序説

ツリスルヒトラが年無しチヌを釣ったとき、故郷の海を去り故郷をすてて山奥

に入った。そこで自らの道具と魚拓を愛し、孤独を楽しんでいた。しかしつい

に彼の心が変わるときがきたのだ。

ある朝ツリスルヒトラはあかつきとともに起き、海に向かって語りかけた。

「偉大なる海よ!もしあなたのそばで釣りする人らがいなかったら、あなたは

はたして幸福といえるだろうか!ここ十年、ワタシは釣りを絶ち人目をさけて

暮らしてきたのだ。もしワタシのようにすべての釣り人がいなかったらあなた

は自分が海である続けるのに飽きてしまったことだろう。しかし、私達がいて

魚がいてあなたを祝福してきた。

ごらんなさい、この世の中のすべての釣り人達の幸福そうな姿を。

たとえボウズが続こうと何も言わず、ただ黙っておのれの腕前を信じ込んでい

る、あの者達を誰が笑うことが出来ようか!偉大なる海よ!釣り人達を祝福し

てください。」ツリスルヒトラはこうして山を下りた。

「我が兄弟よ あなたに尋ねたい! クロタイを釣るとき餌を選ぶのはいかほど

に難しいものなのか?釣具屋オババの最上の愛で選んだサナギもイソメもオキア

ミをもが通じないとき、我ら釣り愚者達はどうすればよいのか?」

ツリスルヒトラはまっずぐ前を見てこういった。

「おろおろと思い悩む者達よ!あなた達も毎日毎日同じ食物を食べよと愚妻に

言わしたてまつられ(イテッ シタカンダ)たならいかに好物なものでもきっ

と嫌になるであろう!故にクロタイを釣りに行くときには考えられるすべての

餌を持っていくのだ!」

それを聞いていた民衆の一人が

「ならばツリスルヒトラよ 汝はこのわれらの少ない小遣いの中からそれらの

餌すべてをまかなえよと言っているのか?そういうことならひと思いに我が釣り

人生の終わりを運命としたまえ」

ここでツリスルヒトラはしばらく口をつぐみ、愛情をこめて弟子達を見つめる

のであった。それから、かれはゆっくりと語り始めた。

「我が兄弟達よ!あなた方の徳の力によって、大地に忠実であってくれ!あなた

方の贈り与える愛と、あなた方の認識は、海の意義に奉仕するものであってくれ!

ワタシが心から願うのはこのことなのだ。餌は買うと共に探す、育てる、取りに

行くなども大切なのだ!なおその気になれば自分の食事を省けばいいのだ!

タカラクジは買わねば当たらない!魚は釣り糸を垂れねば釣れない!

はたまた釣り糸をたれたとしても餌がなくては釣れないのだ!そのことを決して

忘れてはならない。」

釣行

あなたがた友よ いけにえを供えるものよ あなたがたはいかにも釣行時に家

の中の恐ろしい熊が暴れるかということを青ざめた目で訴えている。あなたと

あなたがたの家の熊との間にいかにしこりをのこさないかということを考えね

ばならないのだ!超人への愛の確認後に「なお釣りに行く」ということを強く

是認するのだ!そしてそのうえで何故家の中の恐ろしい熊が暴れるのか考え

ねばならない。それはたぶんあくまでも釣行にかけるお金と釣行で得た魚の値

打ちが不均衡な場合におることを知りえねばならない。いくら恐ろしい熊が機

嫌良く見送ってくれたとしても、渡船代と餌代を2万円もかけてアジ1匹では

その結末は見えているのだ!そう!いくら「オイラは海でゆっくり過ごせたか

ら良いのだ!」とい居直ってみてももはやどうにもならいと言うことを決して

忘れてはならないのだ。

釣果

ある日ツリスルヒトラが大きな桟橋を歩いて渡っていると、釣り道具をなくし

た者や、釣果に恵まれなかった者達が彼を取り囲んだ。その中の一人のボウズ

釣り師が彼に向かってこう言った。

「見なさい、ツリスルヒトラ!民衆もあなたから学び、あなたの教えを信じよ

うとしてきた。しかし民衆が貴方に完全に信服するには、まだ一つのことがい

る。 あなたはまず私達のボウズをなんとかしなければならない。ここにはい

ろんな不具合を持った者達がいる。絶好の機会!あなたはここで釣り道具を治

してやることも、ボウズの人間に釣果をわけてやることもできる。不具者たち

にツリスルヒトラを信じさせるにはこれが一番いい方法だろう」

しかしツリスルヒトラはそう言った者にこういった。

「釣り道具をなくしたものに、釣り道具を渡せば、なけなしのお金で買ったと

きの喜びを失わせることになる。ボウズの者に釣果をわけてやれば釣りの本当

の楽しみはなくなったと同じだ!ワタシが多少の釣りの知恵があり腕前がある

からと言って、それは逆向きの不具者なのだ。真実の釣りの喜びはどの釣り人

達にも平等に与えられているのだ 釣果は気にしなければならない しかし釣

果に縛られてはいけないのだ」ツリスルヒトラはこういった。

結末

ツリスルヒトラが海にただすんでいると、それまで黙って聞いていた弟子達が

駆け寄ってきた。

「ツリスルヒトラよ!汝に問う! われらはよくよく思い返せば汝が魚を釣った

ところを見ておらぬ。はたしは汝は釣りする人らなのか?」

「ななななにを言うのか?我が友人達よ!ワタシは今まで何を言っておったの

か?はたして何処から来たのか?このワタシはホントは誰なのか?」

ツリスルヒトラは子供のように恐れおののき、震えていった。

「ああっ たしかにワタシはここ何年釣果に恵まれていません!しかしそのこ

とであなたに迷惑をかけたでしょうか?ワタシが自分自身で釣りを始めたとき、

あなた達はワタシを嘲笑しました。ワタシの足はそのときホントに震えたのです」

その時いきなりものすごい風が、異様な物音をたてながら吹いてきた。

その凄まじい風の中で海はパッと二つに裂け、その中から大きな鯛やヒラメ

あるいはワカメや海牛などが笑いながら飛び出してきた。

そして天からの声が聞こえてきた。

「何を騒いでおる。貴方達は知らないのですか?今、どんな人達が人類に必要

なのかを?それは釣りの良さをひろめる者です。おお、ツリスルヒトラよ、あな

たは来るべきものの影として生きなさい。そうすれば釣りする人らの先駆者とな

るであろう」

ツリスルヒトラがこの言葉を聞いたとき、声をあげて泣いた。

誰もかれを慰めるすべをしらなかった。

その夜、彼は一人釣り竿を持って立ち去って行った。

戻る