原生林
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思い悩む事があって、田口ランディがコラムに書いていた真鶴の原生林へとバイクを疾らせた。
私を思い悩ませる主(勝手に一人で悩んでるっていうのが真実なんだけどね...あえて...)
は、きっと今ごろ屋久島の満天の星空の下。
午後1時ごろに機材(デジカメ:オリンパス1400XL、ビデオカメラ:SONY DCR−TRV620)をバッグに詰め込み、バイクにまたがって一路真鶴半島へ。行きは山から、帰りは海を見ながら昔住んでいた大磯あたりを通って物思いにふけながら帰ろうと決め込み、小田原厚木道路から真鶴の旧道へ。くねくねと曲がった山道を時折窺い見える海の景色に視線を向け、体を重力に預けるなんとも言いがたい感覚に酔いながら幾つかの急なコーナーを経て、真鶴駅の通りへと出る。
駅を右、少し登った先の二俣を右。ひなびた旅館や割烹が両脇に並ぶ景色が終わり、しばらくすると右手にサボテン園。左には高い場所から真鶴の小さな漁港と海が、そして海の淵を伸びる海岸線が見える。と思った途端、道の先は巨木が道を分ける森の回廊へと様変わりする。森がまるで覆い被さってくるかのような威圧感さえ覚えるその様に圧倒されながら、少しばかり走らせた先に「右折三石海岸」の看板。右へ曲がると荒い路面がバイクを揺らし、ここから先は少し何かが違う「場所」なんだなって思わせる。
右手に時折見える苔むした石垣が、そんな思いに拍車をかけるのも束の間、少し走ったその先の道端に小さな鳥居が目に入った。バイクに跨ったまま鳥居の奥の様子を窺うと、鳥居の先に小さな社があった。鬱蒼とした森に囲まれたその佇まいは、社へと足を向けようとする気持ちを躊躇させる程の雰囲気だったけれど、しばしの間のあとバイクを降り、人一人が通れる程の鳥居の下をくぐって社へと向かった。近くで見ると今にも崩れてしまいそうな社は、中に鎮座する山神様の部屋の戸を少しだけ開けながら、静かな時間を何十年もの間経てきた事を見る者全てにたやすく想像させる、そんな光景に少しばかりの戸惑いを覚えながら、ふと、社の縁台に目をやると縁台の両脇に塩が盛ってある事に気が付いた。きっと誰かが塩を盛ったのだな、と思うと、なにかこの寂しげな佇まいを埋めるかのような安心感が心にさし込んできて、胸のつかえが取れるような、そんな気がした。
バイクに再びまたがり森の回廊を進むと、中央に松が真っ直ぐ空に向かって伸びている広い場所へと出た。両脇に駐車場、その奥に木々に囲まれた、石の階段が森へと続く遊歩道の入り口があった。機材の入ったバッグを肩から下げ石の階段手前の踊り場まで歩くと、突然足元で「バタバタ」と音がした。音にたじろぎ身構えながら音の「主」を探すと...蝉...。落ちた枯葉を身に纏うかのようにして石を敷き詰めた踊り場の隅で、近づく私にきっと最後の力をふりしぼって羽音で威嚇したのであろうその蝉は、力が尽きたのか、顔を近づけて彼を覗き込む私にもう微動だにしない。その姿を「お願いだからもう余計な力を使わないで。俺は何もしやしないから。」なんて勝手に心の中で呟きながら彼の姿をカメラに収め、石段へと向かった。
苔がこびりついた石を覆い隠すかのように、湿気った枯葉が敷き詰められた石段を、辺りの様子を窺いながら一歩ずつ「サク、サク、」と足音を立てながら登って行くと、山の途中で石段が切れ、その先には道らしい道もなく、ただ木の生い茂る間を枯葉が広がった森へと分け入って行く。少しばかりの木漏れ日と、蝉や鳥の鳴き声に包まれながら先へと進むと、かつては枝葉を大きく広げ、きっと立ち並ぶ巨木に負けずと劣らなかったであろう大きな朽木が身を横に伏していた。その身の所々に風化の後を晒している姿に見る目を離せず、しばし物思いに耽った後、再び森を徘徊した。
カメラのファインダーにも入りきらないような巨木達を見上げ、その堂々とした、しかし物言わぬ凛とした姿をせめて心に焼き付けようとするそんな意識を知ってか知らずか、木々の間を踊るように飛ぶ蝶が時折、そんな想いに水を差す。
しばしの散策のあと森を出て駐車場に戻り、森の余韻を心の中に残しつつ、石の上に座り込んで、撮った写真をカメラの液晶で再現してみると...自分が今見て、感じてきたはずの森の姿はそこには一つも無かった...そして...森をカメラで切り取ろうとした自分の浅はかさを知った。カメラでは決して切り取る事の出来そうにない、視野に広がる森の景色、体で感じる森の存在感、森の匂い。そんな森の姿を形にして持ち帰る事の出来なかった自分に少し失望しながらしばし途方に暮れ、「仕方ないな...」と呟いて、目の前に広がっていた森を背にして諦めと、少し気持ちのいい疲労感にうながされながら帰り支度を整え、バイクに跨り帰路についた。
森を抜けて磯の香りが漂いはじめ、片方に海の景色が広がると、打ちひしがれた気分もすこしずつ持ち直してきた。漁港と食物屋が道の両脇に現れ出し、磯の香りに混じって何か「人くさい」ような匂いも感じられるようにもなってくると、後ろを振り返って半島の原生林の姿を眺める余裕も出てきた。「あそこは別世界だったんだな...」等と勝手に決めつけ、いつかきっと今度はあの人と一緒に来ようなんて想いをはせながら海岸線の道を、気持ちのいい風を受けながらバイクを疾らせた...
(ちょっと大袈裟な純文学風独白短編になっちゃいましたが、読み終えた頃には画像の表示も全て終わってる事を願っています。)
岬へ至る道の途中にひっそりと佇む、山神を祀る神社
原生林遊歩道への入り口
見る者を圧倒する巨木達がそこかしこに根を置いている。

色んな表情を見せる木々達。
遊歩道をひとしきり歩いて、所用を思い出し友達に電話をした。「どこにいるの?」「真鶴半島」「何してるの?」
「ちょっと悩み事があって、払拭しようと思って原生林に来たんだけど、なかなかうまく行かないんだ。」「木に囲まれても駄目なんじゃないの?歌舞伎町にでも行ってねーちゃん達に囲まれてみれば悩みもすっ飛ぶんじゃない?」「馬鹿にしてるんすかー!!」...プツン...ツーツーツー...
H13年9月5日...吉日...かな?...
オマケ...