
初めに言っておきますけど、私は何も好き好んで、水中に身を沈める身
になったんじゃありませんよ。
そもそも私の祖先は、遠矢さんという方に見いだされ、その後の功績が
認められ今日の地位ができたのです。確かに私達一族は泳ぎも潜りも達
者な強者ばかりなんですが、恥ずかしながら何処の世にも変わった者も
いるようで・・私、泳げないのであります。
ましてや水中に潜るなんて、考えただけでも・・ブルブル・・
そんな私ですから今の今まで オババ釣り具の商品棚の後ろに隠れて
居た訳なんですが、今日一人の青年の手によって出家の身となりました。
今日からこの青年が私のご主人です。
本来なら私達一族のしきたりとして、オキアミ飯でのお祝いの儀が執
り行われるのですが、出来そこないの見捨てられた私ですのでそっと
ご主人のバッカンに身をゆだねています。
まさか私が泳げないなんて思ってないでしょうね。
シュッと投げた私がバシャバシャ暴れたりしたら遠矢一族の名誉も傷つ
けるようで恐いのです。
ハ〜〜〜〜〜〜アッ
今釣り場に付きました。
ご主人は鼻歌混じりで仕掛けを作っています。
浮き止めさん、スイベル君、からま坊、みんな自身に満ちあふれた顔 です。
ハリスさんは今か今かと張り切っています。
あああああ〜〜〜っ
数ある浮きの中からやはり私が選ばれました。
スイベル君とドッキングです。もう誰もご主人を止められません。
コマセ撒いてます。チヌ針3号君にオキアミがセットされました。
いよいよです。
とうにゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う い〜〜〜とうめ。
「おりゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ややアンダー気味から投げ出された私の身体は宇宙ステーション
「ミール」のように空中で一度ゆっくりと止まりました。いい気持ちです。
私の身体に合わせたガン玉君が、私を追い越して行きます。
もうそろそろ海面です。泳げない わ・た・し。
びゃしゃ
うお〜〜〜〜〜ぷっ うお〜〜〜〜〜ぷっ
身体全体が水に入っています。
かろうじて頭の少しがでもなんとか
うお〜〜ぷっ くるしいけど うお〜〜〜ぷっ
おおおおっ
誰かが私をひっぱてる。
おおおおっ 餌取りのキンギョ君か?
や・やっやめろ〜〜〜
ジジジジジッ・・・・・・・
はふ〜〜〜〜〜〜〜っ はふ〜〜〜〜〜〜〜っ
ご主人が危うい所で引き上げてくれました。
とうにゅ〜〜〜〜〜〜〜〜う にと〜〜〜〜〜め
びしゃ
横になってる私が、浮き止めさんの場所まで来ると
うお〜〜〜〜〜ぷっ
うお〜〜〜〜〜ぷっ
ツンツン
おおおおっこの当たりは・・・黒鯛さん??
ご・ご・ごしゅじ〜〜〜〜〜〜〜ん
スパッ ズボボボボボッ プクプク・・
くるしい〜〜〜〜〜よ!
うきごろし〜〜〜〜〜!>
意識が薄れていきます。
「でひひひひっ やったぜ!」
気が付いたらご主人様は大層ごきげんで、私を撫でてくれています。
どうやら自己新記録の黒鯛様をゲットされたようで・・・
今、ご主人の提案で私は自己新記録更新の記念として
ご主人の机の前に飾られる事が決まったと、報告がありました。
よかったです。うれしいです。
もう水の中に入らなくて済みそうです。
でももう一度だけ
「夢見る引きを味わいたい」
そんな気持ちがどこかに・・・