中の酸化アルミニウムと結合して難溶性の化合物を作ることは広く知られ、施肥リン酸の90〜95%が無効化するといわれています。
その原理は、アンモニウムやカリウム,カルシウムなどの+イオンになる肥料成分が土に保持される性質と基本的には同じで、違いは電気的な "+,−" だけの違いです.
酸化鉄や酸化アルミニウムを持った土壌粒子は,土壌環境が酸性になると水に溶けやすくなって"+"の電気を帯びます.
リン酸イオンのように"−"の電気を帯びている肥料成分はこれと引き合って保持されますが,リン酸が酸化アルミニウムと結合して出来た物質は解離度が小さいので非常に安定で、再び離れて植物に吸収される機会が少なくなるので「リン酸が土壌に固定される」と表現されます。
この性質は計測可能で「リン酸吸収係数」という数値で表されます.
硝酸や塩素,硫酸のイオンも"−"の電気を帯びているのでリン酸と同様に保持されますが,リン酸と異なり再利用され易い為,−イオンになる肥料成分を保持する性質として無視出来ないもので,「リン酸吸収係数」を必要以上に小さくしてしまうと作物の生育(肥料成分の保持と供給)に不利となります.
・リン酸はカルシウムとも反応して溶けにくくなるので、土壌酸度調整のための石灰を過剰投入したときも肥効が低下します。
・体内含量は部位によって大きく異なり,成長の盛んな芽・根の先端・子実に多く観察される。
・細胞数が著しく増加する生育初期に適量吸収されると、その後の分けつ・吸収・開花・結実が良く、病気への抵抗性も強くなる。
反対に生育初期に欠乏があって、その後に潅水や追肥などで回復した場合、異常吸収する性質があり、細胞分裂が異常に旺盛となって奇形化(果実・茎・葉)することがある。
・他の肥料要素と異なり、リン酸が水に溶けると「−」に荷電するため、土中や吸収時の挙動が異なる。(→ドンナン平衡)
・リン酸は水に溶けたとき、「−」に荷電するが、根の表面も同じく「−」に荷電しているため、NH4+ や K+ が引き寄せられるのとは反対に遠ざけられて分布するため、葉の蒸散で生じた負圧による水の流れに乗った受動的な吸収はされにくく、特別な入り口(複数のチャンネルが存在するものと考えられている)から、エネルギー(ATP)を消費しながら能動的に吸収される。
このように、リン酸の吸収にはエネルギーが必要で、作物の代謝が低下する低温時や極端に衰弱した状態では吸収できなくなる。
トウモロコシの場合、2℃でほぼ皆無となる。(リン酸はエネルギーの受け渡しに必要な物質でもあるため、欠乏は深刻な事態になり易い)
※能動吸収:水の流れに任せる受動吸収と違って、根の表面で選択吸収するため、土壌溶液中の濃度に比べ、道管中のリン酸濃度は、1,000〜10,000倍に濃縮される。
【利用形態】
リン酸は,土壌中に豊富に存在しても、カルシウムやアルミニウム・鉄などの酸化物と結合して水に溶けない難溶性のリン酸鉄やリン酸アルミニウムになりやすく,この過程を「不溶化」と呼びます.
酸性土壌では、鉄やアルミニウムが活性となって(=水に溶けやすくなって)リン酸と結合し易くなる為、作物のリン酸吸収が悪くなる。
リン酸とカルシウムは互いに吸収を阻害するので「拮抗肥料」と呼びます。
どちらも植物にとっては必要なのですが,リン酸は比較的生育前半で必要なのに対して,カルシウムは後半の花成〜結実期に多量に必要となる為,酸度矯正に用いる場合を除いて、子実の収穫を目的とした栽培ではカルシウム(石灰)の施肥は作付け前の元肥とせずに追肥で行う方が良いのですが、作付け前に行うのが慣例となっているのは、純粋に省力化のためです。
【アルカリ資材の影響】
水溶性のCa・Mgが大量に存在するときや、ク溶性であっても多肥と重なったときは、硝酸化成による土壌の酸性化で可溶量が増し、不溶性のリン酸三石灰やク溶性のリン酸ニ石灰に変化する。
従来、リン酸の肥効を高めるためには、土壌酸度の矯正を行う指導がされてきたが、強酸性土壌の改良が目的であり、石灰による過剰なアルカリ性化は却って利用率を低下させる。
現実的に、過リン酸石灰や重過リン酸石灰・溶りんの形で与えられるリン酸は水溶性の高い「リン酸一石灰(リン酸2水素カルシウム)」や、ク溶性の「リン酸ニ石灰」であったものが,石灰分の多い状態では難溶性の「リン酸三石灰」ヘと
変化して利用度が低下する.
この最終型は、リン鉱石に含まれる成分と同じで、肥料工場では硫酸で煮込んでわざわざカルシウムを切り離したものを、お金と手間をかけて元の形に戻している事になる。
鉄イオンはリン酸と結合して肥効を妨害する。
土に大量に含まれている酸化鉄は、土壌 pH が低下したり湿害や未熟有機物の分解に伴って酸欠状態が進行し、還元されると可溶化する。
可溶化した酸化鉄は、雨で下層に流亡・集積していることが多いので、天地返しによって湿害のような症状を起こすことがある。
リン酸は、交換態(植物が利用できる形態)として土壌粒子や腐植に保持される量はきわめて少なく、Ca型、Al型、Fe型の結合形態や有機態(リン酸を吸収した植物の遺体)、各種の難溶性化合物として存在する。
作物にとっては、pH5.5〜6.5 のときに最も有効度が高くて、アルカリ性ではCa型、酸性ではAl型やFe型の難溶性塩となって、吸収されにくくなる。
Ca,Al,Feなどのリン酸を固定するイオンが無い場合は、pH4.5 で最も吸収され、pHの上昇に伴って減っていく。この減り方は、リン酸が低濃度のときほど激しい。
実験した結果、オオムギでは pH4.0〜9.0 の間で pHの低い方が吸収量が多く、pH の低いときは、H2PO4-が、pH の高いときには、HPO42- が多く吸収される。
これらリン酸の形態による吸収量の差はpH7 で逆転するのが観察されることから、少なくとも2種類の吸収チャネルがあると考えられている。
作物に吸収されるリン酸は、施肥量の10%以下と推定されており、溶脱されにくいため、残りは作土に集積する。
土中の適正範囲
【千葉県栽培指導指針(年次不明)】 黒ボク土:野菜 20〜100mg/100g土 いも・豆 10〜 50mg/100g土 砂質土: 50〜100mg/100g土 (ただし、環境保全上50mgを管理目標とする) 【千葉県農業試験場:可給態リン酸含量の適正範囲】 黒ボク土 砂質土 ホウレンソウ 10〜 90 50〜 80 (mg/100g土) レタス 60〜200 50〜 60 スイートコーン 15〜 90 − ダイコン 5〜 50 5〜200 コカブ 15〜100 50〜160 ニンジン 40〜150 − ネギ − 80〜150 タマネギ 90〜110 ※施肥リン酸と土中の可給態リン酸量の関係 砂質土 y=0.56x + 14.6 黒ボク土 y=0.33x − 11.51 ※重焼リン、熔リンを供試して作成
土中での移動は極めて遅い反面、体内での移動は比較的容易で、葉位差による含量の違いが出やすい。
欠乏時は、下位葉ほど含量が少なくなる。果実周囲の葉も少なくなる。
過剰時は、下位葉ほど含量が高くなる。
リン酸の土中形態
| リン酸一カルシウム(リン酸一石灰) | 水溶性。 過リン酸石灰などの有効成分。 |
| リン酸二カルシウム | ク溶性。 中性付近では炭酸ガス(←二酸化炭素が水に溶けたときの呼び名らしい)によってリン酸一カルシウムになる事がある |
| リン酸三カルシウム | ク溶性〜難溶性 |
| リン酸第二鉄 | 難溶性。 還元下では可溶化するので水田での欠乏は少な い(畑では湿害発生時のみ) |
| リン酸アルミニウム | 難溶性・ |
(※ク溶性:クエン酸水溶液に溶け出す成分。肥料の品質を検査する公定法では 10% 溶液(抽出操作は30℃)が使用され、根から分泌される有機酸によって可溶化し吸収されるリン酸量との相関の高い。
※注意・・・短時間で行う実験用の抽出液は、根酸の酸度よりも遥に濃い。効かない肥料を誤魔化すためにしているのではないので、誤解しないように!)
河川の汚染指標などでリン酸濃度の上昇が取り上げられるのは、自然界でのリン酸が Fe・Ca・Al などと結合して不溶化しやすく、微生物などの繁殖を制限する因子となっていたため。
(富リン酸化で微生物が繁殖した結果、大量の死骸が汚泥となって蓄積し、これを分解する微生物が水中の酸素を大量に消費するのが水質汚染のメカニズム)
おさらい:自然界のリン酸は生物が利用しにくい形態で存在しており、肥料としてのリン酸の研究は利用しやすい形態への加工の研究から始まった。
【リンとリン酸】
元素で言えば”リン”なのですが,自然界では主に酸素と結合した”リン酸”の形で存在します。
基本形は、H3PO4 (正リン酸)で、水に良く溶け、融点42.35℃の固体ですが、潮解性が強いので工業原料などの市販品は濃厚水溶液です。
土の中で実際に存在するのは、頭の水素が取れてイオンになったものや、いろんな塩基(アンモニア、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミなど)と置き換わったものです。
正リン酸に3つ付いている水素が3段階に離れてイオンになりますが、1段目(1個目の水素が離れるとき)は、周囲の環境にかかわらず離れやすいので強酸の性質を持ち、2〜3段目は離れにくいので弱酸の性質を持ちます。
一方、土壌分析を依頼したときなどに渡される分析結果の欄には、「P2O5」に換算した数字が書き込まれてくることがあります。(最近では「P」になっている事もあります)
精密な分析を行うときは、標準物質と呼ばれるリンの化合物と比べることで試料中の含量を計算しています。化学分析の創始者である錬金術者たちは、純粋なリンの化合物を得るためにまず、リン(黄リン)の塊を作りました。このままだと空気中の酸素と反応してどんどん重くなってしまいますので、安定させる為にいったん燃焼させてできるのが「P4O10」と云う分子ですが、一般には組成式の「P2O5」を使用します。
現在行われる分析のほとんどは、リン酸1カリウム(KH2PO4)などの高純度のリン酸塩を買ってきて使うので、分析操作中のどこにも P2O5 は登場しないのですが、データの互換性という都合でいちいち計算して換算表示する慣わしが続いています。
植物での役割に加えて、動物ではリン酸カルシウムとして、骨や歯を構成する役割も受け持つ。
・Bray No.2法
0.03mol/l. フッ化アンモニウム + 0.1mol 塩酸 で浸出
(概ね、水抽出の10〜20倍の量となる)
・トルオーグ法
0.001mol/l. 硫酸 で浸出。
(概ね、水抽出の5〜10倍の量となる。農試等で採用。主にCa型リン酸が溶出する)
測定における公定法はトルオーグ法に準じる。
トルオーグ法では、主としてCa型リン酸が溶出・測定されるが、還元下の水田などではFe型リン酸が有効態化して肥効の主体となるし、活性化した2価鉄に富む土壌中ではCa型が少なくFe型が多く存在するの。
よって、水田土壌の測定にトルオーグ法は適用できない。
グライ土壌など、活性2価鉄の多い水田に施肥されたリン酸は、Fe型に変化するので、トルオーグ法で測定しても意味が無い事になる。
※一般に行われる土壌分析(化学分析)では、公定法(農林水産省の通達によるもの)を基にして簡便化し、公定法の測定結果と相関が高いことを確認したものが採用されている。
※Fe型リン酸と活性2価鉄の相関係数 r = 0.866**
Ca型リン酸と活性2価鉄の相関係数 r = -0.728
【兵庫県農総センター(年次不明)】
この辺り(↑)、ややこしい表現になっていますが、目的が同じでも測定法方が変わると得られる値も変わるという事実だけ押えておけば十分です。
分析項目の概念的な意味を、そのまま表現できる測定方法が確立されていないため、測定結果の意味するものも多少違ってきます。
そこで、比較をするためには公定法と呼ばれる標準的な分析方を定めて、便宜上「○○の手順で得られる値」と云う意味に置き換えてあるのですだよ。
【試薬】(モリブデン酸塩溶液の作り方はFHK式と共通で、スズの添加方法だけが違う)
【操作】
※注意
【診断】
| 水抽出(乾土比1:5) | |||||
| 呈色度 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| テスト液中濃度 | 1ppm | 2.5 | 5 | 10 | 50 |
| 診断 | 少い | やや少い | 適 | やや多い | 多い |
| 単純換算による参考値(乾土比5倍・生土水分3倍) | |||||
| 乾土100g当り | 0.5mg | 1.25 | 2.5 | 5 | 25 |
| 土壌溶液中濃度 | 15ppm | 75 | 150 | 750 | |
| 0.6me/L. | 1.6 | 3.2 | 6.4 | 31.8 | |
【原理】
【試薬】
【操作(土の場合)】
【診断】
| 検定標語 | 僅含 | 含 | 富 | 頗富 | ||||
| 下 | 中 | 上 | 下 | 中 | 上 | |||
| 有効リン酸 (P2O5/100g土) | 0.1mg | 1.0 | 2.5 | 5.0 | 7.5 | 10 | 15 | 20< |
| 10a当り過リン酸石灰相当量(100t土) | 0.6kg | 5.9 | 14.7 | 29.4 | 44.1 | 55.8 | 88.2 | 117.7< |
| 標準液濃度 | 1ppm | 2.5 | -- | 5.0 | -- | 10 | -- | 50 |
抽出液の代わりにリン酸溶液を用いる以外、操作は全く同じ。
原液中のリン酸含量と土壌に吸着させた後の含量の差を乾土100g当たりの固定量としてmg数で表示する。
単位は付けず、上位2桁を残して四捨五入するのが慣例。
一度リン酸吸収係数を測定した試料を濾別して、再び同じ操作を行うと、前回よりもやや少な目のリン酸吸収係数が測定され、リン酸の吸収力が残っていることが判る。
一連の操作でのリン酸固定は平衡反応なので。始めに試料(土)に加えるリン酸溶液の濃度や量が違うと得られる測定値も変ってくる。
この実験で得られる値を、「吸収量」と呼ばず、目安のような意味の「吸収係数」と呼ぶ所以である。
公定法に於いて、抽出液として加えたリン酸が全て固定されれば、濾液からリン酸が検出されない状態となり、このときのリン酸吸収係数は 約3,050 になるので、理論的にこれ以上の値になることはない。
・100g/25g×50ml×0.61(含量g/100ml)≒3.05g ・・・より
乾土 25g に、pH7.0 に調整した 2.5% リン酸2水素アンモニウム液 50ml を加え、時々振盪して24時間後にろ過または上澄みを採ってリン酸濃度を測定する
【判定】
| 標語 | 極小 | 小 | 中 | 大 |
| 値 | 〜700 | 700〜1500 | 1500〜2000 | 2000〜 |
| 評価 | 改良目標 | 容認限界 | 要改良 | 栽培不能 |
濃厚なリン酸液を使用して操作時間を短くしている。
pH5.0に調整した 0.3% 結晶リン酸2ナトリウム溶液を原液として貯蔵する。 (※たぶん、原著の誤植。0.3% では薄すぎる!)
細土 2g に、リン酸原液 1ml を水で 5ml にしたものを加え、最初の30秒間は激しく振盪した後、時々振盪して10分後濾過してリン酸濃度を測定する。
【判定】
| 評価 | 弱 | やや弱 | 普通 | やや強 | 強 |
| 値 | 〜500 | 600 | 800 | 1000〜1250 | 1500 |
体内での移行性が高く、欠乏すると旧葉から新葉へ移行する為、欠乏症は旧葉から現れる。
著しい欠乏では生育初期から症状が現れることもあるが、花芽や子実形成期以降に症状の出る事が多い。
発症は、深刻な欠乏状態になるまで外観に現れにくく、吸収や移動を助ける酵素等の成分でもあるため、これらの機能が低下し、症状が出てからの対策では回復しにくい。
欠乏により、細胞分裂が抑制されるため、根の伸張が悪くなり、二次的に他の肥料成分の吸収も悪くなる。茎が太らず、新芽や子実の形成が悪い。
果実肥大が悪く、成熟が遅れて甘味が少なくなる。
土中の細菌類が生存するのにも必要で、これらの細菌が有機物の分解や根の生育を助けるので、土を肥沃にして根張りを良くする効果もある。
水耕で実験的に急激な欠乏を起こした場合、下位葉から黄化〜白化してすぐに枯死する。窒素欠乏のときも黄化するが、枯死しない点で異なる。
また、リン酸欠乏では先端部に緑色が濃く残ることが多いが、窒素欠乏では下位〜先端まで全体の葉色が薄くなる。
葉色の変化は、イチゴ・ピーマン・ナスでは光沢の少ない濃緑色となることが多いし、トマト・キャベツでは赤紫色になるなど一様ではないが、全般に光沢が劣りアントシアニンの生成により暗い濃緑色となる。(クロロフィル:緑+アントシアニン:赤〜紫)
生育初期からの欠乏(体内で融通できない状態)では生育が滞り、小型葉が密生する。
【体験談】
・野菜類の育苗時に水稲用の粒状培土を使用すると、鉄分が過剰なためにリン酸欠乏を起こし、発芽直後や鉢上げ直後に生育を停止しするが、生育しない以外に外見での異常は見られない。
いつまでも新しい葉が出ないことに気付いて慌ててチッ素入りの肥料を与える事が多く、この直後に急速に枯死する。
※ チッ素が不足していれば、生育停止のみで、枯死には至らない。
・水稲の苗が余った時に野菜畑などに捨てると、付近の野菜類に原因不明の生育不良や枯死が発生する。
【潜在的リン酸欠乏症】
【欠乏の起き易い条件】
水田の基盤整備などで赤土の心土が出てしまうと、分けつ・伸張しなくなる。(→リン酸の固定)
畑作でのリン酸欠乏では、リン酸の増肥よりも酸性土壌の改良によってリン酸を固定する成分を不溶化する方が改善効果が高い。
また、水田転換園などで鉄分の過剰の時には、一時的に標準pH よりも高くして不溶化させ、アルカリ性化によって欠乏しやすい微量要素だけ追肥する方が低コストになる事もあるので、検討を要する。
火山灰土壌地帯に果樹の多い九州や東北では、リン酸施肥量が少ないと、果実品質が悪く貯蔵性が劣る。
【応急処置】
黒ボク土などの新墾時には大量施用が必要となるが、土との接触を減らすため、過リン酸石灰を有機物にくるんだり、すじ状(条施)〜塊状にして施用する。
【根本対策】
参考表・リン吸別・資材の使用量(長野県果樹指導指針.121p.(1991))
| リン酸吸収係数 | 有効度 | 上乗せ目標mg/100g土) | |||||||||
| 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |||
| 2000< | 8.3% | 80 | 120 | 160 | 200 | 240 | 280 | 320 | 360 | 400 | |
| 1000〜2000 | 12.5% | 55 | 80 | 105 | 135 | 160 | 185 | 215 | 240 | 265 | |
| <1000 | 25.0% | 25 | 40 | 55 | 65 | 80 | 95 | 105 | 120 | 135 | |
※リン酸吸収係数別に、有効態リン酸含量を 2〜10mg/100g土 増すために必要な過リン酸石灰の量で、10a 当たりの kg 数。
上乗せ目標を有効度と資材の成分含量で除した早見表になっている。
適用条件
・黒ボク土.仮比重:0.67 土壌深さ:10cm
・リン酸質資材の成分:20%
茎葉中に0.7% 以上必要
(カイデン病・アカガレ病)生育初期に欠乏すると分けつが少なくなるのが特徴。
茎葉の伸びも悪く、茎が細く、古葉に赤褐色の不定形斑点を生じたり、葉脈に沿って褐色の条斑が出来る。
水田の造成直後には土中の有効リン酸が不足して「開田病」と呼ばれる赤枯れ症状が出やすい。火山灰地帯の水田でも発生する。
登熟期には茎葉から籾に移動するので、この時期にも要求量が増す。
生育初期の欠乏では、外観には異常が見られず、ほとんど生育しないという経時変化を観察しないと判定できない。
根のリン酸吸収力が弱く、根の近くに与えないと初期生育が悪い。
低温期に移植するタマネギでは、植え傷みが加わって更に吸収が悪くなる。
根の伸張が衰えて生育が著しく悪くなる以外にはっきりとした症状は無いが、サビ病等の発生が増える事があり、施肥法の改善や追肥で未然に防止できる。
茎葉には症状が出ず、根の肥大が悪くなる。
土質による違いが大きく、粘土質の赤土、火山灰地帯、砂質土地帯では、リン酸の施肥を行わないとすぐに欠乏を起こすが、他の多くの既成園では数年間施肥を行わなくても、生育の低下や欠乏症状の発生は起こらない。
新梢の伸びが止まり、小葉が密生し、葉が暗緑色になる。
着果しても果皮が厚く、果心に隙間が出来て、酸味が多くなる。
欠乏すると、アルギニンが集積する。
葉が青銅(ブロンズ)色になり、小さな褐色の斑点ができる。
リン酸は、土中での移動が遅いため、長期間耕耘が行われない果樹園の特性として、下層土では皆無の事が多い反面、表層で過剰に残留しやすい。
体内移動は早いので、草生栽培によって下層土へも運搬されるが、春先の中耕や頻繁な刈取を行っている園では、下草の根の生育が抑制され、期待でき無い。
過剰施用での障害は現れにくいが、果実の成熟が早まりすぎたり、Fe・Zn・Cu・Mnの吸収を抑制するので、これら要素の欠乏を誘発する。
肥料の宣伝文句に採用されると「着色促進の効果がある」となってしまうが、成熟の早まりは呼吸の異常亢進によるもので、収穫後の日持ちを悪くし、果実の肥大不足という弊害も起こる。
著しい過剰では、草丈短く、葉が肥厚し、生育が悪くなる。
過リン酸石灰は、10a 当たり 100kg 以上の施用で根に障害を発生する。これは肥料焼けの一種で、リン酸の吸収量は却って減るが、一部の雑誌や関連本では繰り返して・・・過繁茂を抑制するために、粉状品を水溶きして大量に与える方法が紹介され、リン酸の効果だと解説されている。
※ 肥料焼けによって確かに生育は低下する
リン酸単独での障害例はないが、野菜ではリン酸の過剰蓄積が問題になっており、シュンギクの心枯れ症など、いくつかの生理障害でリン酸の過剰蓄積が疑われている。
バラでは、リン酸過剰に由来する鉄欠乏が報告されている。
過剰時の体内リン酸分布は、正常時と逆転して、下位葉で高くなる。(異常蓄積を防止する機能が低下する?)
リン酸の過常時には、カリと競合する傾向が見られ、カリの不足時に異常蓄積が起こり易くなる。
育苗時には葉先に褐色斑を生じたり、白化する。
春先に日射が急に強くなった時などに止葉付近の葉がかすり状に白化する。 カリの増肥で緩和される。
一般の圃場では、Ca・Mg・Fe・Alなどと反応して不可給態化するので、新たな投入を停止し、耕耘すれば短期間で終息する。
施肥リン酸の利用率は10% 程度と見積もられており、利用されなくても溶脱しにくいため、全国的に圃場のリン酸含量が増えており、今後悪影響が心配されているが、今のところ不明。
ただし、これらの圃場では土壌分析で得たデータを利用する際、従来の解析方法が役に立たなくなっているので、処方箋まで自動で出力されるようなシステムを使っている場合は、特に注意が必要。
・指導員の皆様へ−−
低コスト栽培の話題が、安い輸入肥料を捜すことだけになりがちですが、肥料の使用量を減らす方向(分肥する・耕耘して分散させない)でお願いします。